追龍(原題、2017年・香港中国)@HK③俳優編 – ドニーさん 甄子丹 ネタバレ

今作は香港俳優オンパレード。登場人物の役名キャラと俳優名、簡単な俳優紹介のメモつき。日本語字幕がないのを観る際のお役にでも立てれば。でも間違いがあったらごめんなさい!ネタバレ

今作の主要なキャラクターは一部の女優を除き、ほとんどが香港俳優で占められています。

2012年版ですが、ジェトロ(日本貿易振興機構)による中国コンテンツ市場調査というリポートで「香港と中国の合作映画規定では主要キャストで中国大陸の俳優が1/3より下回ってはいけない」という一文を読んだことがあります。

えーっと。この映画、ここに挙げただけでも3人を除いてあとは全員香港俳優ですけど????

一体王晶(ウォン・ジン)は、当局にどんなマジックを使ったんでしょうか。

彼は、黒幇片(マフィア映画)というとすぐ思い浮かぶお馴染みから少しひねった顔ぶれを揃えてきました。とっても新鮮。でもちゃんとオールドファンも呼び込もうとしてますよね~。

まずは潮州義兄弟から

・大威(義に厚いが博打好きなのが玉にキズ。賭場でもめ事を起こしたらしく拉致される羽目に) / 姜皓文(フィリップ・キョン)
香港映画ではとにかくよく見る顔。バイプレイヤーとして出演することが多いので年間の出演本数は多分香港一。最近痩せてパッと見分らなかったりする。というか、見るたびに痩せてゆく。

・細威(大威の実弟) / 劉浩龍(ウィルフレッド・ラウ)
香港の歌手・俳優。最近作だと『全力スマッシュ』でイーキン・チェンの手下で割れたメガネをかけて登場した彼がそうです。今作では最後の台詞が泣かせました。が、そのあとにも驚きが。

・啞七(一応記事とか読むと唖設定。大陸では阿七表記) / 喻亢(ユー・カン)
甄家班(ドニーアクションチーム)の一員。こうして見ると演技がうまいのに驚く。ずっと内トラでしたがドニーさんの事務所と俳優契約をしてから主要な役にキャスティングされることが増えております。他に『カンフー・ジャングル』や『アイスマン』など。今回は動作指導に名前がありました。この男優陣で大陸の人は彼だけ。

番外

・阿平(伍世豪の実弟、学業に励んでほしいという兄の期待とは正反対の結果に) / 李日昇(ジョナサン・リー)
母は著名な粤劇女優。子役出身でTVを中心に活動。映画ではジョニー・トー監督御用達子役とも言われ多くに出演、『エレクション』とその続編ではサイモン・ヤムの息子役でした。1992年生まれ。

続いて警察関係

・猪油仔(リー・ロックの腹心的存在の警官、物腰は柔らかいが頭は切れる) / 鄭則仕(ケント・チェン)
彼は91年版『跛豪』にも出ておりましたが、その時は主人公と敵対するマフィアの役でした。香港映画には欠かせない存在。葉問シリーズにも刑事役で出てます。役名に必ずといっていいほど肥という字がつくけど、今回は猪でしたね、まぁ似たようなもんか。ユーモラスなシーンを担っておりました。

・嚴正(主人公・伍世豪と同郷の清廉潔白な警官。伍世豪が持ってきた高価な土産や現金を突き返す潔癖さ。最後着ていた水兵さんみたいなのは当時の香港水上警察の制服です。可愛いよね。劇中、正哥と呼ばれてる) / 黃日華(フェリックス・ウォン)
無綫電視(TVB)全盛の80年代にドラマで主役を演じスターに。当時、TVBがどれほど盛況だったかというと、次に紹介する湯鎮業(ケント・トン)はじめ、苗僑偉(マイケル・ミュウ)、梁朝偉(トニー・レオン)と劉德華(アンディ・ラウ)の5人を専属俳優に持っていたぐらい。ほかに周星馳(チャウ・シンチー)もいましたからね。どんだけ。

・顏童(イギリス人とつるみ悪さばかりする警官、顔爺と呼ばれてる。雷洛を臭小子とバカにしていたが、雷洛の結婚を機に立場が逆転) / 湯鎮業(ケント・トン)
黃日華と同じく80年代無綫電視で人気を誇ったスター。先に紹介した5人は「無綫五虎將」と呼ばれていたほどの人気だったそうです。今ちょっと強面な感じですが、当時はほんと可愛いお顔でしたのよ。今作ではその五虎のうち三虎が揃ったということで香港で紙面を飾りました。このあたりの話題になりやすいキャスティングも、さすが王晶。

Ernest Hunt (英国人警官、伍世豪にとっては因縁の敵。復讐心をたぎらせるドニーさんにアンディが英国人殺しだけは身の破滅だから止めておけと繰り返し諭しておりました) / Bryan Larkin (ブライアン・ラーキン)
10代から武道やボクシングを学んだ英国俳優。2016年の『エンド・オブ・キングダム』が中国でヒットしたこともあり、オンラインオーディションを受けドニーさんが選んだとか。現在は香港のアパレルブランドのモデルにも起用されています。映画では超絶ゲスいキャラでしたが、普段のご本人はとてもハンサムガイ。インスタでドニーさんの事をベタ褒めしてくれました。好き。

Geoff (ハントの部下)/ Julian Gaertner (ジュリアン・ガートナー)
ドイツ出身の俳優。『ゴースト・イン・ザ・シェル』にスタントマンとして参加。アンディとは『拆彈專家』に続いての共演。ほかに『狂舞派』に出演するなど、いまのところ香港を中心に活動。

この2人の俳優はその後香港で『 DED END 』というタイトルのショートフィルムを撮ったようです。その精神。素晴らしい。トレーラーはこちら
DEAD END TRAILER #1

番外

・役名不明(どうやら、顏童の弟設定らしい。兄は弟を香港の実力者である周爵士の娘の婿にしようと画策中。が、パーティの席で婿に発表されたのはアンディ・ラウだったという) / 尹子維(テレンス・イン)
ホンマに不憫なお人やテレンス・イン。この役も何やら分らんうちに一瞬登場しただけ。それでも出て来た瞬間に「お、テレンス・イン!」と心拍数が上がるのが不思議。澄ました顔で登場しただけで全私が笑った。そんなテレンス・インですが、とうとう、とうとうかっこいい暗殺者役が巡ってきました。『キラー・セッション』というフランスのアクションスリラーですよ、みなさん。しかも日本公開される!!!10月21日より東京・ヒューマントラストシネマ渋谷、11月5日より大阪のシネ・リーブル梅田にて上映。テレンス・イン好きは行くべし。
暗殺者vs暗殺者 『キラー・セッション』 予告
映画ナタリー:殺し屋同士の緊迫感あふれる攻防戦「キラー・セッション」公開決定、予告編も解禁

黒社会のみなさん

・肥仔超(超哥とも。一度はその下についた伍世豪だが、すぐ敵対するようになる。彼の足を折ったのはこいつだこいつ。やがて逮捕され投獄されるも出所後は顏童と組んで伍世豪を潰しにかかる) / 吳毅將(ベン・ウ)
こちらは亞洲電視俳優訓練所出身。彼がめちゃくちゃにドラムを叩くシーンは毎回笑いが起こっておりました。ゲスい男なのにどことなくチャーミングさが残るところが持ち味。ドニーさんのATVドラマ『クンフー・マスター 洪熙官』で三德和尚を演じていたのは彼。

・玫瑰(英国上層部は、リスクヘッジとして黒幇を4つに分散することを決定しており、その4つ目の勢力として雷洛がスカウトしたマフィアの女ボス。しかしその実態は伍世豪によって売られるところを助けられた少女、阿花。秘かに伍世豪の養女になって彼のために台湾でマフィア修行をしてたそうな。アンディは知らずにびっくり、私もびっくり) / 徐冬冬(シュー・ドンドン)
人民解放軍芸術学院出身で中国の元ネットアイドル。今回デリートの憂き目に遭ってしまった女優陣で唯一活躍が残りました。かっこよかったよ。玉砕間近に少女に戻る演出がよかったですな。

・花仔榮(リーゼントの男。ボスの大灰熊を殺害してその地位についた。しかし最後は玫瑰の手にかかりオダブツ。生首に) / 周俊偉(ローレンス・チョウ)
香港の歌手・俳優。パン・ホーチョンの『AV』でおバカ学生のひとりを演じておりました。

・鼎爺(九龍寨城を束ねるボス、甥の手により射殺される)/ 陳惠敏(チャーリー・チャン)
70年代からアクション映画やドラマに悪役として出演。本物のその筋の人という噂。ジャッキーの『ドラゴンロード』や『プロジェクトA2』が有名でアンディの『リー・ロック伝』にも出演。最近作だと『燃えよ!じじぃドラゴン 龍虎激闘

・公仔强(その甥。No.2だったがボスを射殺、しかし罪をその場にいた雷洛に着せ、九龍城内で彼を襲わせる) / 黃竣鋒(ジェイソン・ウォン)
2012年亞洲電視のミスターコンテストで優勝し芸能界入り。17歳で広東省ボクシング大会で優勝。北海艦隊航空兵として人民解放軍に所属していた事もあり、3度優秀兵士賞に輝いている。大陸の人かと思ったら香港俳優だそうな。香港人で解放軍に入る人っているのかと、ちょっと意外。

・肥仔超の子飼ファイター(拉致された大威を助けに行った際、伍世豪が戦った相手。その戦い方が気に入られ肥仔超の手下になることに。その際、支度金?として伍世豪は阿花を救う大金を手に入れる) / 伍允龍(フィリップ・ン)
今やアメリカ映画 Birth of the Dragon のブルース・リー役で主役を張る俳優なのに、この作品ではかなり勿体ない使い方(涙)。子供のころにアメリカに移民。幼少より父から蔡李佛、伯父から詠春拳を学び、イリノイ大学では武術で博士号をとったという本格派。多分自分の武館をアメリカに持ってる。最初は武術指導として業界入り。その後俳優に。近作には『悪戦』。昨年のヒットドラマ『城寨英雄』でやっと香港で人気者の仲間入りを果たしました。よかった。にしても今作のカツラは笑ったわ、フィリップさん。

そのフィリップ・ンの Birth of the Dragon の予告はこちら
BIRTH OF THE DRAGON – OFFICIAL TRAILER (2017)
ついでにカッコイイアクションクリップBIRTH OF THE DRAGON – CLIP #1 “ALLEY FIGHT”
喋り方がブルース・リーにそっくり(笑)

その他

・周爵士(アンディ雷洛の岳父) / 曾江(ケネス・ツァン)
91年『跛豪』においては雷洛を演じました。『男たちの挽歌』の善良な社長、『ポリス・ストーリー3』の麻薬王といった極端な役も多かった。近作は『盗聴犯/狙われたブローカー』。渋くて大好き曾江。今作ではさすがにだいぶお年を召されたなぁと。

・阿梅(伍世豪の潮州時代の妻。香港に向かう中国からの密航船で息子と共に溺死) / 周麗淇(ニキ・チョウ)
1979年生まれの香港の歌手・女優。著作活動も。次に紹介する阿晴とともに、結構シーンはあったそうですが、ドニーさんとアンディのストーリーがどんどん膨らんでしまったために割を食ってしまったのがこの女優たち。

・阿晴(伍世豪が入院していた病院の看護師、後に妻となる) / 胡然(ミッチェル・ヒュー)
大陸の女優。『ゴッド・ギャンブラー レジェンド』シリーズ『悪戦』など王晶の作品に数多く出演。どうやら王晶の事務所に所属。本編では使われませんでしたが、妻となる彼女との馴れ初めなども撮影されていた模様。ソフト化の際には長尺ディレクターズカットとか出しませんかね。

そして主役のひとりアンディ・ラウは、当時の警察内で香港人としてつける最高の役職探長のトップまで昇りつめた雷洛。劇中では洛哥と呼ばれています。そしてドニーさんは伍世豪。弟分からは豪哥、アンディからは阿豪と呼ばれていました。

当時の香港警察はほんとに汚職が酷過ぎて、怒った英国が「廉政公署(れんせいこうしょ、Independent Commission Against Corruption,略して ICAC )」という独立汚職調査機関を1974年に設立しました。

映画では、そのニュースを見た洛哥がすぐさま海外に家族と逃亡しようとしますが、モデルとなった呂樂は成立前に退職し速攻カナダに移住。成立後はすでに香港にはおらず、逮捕を恐れ二度と香港の地を踏むことはありませんでした。調査で5億HKドルもの資産を蓄えていたことが明らかになったことから、のちに彼は「五億探長」と呼ばれるようになったのでございます。

この映画、舞台はバリバリ香港でありますが、これだけの規模ともなれば香港だけで製作することは不可能なので必然的に合作。

出品人は当然、中国の博納影業(BONA FILM Group)CEOの于冬(ユー・ドング)と王晶が筆頭になりますが、それ以外は香港と台湾マカオからの参加。今回は大陸と「だけ」合作したわけではなく、広く中華圏から資金を集めて来たのかも。ひょっとしたら、その辺りが香港人キャストで固めることが出来た秘訣なのでしょうか。香港映画人も色々模索してるなぁと最近思います。

本当は今年の年末に公開予定でしたが、1か月前になって急に9月末の公開が発表されました。アンディ・ラウとドニーさん主演作品なのに公開当初はスクリーン数の割り当ても非常に少なく、ひょっとしたら中国主導の合作でないことや、テーマ、香港キャストオンリーが当局の心証を害したのか?などと妄想してしまいました。(案外真相は連休シーズンなのにファミリー向けやデート向けでないとか、あまりに香港映画なので劇場側が客入りを図りかねたとか、そんな単純な事なんでしょうが)

一方で、この作品を撮ることが出来たのは、2015年のハードバイオレンス『ドラゴン×マッハ!』のヒットの勢いをもらったのかなぁという気もしています。会社の顔ぶれもほとんど同じだし、あの作品も香港俳優が多かったなと。

そのレビューで私は「誰でもいいからすぐ続いてくれ~!そして香港バイオレンスの確固たる復権を!」と書きましたが、このところの流れを見ているとまさにドラゴンマッハ的なものを続けようする意志を感じます。

ひょっとしたら今後香港映画界で『ドラゴン×マッハ!』がひとつのエポックとして語られる日が訪れるのかもしれませんし、そうあって欲しいと願っています。

さて次回は総評になるのかな?(まだあるのかよ!)

カテゴリー: film, アクション映画, 甄子丹 | タグ: , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , | 追龍(原題、2017年・香港中国)@HK③俳優編 – ドニーさん 甄子丹 ネタバレ はコメントを受け付けていません

追龍(原題、2017年・香港中国)@HK②音楽編 – ドニーさん 甄子丹 ネタバレ

前回音楽について書きましたが、今作は本当に音楽がいい。作曲はお馴染み陳光榮(チャン・クォンウィン)と、本編クレジットによると雷有暉(パトリック・ルイ)が担当。核心に触れてるわけではないけれど、映画を観てないとなんのこっちゃなので一応ネタバレにしておきます

まずはティーザー予告に使われていた、70年代を彷彿とさせるホーンの効いたロックナンバー。

このトレイラーを初めて観た時はてっきり自分の知らない有名曲なのかと思ったんですよね。そしたら世界中で「この曲はなに?教えて?」と質問の山。それに誰一人答えられない。いつもはどんなマイナーな曲でもすぐ誰かが答えるのに。中華圏でも同じ状態。

本編クレジットで確認したらまさかのオリジナルでした。タイトルは Chasing The Dragon 作曲は陳光榮で、作詩とパフォーマーが Jeffrey Chu 。私この方存じ上げませんが有名な歌手なのかスタジオミュージシャンなのか。

聴いているとどことなく70年代の井上堯之バンドとか思い出しちゃったりして(汗)。ドニーさんのFB情報だとサントラが発売されそうなので、オリジナルのこの曲は入るのではないでしょうか。

香港音楽シーンに疎い私は共同コンポーザーである雷有暉のことも知りませんでした。もともとはバンド活動をしていたミュージシャンで90年代に4本ほど映画の作曲を担当しています。陳光榮がバンドのギタリストとしてキャリアを始めたことを思えば、似たような何かがあるのかもしれません。

さて、前回は九龍寨城のシーンで Donny HathawayThe Ghetto が使われたことに感激したことを書きました。いやいやいや、あのシークエンスは本当にしびれましたよね?ね?ね?

1969年から79年までの10年間活動し、わずか33歳という若さでこの世を去ったダニー・ハサウェイ。祖母は有名ゴスペルシンガーで彼も教会でゴスペルを歌っていました。のちに名門のハワード大学でクラシックを学び主席で卒業したといういわば黒人中産階級出のエリート。

彼が活動を始めた60年代後半はアメリカの公民権運動がピークを迎えていた時代。彼の音楽の特徴のひとつとしてプロテストソングがあり、当時はマーヴィン・ゲイと並ぶ新世代の黒人アーティストとして大変な支持を集めました。

卓越した歌唱力と音楽教育によって培われた技術は彼の問題意識と結びつき人気を高め、同時に白人の歌をためらわずアレンジ・カヴァーするという柔軟性も持ち合わせた偉大なるアーティスト。

映画に使われた The Ghetto はファーストアルバム『新しきソウルの光と道( Everything Is Everything )』に収録されていますが、彼の魅力は何といってもライブ。72年のライブアルバム 『ライヴ』は最高傑作。 The Ghetto のライヴバージョンもしびれます。興味があったら是非聴いてみてください。

それと実はもう一曲、私の大好きなアーティストのナンバーが使われております。

組抗争の喧嘩で逮捕されイギリス人警察官から暴行を受け入院した伍世豪。そこへ鄭則仕(ケント・チェン)がやってきて、アンディ・ラウ演じる雷洛からだと当面の生活費名目の見舞い金(ひょっとしたら出世払いという台詞だったかも)500ドルを渡します。

その金でスーツを新調した潮州兄弟と、伍世豪の実弟で学生の阿平の5人がテーラーから出てきて意気揚々と通りを闊歩するシーン。彼らの軽い足取りにリンクするように聴こえてくるのが1975年のファンクの名曲、Earth Wind & FireShining Star でありますよ。ひ~~~、こんなのかかるなんてきいてないよ~~~。短いシークエンスながら、これは見ているこっちもニッコニッコになる魔力を秘めておりました。

とにかくこの2曲を選んだというだけで私の点数はかなり稼ぎましたよ。他には競馬場でかかるスペイン語の曲もひょっとすると有名な曲なのかも?ちょっと判断がつきませんでした(要は知らない)。

あとは恐らくオリジナル。

この映画のサウンドトラックの何がいいって、ちゃんと完尺で音楽をつけたなとわかるタイミングの良さ。それがオリジナルだろうと既成曲だろうと、同様にこれしかないというタイミングで転調、終了、また始まる。これがバッチリ決まると物凄く気持ちいいのは、その究極の形であるエドガー・ライトの『ベイビー・ドライバー』を思い出せばお分かりいただけるはず。

今作はそのタイミングがとっても気持ち良かったし、作中、かなり音楽が多かった気がします。

オリジナルも60年代から70年代を意識したコンポジションながら所々に陳光榮テイストも感じたりして楽しかった。特にね、前半すぐの大灰熊と公仔強の出入りでは上手い具合にロックンロールしていて日活アクション風味を醸し出しておりましたし、なにより『導火線』ぽさもあった気がします。

職人らしくそれぞれのシーンの色合いに相応しい曲をつけたという印象。なかでも中盤、陳惠敏(チャーリー・チャン)が甥の公仔強(黃竣鋒・ジェイソン・ウォン )に撃たれた直後からの九龍寨城のアクションシーン。逃げ惑うアンディ・ラウのバックに流れるナンバーは太鼓と二胡の奏でる音が緊張感を高め、今作一番のお気に入りです。

また、この時のアンディのテンパリ具合がよろしくてね。九龍城の切り取った様な夜空に打ち上げられる花火とそれを見上げるドニーさんとアンディの表情とか絶品。

あとは前回も書いた愛のテーマですが、それはみなさんの耳で確かめてください(笑)

ところで、上映直前にネットに公開されたアンディ・ラウが歌うイメージソング『浪子心聲』。

本編には使われておりませんでしたが、これは許冠傑(サミュエル・ホイ)が1978年に出演した映画『Mr.BOO !』の挿入歌がオリジナル。実はアンディが主演した1998年『ゴッドギャンブラー 賭侠復活』(監督は王晶)において共演者の張家輝(ニック・チョン)とこの曲をデュエットしており、これまた雷洛役と同じく久々のカバーとなりました。

劉德華深情重唱”浪子心聲”《追龍》宣傳曲MV 霸氣回顧香港往事
浪子心聲-劉德華&張家輝
オリジナル:許冠傑MV 浪子心聲
ティーザー予告《追龍》官方預告片

追記です:
昨日ドニーさんのインタビューを読んでいたら「映画のBGMにブラックミュージックを使おうって言ったのは俺だ、70年代アメリカにいた俺だからそう思えたんだ、白人の音楽じゃダメなんだよ」と威張ってました。なんと、ドニーさん発案だったとは。御見逸れいたしました。

でも、選曲まではしなかったよね、してたら絶対曲名出してドヤ顔で自慢するもんね(笑)。

うわーん、香港のオフィシャルがゲットーのシーンの一部をアップしてくれたよう、貼っちゃう

かっこいい

この The Ghetto はラップバージョン(ディスコバージョン?)のカバーがエンディングソングとしても使用されています。そしてJeffrey Chuという謎のアーティストが誰だが分りました。

くわしくはこちらで
追龍(原題、2017年・香港中国)@HK④音楽編おまけ – ドニーさん 甄子丹 ネタバレとか関係なし

カテゴリー: film, music, アクション映画, 甄子丹 | タグ: , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , | 追龍(原題、2017年・香港中国)@HK②音楽編 – ドニーさん 甄子丹 ネタバレ はコメントを受け付けていません

追龍(原題、2017年・香港中国)@HK①- ドニー・イェン 甄子丹 ネタバレなし

実にドメスティックな映画でした。王晶やったね。ドニーさんもアンディ・ラウも、他のキャストもすんごくよかった!!!これは返還前の香港映画ファンも必見。スタイリッシュにあの時代の香港映画が蘇ったよ。ネタバレなしのつもり

王晶(ウォン・ジン)が92年の金像奨作『跛豪(原題)』(レイ・ロイ主演)とアンディ・ラウ主演の『リー・ロック伝』前後編を合わせてリメイクした黒社会もの。監督は、王晶と關智耀(ジェイソン・クワン)。

一足早く香港行って観てきました。前評判でかなり往年の香港映画してるということだったので観客もその辺りの期待が高かったのか、朝8時の回はもちろん昼間は年配率が非常に高し。一方夜9時台にもなるとそこに若い衆も寄って場内満席でございました。

原題の『追龍』と英名の Chasing The Dragon とは、もともとヘロインをあぶって吸引する行為、しかもその最初の瞬間を表す広東語のスラングが語源。そこから英語もその意味を示すようになりました。龍は架空の動物でいくら追い求めても見つけることはできない、やがて飢餓感ばかりをつのらせ決して満足することはない、という解説をどこかで読んだ覚えがあります。

さてその作品ですが、レビューを読むとみんなこぞって「王晶はやっと本気を出した」とか「やればできるじゃん王晶」とか「どうしちゃったの王晶」なんて書いていて、んな大げさなと笑ってたんですが、いざ観てみると第一声が「王晶の本気、とくと見た」だったので人のことは言えない。

というか、昔からおバカ映画を監督することが滅法多くそれが悪目立ちしてしまう王晶ですが、実はこっそり(ご本人はこっそりのつもりではないと思うんだけど)シリアスな映画を撮ったりもしております。2009年にはこの作品の前身ともいうべき『金銭帝国』という映画もあるんですよ、ただヒットせずにそれほど知られていないというだけで。

雨の中捨てられた子犬を抱くヤンキーをほんとはいい奴じゃん!と持て囃すのと似たような現象が、まさに今起こっていて(笑)この映画の宣伝に大いに役立っている部分もある。日ごろの行い(作品)がいい意味で効いてますわ。

さて、この映画の売りのひとつが、ドニーさんが広東省潮州出身の役のためにクランクインの何か月も前から潮州話のレッスンを受けたというエピソード。劇中広東語はなまりどころか義兄弟達との会話はそのまま潮州話だったりする(んだと思う)。

台詞もおもいっきり粗口(スラング、多分日本語では想像もつかないレベルのもの)オンパレード。劇場ではその粗口に反応した笑いが結構起きておりましたが、私には難しすぎて字幕が脳を上滑りするばかり。何回か観たのですが、流れを把握したら最後はもう字幕を追う事もやめました。

大陸では当然普通話吹き替え(配音演員:陳浩)で潮州なまりはなく、その辺りの台詞は結構マイルドになってるかも。どころか、役の設定自体潮州出身ではなくマレーシアのペナン州出身に変わってる!と嘆いてるファンがおりました。なので中国大陸のドニーファンの合言葉は「広東語版を観た方がいいよ、てか観ろ!」

なかで印象的な台詞として「生死有命、富貴在天」というのが繰り返し出てきます。これは孔子の論語から顔淵第十二の五・子夏の言葉として綴られている言葉。ほんま中国人論語好きゃなぁ。解釈としては「人間の生死も貧富も天命によるものやさかい、人の力ではどないもできへんのや」ということでよろしいかと。

以前、この映画の情報としてアクションは少なめと書いたと思うのですが、いやいやちゃんとアクションしてました。ただ、いつものしっかり計算され尽くしたドニーアクションとは毛色が違うというだけで。大丈夫、これはアクション映画のカテゴリーに分類されますよ。今回はマーシャルアーツの達人でないので、ほぼ喧嘩殺法、ドニーさんいわく「カンフーじゃない、マチェーテ・スタイル」とのこと。銃撃戦も多いです。ショットガンをぶっ放すドニーさんはかなり新鮮。

アクション監督はドニーさんで、動作指導に元彬(ユン・ブン)、イム・ワー(厳華)、ユー・カン(喻亢)の名前。メイキングではタイでのシーンにジャック・ウォン(黃偉亮)の顔もあったので、ノンクレジットでお手伝いしていた模様です。

いや、面白かったわ。そりゃ返還前のものと比べると多少ぬるい部分はあるにせよ、想像以上にドメスティックな映画でした。主要キャストがね一部の女優を除き、そんなこと出来るんだ!?と思うくらいほとんど香港俳優。どのくらい香港度が高いかと言うと、ドニーさんの兄弟分3人のうちの喻亢(彼は広東語が喋れない)なんか別人吹き替えなんかしねーよと唖設定にしちゃうぐらいの本気度。

とにかくこの義兄弟たちがよくってねぇ。特に姜皓文(フィリップ・キョン)。彼の演じる大威が表情豊かでちょっと弱い部分もあって秀逸。私のなかではすでに金像奨助演男優賞に決定しております。

その大威の実弟役の細威を演じた劉浩龍(ウィルフレッド・ラウ)がまた可愛いのなんの。兄弟で柄違いのニットとか着ちゃって。この2人に喻亢(演技もとってもよかったよ!)含めた潮州チームが最高に愛すべき男達でした。もっと豪哥ふくめたこの4人の日常を見ていたいと思わせましたよ。

そしてそんな彼等から兄貴と慕われるドニーさんね。当然実在した香港の有名マフィア呉錫豪をモデルにはしているものの、実像から随分改編されてるはず。レイ・ロイの『跛豪』も観ましたが、それともストーリーは違っています。黒社会のドン、しかも麻薬王ということで最初引きうけるかどうかかなり悩んだと言うドニーさん、彼の持つ素の天真爛漫さや真直ぐな部分を前半で活かしており主人公に好感を持てるようになっていたのがよかった。この前半のドニーさんがまた一段とキュートでね。ほんと、何度も言いますが、この潮州4人組の部分はもう少し見たかったわ。

それもある出来事が起こってから雰囲気はがらりと変わり、後半は主人公伍世豪が黒社会でのし上がるとともに内容もぐんとハードになっていきます。

そしてそして雷洛役のアンディ・ラウ。この役も実在の人物・呂樂がモデルで、かつて『リー・ロック伝』で同じ役を演じてから26年ぶりの再演となりました。登場時はまだ警察でも中堅どころ。上司の誕生祝いに黄金の福寿桃を持っていくのだけど、ずらりと並ぶ贈られた縁起物の置物を見ると薄給の自分のが一番小さい。でもそれを目立つ所に置いて、とユーモラスに始まります。

臭小子と上司にバカにされながらも、香港の大物・周爵士の娘婿に選ばれたことから人生が一変。このあたりの立場の逆転には胸がスッとしました。

とにかく全編、言葉がないくらいかっこいい華仔ですよ。最近流行りのツーブロックのヘアスタイルにタイトなスリーピース。スタイルがめちゃくちゃいいぞ!アンディ。

しかもそのアンディとドニーさんの男の友情を縦糸に、潮州兄弟の情とアンディとケント・チェンの信頼が横糸を織りなす。そうこなくっちゃ香港映画。そのうえ音楽がとびきりよくてね、陳光榮(チャン・クォンウィン)と雷有暉(パトリック・ルイ)が担当。劇中何度か主テーマとなるメロディのバージョン違いが流れるのですが、秘かに自分はこれを「愛のテーマ」と名付けてしまったほどにはブロマンス。

音楽もいいけど、カメラとセットがね素晴らしい。カメラはもちろん今作の共同監督の關智耀。よきにつけ悪しきにつけ目立ってしまう王晶なので、ちょっと影に隠れる格好になっていますが、この作品は彼の存在なしにはありえなかったと思います。

一番好きなシーンは、舞台となる九龍寨城を歩くドニーさんの背中越しにじっくりとカメラが追ってゆくシークエンス。

まずは九龍寨城の全景が俯瞰で映し出され、そこにスレスレの角度で旅客機がかすめてゆく。かつて香港に本当にあった風景。しかも!そのタイミングで流れるのが Donny HathawayThe Ghetto !マジでここで変な声でました。ぶはっ!かっこいいいいいい!!!ただでさえ映画で知ってる曲がかかるとテンションが上がりますが、この曲の入ったライブ盤は死ぬほど聴き倒しましたがな。エレピが唸りを上げるぜ!

その飛行機を九龍城の下から見上げるショットに切り変わると、幾層にも違法建築で積み重なった建物をカメラがゆっくりと降りていって中央部の薄暗い広場からぐるりと回りの店の様子を見せる、なかには犬肉専門店も。

そこへドニーさんがやってきて、コカコーラの瓶のふたを開けるアップ。階段を昇るとマージャンをする姐さんに声をかけ、ベランダで宿題をする少女にコーラを渡す。「多謝、哥哥」の声を背中に階段を下りると、半裸の女性が踊るストリップ小屋をすり抜け、手下がうやうやしく開けるドアの向こうは麻薬の小分け作業場。そこを通って弟分に「大威は?」と声をかける。そして扉を開けて食堂の奥にある賭博場へ入り、賭博に興じる大威の肩を抱いて外に連れ出す。

いや、よくぞこの場面に Ghetto を選曲しました。ゲットーというのはご存知の通りユダヤ人街のことですが、後にスラム街や汚いものという意味にも使われるようになりました。九龍寨城にこのダニー・ハサウェイのゲットーとは。センス良すぎっしょ!

ちなみに、ティーザー予告で使われていたかっこいいボーカル入りの曲は Chasing The Dragon というタイトルの陳光栄作曲オリジナル。パフォーマンスは Jeffrey Chu とありましたが、香港の音楽関係には疎いのでどなたの事か捜しきれず。知ってたら教えてください。

と、いう具合に色んな方面でオタクにはたまらんすぎる映画でした。音楽ネタもキャストネタもまだ書きたい事が一杯ある。後でもっとくわしく書きたいと思います。次回ネタバレに続く。

追龍ティーザー予告
《追龍》”跛豪”人物版預告片
【追龍】終極預告 梟雄篇

関連レビュー
追龍(原題、2017年・香港中国)@HK②音楽編 – ドニーさん 甄子丹 ネタバレ
追龍(原題、2017年・香港中国)@HK③俳優編 – ドニーさん 甄子丹 ネタバレ
追龍(原題、2017年・香港中国)@HK④音楽編おまけ – ドニーさん 甄子丹 ネタバレとか関係なし
追龍(原題、2017年・香港中国)@HK⑤レビュー – ドニーさん 甄子丹

カテゴリー: film, music, アクション映画, 甄子丹 | タグ: , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , | 追龍(原題、2017年・香港中国)@HK①- ドニー・イェン 甄子丹 ネタバレなし はコメントを受け付けていません

新感染 ファイナル・エクスプレス(부산행、2016年・韓国)

ゾンビ初心者への親切設計がすばらしい。従来のファンにもゾンビ事始めにも最適!おそらく韓国映画として世界で一番稼いだ作品、日本でやっと公開

この映画の事を知ったのは、昨年香港でハリウッド映画も含めた年間ランキングで『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』に次ぐ第2位になるほどの大ヒットを記録したから。華語映画の香港興行記録を塗り替えた香港映画・寒戦2こと『コールド・ウォー香港警察 堕ちた正義』をも興収で抜き去りました。

アジアどころか自国の映画すらあまり観ない香港でここまでヒットするのだから、それだけですっごい面白いんだと分ります。この香港公開時にあんまり香港人が誉めるものだから、どんなんやと調べたのがきっかけ。

もともとはアニメーションの監督だったヨン・サンホが製作したアニメ映画『ソウル・ステーション/パンデミック』に端を発し(企画はアニメが先だけど完成はどうやらアニメの方が後になったそうな)、続いて同監督が「その後の物語」として実写化したものです。カンヌ国際映画祭で喝さいを浴びるや、人気作家スティーヴン・キングをはじめ、ギレルモ・デル・トロ、エドガー・ライトやイーライ・ロス、ジェームス・ガンら皆が大好きな映画人から絶賛された作品でございます。

私はゾンビ映画をほとんど観たことがありません。本家ジョージ・A・ロメロ監督作どころか、今まで観たのは『ショーン・オブ・ザ・デッド』『ワールド・ウォーZ』『ゾンビ・ファイト・クラブ』『アイ・アム・ヒーロー』ぐらいという体たらく。

しかし、この作品はそんなゾンビ初心者にとても親切設計でした。

理由もなく、早い段階で突然ゾンビ化する人々。中心人物たちの描写も結構駆け足で、こういう前振りのなさはとても好き。あとは、どう逃げ対抗するのか、そしてそのパニック状態においてのキャラクター描写を楽しみに観るわけです。私にとってはゾンビ化する原因とかなくて結構。

列車という限られた空間がまず素晴らしくて、この列車の撮影をどうやったのかと思ったら、LEDリアプロジェクションを使ったと公式サイトにありました。時速300キロというスピード感をリアルに見せる照明技術のことも書いてあってなるほどー。

ここに力を注いだのでお金のかかるCGがより必要になるグロ表現が控えめだったのか、もともとそういうつもりだったかは分りませんが、残酷描写が想像よりずっと少なかったのも助かりました。

にしても、美人がゾンビになるのは興奮しますね。特に客室乗務員が素敵。あの歩き方、たまらん。そして斜めになった列車の割れた窓から大量のゾンビが流れ出てくるところ。うは、息が止まりそう。

銃火器もないので超接近戦です。これがよかった。つい先日、RE:BORNを観たばかりだったので「零距離戦闘術をコン・ユが習得していれば!」などとアホな事を考えてしまったのことよ。いや、この映画に無双はいらないから。

男3人が車両を移動する際、開けた扉の向こうに野球部員ゾンビがいたところで「きっつ」と声が出ました。ゾンビ映画で一番つらいのは愛する人や仲間がゾンビになって襲ってくること。その点で身重の妻を残して散ったマ・ドンソクの変体後がなかったのはよかったのか悪かったのか。

終盤の回想は意見が分かれるかもしれませんが、私はあそこで涙線決壊しました。日本語吹き替えと字幕を両方観たのですが、個人的には字幕の方がよかったと思います。韓国の子役ちゃんはほんと上手すぎる。

走るゾンビいいじゃありませんか。走り去る列車を全速力で追ってくるの怖かったもん。そのあと鈴なりに折り重なって引きずられるのには笑っちゃったけど。そこだけスケールちっちゃくなったワールド・ウォーZかい!

いやはや噂にたがわぬ秀作でした。おもしろかった!ゾンビ映画を観たことないけど、観てみたい、そんな友達がいたら真っ先にお勧めする映画です。

そして、この前日譚にあたる同監督のアニメーション映画『ソウル・ステーション/パンデミック』もこの9月30日に全国ロードショーするらしいっす。劇場予告を見て驚いた。いいぞ、もっとやれ。

新感染 ファイナル・エクスプレス公式サイト
「新感染 ファイナル・エクスプレス」予告編

アニメ『ソウル・ステーション/パンデミック』公式サイト

カテゴリー: film, アクション映画 | タグ: , , , , , , , , , , , | 新感染 ファイナル・エクスプレス(부산행、2016年・韓国) はコメントを受け付けていません

HiGH&LOW THE MOVIE 2 / END OF SKY(2017年・日本)

最初のドラマから観ている身としては、すでにしっかり出来上がったHiGH&LOWの世界観には馴染みがあります。今どきアニメやマンガ原作でもないオリジナルで、ここまで確立したのはさすがエグザイル!と喝采を送りたい

自分としては、ドラマ・シーズン1でガツンと最初に決めてみせたアクション監督大内貴仁さんの手腕とそれを引きだしたプロジェクトのコンセプトが大きいと、えこ贔屓させていただきます。

というか、あのラスト、ビル内大乱闘長回しを観た時の衝撃と言ったら。日本には世界に誇る「ヤンキー・アクション(大人数での乱闘)」あり。しかも飛躍的に進化しとる!

2016年のジャパン・アクションアワードでもこのS1はベストアクションシーン賞(ベストシーンは「ルードボーイズ」)、ベストアクション監督賞、ベストアクション作品賞の三冠に輝きました。そのアワードの司会をした際、同時期に撮影していた何人ものアクション監督から「日本にいるスタントマンのほとんどがあの撮影に取られ人が足りずに困った」というボヤキを聞いた覚えがあります。

これまでにドラマが2シーズンと映画3本(S2のアクション監督は富田稔さん、映画RED RAINは坂口拓TAKこと匠馬敏郎さんが担当)が製作され、実質のところ系列5作目となるために、アクション設計はかなりハードルが高くなってると想像していたので楽しみにしていました。

今回は、今までの肉弾戦やバイクスタントにくわえてカースタントをぶっ込んできましたね。バイクから車に乗り移るシークエンスや人間ピラミッドを踏み台に飛ぶドロップキックとかジャッキーみたいで心拍数がかなり上がりました。あと、達磨組のサーフィンみたいな登場の仕方。劇場でお腹抱えて笑っちゃったわ。吹っ飛んでるし。

これだけ何作も観てれば、それぞれのグループの個性やテーマ曲にもめちゃ愛着があるし、バランスが悪かろうがなんだろうが時間をかけてじっとり紹介してもらわないことには落ち着かない身体になってしまいました。

ラストファイトはSWORD+αで大乱闘。これも楽しいお約束。誰が何と言ってもHiGH&LOWは日本のアクションに一石を投じた作品のひとつであることは間違いありません。

ところで『琉球バトルロワイヤル』『TOKYO TRIBE』の丞威(じょうい)君は、いつの間にか石原プロモーションに所属して名前が岩永ジョーイになっていたのですね、知らなかった。

あと結構変わる琥珀さんのヘアスタイル。今作は一番気に入ったし、演技が落ち着いて喋る声まで変わっており、とてもよろしかったです、うふふ。AKIRAさん大人になったね・・・と、もとから大人なのについ言いたくなってしまう6年前の『レジェンド・オブ・フィスト 怒りの鉄拳』もどうぞよろしくお願い申しあげます。

多分オーラスになるのだろうTHE MOVIEのパート3『FINAL MISSION』は2017年11月11日全国ロードショー。アクション監督は引き続き大内貴仁さん。最後やー!協定で大暴れしまくれ!SWORD!

HiGH&LOWオフィシャルサイト
「HiGH&LOW THE MOVIE 2 / END OF SKY」Action Special Trailer
HiGH&LOW Special Trailer「END OF SKY」/ Valentine feat. Rui & Afrojack 「Break into the Dark」

カテゴリー: film, アクション映画 | タグ: , , , , , , , , | HiGH&LOW THE MOVIE 2 / END OF SKY(2017年・日本) はコメントを受け付けていません

ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣(Dancer、2016年・英、米、露、ウクライナ)

ロングランありがとう。やっと観ました。

オープニング。Black SabbathIron Man が大音量でかかる。この始まりの選曲だけでバレエ界での彼の存在を象徴しております。

そして舞台に上がる前、彼は心臓の薬と軍用に開発された強壮剤と鎮痛剤を口にする。常々、バレエダンサーこそ瞬発力持久力を併せ持った肉体的にも精神的にも究極のアスリートだと考えている自分でもハッとさせられた一瞬です。あんなことを公演のたびにして命に関わらないのか。他のバレエダンサーも同じなのかと気になって仕方ありませんでした。観賞後に草刈民代さんのインタビューを読んで少しホッとしたほどです。

ドキュメンタリーとしてはかなり甘い作りかもという印象を受けたので、どちらかというとセルゲイのプロモーションビデオととった方がいいのかも。そう、素晴らしく美しいプロモーション映画。私には彼の幼少時代やロイヤルバレエ入団当初の貴重な映像を観られたという満足感が勝りました。舞台で踊る彼には観客と一緒になってスクリーンに拍手をしたくなる衝動を堪えたほど。それだけで、この映画にはお金を払う価値があります。

天才という言葉は、非常に曖昧で、理解不能というカテゴリー分けをするのに都合がいいのであまり好きではありません。幕間、精も根も尽き果てたかのように楽屋で息を整える姿こそダンサーの真実の姿でしょう。

観ながら何度も何度も彼の人生は彼のもの、という思いがこみ上げてきました。

Take Me to Church をスクリーンで観られたことに感謝。どこが製作したのかとクレジットを見たらBBC FILMだったのね。

『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』公式サイト
『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』予告編
「群を抜いている」草刈民代がセルゲイ・ポルーニンを絶賛

カテゴリー: dance, film, music | タグ: , , , , | ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣(Dancer、2016年・英、米、露、ウクライナ) はコメントを受け付けていません

追龍、大師兄に続くドニーさんの新作は・・・まさかの! – ドニー・イェン 甄子丹

ちょ、今日、9月28日公開『追龍』の発布会があったのですが・・・その席の最後で・・・今年年末にクランクイン予定であるドニーさんの新作が発表されましたですよ。それは、まさかのダークホース的作品

その記事の写真でドニーさんと王晶が並んでいたのですが、なんとうしろにデカデカと『肥龍過江』と書いてあった。まさかまさか『燃えよデブゴン』のリ、リ、リメイク!!??リブート!?

びっくりしましたわ。にわかに信じがたいので急いで検索したら、博納影業(BONA)のアカウントが、導演:王晶(ウォン・ジン)というインフォとともに、同じ写真をあげてましたわ~。ひぃ~。

実は、香港の寝具メーカーSinomaxの2015年の広告で、1人2役、うちひとりが特殊メイクでデブっちょというCMを谷垣健治監督で撮影しておりました。結構評判になったのでしょうか、このCMがとっても気に入ったドニーさん、この太っちょキャラで映画を撮りたがってるらしいという噂を耳にした事があります。まさかそれが燃えよデブゴンになるとは・・・思わなかった。と、いうか、時代背景もオリジナルと同じになるのか、それともまた違う現代が舞台になるのでしょうか。

過去一度監督作に出演したことはありますけど王晶とそんなに仲良しだったのか~。大物に無茶ブリするのが得意な王晶のことは、薄々「人たらしなんだろうなぁ」という気がしておりましたが、どこでそんなにドニーさんのハートをがっちり掴んだんでしょ?あれか?あの時か?

結構謎でございます。

クランクインは今年年末だそうな。そして、もう1作。上映するする詐欺の『アイスマン2』はいつ公開するのかなぁ。てっきり今年と思っていましたが、そうでもなさそうな気配。一体いつになるのやら。

今年12月公開といっていた『追龍』も、上映予定をかなり繰り上げて9月28日に香港で公開されることに決まったばかりです。気がつけば公開目前ででございますよ。当初監督は關智耀と発表されましたが、いつの間にか王晶も監督として名前を連ね、そこに張敏の名もあったりしました。どうやら途中から監督が増えたようです。ま、香港映画ではよくあること。

張敏はかつて王晶の助監督をつとめ、現在も王晶プロデュースの映画を撮ったりすることが多いのですけど、監督2作目の關智耀という事で助監督として最初は入ったのかもしれません。にしても、皆がお手伝いしてでもどんどん新しい人に監督するチャンスを与えるんですねぇ。新デブゴンも新鮮な人と組まないかな。

そうだ、追龍の音楽は陳光栄(チャン・クォンウィン)なんですって。合ってると思う!

追龍オフィシャル予告《追龍》官方預告片

↓ドニーさんがヒントを得たと思われる1人2役ふとっちょさんのCM(監督:谷垣健治)
全新SINOMAX「用愛.支持所愛」電視廣告
そのメイキング1:SINOMAX 「用愛.支持所愛」電視廣告花絮
メイキング2:SINOMAX 「用愛.支持所愛」電視廣告花絮 – 變肥仔篇

カテゴリー: film, アクション映画, 功夫映画, 甄子丹 | タグ: , , , , , , , , , , , | 1件のコメント

RE:BORN(2017年、日本)

やっと観て来たよ!言葉なんか出ない。とにかく観てください!としか。

主演TAK∴さん、監督下村勇二さん渾身の一作。それがガンガン伝わってきます。セロレンジコンバット(零距離格闘術)のことはよく知らずに観たのですが、知らなくてもいい。一見しただけであのスピードと動きに説得されるのだから何の問題もありません(たくさんアップされているレクチャー動画を見てリピートするとまた一段と面白いけれど)。TAK∴さんと稲川良貴さんめっちゃくっっっちゃカッコイイ、セクシー!

見どころは、すべてのアクションシーン。かつてここまで銃の弾を避ける動きに説得力を感じた映画があるでしょうか。私はありません。それだけでもう100点満点。その動きだけで満点を叩きだしたのに、それはほーんの序の口にしか過ぎないんすよ・・・。

主人公、敏郎が使う武器が中盤まで生活に身近にあるものというのも、このゼロレンジの凄味を表現しててすごい。香港じゃなにかというと斧が出るけど、日本じゃ鎌だ鎌。ジョン・ウィックは鉛筆でしたが、日本では鉛筆捜すより割り箸捜す方が早い。もし何かあったら絶対に手元にあるもので相手の頸動脈狙って刺すべし!と心から思えたのも、この映画のお陰です、ありがとう。

誰にも気づかれないように歩きながら銃を分解するシークエンスは今まで見たもののなかでぶっちぎりにしびれた。そして電話ボックスの篠田麻里子嬢の使いっぷりがマーヴェラス!いや、ほんとうに。

ここまででも口あんぐりなのに、後半は、ゼロレンジコンバットの凄さが臨界点突破。

あまりの速さに何やってるのか、正直一度ではよくわからない。でも間違いなく誰も見たことのない動きが連続してる事だけは確か。しかも最後手にするブレイカーと命名されたオリジナル・カランビットナイフの造型がエロ美しすぎてもう。

潤沢とは言い難い予算で撮影されたことは観ていれば分ります。アクションシーンに必須と思われてきた動きから感じるエモーションもありません。作品で描かれた零距離格闘術では「生きる=殺す」という本能のみが剥き身で迫って来ました。ここまで思えた映画はちょっと記憶にない。

豪華な共演者も決して無駄にせず見事なシークエンスとして昇華され、音楽は川井憲次氏を起用。しかも音楽に頼りすぎず、肝心なところは音楽を排した作りに矜持がみてとれました。

TAK∴と下村勇二という2人の男の執念とパッションがこういった形で結実し、映画館でそれを観ることが出来たことは心底嬉しいです。ほんとうによかった。まだの人は是非観てください!

この先、2人がゼロレンジコンバットで再びアクション映画に取り組むことが出来るようにと願います。次があるなら、一段とすごい映画になるはず。もう、絶対に次が観たい!

最後に。武田梨奈さんのラストのナレーションがすごくよかった。

下村勇二監督作品「RE:BORN」公式サイト(内容盛りだくさん)
坂口拓・斎藤工・大塚明夫共演!『RE:BORN リボーン』予告編
YouTube/U’DEN FLAME WORKSチャンネル(ゼロレンジコンバットの基本ウェイヴ解説動画など)
TAK∴(坂口拓)×下村勇二監督『RE:BORN リボーン』インタビュー(藤本洋輔氏によるおふたりのロングインタビュー)

RE:BORNで動画検索すると、ザクザク出てくるよ!推奨。上映中のリピート必至。

カテゴリー: film, アクション映画 | タグ: , , , , , , , , , , , , , , | RE:BORN(2017年、日本) はコメントを受け付けていません

スパイダーマン:ホームカミング(Spider-Man: Homecoming 2017年、米)

トム・ホランドが超絶かわいい。青春スパイディ楽しかった!リブートするたび「アースなんちゃら」と言われ、今度はMCUになるのだけど、要するにあれでしょ、ほら、黄飛鴻(ウォン・フェイホン)と同じようなことだよね?ネタバレ

古典的なコミックのヒーローというと運命に導かれた選ばれし者で、もとからその素質が備わってるというイメージが自分にはあるのだけど、このピーターはそうではないのがお気に入りです。ヒーローが活躍するのではなく、ヒーローになる過程の物語。そこには愛情や夢が一杯あり暖かい気持ちになれました。

映画だけでも何度かリブートされてるスパイダーマン。今度はMCU参加後のリリースとあって、アベンジャーズとの関連が強い。その影響で今回のピーター・パーカー像になったのなら、これはこれでヨシ。

ヒーローに憧れアベンジャーズに憧れる普通の高校生のピーターが、最初は失敗したりおばあちゃんに道を教えるところから始めるのが、すっごく微笑ましかったし、そこからの成長を見守れるのが嬉しい。超人ヒーロー映画とちょっと距離のある人間にも圧倒的に共感が持てて、めいっぱい応援しちゃった。

主人公がそんな具合だから、マイケル・キートン演じるヴィランも突然変異した超人じゃなく普通の人間で、使用するのがアべンジャーズと戦った地球外生命の残骸を利用した武器というのも、うまい。しかも悪の道へのきっかけは失業だったりするし、そもそもその失業の原因がトニー・スタークってのがもうね。

くわえて、そのヴィランが、好きな子の父親だった日には。

高校生ともなればスマホ持ちなので固定電話しかなかった昔ほどGFやBFの家族を意識することなんてないでしょうけど、それでも自分の好きな人にはほとんどの場合親がいる。関係が深くなればなるほど男にとって最大の敵は彼女の父親。このダブルミーニングがクスっとさせますな。

主役のトム・ホランドがとにかくキュートでよかった。彼を前にするとあのスタークさんが保護者みたいになるのも加点要素。

原作があるとはいいながら、コミック、小説、アニメ、TVドラマ(日本でも特撮でやったそうじゃないの)、映画と、幾度も設定やストーリーを変えて途絶えることなく製作されてきたスパイダーマン。アメコミの例にもれず、全く違う展開になっても「別アースだから」という一言で済むようになっており、今回はそれがMCUとなるわけです。

・・・それって、功夫映画で考えたら黄飛鴻(ウォン・フェイホン)と同じことなんじゃないですか?か?か?

香港映画史に燦然と輝くアイコン「黄飛鴻」。同じ題材で製作された映画の数として世界最多でギネスブックにも載ってるそうですが、TVシリーズも含めると数はもっと多くなる。

ざっと黄飛鴻を演じた俳優をあげてみても

・関徳興(クワン・タッヒン)1947~70年まで25本もの黄飛鴻シリーズ(他にTVシリーズや単発で3本の映画でも演じている、当代随一のフェイホン俳優)

・谷峰(クー・フェン)1973年 『黄飛鴻』

・劉家輝(リュー・チャーフィー)1976年『ワンス・アポン・ア・タイム 英雄少林拳』、1981年『ワンス・アポン・ア・タイム 英雄少林拳 武館激闘

・成龍(ジャッキー・チェン)1978年『ドランク・モンキー 酔拳』、1994年『酔拳2』

・錢嘉楽(チン・ガーロッ)1990年『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ/天地激震』

・石堅(シー・キエン)1991年『我係黄飛鴻』TVドラマ

・李連杰(ジェット・リー)1991~93年、97年『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ』シリーズ、他にもセルフパロディ物にも出演。マスターピース。

・曾思敏(ツァン・シーマン)1993年『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ外伝/アイアンモンキー』

・趙文卓(チウ・マンチェク)1993~94年『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ』シリーズ、1995~96年『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ』TVシリーズ

・釋小龍(シー・シャオロン)2003年『少年黄飛鴻 ヤング・ホァン・フェイホン・ストーリー』TVシリーズ

・晏彭于(エディ・ポン)2014年『ライズ・オブ・ザ・レジェンド ~炎虎乱舞~

シリーズでも何でもない全くの別プロダクションなのに、邦題に「ワンス~」とついてるのが目立つのはジェット・リー版がヒットした後に日本でリリースしたせい。しかも、これがすべてではありません。

これこそ、「アース○○○」と数字を振らんといかん勢いですわ。しかも師傅の場合は、小説やコミック原作でなく実在する人ですからねぇ。若干設定にお約束はあるものの、ジャッキー版なんか医者どころか薬局を開く気配すらありません。ハイエナのような香港人の便乗商法、いやもとい、創作意欲の前には史実なんかハナから眼中にないのであります。

アメコミだけじゃない、いくつものパラレルワールドが存在する香港映画。最近だと『イップ・マン』も同じようなケースですね、これもアース番号振った方がいいのかも。

映画『スパイダーマン:ホームカミング』予告①
映画『スパイダーマン:ホームカミング』予告②

カテゴリー: film, アクション映画, 功夫映画 | タグ: , , , , , , , , , , , , , , , , , | スパイダーマン:ホームカミング(Spider-Man: Homecoming 2017年、米) はコメントを受け付けていません

ベイビー・ドライバー(Baby Driver、2017年・英、米)

エドガー・ライトの選曲が今回またまたまた一段と冴えて満点!そこにカーチェイスが加わってもうね、500億点突破!!!!カーチェイスに感じたアクション設計の多様性。最初から最後までワクワクしっぱなし。あっという間の113分。

エドガー・ライトらしく音楽がめっちゃいい。それにカーアクションが加わるとこんな血が沸騰するのか。始まってすぐのカーチェイス。さすがでございますハリウッド。もうね始終ニコニコです。たまらん。

エドガー・ライト監督のやりたいことが詰まってる感がスクリーンからガンガン迫ってきて本当に楽しかった。こういう熱量の高い作品はいい、本当にいい。

冒頭。2006年型、赤のスバル インプレッサ WRXが銀行の前に停車し、そのホイールから覗く赤いブレーキパッドにSUBARUの文字。自分は車の事はまったく分らないドシロートだけど、そのクールさは感じとったぞ。もうここから死ぬほどカッコいい。

ドライバーシートのベイビーが、旧型i-podでThe Jon Spencer Blues Explosion Bellbottomsを選曲する。銀行強盗に向かった3人を待つ間、曲に合わせて歌いリズムをとりワイパーをも踊らせちゃう。

強盗を終えた3人が車に走り込んで、助手席のひとりが「GO!」とばかりに前を指差した瞬間ベイビーはバックで急発進。180度ターンでゲッタウェイ開始。

路地では2台のトラックを挟んだギリギリのところで180度スピンをしながら素早くターンを加えて体制を立て直しすり抜ける、その鮮やかな事。これぞザ・カーチェイス。

世界中には車に魅入られたのがゴマンと存在するけれど、日本にも「走り屋」と呼ばれるストリートレーサーがおり、特徴のひとつとして、山の多い地形のため峠を駆け抜けるドリフト命の人達がいる。そういう国の車だから、かつてその分野は強かったのです。日産のシルビアとかGT-R、180SX、ホンダのシビック、マツダのRX-7など数多くの名車を生み出しました。スポーツカーがあまり売れない時代になっちゃったので、今走り屋の人達は、こういった名車の中古を買う傾向があるそうな。

本作に登場するスバルのインプレッサ、恥ずかしながら私のような車オンチには、そんなすごい車という印象がありません。

そこで、雑誌『ベストカー』編集部にいる弟にコーフン気味に電話したところ、インプレッサはFIA世界ラリー選手権(WRC)において年間チャンピオンであるマニュファクチュアラーズチャンピオン3回(1995年、1996年、1997年の三連覇)、ドライバーズチャンピオン3回(1995年、2001年、2003年)を獲得しているシリーズ車で、ラリー人気の高いヨーロッパで有名だっていうじゃありませんか。すまんかった。

「95年のコリン・マクレーと01年のドライバーズチャンピオンになったリチャード・バーンズは英国人だよ、監督はスバル好きなんじゃないか?」と言っておりました。

撮影で使われたインプレッサは4台あって、どれも違う改造がされたそうです。そのうちの1台はドリフト用に特化したものなんでしょう、後輪駆動に改造。

スタントコーディネーターは『ドライブ』や『ジョン・ウィック』シリーズのセカンドユニットとして経験を積んだダリン・プレスコット(今度ジェラルド・バトラー主演映画の監督をするらしい)。メインのスタントドライバーに『ダークナイト ライジング』『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』『ジョン・ウィック』のジェレミー・フライが今回はセカンドユニット・スタンドコーディネーターと兼業で担当。

Bellbottoms の曲とともにきっちり5分12秒で終了するカーチェイスは、それだけでお金を払う価値が充分にありましたよ。めっっっっっっちゃかっこいいい!

しかも、他のシーンでは使用車がアメリカのシボレーに代わったりするので、その特性を活かしたスバルとは全く違うチェイスになっているところが素晴らしい!こっちは壁を走ってダッジ・ラムとバシバシぶつけ合うガチンコ対決っす。車は門外漢な自分だけど、香港アクションや功夫映画に通じる、キャラクターによって動きを変える格闘設計と同じくらいの多様さに唸りました。

30曲に及ぶ選曲はすべて監督エドガー・ライトによるもの。一方、このカーアクションで使った車をどこまで監督が意識して選んだのかは分りません。当然事前のミーティングを綿密にし納得した上での事でしょうが、私個人の想像では、スタントコーディネーター、ダリン・プレスコットやカースタントドライバーのジェレミー・フライらがチェイスに変化をもたらすため意図を持って選んだのではと思っています。

もちろんそれでいい。目玉となるカーチェイスシーンを他人にゆだねても最終的にはちゃんとエドガー・ライト作品に仕上げたすんばらしいセンスが彼の優れた才能の一部。それこそ、ハリウッド映画という舞台でまごうことなく「自分の作品」を作れた「強さ」だと感心した次第です。

参考になった記事
後輪駆動のスバル「WRX」も登場! 映画『ベイビー・ドライバー』のスタントマンが撮影の舞台裏を語る-autoblog.com
2008 WRC rd.1 MONTE CARLO SUBARU IMPREZA
↓どんだけこれがやりたかったんや、エドガー・ライト!という記事
大ヒット『ベイビー・ドライバー』の監督、ミント・ロワイヤルのMVで「予行演習」していた-rockinon.com

映画『ベイビー・ドライバー』予告編

関連があるかもしれないバクサカ記事
モーターウェイ(2012年・香港)

前回書いたジョン・ハムのピーキーカットはこの映画のキャラだったのね。先日、プロ野球関係の仕事をした時に、そこの女性スタッフと「最近の選手はツーブロックが多い」という話になりました。特に巨人の坂本選手は、聞いたところを想像するにまんま『ピーキー・ブラインダーズ』の兄、アーサーにそっくりな気がする。野球選手は帽子やヘルメットをかぶっているため、脱いだところを見る機会が少ない。まだ確認できませぬが、見てみたいぞ。

ところで、ベイビー役のアンセル・エルゴートは溺愛するフィギュアスケーター・アレクセイ・ヤグディンの若い時(長野五輪のあたり)に非常に似ておりましたな、と誰も共感できないだろう事を言ってみる。それも好感度が高かったし、なんか違う意味でドキドキしちゃったわ。

カテゴリー: film, music, アクション映画 | タグ: , , , , , , , , , , | ベイビー・ドライバー(Baby Driver、2017年・英、米) はコメントを受け付けていません