先日、新宿某所で『るろうに剣心』やドニー・イェンとの仕事で有名なアクション監督の谷垣健治さんとお食事する機会に恵まれました。
ここで会ったが百年目ですよ、おそらく自分ずーーっと谷垣さんを長時間質問攻めにしたに違いない(汗)。
気がつきゃ朝の4時半っすよ。
しかもパソコンでアクション試作の際のスタントマンの動きやら色々動画や写真を見せてもらいながらのお喋りなので、食事会場が閉店になるや2件目を「そのへんのカラオケ屋でいいす!むしろその方が落ち着いて見たり喋ったりできるし」と出てすぐ目に入ったカラオケ店へグイグイ向う自分。(その提案に恐らく谷垣さんはかなり呆れたと思う)年末だし週末だし、着いた先は客が一杯の実に新宿らしい小汚い雑多な雰囲気のカラオケ屋。
しかもこっちは一曲も歌わないものだから別の部屋の嬌声はガンガン聞こえてくるわ、上の部屋では大人数がドスドス床を踏みならすもんだから部屋自体が揺れるわ、振動でドアが開いてくるわ、トイレに行こうと部屋を出れば廊下のソファに浜に打ちあげられたトドのごとくグッタリと横たわる男どもの姿がそれもひとりやふたりじゃないという「ザ・シンジュク」な、かなりシュールな状況。
もうちょっとマシなカラオケ店あっただろうよ、よりによってココかよ!と自分で選んどいてのっけから思いましたが入っちまったものは仕方ない。
そこでも長時間喋り続けて最後は谷垣さんのパソコンもi-phoneもバッテリーが切れるという事態。
いやいやいや、ほんとーに本当にありがとうございました、谷垣さん。
そしてセンスのカケラも色気もないあのような場末感たっぷりな店で、ひたすらアクション制作の事ばかりを質問しまくったこの迷惑なオバハンを、どうかひらにお許しくださいませ。
にしても、楽しかった~。
話は谷垣さんの初アクション監督作品『金魚のしずく』(2001年ロー・リエ出演)から最新作の『るろうに剣心』(2012年)まで。
『金魚のしずく』はロー・リエの遺作映画で自分もDVDを持っているのですが、クレジットを眺めていたらなんと谷垣さんが担当してるじゃあないですか。すごいすごい、晩年とはいえ相手はあのロー・リエっすよ!
聞けば丁度『THE PUMA』を撮ってるころに1週間くらいお手伝いしたのだとか。主演のゼニー・クオックとそのBF役のチョイ・ティンヤウはもちろんのこと、監督のキャロル・ライも恐らくロー・リエがどんな俳優かよく知らなかったと思う、と谷垣さん。短い時間だったけど『キング・ボクサー』のことなどを直接話してくれたらしい。当時あの年齢にも関わらずコレオグラフした動きは一発で覚えたんだって。さすが往年のショウブラスター、経験値が違う、すげぇ。
キャロル監督は最近何も知らずにるろうに剣心を観たところ、谷垣さんがアクション監督と知り「うれしかったわー」と連絡してきたそうです。
さて、そのるろ剣ですがなにやら続編がありそうな匂い(がした)・・・。
この映画でどのくらいアクションシーンの編集に谷垣さんの意見が反映されたのか、すんごく興味津々で非常に具合的にうかがいました。反映されたところもあるし違ったところもある。しかし違っていたからと言ってすべて悪いわけでもなく、そこはやはり様々だそうで。
完成品では一部位置関係が分りにくいところがあったように感じたのですが、その辺りの編集でのカット割りのことなんかも詳しく聞くことが出来ました。
宣伝の方向性を決める前のモニター試写では、とにかくアクションが好評だったようで、その結果を踏まえてワーナーブラザースはアクション映画として全面的に売り出すことを決定したのだとか。なるほど。
今度はこうしたい、もっとこんな風にという構想が谷垣さんには一杯あるそうで、次があるなら「続編」という考えでなく「ここから新たに始まる」という気持ちで臨みたいと熱く語っておられました。加えて若い俳優さんたちの熱意と真面目さには相当やりがいがあったそう。
「慣れてないということも幸いしたのか、彼らはどこから撮られるとか一切考えずにどこから撮ってもいいように仕上げてくる。それが新鮮だったし嬉しかった、稽古にかけた努力もハンパないし!」
とにかく皆さんの事をベタ褒めしていました。
そして初めて観た時から谷垣さんに聞いてみたかったドニー・イェン主演『三国志英傑伝/関羽(KAN-WOO/関羽 三国志英傑伝)』の洛陽の屋内のアクションシーンのなんで照明があんなに暗かったのか?という疑問。この質問をぶつけてみたところ「現場もすでに暗かったんすよねぇ、なんでですかねぇ」とあっさり。
あそこは長物の扱いとかすごく凝った事してるのによく見えなくって残念でした、と僭越ながら感想を話したら「自分の手伝ってた期間でいうと実はあの場面が一番力入ってたんですよ」というご返事。「ドニーはあそこではあまり演武風にしたくなかったみたいで、もっと違う刀の使い方動きはできないかと考えてて、少しスポーツっぽいですよね」とのこと。
そして卞喜のいる沂水関の闘いで扉が閉まって、それが開くと・・・というアイディアは監督のものだったそうです。実はあの2人の監督それほどアクションには思い入れがなかったようで。そ、そうだったのか(汗)。
この作品では大陸の名優チアン・ウェンとドニーさんの芝居も非常に印象に残りましたが、いざクランク・インすると急にチアン先生が「広東語で台詞言われても自分にはわからんから芝居が出来ん」と言いだしたらしい。うぬぬ、あなた一体何様?・・・ああ、姜文様か。
そしたらドニーさん「やってみるわ」と了承して彼とのシーンだけはなんと、急遽普通話で演じたそうな(うおー聞いてみたい、その台詞)。「でもね、あのふたり終わるころには、すんげー仲良しになってましたよ!」
そうか、よかった。またどっかで共演してみて欲しいなぁ。今度は現代アクションものでね、次はこっちのフィールドで勝負だぜ!姜文!
監督のアイディアというと、『捜査官X』でドニーさんの覚醒時にうしろに写ってる子供たちが笑顔だったのが自分はすごく印象に残ってるのだけど、あのアイディアはピーター・チャン監督じゃなく、アシスタントプロデューサーのジョジョ・ホイという女性の案(やはりドニーさんではなかった)。
捜査官Xのコメンタリーにもあったようにピーターは現場では色んな意見を受け入れて「ああ、それも撮っとこう」ともってゆき、あとから自分のイメージに合わせて追撮などをするプロデューサータイプの監督。で、ジョジョは非常に優秀で決断の速い監督タイプのプロデュサーらしい。で、このふたりがすごくいいコンビなんだそうですよ。
コメンタリーで、あのベティ・ウェイを襲う牛が作りものでスタントマン2人が中に入り操っていたというお話は聞いていました。
自分は作りものの牛と聞いて全てが作ったものかとぼんやり想像していたのですが、本当は剥いだ牛の毛皮を足に巻いたり、内側を堅い素材で形取った上に本物を被せた蜑攝サみたいなものだったんだって。ひぃ~。
「とにかく臭かった!」と谷垣さん。「訳も分らずスタントマンはある日いきなり牛の皮を足に巻かれ、臭い牛の胴体に入れられたと思ったらいきなり『走ってみろ!』ですからねー、走ってみたらこれがもうぜーんぜん牛じゃないし可笑しくって。みんなでそれ見ながらゲラゲラ笑ってんのに、ドニーひとりだけ真顔で『牛はそんな走り方じゃない!』って怒ってるんすよ、で撮影したらしたで『そこで振り向け!』とか『上を見上げろ!』とか首なんて一切動かないのに無茶ブリするし(笑)」
目に浮かびそうです、その光景。
その牛が滝から落ちるところを捉えたカメラを回していたのが谷垣さんだというのは知っていましたが、一発撮りしかできないそのショット、はじめに落ちて来たのはあの牛小屋のセットの欠片。
それを牛と勘違いし(離れた場所からの望遠だったのでそう思ったそう)途中で気がついて「やべぇ!」とかなり焦ったそうです。慌ててもう一度ファインダー越しに牛を捜すカメラマン谷垣。やがて落ちて来た牛を見つけ必死で追ったのだとか。「間にあってよかった」と苦笑い。
「自分だけメインの撮影現場から遠く離れた場所にいて2人ほどのスタッフだけでカメラを構えてる。他の奴にしたら、この大事な時にどこいってんだって思うところ。これで撮れなきゃ『なにやってんだお前』って非難ごうごうですよ、撮れてよかった」
自分はあの牛小屋でベティ・ウェイに止めを刺せず、ふと唐龍から金喜に戻ってしまう演技が好きです。そこで「ドニーさん、ほんっとーに演技うまくなりましたね」と水を向けると「今は自信にあふれてるよね!」という返事。ですよねぇ。
どうやら『タイム・ソルジャーズ』のリメイク、新作3D『冰封侠(原題)』はすでにクランク・インして2週間ほどたっているらしい。えええええええ!
た、谷垣さん、い、行かなくていいんですか?と訊いたら、いや実は日本で仕事があって・・・ドニーから電話は掛ってきてるんですけどインの時期がずれたこともあって今回ほとんど手伝えない、とのこと。
国内でまだ終わってないものと、それと同時に映画秘宝で書いていたコラム「アクション・バカ街道」が10年分ほど溜まったのでそれを本にするという計画があるそうで。その原稿に手を加えたりお忙しい時期らしい。発売は一応来年の2013年2月を目標にしているそうです、うっわー楽しみじゃないですか。谷垣ファンはもちろんのこと、映画ファン、ドニーファンはマストバイ。
そして最後に悲しいお知らせ。
世界中のドニーファンが待ち焦がれている『特殊身份(原題)』ですが、谷垣さんがドニーさんに聞いても「いつ公開かわからん!」。そしてヘルプ出演を決めてくれたコリン・チョウですが、どうやらアクションはない模様・・・(涙)。
「ストーリーは分んないけど、でもアクションはほんといいよ、特にアンディ・オンがめちゃくちゃいいから!彼がラスボスだから」と言うことです。ついでにあの大陸の監督タン・ビン、怪しいかなりお金に困ってる詰んだ人らしいっす。
と、るろ剣、ドニー・イェンをはじめ、ショウブラザースから倉田保昭さんや、成龍のこと、これから制作されそうなBIGな邦画のこと、とにかくここには書ききれないほど、色んなお話をうかがうことができました。
本当に楽しかったです、谷垣健治さん心から感謝申し上げます!