谷垣健治さんに会う

先日、新宿某所で『るろうに剣心』やドニー・イェンとの仕事で有名なアクション監督の谷垣健治さんとお食事する機会に恵まれました。

ここで会ったが百年目ですよ、おそらく自分ずーーっと谷垣さんを長時間質問攻めにしたに違いない(汗)。
気がつきゃ朝の4時半っすよ。
しかもパソコンでアクション試作の際のスタントマンの動きやら色々動画や写真を見せてもらいながらのお喋りなので、食事会場が閉店になるや2件目を「そのへんのカラオケ屋でいいす!むしろその方が落ち着いて見たり喋ったりできるし」と出てすぐ目に入ったカラオケ店へグイグイ向う自分。(その提案に恐らく谷垣さんはかなり呆れたと思う)年末だし週末だし、着いた先は客が一杯の実に新宿らしい小汚い雑多な雰囲気のカラオケ屋。

しかもこっちは一曲も歌わないものだから別の部屋の嬌声はガンガン聞こえてくるわ、上の部屋では大人数がドスドス床を踏みならすもんだから部屋自体が揺れるわ、振動でドアが開いてくるわ、トイレに行こうと部屋を出れば廊下のソファに浜に打ちあげられたトドのごとくグッタリと横たわる男どもの姿がそれもひとりやふたりじゃないという「ザ・シンジュク」な、かなりシュールな状況。
もうちょっとマシなカラオケ店あっただろうよ、よりによってココかよ!と自分で選んどいてのっけから思いましたが入っちまったものは仕方ない。
そこでも長時間喋り続けて最後は谷垣さんのパソコンもi-phoneもバッテリーが切れるという事態。

いやいやいや、ほんとーに本当にありがとうございました、谷垣さん。
そしてセンスのカケラも色気もないあのような場末感たっぷりな店で、ひたすらアクション制作の事ばかりを質問しまくったこの迷惑なオバハンを、どうかひらにお許しくださいませ。

にしても、楽しかった~。
話は谷垣さんの初アクション監督作品『金魚のしずく』(2001年ロー・リエ出演)から最新作の『るろうに剣心』(2012年)まで。
『金魚のしずく』はロー・リエの遺作映画で自分もDVDを持っているのですが、クレジットを眺めていたらなんと谷垣さんが担当してるじゃあないですか。すごいすごい、晩年とはいえ相手はあのロー・リエっすよ!
聞けば丁度『THE PUMA』を撮ってるころに1週間くらいお手伝いしたのだとか。主演のゼニー・クオックとそのBF役のチョイ・ティンヤウはもちろんのこと、監督のキャロル・ライも恐らくロー・リエがどんな俳優かよく知らなかったと思う、と谷垣さん。短い時間だったけど『キング・ボクサー』のことなどを直接話してくれたらしい。当時あの年齢にも関わらずコレオグラフした動きは一発で覚えたんだって。さすが往年のショウブラスター、経験値が違う、すげぇ。

キャロル監督は最近何も知らずにるろうに剣心を観たところ、谷垣さんがアクション監督と知り「うれしかったわー」と連絡してきたそうです。

さて、そのるろ剣ですがなにやら続編がありそうな匂い(がした)・・・。
この映画でどのくらいアクションシーンの編集に谷垣さんの意見が反映されたのか、すんごく興味津々で非常に具合的にうかがいました。反映されたところもあるし違ったところもある。しかし違っていたからと言ってすべて悪いわけでもなく、そこはやはり様々だそうで。
完成品では一部位置関係が分りにくいところがあったように感じたのですが、その辺りの編集でのカット割りのことなんかも詳しく聞くことが出来ました。
宣伝の方向性を決める前のモニター試写では、とにかくアクションが好評だったようで、その結果を踏まえてワーナーブラザースはアクション映画として全面的に売り出すことを決定したのだとか。なるほど。
今度はこうしたい、もっとこんな風にという構想が谷垣さんには一杯あるそうで、次があるなら「続編」という考えでなく「ここから新たに始まる」という気持ちで臨みたいと熱く語っておられました。加えて若い俳優さんたちの熱意と真面目さには相当やりがいがあったそう。
「慣れてないということも幸いしたのか、彼らはどこから撮られるとか一切考えずにどこから撮ってもいいように仕上げてくる。それが新鮮だったし嬉しかった、稽古にかけた努力もハンパないし!」
とにかく皆さんの事をベタ褒めしていました。

そして初めて観た時から谷垣さんに聞いてみたかったドニー・イェン主演『三国志英傑伝/関羽(KAN-WOO/関羽 三国志英傑伝)』の洛陽の屋内のアクションシーンのなんで照明があんなに暗かったのか?という疑問。この質問をぶつけてみたところ「現場もすでに暗かったんすよねぇ、なんでですかねぇ」とあっさり。
あそこは長物の扱いとかすごく凝った事してるのによく見えなくって残念でした、と僭越ながら感想を話したら「自分の手伝ってた期間でいうと実はあの場面が一番力入ってたんですよ」というご返事。「ドニーはあそこではあまり演武風にしたくなかったみたいで、もっと違う刀の使い方動きはできないかと考えてて、少しスポーツっぽいですよね」とのこと。

そして卞喜のいる沂水関の闘いで扉が閉まって、それが開くと・・・というアイディアは監督のものだったそうです。実はあの2人の監督それほどアクションには思い入れがなかったようで。そ、そうだったのか(汗)。

この作品では大陸の名優チアン・ウェンとドニーさんの芝居も非常に印象に残りましたが、いざクランク・インすると急にチアン先生が「広東語で台詞言われても自分にはわからんから芝居が出来ん」と言いだしたらしい。うぬぬ、あなた一体何様?・・・ああ、姜文様か。
そしたらドニーさん「やってみるわ」と了承して彼とのシーンだけはなんと、急遽普通話で演じたそうな(うおー聞いてみたい、その台詞)。「でもね、あのふたり終わるころには、すんげー仲良しになってましたよ!」
そうか、よかった。またどっかで共演してみて欲しいなぁ。今度は現代アクションものでね、次はこっちのフィールドで勝負だぜ!姜文!

監督のアイディアというと、『捜査官X』でドニーさんの覚醒時にうしろに写ってる子供たちが笑顔だったのが自分はすごく印象に残ってるのだけど、あのアイディアはピーター・チャン監督じゃなく、アシスタントプロデューサーのジョジョ・ホイという女性の案(やはりドニーさんではなかった)。
捜査官Xのコメンタリーにもあったようにピーターは現場では色んな意見を受け入れて「ああ、それも撮っとこう」ともってゆき、あとから自分のイメージに合わせて追撮などをするプロデューサータイプの監督。で、ジョジョは非常に優秀で決断の速い監督タイプのプロデュサーらしい。で、このふたりがすごくいいコンビなんだそうですよ。

コメンタリーで、あのベティ・ウェイを襲う牛が作りものでスタントマン2人が中に入り操っていたというお話は聞いていました。
自分は作りものの牛と聞いて全てが作ったものかとぼんやり想像していたのですが、本当は剥いだ牛の毛皮を足に巻いたり、内側を堅い素材で形取った上に本物を被せた蜑攝サみたいなものだったんだって。ひぃ~。

「とにかく臭かった!」と谷垣さん。「訳も分らずスタントマンはある日いきなり牛の皮を足に巻かれ、臭い牛の胴体に入れられたと思ったらいきなり『走ってみろ!』ですからねー、走ってみたらこれがもうぜーんぜん牛じゃないし可笑しくって。みんなでそれ見ながらゲラゲラ笑ってんのに、ドニーひとりだけ真顔で『牛はそんな走り方じゃない!』って怒ってるんすよ、で撮影したらしたで『そこで振り向け!』とか『上を見上げろ!』とか首なんて一切動かないのに無茶ブリするし(笑)」

目に浮かびそうです、その光景。

その牛が滝から落ちるところを捉えたカメラを回していたのが谷垣さんだというのは知っていましたが、一発撮りしかできないそのショット、はじめに落ちて来たのはあの牛小屋のセットの欠片。
それを牛と勘違いし(離れた場所からの望遠だったのでそう思ったそう)途中で気がついて「やべぇ!」とかなり焦ったそうです。慌ててもう一度ファインダー越しに牛を捜すカメラマン谷垣。やがて落ちて来た牛を見つけ必死で追ったのだとか。「間にあってよかった」と苦笑い。
「自分だけメインの撮影現場から遠く離れた場所にいて2人ほどのスタッフだけでカメラを構えてる。他の奴にしたら、この大事な時にどこいってんだって思うところ。これで撮れなきゃ『なにやってんだお前』って非難ごうごうですよ、撮れてよかった」

自分はあの牛小屋でベティ・ウェイに止めを刺せず、ふと唐龍から金喜に戻ってしまう演技が好きです。そこで「ドニーさん、ほんっとーに演技うまくなりましたね」と水を向けると「今は自信にあふれてるよね!」という返事。ですよねぇ。

どうやら『タイム・ソルジャーズ』のリメイク、新作3D『冰封侠(原題)』はすでにクランク・インして2週間ほどたっているらしい。えええええええ!

た、谷垣さん、い、行かなくていいんですか?と訊いたら、いや実は日本で仕事があって・・・ドニーから電話は掛ってきてるんですけどインの時期がずれたこともあって今回ほとんど手伝えない、とのこと。
国内でまだ終わってないものと、それと同時に映画秘宝で書いていたコラム「アクション・バカ街道」が10年分ほど溜まったのでそれを本にするという計画があるそうで。その原稿に手を加えたりお忙しい時期らしい。発売は一応来年の2013年2月を目標にしているそうです、うっわー楽しみじゃないですか。谷垣ファンはもちろんのこと、映画ファン、ドニーファンはマストバイ。

そして最後に悲しいお知らせ。
世界中のドニーファンが待ち焦がれている『特殊身份(原題)』ですが、谷垣さんがドニーさんに聞いても「いつ公開かわからん!」。そしてヘルプ出演を決めてくれたコリン・チョウですが、どうやらアクションはない模様・・・(涙)。
「ストーリーは分んないけど、でもアクションはほんといいよ、特にアンディ・オンがめちゃくちゃいいから!彼がラスボスだから」と言うことです。ついでにあの大陸の監督タン・ビン、怪しいかなりお金に困ってる詰んだ人らしいっす。

と、るろ剣、ドニー・イェンをはじめ、ショウブラザースから倉田保昭さんや、成龍のこと、これから制作されそうなBIGな邦画のこと、とにかくここには書ききれないほど、色んなお話をうかがうことができました。
本当に楽しかったです、谷垣健治さん心から感謝申し上げます!

 

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奪命金(2011年・香港)

奪命金、試写行って来ました。
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映画によってジョニー・トー監督の作風の違いには慣れてる人は多いでしょうが、それにしてもこれはまた少し毛色が違うような。
う~む、株で実際に損した事がある人にとっては観てるの正直キツイと思います。ああ、ど、動悸が・・・(笑)。

に、してもキャストがよいですねぇ。
劉青雲(ラウ・チンワン)ほんといいキャラでした。
彼はこれで台湾の金馬奨で主演男優賞を獲りましたが、さもありなん。実直だけど頭の少し弱い感じのチンピラ役、最高です。サンダルぺたぺたいわして走る後ろ姿とか絶品。張兆輝(チョン・シウファイ)が保釈されたと思ったらあっという間に・・・のタイミングは笑いました。保釈金をかき集めるべく奔走するラウチンと金を出す人達のやり取りがまたいいんだ。

一方、香港金像奨のほうで助演女優賞に輝いた蘇杏璇(ソー・ハンシュン)は、地味に暮らす普通のおばさんでありながらもリスクの高いファンドを買ってしまうその姿が、実に香港の人らしい内に秘めた金儲けしたい感が出てて非常にリアル。ああ、いいの?ほんとにいいの?観客はみんな心の中で彼女に問いかけたはず。

そしてなんといっても鮮烈な印象を残したのが、同じく金像奨で助演男優賞を獲得した盧海鵬(ロー・ホイパン)。すごいわーーー、あのヘアスタイルといい、うすら笑いを浮べながらもちょっと半眼気味な目の奥が絶対に笑ってない表情といい、絶対にいる、ああいう人。
普段のご本人は、もっとダンディなお方。

蘇杏迺№ニ同じくおもにTVで主に活躍している御歳70歳の盧海鵬さんは、文革後中国大陸から海を泳いで香港に密入国したひとり。1973年無綫電視(TVB)の養成所に入りますが、実は当時は年齢制限があったそうな。しかしTVBは彼のためにその年齢制限を解除。
同期には周潤發(チョウ・ユンファ)呉孟達(ン・マンタ)がおります。やがて長寿バラエティ番組『歡樂今宵』でお茶の間の人気者に。
なので、映画というよりはずっとTV出演の方が多い。映画ではジョニー・トー監督作品の出演が目立ちます。実はこれが初ノミネート初受賞。
TVではコメディリリーフだそうで、写真を検索してたら、
こんなのとか

こんなのとか(これ葉問らしい)

こんなのが出てきました。

す・・・すばらしい!

今年の金像奨でノミネートがで揃った時から、これじゃ50歳以下の人間は受賞できないんじゃないかと噂されていて事実下馬評通りになりましたが、この作品を観ればわかる。これは仕方ないわ。

とにかく、出てくるキャスト全員の人物描写と芝居が素晴らしい。さすがトー先生のキャスティング。
最後に流れてくるテーマソングも非常に良かった。『水漫金山』というタイトルのこの曲、歌うのは香港のシンガーソングライター岳薇(ユエ・ウェイ)、すごく印象に残りました。

最後にジョニー・トー監督と言えば、次回作の『毒戦』は初めて大陸を舞台に正面から薬物問題を取り上げた作品だそうで。香港の俳優はルイス・クーただひとりなんだとか。あのジョニー・トーが香港ではなく大陸を描くということで、ものすごーーーく興味があります。

きっと面白いに違いないしすでに予告編も公開されていますが、公安が登場するこの作品、大陸で果たして香港版と同じ内容できちんと問題なく公開されるでしょうか。検閲に関しては、こちとらまったく信用してないので少し心配といえば心配です。

だってこの奪命金ですら、大陸で無事カットなどなく公開されたものの最後の最後に字幕が新たに加えられたんですぜ
“警方发出通缉令,三脚豹及银行职员特丽莎便立刻自首,并交代了所有案情,最终法庭从轻判决……”
つまり、ラウチン演じるパンサーとデニス・ホー演じる銀行員のテレサは警察に自首。で、ふたりとも事件のいきさつを素直に話したので判決は軽かった、だって。 なんじゃああああ、そりゃ。
夢オチよかひどい。

 

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マリインスキー・バレエ オールスター・ガラ

12月2日、東京文化会館にて。
『レニングラード・シンフォニー』を初めて観ました。
作曲はドミートリイ・ショスタコービィチ。世界初演は1961年のレニングラード・キーロフ劇場。復刻版の初演は2001年、サンクトペテルブルグ・マリインスキー劇場。

この日のキャストは娘がスヴェトラーナ・イワーノワ、青年がイーゴリ・コールプ、侵略者にミハイル・ベルディチェフスキー。指揮、アレクセイ・レプニコフ、マリインスキー劇場管弦楽団。

正式名称は、ショスタコーヴィチの交響曲第7番ハ長調、作品60、通称「レニングラード」。
第二次世界大戦さなかナチスドイツ軍に包囲されたレニングラードで作曲したことで知られていて、1942年の初演以来世界中で評判になり戦中戦後に北米や欧州で演奏されまくりました。
戦時中はナチスのファシズムへの反発も相まって人気を呼んだこの交響曲も、戦後冷戦が激化するとともにソ連のプロパガンダを感じさせると一気に評価が下がったりしたのですが、1970年代後半に回顧録『ショスタコーヴィチの証言』が発表され(ただこれに関しては真贋の議論が今なおあり、決着はついていないのだそう)「スターリンによって破壊され、ヒトラーによってとどめを刺された」レニングラードを意味すると書かれていたために、近年また評価を回復したというもの。

バレエの方は61年初演、ということはスターリンがすでに死んで、フルチショフによるスターリン批判が行われた後。大祖国戦争のために出兵する若者の姿には、その動きが乱れずに揃い力強ければ強いほど哀れさが漂います。当時の振り付けがそういった二重構造をもつ意図があったかはわかりません。むしろ一方的な悲劇という側面の方が強かったのでしょう。しかし2012年の日本で観たいち観客としては、その若者を愛するのだろう少女達もまた大きな不安を抱えながら同じ振りを繰り返すのには参りました。

正直、演奏のせいもあったのかもしれませんが(ぶっちゃけ、今回はあまりよろしくなかった)のっけから何とも言えず重苦しい。最後まで耐えられるかしらとふと思ったくらい。
観ながら様々な事が心をよぎります。追い打ちをかけるように若者の帰りを待つ少女が(単なる偶然なのでしょうが)ヒジャブのようなストールをかぶって登場したりするものだから911に端を発したイラク戦争を思い出させたりして、その後の中東情勢のことや、アメリカ、アフリカ、現在のロシア、北朝鮮、中華人民共和国、韓国、その国々と日本との関係、そしてこれから行われる日本の総選挙と一部政党の主張する先に見え隠れする気持ち悪さなんかが、ぐるぐる浮かんでは消えてゆく。
バレエを観ながら、こんな気分になったのは初めてです。これはどうしたものでしょう。いいのか悪いのか、その判断もつきません。
最後は、少女が帰らぬ人となった兵士たちの墓標に涙を流し、嘆く姿で幕。
終わった時は「やれやれ、やっと終わった」と思ったのが本音。

しかしガラが全部終わってしまえば、一番印象に残ったのはこのレニングラード・シンフォニーでした。そう考えると、この曲と作品の持つ普遍性と圧倒的なパワーには恐れ入ります。
21世紀の今、なおそう感じるこの世界をショスタコーヴィチさん、どう思いますか?

最後にマリインスキー劇場管弦楽団の名誉のために、この演奏を。
ショスタコーヴィチ交響曲第7番「レニングラード」

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画皮 あやかしの恋DVD発売-ドニー・イェン 甄子丹

考えたら、11月いっこも更新しませんでした。
なにやってたんや?自分。まぁバタバタ忙しかったけど。

さて気がつけば、あっという間に12月ですわ。12月と言えば28日に「画皮」が発売されますね。

以前に劇場公開版のみならず、ディレクターズカット版も併せて発売になるとお知らせしましたが、先日、この発売元の方に伺ったら、なんと3種類のDVDが発売になるそうで。
日本劇場公開版の103分バージョン(これはレンタル用と発売元MAXAMのHPでのみ販売)
・ディレクターズカット版の115分バージョン+メイキングとプレミア試写会映像とオリジナル主題曲MVの入った特典ディスクつきの2枚組完全版
・その2種類が一緒になったコンプリートセット
の3つのバージョン。

しかも、この103分の劇場公開版には広東語音声トラックがつくそうですよ!
やった、ドニーさんの生声じゃあないですか。(追記:このDisk、たしかに広東語トラックがついていましたが、実はドニー・イェンの声は別人の声優さんでした、訂正してお詫びします)
自分、広東語バージョン持ってなかったからすんごく嬉しいです。完全版だけを買おうと思ってましたが、予約を取り消して新たにコンプリートセットを予約し直さないと。

すごいわ~。ほんとありがとうございます、感謝。

聞けば、広東語音声は劇場公開版のものしかないうえ(完全版の方は新たに加えた映像の広東語音声が存在しない)、権利元からの音声素材に問題があり、収録に際しては相当悪戦苦闘したそうです。
何が大変だったかというと、画付きのHDマスターと音のピッチ(スピード)が合わなかったんだとか。PALとNTSCのピッチの違いみたいに規則的にずれるなら修正も難しくないそうですが、今作はなぜか不規則にずれていくので、こういうケースでは辻褄を合わせられるかどうかによって収録できるかが決まります。
このピッチ修正作業にとにかく苦労したらしく(担当者は苦労のうちには入らないとおっしゃってましたが)チーム5人の皆さんは自ら出来る部分を毎晩残業して作業、制作会社に負担を掛け費用も余分にかかったのだとか。そのために字幕は、広東語にしか出てこない数か所のセリフをプラスした以外は北京語用のものを流用することとなってしまったと残念そうに教えてくれました。

映画を取り巻く今の状況はファンにとって楽しくない事もあったりするし、一部で様々な作品に対し日本語吹き替えや宣伝手法に対して物議を醸していることも知っています。
たしかに会社によっては外部に丸投げしてチェックすらしない、提供する映画に対してほとんど愛情すらないところの噂は聞きますし、自分もそんな人に実際会って内心複雑な心境になったこともあります。

でも今回の画皮について担当された方々は非常に愛情を持って、この映画を提供していると自分は感じています。多分、ほかのところだったならピッチが合わない段階で収録はしなかった、どころか広東語を別に収録するなんて想像もしないかもしれません。
なんていっても、ドニー・イェンの映画で普通語広東語日本語吹き替えの音声がつくのなんて初めてのことなんですから、ほんっっとに素晴らしい。(追記:確かについてましたが、肝心のパンヨンの声は・・・うう)

発売がめっちゃ楽しみです。

DVDメーカー直販のオンラインショップ MAXAM DIRECT SHOP

画皮(原題)香港DVDにて鑑賞 / 画皮 あやかしの恋(邦題)-ドニー・イェン 甄子丹
画皮 あやかしの恋-ドニー・イェン 甄子丹
画皮あやかしの恋 の初日に行ってみた-ドニー・イェン 甄子丹

 

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蔵出し その6

・桃さんのしあわせ

監督:アン・ホイ、出演:ディニー・イップ、アンディ・ラウ

2011年のヴェネチア映画祭での主演女優賞をはじめ、台湾香港などで主要な賞を獲得。アジア各国でヒットした話題作。

香港で60年間同じ家に仕えてきたメイドのタオさんが迎える人生の終い支度をシンプルに描いています。身寄りのない彼女の最後を看取るのは赤ん坊の時から面倒を見てもらった映画プロデューサーのロジャー。彼女が元気な時は実用最小限の会話しかなかった当り前の生活が、どれほどかけがえがなかったか、彼女が倒れてから気がつき、施設探しに奔走するというお話。

映画では料理のシーンや食事のシーンがいくつか登場します。今時のメイドさんなら決してしないだろう丁寧な仕事ぶりや、まったく違う施設での夕食。そしてロジャーが仕事仲間とつつく中国らしい食堂でのご飯。そのどれもからあの独特の香りが漂ってくる気がします。劇中、施設にいるタオさんにロジャーの級友が揃って電話で彼女に話しかけるセリフがいい。「タオさんの作った鴨の詰め物が恋しいよ」「僕の一番の好物は牛スジだった」人の記憶に味覚や嗅覚がどれほど大切なことか。

このタオさんを演じるのはかつての人気歌手でもあるディニー・イップ。11年ぶりのスクリーン復帰となった本作での演技は見事。特に脳卒中で倒れたあとの杖をついた姿はリアルで、各国で主演女優賞を獲りまくったのも納得です。この映画だけ観ていては映画祭などで見せたセクシードレス姿などは想像がつかないでしょうね、さすが往年の大スター。そのギャップがたまりません。

なお仕事仲間として登場するのはツイ・ハークとサモ・ハン、当然本人役で。彼らが大陸の出資者から追加金を出させるシーンは、なんだかすごくリアルで観ていてドキドキしてしまいました。

・アイアン・スカイ(フィンランド・ドイツ・オーストラリア)

↑『ナチスが月から攻めて来た!』というキャッチコピーとポスターの写真だけで観にいった作品。
よくぞ作りました、と心から感心する設定とストーリー。インターネットで世界中の一般人からの資金とカンパを募って出来上がったとかいう話を聞くと映画作りのシステムに新たな手法が出来たのかもと期待が膨らみます。
実際、おもしろかったですもん!インディペンデントにしか描けないことは多いけど、資金の問題や宣伝の仕方、公開の規模などでなかなか目に触れることは少ないし、従来の方法ではここまでの大作にはなれなかったでしょう。
久々アメリカをここまでこき下ろしたものを観てすごく痛快でした。単純なおバカ映画でないことは確かです。かといって真面目に論議するものでもありませんが。所々でお目見えする有名作品のパロディーもおもしろい。キャスティングが素晴らしくよかった。フィンランド人の監督ティモ・ブオレンソラはまだ32歳。次回作にも大いに期待します。

・ザ・レイド

監督:ギャレス・エバンス、出演:イコ・ウワイス、ヤヤン・ルヒアン、ジョー・タスリム

噂を聞いて観てきました。いや、おもしろかったわ~、大興奮。一緒に行った友人は「疲れた・・・」とぐったりしていましたが、私の方はもうね鼻息荒く元気いっぱい。お腹すいてすいて、いや、まずはビール飲ませてくれ!のどがカラカラだ!みたいな感じ。

同じ監督、同じ出演者のタイガーキッドも「お」と思わせるものがありましたが、こちらはより洗練された仕上がり。格闘のみに特化してここまでやり切られると、それだけでエコヒイキしたくなっちゃう。
この熱量は久しぶりですよ~、それだけでとにかくワクワクさせてくれます。一瞬たりとも飽きることなくエンドソングまで存分に楽しみました。
難を言えば綿密にアクションを作りすぎたからか、肉弾戦になると少し「作り込み感」が垣間見えたくらいでしょうか。いや、そんなことを言っちゃいかんね、とにかく清々しい位の「死亡遊戯」的作風にすっかりやられました。敵役も知らない人ばっかりで新鮮だったわー、にしてもなんというファンタジーなマンションだい。
数日はマイク・シノダのRazors Outをヘビロテしまくり。
アクション映画のMADにリンキン率が高いのは前から知っていましたが、親和性が高いのか。

日本版のソフトが出る前に、メイキングや特典映像、インドネシアバージョンの音楽も別トラで収録されているというアメリカ版のBDを買いそうな勢いです。
つか、早いとこUSAmazon行ってポチってこい!自分。
続編の撮影も決まってるそうなので、すんごくすんごく期待しています。早く観たいなぁ。

 

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佐渡裕指揮、『ウエストサイド物語』シネマティック・フルオーケストラ・コンサート

9月の事をいまさらですが・・・有楽町の国際フォーラムにて「佐渡裕指揮、ウエストサイド物語シネマティック・フルオーケストラ・コンサート」に行ってきました。
これ実は映画「ウエストサイド物語」のリマスター映像のセリフ歌声はそのままに、音楽だけをフル・オーケストラで生演奏するというシンクロ・ライブ。世界中で御当地の指揮者オーケストラで公演されているというものです。

思えば、1961年制作のこの映画を初めて観たのはいくつの時だったでしょうか。

記憶があいまいで定かではありませんが、間違いないのは本編を観る前に実家にあった「名作サントラ大全集」という2枚組レコードで、レナード・バーンスタインのスコアを先に聴いていたということ。「アメリカ」「マリア」「トゥナイト」アルバムにはこの3曲が収録されておりました。
当時はビデオすらないし、どんなに観たくても願いはなかなか叶わない時代。なので私はマリアとトニーがバルコニーで見つめ合うたった1枚の白黒のスチール写真から、何年もこの映画の内容を想像していた子供だったのです。

そう言えばなけなしのお小遣いで買った映画雑誌の「あなたの選ぶ好きな俳優ベスト10」なんてのに、公開から10数年経っていたにも拘らずジョージ・チャキリスがランクインしていたことを不思議な気分で眺めていましたっけ。

本編を通して観たのはうんと後、恐らくテレビ放送だったと思います。
たった3曲を繰り返し聴いていた自分にとって、この作品の全容は(本当はTV放送だったので多分相当カットされていたと思いますが)想像を超えた素晴らしいものでした。
そしてさんざん聴いていた曲がかかった時のあの感激!しかもカラーでみんな動いてる!もうずっと永遠にこの映画が終わらないでほしいと強烈に願ったことを今でも忘れません。なのに運命に翻弄された若い2人に最後訪れた哀しい別れ。泣きながら「なんで~」と心の中で何度叫んだことでしょう。

大人になってからはレンタルビデオでもリバイバル上映でも観ましたし、映画のサウンドトラックレコードや、1984年に爆発的ヒットになったバーンスタイン指揮、キリ・テ・カナワのマリア、ホセ・カレーラスのトニー、タティアナ・トロヤノスのアニタなどオペラ歌手で録音されドキュメンタリーとしても公開された「ウエストサイド・ストーリー」のCDも買いました。
本編を観るよりはるかに多くの回数を聴いたこのバーンスタインの珠玉のスコア。まさに自分にとってはこの映画、バーンスタインが先にいつもありきだったのです。

さて、改めて5000人というキャパの劇場にてフル・オーケストラで観たウエストサイド物語、なんともいえない多幸感に包まれっぱなしでした。
ミュージカル映画を観ていると曲の節目で拍手を思い切りしたい気分に駆られることがよくあるのですが、ここではまさに「そのタイミングで」拍手を送ることが出来た、それだけで最高に気持ち良かった。
同じように感じていた人達は多かったのでしょう、休憩中や終演後ロビーで見かける観客のどの顔にも他の映画やコンサートとはまた違った満足感にあふれていたように思います。
佐渡さんが冒頭のあいさつで、東京フィルハーモニー交響楽団のそのプロフェッショナルさ職人技を誉めていらっしゃいましたが、まったくもってその通り。映像、歌との見事な同調、お見事でした。これって相当難しいことですよね?そんな素晴らしい演奏で、すでに一緒に歌えるほどの曲を全身に浴びることのこの幸せ。よくぞこんなアイディアを思い付いてくれました、ありがとう。

しかし、今観てもこの映画は新鮮ですね。
オープニングのNYの空撮からかなりグッと心を持って行かれます。そしてエンドロールに至るまで、すべてにおいて一貫した美意識に彩られ、特に最後のENDマークは今の映画にはないセンスでかなりのカッコよさ。一緒に行った友人が後からメールで知らせてくれたところによると、オットー・プレミンジャー監督の「悲しみよこんにちは」「栄光への脱出」やアルフレッド・ヒッチコック監督と「めまい」「サイコ」などで組んだアメリカのグラフィック・デザイナー、映画界にタイトルデザインの分野を確立したと言われるソウル・バスが手掛けたんだとか。納得です。

当時はミュージカルでありながら社会問題にも大きく切り込んだ作品としての評価も高かったこの作品、社会の抱える問題はこの頃から何一つ変わっていないんだなという感想とともに、劇中ドラッグもマシンガンも車もなし、現代では犯罪の凶悪化はどんどん酷い方向に変化してしまったのだなという思いが胸をよぎったりもしました。

Somehow Someday Somewhereと歌うトニーとマリアの幻影は今もどこかの街角で歌い続けているのかもしれません。

 

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ファースト・ポジション~夢に向かって踊れ!(2011年・米)

功夫映画とダンス、そしてフィギュアスケート、野球などなどスポーツが好きな私。
結構なアスリートと比べても、総合的な身体能力が優れているのはひょっとしたらトップクラスのダンサーじゃないの?と思っていたりします。一流バレエ団のプリンシバルが真剣に無影脚やろうと思ったら軽々ワイヤーなしでマジ5連続蹴りくらいはしてのけるはず(笑)。
しかも、あの人達あんな高度な技術を持っているのに、連日長時間の舞台を務め上げる体力があるんだから、信じられない。多分スタミナだけでも、ダンサーは相当上位に並ぶでしょう。

「バレエダンサーとは喧嘩するな」とは、極真カラテの大山倍達さんがかつて口にした名言のひとつ。自分は極真と他の空手との区別もよくつきませんが、さすが格闘家。この言葉に大いに納得しそのことについては以前も書いたことがあります

そんな過酷で高度な技能を有する職業にもかかわらず、世の中のバレエダンサー(特に男性ダンサー)に対する迷妄というのはまだあるようで本当に残念。

自分も昔、バレエを習った経験があります。演目ひとつ公演するにも男性を客演として呼ばなければ絶対に成り立ちませんでした。それくらい男性ダンサーは少なかったのです。当時に比べれば数は飛躍的に増えたけれど、友達にバカにされたりするため、未だに思春期という壁はバレエを習う男の子にとって、日本どころか世界的に結構大きなハードルであるようです。

ああ、もったいない。どんだけフィジカルでハードなものか理解してくれれば、バカになんて誰ひとりとしてできないだろうに。まったく意味のないこういう「偏見」って心底腹立たしい。

さて、こんなことを急に言いだしのはほかでもない、今日「ファースト・ポジション~夢に向かって踊れ!」というバレエドキュメンタリーを試写で観て来たからであります。

ローザンヌ国際バレエコンクールと並ぶ、世界に名立たるバレエコンクールである「ユース・アメリカ・グランプリ(YAGP)」。この作品は、そのYAGPに出場する7人の子供たちをとらえたドキュメンタリー。
プロのバレエダンサー、そしてスカラシップ獲得を目指す9 歳から19歳までの少年少女が、厳しいレッスンに耐え予選本選へと進んでゆく過程を、それぞれの背景や家庭環境、家族とのかかわりをふくめて丁寧に描いた作品です。

まず第一に好感を持ったのが、自然で淡々と描いてゆく手法。ありがちな大袈裟な盛り上げやお涙ちょうだいの安っぽさなどは排除され、彼らに対する穏やかな目線を感じました。
聞けば監督であるべス・カーグマンは子供の頃にバレエに情熱を傾けた過去を持つひとり。なるほど、だからこんなにもバレエに対する愛情が、バレエを愛する子供たちへの優しさが伝わってくるのかもしれません。

バレエを習う、それだけで充分お金がかかることです。そのうえに世界中から5000人を超える応募があるYAGPのファイナルステージに立つほどの実力を備えるためには、より一層のお金はもちろん家族の援助や想像を絶する本人の努力と決意が必要。

しかしここに登場する7人の子供たちは、すべてが裕福な家庭というわけでもありません。

将来家族を養うためにと、単身自分の才能を信じてNYでレッスンを受けるコロンビアの少年。
父親からは「サッカーと同じで現役は短い、早く頭角を表せなきゃだめだ」と電話でハッパを掛けられたりする。その時の彼の顔は16歳でそんな重い物を背負っているのかと、こちらの胸が痛くなるほど。

そんな風に、それぞれの子供たちが抱えているもの、犠牲にしているもの、しかしそれを超えてなおバレエを愛する気持ちや、支える周りの人達の姿を自然に映し取ることで、現代の家族の物語としての視点も兼ね備えています。

しかも、観ているうちにどんどん彼らの親戚か友人にでもなった心持になるものだから最後の方は「がんばれぇぇぇ!」と心の底からエールを送り、待ち受けるアクシデントにはその足をさすってあげたくなる。ああああ、そんな、マジで?
彼らの健気さ、一生懸命さに劇場のあちこちからはグスグス鼻をすする音が。ですよねぇ。

バレエを愛する人はもちろん、バレエに興味はあるけどまだ生の舞台を観たことがないという人や、全ての芸術好き、全てのスポーツ好き、全ての格闘技好き、全てのアクション映画好き、夢を持っててもどこかに忘れてきてしまったとしても、たくさんの人達にぜひ観て頂きたい映画です。観終わったあとの爽快感と元気をいっぱいもらえること間違いなし。
自分ソフトが出たらすぐ買うわ、しんどくなったら彼らに元気をもらうんだ。

追伸:「アメリカン・ダンスアイドル」が好きな人ならまず見逃してはいけません、あちらにくらべるとテレビ的な派手さはありませんが、そこがまたいいという人もきっといるはず。

「ファースト・ポジション~夢に向かって踊れ!」は2012年12月1日より渋谷Bunkamuraル・シネマにて公開、ほか全国順次公開。

ファースト・ポジション公式サイト

第13回世界バレエフェスティバル Bプロ
第13回世界バレエフェスティバル Aプロ
レニングラード国立バレエ団「海賊」
ヌレエフ版「ロミオとジュリエット」
ディアナ・ビィシニョーワの「ジゼル」

 

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惠天賜と司徒錦源

金本選手引退でしんみりしていたら、前後して哀しいニュースが。
10月4日、ベティ・ウェイのお兄さんであるオースティン・ワイ(惠天賜)が亡くなりました。「SPL/狼よ静かに死ね」や「導火線」にも出ていた俳優さんです。
彼はかつて香港で一流といわれた春秋戯劇学校で、京劇有名俳優粉菊花から京劇を学んだ1人。サモハンの洪家班の林正英(ラム・チンイン)孟海(マン・ホイ)、そして鐘發(チュン・ファット)小侯(シャオ・ホウ)や売れっ子武術指導である董瑋(トン・ワイ)らと同門です。
70年代から映画やテレビで数々の主役を演じ活躍した二枚目武打星。晩年は苦み走った渋いスタイルで脇役として存在感を示していました。
映画での遺作は恐らく「功夫・詠春」でしょうか。
年齢を重ねてもなお素敵な辮髪姿で美しい衣装を身にまとい、主役の白静ちゃんと手を合わせた功夫シーンは、ほんの少しでしたがうっとりしました。そういえばこの映画で妹ベティ・ウェイと共演だったんですね。まだ55歳でした。

かと思うと、48歳というもっと若い年齢で亡くなってしまったのが脚本家の司徒錦源(セット・カムイェン)。肺癌で薬物治療中であることは谷垣健治さんのブログを読んで知っていましたが、10月13日帰らぬ人となってしまいました。
ジョニー・トーの銀河映像MilkyWay作品でもお馴染みの脚本家、数々記憶に残る作品を生みだしファンの方も多いと思います。
「ロンゲストナイト/暗花」や「デッドポイント/黒社會走査線」「ヒーロー・ネバー・ダイ/眞心英雄」「エグザイル/絆」そしてウィルソン・イップの「SPL/狼よ静かに死ね」や「導火線」
彼の描く映画にはいつもふとした日常や普通の感覚があった。そんな日常に潜む悪意やちょっとした感情がアクシデントの積み重ねによって人間を地獄へと突き落とす。不思議な説得力をはらんだ非情さに、残酷な流れになっても顔を背けられずこちらは目を見開いたまま最後までそれを見届けるしかない。

ちょうど、NHKBSで放送されたばかりの時代劇「猿飛三世」を観たところだったのでアクション監修をした谷垣さんにメールで感想を送った際、すでにご存知かと思いましたが亡くなったことを付け加えたのです。すると「彼は僕らのピンチをたびたび救ってくれたんですよね・・・」というようなご返事。以前ブログにも撮影中の日記として「大閙天宮」や「特殊身份」で治療中の身にもかかわらず脚本変更に参加をしていて、それを気遣う心境が書かれていました。

惠天賜と司徒錦源、おふたりに心から哀悼の意を表します。

 

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金本知憲選手引退試合

2012年10月9日火曜日。
大阪よみうりテレビの「かんさい情報ネットten!」の生放送を終え甲子園球場に。
その日は阪神タイガースの金本知憲選手の引退試合。
カーラジオでセンター前ヒットと盗塁、そして続く新井貴浩選手のヒットで本塁を狙うも好返球にタッチアウト、を聞きました。

2003年。
金本さんがFAでタイガースにやってきて甲子園での初登場の瞬間をよく覚えています。

いよいよ試合開始、一塁ベンチから8人の選手が飛び出しそれぞれの守備につくためにグラウンドに散ってゆく姿。
背番号6、かつて藤田平さんや和田豊さんがつけた番号を背中に新しくタイガースの一員になった彼を目で追っていると、かの人はなんと内野のラインをまたぎマウンドにあるピッチャープレートの後ろを通って真っ直ぐレフトの位置に向うではありませんか。

歴史の古い甲子園球場には様々な暗黙の了解があります。
たとえば、土の内野グラウンド。阪神園芸が精魂こめて慣らしたグラウンドは1回の表、先発投手が歩いてマウンドにあがるまでは誰もその中に入ることはありませんでした。
つまり、甲子園でのタイガースの選手は、ショートであろうとレフトであろうとぐるっとダイヤモンドの周りをまわって守備位置につくのです。
いや、タイガースにも数々の外国人外野手はいましたし、過去全員が必ずそうしていたかどうかは定かではないのですが、しかし、タイガースに入団し育った選手はもちろん、トレードでやって来たくらいではこの1回の表の守備につく時に土のグラウンドを横切る選手はまず、いないでしょう。
このことを裏付けるために、OBの川藤幸三さんに伺ったことがあります。
「タイガースの選手は、1回の表ダイヤモンドの中を走って守備に絶対についたりしないですよね?」
我が意を得たり、そんな表情で川藤さんは答えてくれました。
「昔はなぁ、新人選手よりグラウンド整備の方が偉い時期もあったんやで、んなことできるかいな!」

しかし、初登場の金本選手は鮮やかに、そりゃあ見事なまでに、内野の黒土のうえを真っ直ぐに、最短距離でレフトに向かって走っていったのであります。

それを見て私は思わず笑ってしまいました。
そして「ああ、FAで選手が来るということはこういうことなんだな」と感じたことをよく覚えています。
その驚きはやがてチームにとって素晴らしい効果となって現れました。
タイガースでの金本知憲選手を語る際、必ず言われる「タイガースを変えた男」という言葉。これに異論のあるタイガースファンなどいないでしょう。彼が無言で示した数々のスピリットや野球への姿勢が、どれほどの影響を選手は当然ながら、ファンにも与えたことか。

プライベートの場で一度、金本選手本人に守備につく時にマウンド後ろを通る選手は初めて見たと言ってみたことがあります。
「へ~、誰もやってなかったん、知らんわ、そんなん(笑)俺は広島時代からずっとそうやってきたもん」というごもっともな返事。
いや、いいんです、金本さん、その自然体がどれだけ頼もしくてチームにとって大事なことかと私は言いたかったんですから。

2010年、1492試合で連続フルイニングの記録が途絶えたあと、横浜から帰って来た甲子園で1回の表の守備につく選手達。あらためて金本さんがいないんだとまっさらなマウンドに向かう先発下柳投手を見ながら感じたことが昨日のことのようです。

そして迎えた2012年、10月9日の引退試合。
レフトに上がった最後のウイニングボールを満面の笑みで掴み試合は3-0で終了。
セレモニーが始まるまでの間、阪神園芸さんがグラウンド整備を始めました。きっと今までのどんな引退試合でも同じことをしてきたに違いありません。
けれど粛々とグラウンドを慣らしもう一度丁寧にラインを引きバッターボックスに白線を描いてゆくみなさんは、誰よりも金本さんが一番乗りに内野に足跡をつける選手であったことをご存じだったでしょう。

最後の最後、たったひとり金本知憲のためだけに整備されたグラウンド。その凪いだ湖面のような黒土を、大観衆の中おそらく初めてゆっくりとした足取りで歩いていった背番号6。

「この甲子園の左バッターボックスでフルスイングすることはもうありません」
私たちも寂しいです。
そしてそれは来年以降、誰の足跡もないマウンドに向かう先発投手を眺める度に思うことなのかもしれません。

ありがとうございました、どうか身体をいたわってあげてください。
二度の優勝を本当にありがとうございました。
同時代に生きてそのプレーを見ることが出来たこと、そしてこの先、タイガースファンやプロ野球ファンに鉄人と呼ばれた男の伝説を語り継ぐ機会を与えてくれたことに心から感謝します。

 

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キング・ボクサー 大逆転(72年・香港)


↑2005年のカンヌ映画祭のリバイバル上映時のポスター、にしても悪人顔すぎる、ロー・リエ。

2012年夏、ニューヨーク・アジア映画祭のニュースを検索していたらこんな記事を見つけました。
タランティーノやエドガー・ライトに影響を与えた伝説の香港映画「キング・ボクサー/大逆転」(ニューヨーク・アジア映画祭)
この鄭昌和(チョン・チャンファ)監督は韓国映画界の重鎮という存在らしく、NYAFFで韓国の監督として初めて終生功労賞を受賞しました。写真を見て驚き、なんと84歳とな、すごくお若い。

「韓国アクション映画の創始者」と呼ばれる監督は60年代後半香港に渡ったのちも数々の映画を撮り、この「キング・ボクサー」はあのブルース・リーの「燃えよドラゴン」より前に全米で公開され大ヒットを飛ばしたことでも有名です。
この作品がどれほどその後に影響を与えたか、また監督がオリジナリティをだすためにどんな工夫をしたのかは上の記事に詳しくありますので、そちらをどうぞ。
で、わたしそれを読んで思い出しました。DVD持ってるけどそのままだったわ!いかんいかん、自分は一体何本溜めこんでるんだか。で、さっそく観ることに。

このソフトを買った理由はただひとつ、主演が羅烈(ロー・リエ)だったから。
ここでズーズーしくも功夫映画のことをもっともらしく書いておりますけど、正直言うと自分なんか、まったくのド・ド・ドニワカでございます。
人の名前もなかなか覚えられないし、手持ちの映画でも後から「あら、この人これに出てたんだ!」「はらま、この元ネタはあの作品だったのか!」とあらためて驚くこともしばしば。

このロー・リエだってショウブラザーズに触れ名前を調べるまではまったく知らない人でしたが、実はすでにその何年も前、甄子丹のTVドラマ「洪熙官」と「精武門」に出演しているのを観ていたのです。なのに恥ずかしながら当時はまったく認識しておりませんでした。とほほ。
特に「精武門」の張宗棠役が彼だと気づいたのは全30話を久々に見直した結構最近のこと。その時はマジでたまげました。(というか、実は『洗黒銭』にもいたのであります。さりげなさすぎっす!)

インドネシア華僑として生まれた彼は1962年にショウ・ブラザーズのオーディションを受け養成所「南国訓練団」の第一期生として入社。同期にはたしかあの王羽(ジミー・ウォング)もいたはずです。
ロー・リエといえば圧倒的にオリジナル白眉(パイ・メイ)道人のイメージが強いのかもしれませんが(自分も一番痺れたのは「続 少林虎鶴拳 邪教逆襲」の白眉道人)、まぁとにかくいろんな役でもんのすごい数出演している。
功夫映画全盛期の武打星だけあって、2002年に64歳で亡くなるまでに出演した映画は223本、それ以外にもたくさんのTVドラマにも出ていましたから彼のバイオグラフィーを眺めると、まずその数の多さに圧倒されてしまいます。

そんななか、この「キング・ボクサー 大逆転」は、悪役がほとんどだった彼の数少ない主演映画(ほかにもあるんですかね?)。だからゆえ手に入れたといっても過言じゃない。

監督は前述の鄭昌和。動作指導は、劉家榮(ラウ・カーウィン)と陳全(チェン・チュアン)。
まず、謙虚で朴訥とした役のロー・リエがめちゃめちゃ新鮮です。
だって恋仲の師父のお嬢さんと手とか握っちゃうし目なんか見つめ合っちゃうんですよ。「こいつ、いつ、この女をうはははははと笑って売り飛ばすのか」と慣れないこっちはドキドキしたりして(当然主役はそんなことはしない)。
有名な武術大会で優勝するために彼は子供の時から育ててもらった師父の勧めで泣く泣く別の有力な武館に入門することになります。しかし武術を教わるどころか、下働きを命じられ兄弟子にはいじめられる毎日。まさか黙っていじめられるこの人をこの目で見ることになろうとは。「こいつ、いつ、うはははははと笑って井戸に毒を仕込むのか」とこっちはやっぱり気が気でない(当然主役はそんなことはしないんだけど!)。

そんな具合に、とにかくロー・リエのやることなすこと新鮮すぎて私は最後まで目が離せませんでしたよ。
と、同時に、この鄭昌和監督作品は、当時ショウブラを支えた有名監督の胡金銓(キン・フー)張徹(チャン・チェ)楚原(チュー・ユアン)などとも一味違う作風で、なんといえばいいのでしょう、全体的な印象としては非常にオーソドックスで地味といえば地味なのかもしれません。誰も脱がないしね。
でも自分にはその地味さが妙によかったんですよね・・・。最近「少林寺秘棍坊」をはじめ派手なショウブラ映画を続けざまに観たせいでしょうか、なんかこう、暴飲暴食が過ぎた週明けに食べるお粥さんみたいなもので。

と、いってもこのお粥さん、ただの白粥じゃありません。
アクションシーンになると、結構趣向も凝らし、なんといっても頭は割れるわ、血まみれだわ、両目はえぐるわ、切った首を持ってきちゃうわ、なんですけれど(笑)。ま、白粥ハンバーグのせ、デミグラソース添えといったところでしょうか。

なのに落ち着いた風に感じてしまうのはなぜかしらと思ったら、ひょっとしたらストーリーと登場人物のキャラが非常によくまとまっていて破綻がなかったからかもしれません。香港功夫映画の破綻はある意味パワーの源。「あれ、ちょっと変じゃね?」を大いなる力技で補うのが真骨頂なので、そこがまとまってしまうと案外こじんまりしてしまうのか。

さて、ここでの悪役は田豊(ティエン・ファン)。大侠みたいなフリをして心底卑怯なお人です。
彼の暗闇の中での闘いは個性的でおもしろかった。一筋の光があの田豊のギョロリとした大きな眼を捉え、緊迫感がありました。そのあとの因果応報や決着のつけ方も、ほかの監督では出せなかった味なのかも。とにかくいい意味で丁寧さを感じましたよ。
そういえばアンジェラ・マオ姐さんの傑作と呼び声も高い「破戒」もこの鄭昌和が監督なんですよね、これはなんとしても観なくては。

そして、作中敵対する武館が雇ったのはまたもや日本人(最近悪徳日本人のヒット率高すぎ)。しかしこの日本人3人のうちの2人のヘアスタイルと空手はともかく、着物と袴の着方と日本刀の扱いは結構まともだったような。あまりにまともだったのでボス格の「岡田」という人物を演じた俳優はひょっとしたら日本人なのかと思ってしまったほど。鑑賞後調べたら趙雄(Chiao Hsiung)という香港の俳優。
とすると、鄭監督のリサーチが余程よかったのか、動作指導の劉家榮(ラウ・カーウィン)と陳全(チェン・チュアン)が頑張ったのか、それともゴールデンハーベストという会社が(最近自分が見かけたデタラメな着物や袴はほとんどがゴールデンハーベスト作品)いい加減なだけなのでしょうか。いや、待てよ、ひょっとしたら酷いのを見過ぎて相当ハードルが低くなってるだけなのかも・・・。

ラストバトルはロー・リエVS日本人岡田。
裏切りやさまざまな試練を経て秘義「鉄掌」を会得し、大事な人達を殺され復讐に燃えるロー・リエの掌が赤く染まる時、鬼警部アイアンサイドのテーマ曲に乗せて、その怒りが爆発する!
やったれ、ロー・リエ、あんたがいい人だってのにもやっと慣れた、この映画は唯一あんたのモテキ映画かもしれん、あとは死ぬな、ロー・リエ、たまには劇終まで生き残ってみなさーーーい!

初めてのロー・リエ作品としてはあまりお勧めできませんが、ある程度彼の極悪非道ぶりを堪能している方なら非常に楽しめること請け合い。あの「こいつ、いつ裏切るんだろう」というドキドキ感を是非共有してくださいまし。

そういえば自分、遺作となった「金魚のしずく」(2001年)というDVDも手元にあるんだった。今度観てみます。

最後に。
ショウブラ名物、無許可楽曲使用のこの「鬼警部アイアンサイドのテーマ」。作曲はクインシー・ジョーンズだったのね、これまた知りませんでした。うちらの年代には「テレビ三面記事ウィークエンダー」のテーマとしてもお馴染み。「新聞によりますと~!」

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