祝・日本公開。私もパンフに寄稿させていただきましたが、あそこに書ききれなかったものをこちらに。ネタバレ注意。映画には夢も大切。あまり撮影の技術的裏話を知るのが好きじゃない人も注意。とはいえ、ドニーさん本人が喋っちゃってるんだけどね、とりあえずぬるく凤凰娱乐でのインタビューの概要
洋泉社から出てる「映画秘宝」6月号と「映画秘宝EX 激闘!アジアン・アクション映画大進撃」読みました?とてもよかった!
秘宝の方は谷垣さんが、継承公開記念ということでロングインタビューがありました。継承だけでなく、ローグ・ワンやトリプルXのことも喋っていて、この2作のアクションを作るにあたり、ドニーさんがどう工夫したかについてのお話がめっちゃくっちゃ面白かったです。ただし継承のネタバレ三昧だったので未見の方は注意。
アジアン・アクションの方はドニーさんにかなりのページを割いていて、とっても興味深かった。ウィルソン・イップ監督のロングインタビュー(ただしこれも継承のネタバレあり)が秀逸。マックス・チャンのインタビューもあるよ。あ、知野二郎さんが書かれた記事もありました。香港台湾中国だけにとどまらず、韓国東南アジア中東までと非常に嬉しい内容、色々知らないことばかりで勉強になるわ~。なんといってもライター皆さん全員の熱量が素晴らしい。どのページも開く度にニコニコ笑顔になってしまいます、必読。
さて、いよいよ今日から公開の『イップ・マン 継承』ですが、今回そのパンフレットにコラムを書かせていただきました。一部700円、よかったら手にとってくださると嬉しいです。その中で書けなかったことがいくつか残っているので、こちらに残しておきたいと思います。
※参考文献・なにか決定的に違うところに気がついたらご面倒ですが、ご一報ください。
甄子丹:《叶问3》在港票房超过成龙李连杰,我已感恩
・CGIブルース・リーについて。
実はクランクインとともに、今作に登場するブルース・リーはCGIで登場させるという発表がありました。その直後、家族が設立したブルース・リー財団が反対を表明。結局プロデューサーであるレイモンド・ウォンは財団の許可を得ることができず、その案はボツに。
しかし、ドニーさんとウィルソン・イップ監督はこのCGIブルース・リーがうまくいくのかどうか、当初から不安を感じていたようです。
「我々はそれが非常に高額になること、そしてうまくいかないことを心配していた。技術的には可能だけど、とても危ないことだと監督と僕は思っていたんだ」
CGIブルース・リーがなくなって実は2人とも本音ではホッとしたんですね。で、CGIがなくなったので、監督はブルース・リーのシーンを全面カットしようと考えたようです。しかしそれを残すことにしたのはドニーさんでした。
「CGIの構想時は出番はもっと多かったんだ。けど全部なくしてしまうとセールスポイントがなくなってしまう。(すでにブルース登場を発表している限り)それでは観客が納得しないだろうと監督を説得して脚本から2つの場面を残しました。あのシーンは僕が残したんだよ!(多分ドヤ顔)」
・ブルース・リーを陳国坤(チャン・クォックワン)が演じたことについて
ここでちょっと陳国坤の説明をば。彼は子供のころからの熱狂的なブルース・リー信者で物真似が上手く、それがきっかけで映画界に入った俳優です。彼がブルース・リーを演じ、中国で高視聴率をあげた連続テレビドラマ『ブルース・リー伝説』の製作総指揮は、娘シャノン・リーがつとめたというお墨付き。
「彼はとてもブルースに似ている。もともと監督がモーションキャプチャーに陳国坤を起用する予定だったんだ。みんなはブルース・リーを見たいと思っているし最近のブルースのイメージと言えば陳国坤、他の俳優がやっても違うと感じるでしょう」
一方、その陳国坤さんは継承出演をこんな風に言ってます。
・台詞もたくさん考えたドニーさん。
武館で話し合う葉問、鄭則仕(ケント・チャン)、梁家仁(レオン・カーヤン)ら3人。この場面で「すべては現在の為でなく、将来の、子供達の為」という内容の台詞はドニーさんが加えたそうです。梁家仁のリアクションはすべて自然に出たもので、「あれは僕が考えたのさ!」と威張ってました。
・詠春拳や劇中のアクションについて
インタビュアーが「実戦では詠春はボクシングに負けてばかりですよね?」という質問をし、それに対するドニーさんの答え。
「まず最初に、僕には僕の観点がある。しかしそれについては評論する気はありません。武術界での交際に影響を及ぼすからね。次に、それは我々の映画には関係ないと思う」と話しました。
が、ブルースが詠春拳を学んだ後、サンフランシスコに渡り多くの対戦を経て詠春拳の弱点を知ったことを語ったうえで、自分のマーシャルアーツへの信仰は映画を観ればすぐわかる、現代アクションをね、と付け加えています。そして、僕は詠春を中心に据えた映画を撮影してるんだ、詠春撮れなくなっちゃうよ、わかってるでしょ、と。いやいやいや、それ喋ってるのと同じだから(汗)。相変わらず率直なお人すぎます。
インタビュアーはまたこんな質問もしました。「タイソンのパンチは強力で、葉問はそれをくらってもまだ起き上がれるのでしょうか?」
「確かに誇張はしてあるよ、けど僕にとっては観客に美しく見えればOKなんだ。サモハンが撮ったシーン、1対10も円卓の戦いも素晴らしかった、パート3はどうすればいい?プレッシャーは本当に大きかった。悪くないよ、最低限観客を満足させられるものになった。マックスとのエンディングのファイトは、確実に素晴らしい。これは難易度が高いんだ。以前のような憤怒ではない内面の感情があり、今までの撮影とは違っていて難しかったよ」
また、劇中、相手の目を攻撃する動きが2度登場します。葉問がタイソンの目を擦り、ラストではマックスが葉問の目を突く。この目を擦るか突くかの違いは、ユエン・ウーピンが考えたマックスの残忍さ、キャラクターの違いを表現するものでした。
この葉問の目を突くシークエンスのネタバレをドニーさんがしております。
「我々はあそこをどう撮るか悩んでいたんだ。誰が大胆に(僕の)目を突くことなんかできる?そこで自分でやると八爺(ユエン・ウーピン)に言ったんだよ、あの目を突いたのは実は僕の手。1、2、3!アッ!(シーンを再現、自らの目に指を刺す)・・・見たことないよね?おかしすぎる!(爆笑)」
そう、後出しジャンケンみたいになっちゃいますが・・・あの指の形がドニーさんに似てるなぁとずっと思っておりました。アクション映画の撮影手法として、キックが顔や首に当たるアップのショットを手に靴をはかせて撮る、とか、殴る手のダミーを作って同じようにアップを撮るというのは昔からよくあることですが、あまりにも見事なカメラワークにイマイチ自信が持てなかった。(あ、今気がついた。葉問の右肩から腕をポスプロで一旦消してそのあと別の角度の腕を足せば簡単なのかも?)
これを聞いてスッキリです。だってどう考えても、思いっっ切りあんなことをドニーさんに一発で決められる人はいないでしょう。何度も繰り返して失敗したらどうすんだよ!ひぃー。私がスタントマンなら死んでもやりたくない、そんなこと。(色んな意味で)恐ろしい。
そのあとの決着のワンインチパンチはウーピン先生のデザイン。ワンインチパンチ(寸拳、寸勁)は詠春にもありますが、ブルース・リーで一躍有名になりました。ウーピンさんは「伝統的な功夫映画では一手が勝敗を分ける鍵になるんだ」と言ったそうで。彼はこういう決着の付け方がとてもうまいんだ、とドニーさんは師匠を語っています。そして「八爺は金像奨(の最佳動作設計)を獲るべきだ」と続けました(結果は・・・獲らなかったけど)。
最後に。これは必見、『イップ・マン 継承』マックス・チャンインタビュー動画
『イップ・マン 継承』マックス・チャンインタビュー動画
興味深いのはドニーさんの鼻梁を傷つけてしまった後の話。
「当然、すごく心配したけれど、撮影中は不安を抱くと余計危ないので再開後は遠慮しなかった。師匠たちに挑むシーンも、躊躇すれば撮り直しで相手は何度も蹴られる羽目になる。まず正確に、次に激しく。それこそ1発で済む。だから躊躇しない」
さすが元スタントマン、袁家班。マックス・チャンは根っからのアクションマンでござる!!
ドニー・イェンアクション監督作『かちこみ!ドラゴン・タイガーゲート』では、ニコラス・ツェーがインタビューで、スタントマンを思い切り蹴れなくてNGを何十回と出し、とうとう翌日に持ちこしてしまった時の話をしていました。その際に彼がスタントマンから言われた言葉が「思い切り蹴れば痛いのも一度で済む」。
もちろん、思い切りしているつもりの顔面へのキックにOKがでなかった心やさしいニコラスの気持ちはとってもよくわかります。けれどアクションを作るドニーさんにとって、何が一番いいのかは別次元なのでしょう、ニコラスほどのキャリアと根性が座った俳優ですら迷う。
しかし、そのリミッターを外すことで初めて彼が見せたことのないアクションが出来上がる。まして武打星同士なら痛いかゆいも当り前。「ごめん~!!!」と大騒ぎするのは余程の時でしょう。
メイキングでちょっと痛そうな顔をしてたからって、やれ「虐待だ」「いじめるためにわざとやってる」とか「叩いた方がなんで直後にあんな平気な顔してられんの?」なんて、何の事情も厳しさも知らずにやみくもに大騒ぎする大陸の人気俳優らのモンスターファンは、心してこのマックス様のお言葉を聞くがよいのぢゃ!
参考文献
甄子丹:《叶问3》在港票房超过成龙李连杰,我已感恩
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ついでに、「昂坪(NGONG PING)360」に乗って葉問體驗館にも行ってみた
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