パン・ホーチョン祭りその3 『ビヨンド・アワ・ケン』『些細なこと』『夏休みの宿題』

ビヨンド・アワ・ケン(2004年・香港)

男をうまく描く監督というのは世の中にたくさんいますが、女性を、現代ものでしかも等身大に上手に描く男性監督というのはいそうでなかなかいない。
『恋の紫煙』シリーズを観ていてもパン・ホーチョンはそれが本当にうまい。

今作は女性脚本家の(彼女は舞台畑の人で実はたくさんの脚本を手掛け舞台女優でもある)黄詠詩(ウォン・ウィンシ)と一緒に書きあげたそうですが、いやそれにしても映画は監督のもの、素晴らしい。

主役の2人の女優、香港の鍾欣桐(ジリアン・チョン)と大陸の陶紅(タオ・ホン)が、とにかくめちゃめちゃ魅力的。衣装もよかったなぁ。
お話はひとりの男ケン(演じるのは呉彦祖、ダニエル・ウー)を巡る元カノ(ジリアン)と現カノ(タオ・ホン)の不思議な出会い。
元カノから付き合ってた時に撮ったベッドの写真を彼がネットにアップしちゃったの、それで教師の職もクビになったし保存されているはずの他の写真を消去すべく手伝ってほしいんだけど、と頼まれる現カノ。
流されるように手を貸し秘密の共同作業を進めるうちに、ゆるやかに芽生える2人の女の間の友情。

こういうストーリーの場合 男と現カノと元カノ、誰か一人は嫌な奴に描かれることが多いのですが、この作品の場合「そうきたか!」というラストの衝撃を受けてもなお、誰も嫌いになれないところが大変よいです。
つまりは作ってる側が彼女や彼に愛情があるってことですよね。簡単そうで実は一番難しいことですし、なにより作る側の人柄もでるのじゃないかと思ったりします。

私はジリアン・チョンが大好きです。いい女優さんだと思います。ふとした表情がとてもいい。今度公開される『イップ・マン 最終章』にも出演してますからね、楽しみです。

さて原題の『公主復仇記』の公主とはお姫様という意味。直訳するとお姫様の復讐記ということになります。なぜお姫様かというとそれは映画を観ればすぐ分るようになっている。
パン・ホーチョンの特徴として過去と現在の時間軸の交差が巧みなこともひとつかと思います。
『ドリーム・ホーム』もそうでしたし、『低俗喜劇』でもそう。『恋の紫煙』シリーズはあからさまなカットバックはありませんでしたが、日にちのキャプションをうまく使うなど、時間に対する本能的なセンスがうまく活かされていました。

今まで観た中ではこの作品がその特徴を一番上手に発揮できていたのではないでしょうか。
とにかく2人の女優が驚くくらいチャーミング、そしてケン役のダニエル・ウーもどこか憎めない人物として描かれていてすごく魅力的な作品です。

ビヨンド・アワ・ケン(公主復仇記)予告
監督の映画は音楽のチョイスが素晴らしくイイのも特徴ですが、この映画ではとにかくこの曲の使い方がよかった。↓
Gianna Nannini – Amandoti (con testo)

些細なこと(2007年・香港)

こちらはオムニバス映画。前作『出埃及記/出エジプト記』(東京国際映画祭でのみ上映、日本未公開)を作ったあとの反動もあったというこの作品、女性の描き方にちょっと?と思っていたら脚本は共同ではなくおひとりで書いたものでした。なるほど。
正直、まぁおもしろいのと「早く次いこう次!」と思ってしまうのとバラバラ。
一番よかったのはイーソン・チャンのパートかな。こいつが結婚してやがて『ドリーム・ホーム』のあの男に・・・・いや、ちがいますから。
あとジリアン・チョンと鄧麗欣(ステフィー・タン)のパートでは、1993年に亡くなった歌手、陳百強(ダニー・チャン)への思い入れがグッときました。自分は彼の曲を少ししか知らないけど、それでも数曲もってるもんなぁ。ジリアンのダンナ役の整備工役の麥浚龍(ジュノ・マック)はもんのすごい富豪の息子で実はボンボンなんだとか。
さて個人的見どころは馮小剛(フォン・シャオガン)が殺し屋のマイルの説明に行く相手が作曲家の金培達(ピーター・カム)だったという部分。わはははは、胡散臭かったわ~。向こうの人はほんと芸達者。

やはり女性が魅力的でないと男性も引き立たないもので、特に男女のことを描くとなると尚更。そういう意味では「おおパン・ホーチョンお前もか・・・」とも思い、また反対に名作での女性脚本家の占める比重の大きさにしみじみし、またそれを受け入れて上手に出力することが出来る才能を再確認した気がいたしました。
破事兒 (預告片)←予告がいちばんおもしろいのかも。
ファンの人には「もっと名曲があるやろ!」と怒られそうですが、自分が一番よく聴いた彼の曲はおそらくコレ↓
陳百強-天才白痴夢

夏休みの宿題(1999年・香港)

普段あまり有名監督の初期の短編とかって自分は観ることはないのですが、やはり興味深いものですね。同じように夏休みの宿題を最後の最後まで残してるタイプだったので、あの子の気持ちは痛いほど分りました。全編を通してセンス、展開、映像、オチもホーチョン監督節が冴え渡っておりましたよ。

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パン・ホーチョン祭りその2 『恋の紫煙』『恋の紫煙2』

恋の紫煙(2010年・香港)

まずは、この原題『志明與春嬌』(主人公2人の名前、志明/ジーミンと春嬌/チョンギウ)に『恋の紫煙』という邦題をつけた方に乾杯したいと思います。すんばらしい。
おもしろかったです。本当におもしろかった。何度も声を出して笑っちゃった。
オープニングからね、もうなんというかパン・ホーチョン(笑)。
キャストが最高でした、楊千嬅(ミリアム・ヨン)に余文樂(ショーン・ユー)。ほかにも喫煙所に集まる人達のキャラがね、またすごくいい。共同脚本は麦曦茵という女性。香港金像奨では脚本賞を受賞しています。

自分は広東語を何一つ分らないのですが、それでも相当口が悪いというのはうっすらと想像がつきました。これ理解できる人は結構目が点になるのでは?という気もします。そういう点では日本語字幕で薄まったくらいがちょうどよかったのかも。

恋をする、ということはとても素敵な事だけど、以前なら目を瞑ってエイヤ!と飛び込めたことも、年齢を重ねるごとにいつの間にか大きな決心を必要としたりする。そんな感情が丁寧に描かれていました。傑作。

恋の紫煙2(2012年・香港)

続編のほうの原題は『春嬌與志明』2人の名前を入れ替えただけ(笑)。2になるともう紫煙でもなくなってしまいましたが、ここはいたしかたない。

今作も共同脚本は€陸以心という女性です。
前作は香港が舞台で、ものすごい土着な趣が非常によかったのですが今度の舞台は2人が仕事で飛ばされた北京。
続編を作ることには興味がないという監督がわざわざ作ったのですから、この設定はさすがですね。しかも2人が同棲を解消して別れるところから物語はスタート。

ジーン・ケリーの有名な代表作に『パリのアメリカ人』というのがありますが、これはさしずめ『北京の香港人』。
監督の2010年作品『ドリーム・ホーム』では大陸からの大きな圧力に晒される香港の現実というのが物語のベースにありましたが、今作では反対に大陸における香港人の立ち位置、というのが描かれていて、そこも興味を引きました。
特に谷德昭(コク・ヒンチュウ)演じる香港広告マンのゲスっぷりときたら!いやいやいや、すんごくリアリティあったわ。多分、ああいう香港人、大陸のあちこちに一杯いるはず。このどっちもどっち的なバランス感覚のよさには脱帽です。

さて、肝心の主役たちですが、赴任先の北京でそれぞれで新しい恋人を作るわけです。

ショーンのお相手は、今最も忙しい女優なのでは?と思わせる大陸女優の楊冪(ヤン・ミー)。いい役でした。特に最後のシーンは最高だった。なんだかんだと彼女の出演作を観る機会は多いのですが、自分の観た中で一番の演技とキャラ。初めて彼女を素敵な女優さんだと思いました、他の監督ももっと見習ってほしいよ。

一方ミリアムのお相手はハゲてますがまだ41歳の徐崢(シュウ・チェン)という、今年公開され大陸映画の興行記録を更新したメガヒット作『人再冏途之泰冏(Lost In Thailand)』の監督兼主演。そう、今もっとも旬なキャスティングです。この辺りの配置も抜け目ない、パン・ホーチョン。

ほかにもカメオ出演が豪華で、特に前作のエピソードの回収を豪華な出演陣でやらせたところに唸りました。
王馨平(リンダ・ウォン)や鄭伊健(イーキン・チェン)の本人役とか、前作でこっぴどく振られた女子と黄暁明(ホァン・シャオミン)とのくだりとか。ここでまた彼が最悪の詐欺師だったりしたら、パン・ホーチョンを大嫌いになるところでしたが、そうじゃなかったので一安心。

あらすじだけ書くと別に目新しくもないかもしれないけど、このシリーズはとにかくキャラがよく、主人公の心の変化をきめ細かいエピソードを積み重ねて描写しているうえに、役にリアリティを与えたミリアムとショーンの演技のさりげなさ(と時には大袈裟な演技のバランス)が秀逸。映画というものの持つ本来の可能性というものをまざまざ見せてくれます。
ミリアムはこの演技で2013年第32回香港金像奨で主演女優賞を獲得しました、納得。
文字通り泣きながら笑っちゃう、本当に観客の感情を両極に大きく揺さぶる映画というのはそうそうありません。大ヒット作の後の続編は難しいものですがパン・ホーチョンはやりました、2作続けて傑作を撮るという奇跡を起こしましたよ。

正直言うと両作ともに自分には色々思い当たる行動や感情がテンコ盛りすぎて、なんともはや心穏やかではいられませんでした。同じように感じた人も多かったかも。
それでも断言します。だからこそ素晴らしく、日本で一日も早く正式公開もしくはソフト化するべきだと。
この2人の恋の行方を、沢山の人に見てもらいたいです。

Love in a Puff (2010) – Official Trailer
志明與春嬌official website

『恋の紫煙2』”Love in the Buff” 予告編 trailer
春嬌與志明official website

最後に、パン・ホーチョンって本当音楽の使い方かっこいいなぁ。

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パン・ホーチョン祭り AV(2005年・香港)


↑実は日本発売されているのだ!是非ご覧ください

監督:
彭浩翔(パン・ホーチョン)

出演:
周俊偉(ローレンス・チョウ)
黄又南(ウォン・ヤウナム)
曾國祥(デレク・ツァン)
周振輝(チャウ・チャンファイ)
天宮まなみ
徐天佑(チョイ・ティンヤウ)
詹瑞文(ジム・ソイマン)
張達明(チョン・ダッミン)

オープニングから、恐らくAVソフトの最初に登場するWARNING文章、映倫のマーク、注意書きやらが延々流れてくる。当然日本語。新作の『低俗喜劇』でもそうでしたが、彼のOPはとてもキャッチー。
やがて今作のヒロイン、天宮まなみ嬢の粗い画像のショットにナレーションが重なる。AVに詳しくない自分でも容易に想像がつくぞ、これは単体AVによくあるオープニングの手法ですね。
なんてことを思ってたら、唐突に1971年のニュースフィルムが。これは沖縄返還にともないアメリカが尖閣諸島(中国名・釣魚台)も一緒に返還したことに対するビクトリア公園での抗議デモの様子を映したもの。この逮捕者の中には数人の大学生もいた、とある。
正直これには面喰いました。そういう描写がありそうな映画なら覚悟をもって臨めますが、これに関してはまったくのノーガード。

と、うろたえていたら、すかさず男どものアホな本音下ネタトークへと突入。そしてここで盛り上がる周俊偉(ローレンス・チョウ)黄又南(ウォン・ヤウナム)、曾國祥(デレク・ツァン)周振輝(チャウ・チャンファイ)という4人の男どもが今作の主役。
そう、これは間違いなく『ダメ男映画』という名のファンタジー。

就職面接でもまともに答えられないような男たちが、一念発起「日本のAV嬢とやりたい!」とあの手この手でAVビデオを製作するというストーリー。
「世界の発展の起源はすべてエロと軍事である」とは誰が言ったか忘れましたが、そんな言葉を思い出す彼らの奮闘ぶりや監督が仕込んだ小ネタ(例えばまなみ嬢のマネージャーの名前が暉峻創三/てるおかそうぞう、とか)笑わずにはおられません。すごく好きです、この映画。
六本木シネマートはたった10人程度の客入りでしたが、気にせず声を出して笑ってしまいましたよ。
笑いのクライマックスはアクション監督として錢嘉樂(チン・ガーロッ)本人の登場でしょうか。そのあとのアクション振り付けには・・・もう・・・ね。

途中まで、ヒロインのキャラと彼女の立ち位置が自分にはどうにもこうにも違和感バリバリだったのですが、仕事をやめてくれ、いや、これが私のお仕事よという辺りから「そうこなくちゃ」と思っていたら、最後の最後にパン・ホーチョンにしてやられました。いや、お見事。

自分の考える『ダメ男映画』とは、どーしようもないダメ男が、どんなことでもいい、何かを成し遂げることでほんの少しでも成長して映画が終わる、というジャンル映画のこと。
そして最初に登場したまなみ嬢のショットでの台詞にも実は意味があったのだと、後から分った次第。よく構成できてるわ。
のっけに面喰ったビクトリアパークでのデモのことも「71年、ここでデモした彼らも大学生だった、なのに俺たちはどうだ?同じ場所で大きなおっぱいのことしか考えてない」などと言わせていました。

まぁ、こっそり本音を言うと89年の天安門事件の際のデモを引き合いに出した方がいいんじゃないの、香港人?なんで釣魚台?ともちらり思ったりしたのですが、同じ日本つながり(一方では抗議し一方では幻想として憧れるものとしての矛盾)や、ハナから大陸市場は考えてないにせよ、今後どう展開していくか分らない業界だしね~、というひょっとしたら代替案だったのかもしれません。事実、大陸では『青春梦工厂』という(なんという爽やかな!)タイトルでマニア映画として秘かに人気があるそうな。

とはいえ、そんなことは些細な事。
これは紛うことなき素晴らしい青春ダメ男映画でした。機会があれば是非ご覧いただきたい秀作です。

なお、エンディングで流れる痺れるラップナンバー。
劇中、海賊版AV販売の詹瑞文(ジム・ソイマン)がアホな大学生にかました説教が、そのまま使われております。センスいいなぁ。タイトルもずばり『AV教父』。
いやー、この演技とビジュアルが本当に秀逸。まるでアメリカのライブ宗教番組の胡散臭い牧師みたいなノリ。この人の説教シーンだけでも一見の価値あり。

AV (2005) Trailer
↑の予告にこの曲を使うのはある意味必然ですよね。こういうダメ男映画の予告に一体どれくらいの頻度で使われているのか(笑)
サントラ、いやってほど聞き倒しましたよ。

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アイアン・フィスト(2012年・米)

監督・原作・脚本・音楽・主演 オレ、RZA

この映画を語る言葉は沢山ありそうだけど、2つの写真を並べておけばOKな気がする。

おお、€五郎八卦棍!!


共同脚本:
イーライ・ロス
動作指導:
コーリー・ユン/ユン・ケイ
出演:
ラッセル・クロウ(ラッセルさん、すんごく楽しそうだった)
リック・ユーン
ルーシー・リュー
デビッド・バウティスタ
ジェイミー・チャン
カン・リー
バイロン・マン
ダニエル・ウー
リュー・チャーフィー
チェン・クアンタイ
レオン・カーヤン
テレンス・イン
MCジン

オープニングから飛ばしまくってます。「おれのだいすきなくんふーえいが」私も大好きだよぅ。
ある意味王道のショウブラ功夫映画。燃えよドラゴンや、ジミーさん映画テイストも。そういえば、金強奪のため急襲された宿屋の名前はドラゴン・インでしたね。全編残酷で血が一杯なとこはチャン・チェリスペクトでしょうか。
金獅子チェン・クアンタイの息子のゼン・イー(リック・ユーン)が両手両脚を吊られて宙に浮いた瞬間、「うわ、五馬分屍!?十三太保かよ!」とビビったのですが違ってよかったです(笑)。彼の武器がいっぱい仕込まれた甲冑かっこよかったっすね~。
そしてバウティスタが鉄布衫でした。どうせならショウブラの悪役みたいに、意外な一か所だけ弱点が分り易くあったらもっと嬉しかったかも。

功夫映画に慣れてない知人が、「女子供も容赦なく殴ったり切ったりして殺すからびっくりした」というような感想を漏らすことが時々ありますが、それにすっかり慣れてる自分としては老若男女関係なく戦い、そして負けるとバタバタやられるのを見ていると、心なしかホッとしたりもします(笑)。だって現実では女にも子供にも容赦ないのに映画の中だけ安全だなんてアリエナイ。今作では、女たちも華麗に散ってゆきます、さすが功夫映画ヲタわかってらっしゃる。

観る前は、完全なRZAのオレ様映画なのかと身構えていたのですが、そうでもなく、豪華なキャストの見せ場を丁寧に各々ちゃんと作っていたのには驚かされました。むしろ香港にかつていた(いや、今もいる)オレ様達の方がもっと・・・むせかえるほどに自己チュー(笑)。
と、彼の奥ゆかしさに感心させられたうえに、真摯な功夫映画愛がぎっしりつまった映画でございました。おもしろかった!
難破した船で辿り着いた浜で少林寺僧(正確には別の寺の名だったけど)に発見されるシークエンスなんか、もう「あるー!」ってこちらまで笑顔になってしまいましたよ。元気なころのリュー・チャーフィーのお姿もしっかりフィルムに刻まれております。心して見よ。
いや、これ作れてよかったよ!あなたの熱意とその執念に乾杯します、おめでとうRZAさん!

映画『アイアン・フィスト』予告編

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モーターウェイ(2012年・香港)

プロデューサー:
杜琪峯(ジョニー・トー)
監督:
鄭保瑞(ソイ・チェン)

脚本:
司徒錦源(セット・カムイェン)
ジョーイ・オブライエン
馮日進

動作導演:
錢嘉樂(チン・ガーロッ)
動作指導:
黄偉輝(ジャック・ウォン)
カースタント:
呉海堂(ン・ホイトン)

出演:
黄秋生(アンソニー・ウォン)
余文樂(ショーン・ユー)
郭曉冬(グオ・シャンドン)
林家棟(ラム・カートン)
李海濤(リー・ハイタオ)
徐熙媛(バービィー・スー)
葉璇 (ミシェル・イェ)
何超儀(ジョシー・ホー)

うおー、大きなスクリーンで観られてよかったぜ!
大ヒットした映画『頭文字D』から7年、香港飛車電影が帰って来ましたよ。
頭文字Dでは日本の誇る「タカハシレーシング」の社長、高橋勝大さんが飛車特技で参加していたりもしたのですが、今作は言わずもがな「錢家班」の登用です。
正直な感想、この映画はまず「錢家班」ありき。錢嘉樂そしてカースタント担当の呉海堂がいなければ成り立たなかったでしょう。すごい。錢嘉樂 、呉海堂、黄偉輝の3人は第49屆金馬獎で最佳動作設計を受賞。当然、錢家班の代表作ともなりました。

さすが銀河映像、のっけから香港映画の匂いがぷんぷんしてそれだけでこちらのギアはえこ贔屓にシフトチェンジ。
最初から惜しげもなく繰り広げられるカーチェイス。世界中でカーチェイスは撮られておりますが、お国柄と言うかなんかこうそれぞれの国でやっぱり違うんですよね。当然、予算の差が一番かとは思うのだけど、香港には香港の個性がある。今、香港で飛車特技といえば、この錢嘉樂の「錢家班」と羅禮賢(ブルース・ロウ)の「猛龍特技」が二大巨頭というところでしょう、この2つのチームはそれぞれ絵作りが絶妙に違う(最近それが分るようになってきて面白い)でも、そこはやはり香港、映像から伝わってくるボンネットの熱は結局同じ、という印象を持っています。

本当は自分、クルマのことなんかほとんど知りません。そこで『ベストカー』編集部のうちの弟に聞いたら、あの大陸人が大事に乗ってた日産180SXというのはどえらい名車というわけでもなく、それがそんな風に描かれるというのは「またマニア向けな・・・」らしいですな。
DVDプレスによるとほかにもBMW Z4 M、シルビア、フェアレディZ、アウディA4、メルセデスSLKがガンガン疾走し、また割合地味(笑)にぶっ壊れてました。

そんなクルマ音痴でも充分楽しかったのは、ひとえにこの映画が飛車モノでありつつもDNAにすりこまれた功夫、武侠テイストを内包していたから。

未熟な若者が高手にしてやられる→身近にいたただのジーサンと思っていた人が実は達人だった→修行→再戦→大事な人が殺される→復讐に燃える主人公→決戦
ほら、ユエン・ウーピンの成龍映画とどこが違いますか?功夫映画好きに何の違和感もなし。

事実、監督のソイ・チェンも「これは武侠片テイストをもった映画。彼らはクルマを剣の代わりに武器としている」というような話をしていました。「你€攻我守、我攻你€守」という言葉もそのまま、功夫映画の修行シーンではお決まりの台詞。

しかも8千回転時速2キロという、助走なしのアクセルターンという必殺技もあり。
アクション監督の錢嘉樂が「CG使ってないんだよ!」とドヤ顔で解説していたカースタントや上述のアクセルターン実技をメイキングで見た瞬間から、この映画を絶対に観ると決めてました。
もうもうと上がるバーンナウトの白煙と悲鳴のようなエンジン音。そして対称をなす暗闇の中に潜むマシンと不気味な響き。この駐車場の場面でなぜか李小龍の『燃えよドラゴン』の鏡のシーンを思い出してしまった功夫バカ。

役者衆もすこぶるよろしく、安定のキャスティングと演技力。
秋生さんがとにかくかっこいいいいいい。ショーンも青臭い役柄がいい、男泣きが似合います。そしてきらりと光る林家棟。嫌な奴かと思わせて実はいい人、をやらせたら右に出る役者はいないでしょう。
大陸からきた高手の走り屋は郭曉冬。この人調べたらドニーさんの『エンプレス~運命の戦い』の裏切り者、胡覇の人で驚いた。大陸の俳優は役によって全然違う人に見えることが多いのですが、写真検索かけて色んな意味で2度驚き。
そして、その大陸人バディの強盗、李海濤は『燃えよ!じじぃドラゴン 龍虎激闘』でブルース・リャンと戦ったあのお人。元警察官で散打チャンピオンだそうですが、こうした派手なアクションなしの悪役も多いみたいで。

とにかく面白かった、だって修行する技が、ぎっちぎちの路地を停止状態から8千回転時速2キロでジワジワ動く直角アクセルターンだよ!こんな絵にしにくい地味な動きを鍵にしちゃうとこが「真功夫」を尊ぶ香港しかありえない。

錢嘉樂の解説付きメイキング
寰亞電影《車手》電影製作特輯之技術解構篇 6.21 速勢待發

寰亞電影《車手》電影製作特輯之死亡彎角篇 6.21 速勢待發

今作でもバービィー・スーを真ん中にしたぎゅいぎゅいアクセルターンが登場しましたが、錢嘉樂ご本人もレースに出場するドライバー。香港のTV番組で同じように女優さんの周りをグルグル回ってるし。
錢嘉樂飄移
↓秋生さんのかっこいい姿を見たい人はこちら(ちょっとネタバレ)
《车手》主题曲 – 《沉迷》余文乐

 

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特殊身分 予告篇 ― ドニー・イェン 甄子丹

出張中のホテルの部屋。タブレットでつらつら動画を眺めていたら・・・・
でたでたでた!!!!!特殊身分の予告編!!!!!

我らのハードコア刑事が傷だらけになって帰って来た!

どうやら香港、大陸、マレーシアで10月公開だとか。心から嬉しいです。

8月のベネチア映画祭に出席するそうなので、恐らくこの『特殊身分』を持っていくのではないかと勝手に想像しております。いよいよ本格的にセールスですか。
(↑という本人のコメント記事を読んだのですが、間違いだったようです。すみません。ご夫妻は結婚記念にベネチアではなく、タイかどっかのリゾートでうふあはやってました。その旅行は奥さんにはサプライズだったそうなので、ひょっとしたらマスコミを使っての偽造工作だったのか、迷惑なダンナです)

う~~~~、日本はもちろん世界中のバイヤーの皆さん、どうかじゃんじゃん買っちゃってください、損させませんから。

紆余曲折本当に色々あったせいでしょうか、谷垣さんにうかがったところによると現場では、「その仕草って検閲でマズイんじゃないの?」というような意見があっても「いーんだよ!カットするならカットすればいい!」と、かなり開き直って撮りまくったそうです。

だぁ———!!!我らのドニーさんも帰って来たよ!

この予告を観た時に鳥肌が立ちました。
どんな話なのかさっぱり分らないけど(笑)とにかくアクションの釣瓶打ち、たった1分28秒ですが、これでもかと凝縮したように詰め込んである。アクション監督はご本人。もうね、やっぱイカレてますよドニーさん。

しかも、この予告には音楽がまったく使われていません。

そこで、『ドニー・イェン アクションブック』のなかの言葉を思い出した自分。

この本のイントロダクションで彼は、初心者にはまずデジタルビデオカメラに投資しなんであれ監督の立場でファインダーをのぞくようにすすめていました。そしてその予算がなければ、TVの音量をゼロにして映画を見てみるといい、そうすることによって映像の分析ができるから。と。

また第3部のテクニカル編の編集フローの章では、自分は編集しながら音楽を入れることはしない、音楽なしの方が一層アクションの特徴が目立つからだ、とも。

ここではわざと音楽を入れないことで、だからこそ際立つアクションのみで真っ向勝負しようとする固い決意と、甄家班で作りあげたアクションに対する漲る自信が痛いほどに伝わってきます。
こんな狂気をはらんだドニーさんを再び観ることができるなんて、なんと幸せなことでしょうか。

当然のことながら動作指導を務めた谷垣健治さん、大内貴仁さんはじめ、日本人スタントマン大活躍です。
景甜ちゃんのスタントダブルを担当したのはA-TRIBE所属の日野由佳さん。彼女は元体操選手という経歴の持ち主で、最初からスタントウーマンを目指していたわけではなく友人の付き合いでひょんなことからこの世界に飛び込んだ方。今年の春に行われた『第1回ジャパンアクションアワード』でもベストスタント賞に選ばれています。


この痺れるようなカメラアングルのショット(ブルース・ロウ、GJ!)も日野さん。すんばらしいいいいいいいいいいいいい!

そして、同じくアクションアワードで最優秀賞を獲得した富田稔さんももちろん参加、この映画の中で色んなところから痛そうに落ちる人がいるとしたら(それだけじゃないでしょうけど)多分十中八九、富田さんかと(笑)。
そういえば日野さんと同じベストスタント賞に選ばれた佐久間一禎さんも重要な役のダブルを務めたみたいですね。

谷垣さんによると、現場にはのべ11人もの日本人スタントマンを連れて行ったそうです。これまでで一番多い参加人数。クレジットでみなさんの名前を確認するのが今から楽しみです。

HD邊オ語 SPECIAL ID Cantonese trailer 2013 Donnie Yen
Donnie Yen SPECIAL ID aka SPECIAL IDENTITY Official first Trailer 2013(國語)
《特殊身份》景甜格斗训练特辑€
↑景甜ちゃんがアクション訓練受けてるメイキング
JAPAN ACTION AWARDS

なお、國語版予告の台詞。
“小弟,你还有得学呢!”とか”出来混,还讲不讲江湖规矩啊!”は絶対に「ある人たち」を皮肉ってるよね~と、ネットの一部の大陸ファンが盛り上がっていたことをご報告しておきます。

2013年10月18日『特殊身分』公開決定-ドニー・イェン 甄子丹
続々予告登場『特殊身分』 -ドニー・イェン 甄子丹
特殊身分(特殊身份:SPECIAL ID 2013年・中国)@香港 -€ドニー・イェン 甄子丹
・・・と、言ってるそばから特殊身分(特殊身份)
特殊身分・西遊記之大鬧天宮-ドニー・イェン 甄子丹
特殊身分(特殊身份)香港版が届いた。ネタバレ- ドニー・イェン 甄子丹
スペシャルID 特殊身分 初日舞台挨拶@新宿武蔵野館

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妖魔伝 レザレクション(2012年・中国)

実はこれ『画皮 あやかしの恋』の続編、原題は「画皮Ⅱ」。日本ではまったく関連のないタイトルになりました。

前作からは周迅(ジョウ・シュン)、趙薇(ヴィッキー・チャオ)、陳坤(チェン・クン)が続投。中国で公開当時中国語映画歴代興行収入を更新した作品です(その後王宝強のコメディ『人再囧途之泰囧』に抜かれちゃったけど)。監督は、CM畑出身の烏爾善(ウー・アールシャン)。

『画皮 あやかしの恋』では「泣いてばかりで本当にしんどかった」とボヤいていたヴィッキー、今回は一転非常にイケてる造型です。かかかかかっこいいい。金のハーフアイマスクみたいなのがめっちゃスタイリッシュな公主役。このお姿はドストライクです、素敵。

中華版リボンの騎士かオスカルか。当然ながら鎧に身を固め登場からアクションをしております。アクション指導はトン・ワイ先生。

キャストは一緒でも前作から同じ役なのは、ジョウ・シュンの小唯だけ。なにしろあれから500年後の話です。ヴィッキーさんの家臣役のチェン・クンも今回はアクション多めに頑張りました。弓の名手って設定が良かった。いや、男前。

1ではドニー・イェンとスン・リーがコメディリリーフでしたが今度は楊冪(ヤン・ミー)と馮紹峰(ウィリアム・フォン/フォン・シャオフォン)コンビがその役回りを担っております。
それにしてもヤン・ミーって一体いつ休んでるんでしょう?ってくらい出てませんかね。もうなんでもかんでもヤン・ミーが出てる気がしてきたぞ。一方、馮紹峰もただいま絶賛売り出し中!の忙しいひとり。実は太極シリーズにも出演してたけど、後で確認するまで同一人物とは気がつかなかった。役者ってすごいなぁ。

むこうでは3Dとして公開されたので、ここが飛び出してるのね~とか思いつつ鑑賞。
コンセプトデザインを天野喜孝氏が手掛けたからでしょうか、いろんなところで天野さんのイラストやゲーム舞台や映画を思い出してニヤリ。ジョウ・シュンなんて羅生門の京マチコに見えたし。すさまじくよかったです。しかし彼女と天野さんの親和性すげー。

自分はジョウ・シュンが好きなのですが、今回はキャラ的にヴィッキーさんの方が好みかな。
特に怒りにまかせて男前のチェン・クンをドツキまわすシークエンスはよかったわぁ。前作ほどじゃないにしてもここでも身分違いから自分の気持ちを伝えられないうえに、妖魔にもクラクラきちゃうものだからなんだかんだとイラっとしていたので痛快。いいぞ、もっとやれ。

劇中、ドキドキするような美女2人の入浴シーンやら蛮族とのアクションなど結構盛りだくさん。でも前半がほんの少し長かったかもしれません。後半は、妖魔と公主が入れ替わり、怒涛のような愛の行く末が非常に見応えあり。輿入れする際のビッキーが美しいのなんの。
なんだかんだいって「愛は勝つ」ってエンディング大好きです。

さて「夏の中華大傑作まつり」と銘打たれた「太極シリーズ」との3本立てもこうして無事に見ることが出来ましたが、よく考えるとこの3本に共通点が。それは制作に陳國富(チェン・クォフー)の名前。台湾出身の彼は、近年『王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件』や『唐山大地震』『狙った恋の落とし方。』などでヒットを飛ばした有名プロデューサーのひとり。

そういえば、太極を観に行った時ちょうどロビーにこの3本を配給したツインの社長吉鶴さんがいらしたので、立ち話をば。
そこで、今が盛りとばかりに国内興収の記録がドンドン塗り替えられる中国大陸と、なかなか話題にもならない日本との温度差のことになりました。
むこうの大作はどれくらい待てばグッと安くなるんですかね?と質問したところ、資金調達の方法や調達先へのイメージもあるし国内ですでに回収できてるかどうかも関係して一概には言えないんですよねという答え。あとはやはりプロデューサーが日本の事情を知っているとか日本とのやり取りに慣れているかどうかも大きいとのこと。
その点、この作品は話が早かった、とか。なかには若くて、まったく融通のきかない人もいるしね~、だそうです。

さて、そんな話の早かったプロデューサーの陳國富とともに、この3作全部にクレジットされていたのが(太極ゼロの出演は一瞬だけど)馮紹峰という。あ、そういえば音楽の石田勝範さんもだ。

なーんだ、結局は夏の陳國富と馮紹峰、そして石田勝範まつりだったというわけですね!

この馮紹峰さん

上述したようにいま人気急上昇の明星で、ジャン=ジャック・アノー監督の中仏合作映画『神なるオオカミ』の主演が控えているそうです。
そういえば、彼が項羽を演じた『鴻門宴』も日本公開が決まったと聞きました。こちらはダニエル・リー監督で、黎明(レオン・ライ)、張涵予(チャン・ハンユー)、劉亦菲(リウ・イーフェイ)、黄秋生(アンソニー・ウォン)、陳小春(ジョーダン・チャン)、安志杰(アンディ・オン)出演。ダニエル・リーに「しては」なかなかよいデキという噂。非常にいい面子なので楽しみです。

画皮Ⅱ予告
Painted Skin 2 : the Resurrection Movie Trailer
↓そしてエンドクレジットソングは、再び张靓颖が画心を新アレンジで歌っております
[Official MV] 《画皮II》 主题曲官方MV 画心II : 张靓颖演唱

TAICHI/太極 ゼロ TAICHI/太極 ヒーロー(2012年、香港中国)

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李小龍 マイブラザー(2010年・香港)

新宿武蔵野館に行ってきたよ!日本語字幕だ、広東語だ。
いやぁ、公開されて良かった良かった。

しかし、これ香港版から編集してある?なんかシーンが少なかったような。と思って公式サイトを見たらどうやら日本用に編集したらしいです。

以前香港版を見た時にも書きましたが、なんといっても1950年代の香港の風情がやっぱり素晴らしい。大家族の暮らしぶりや、匂いまで漂ってきそうな当時の街並みと撮影所の雰囲気、音楽、ファッション、そしてそこに生きる若者たち。
初見では父親の李海泉がアヘンを吸ってるところが出てきて驚いたのだけど、この設定がのちの警察とのやり取りや友人との関係の伏線になってるので必要だったんですよね。
本来ならそういう部分は身内としては描いて欲しくないのかもと想像しますが、原作がプロデューサーでありブルースの実弟ロバート・リーであるということも踏まえて結構な「本気度」を感じました。

また格闘家になる前の李小龍が普通の若者であったところにもすごく好感をもったんですよね。女の子にポーっとなるとか(英国帰りのパールちゃんはニコラス・ツェーの妹ジェニファー・ツェー)、いいとこ見せようとするとか。たとえば女子にモテたいと思ってギターを始めるのと同じで武術を習う、そんな思いが自然に沸いても不思議はない。武術の場合「気に入らん奴をぶっ飛ばす!」というシンプルな動機もあるとは思うけど。
(蛇足ですが、劇中のセリフであった「小龍のお姉さんに猛アタックをかけた」という俳優の“パトリック・ツェー”はジェニファーのお父さん )

今回日本語字幕で観て、同時にこれは香港映画の礎を築いた先人たちへのリスペクトも織り込まれているんだよなぁという気持ちを新たに強くしました。
李小龍の子役時代や若者たちが見学する撮影現場。そこでは当時のヒット作の再現や映画人がたくさん登場します。

子役として初主演した『細路祥』(1950)の監督であった馮峰(フォン・フォン)。演じたのは張達明(チョン・ダッメン)。当時の有名監督俳優でもありますが、実はこの導演、あの馮克安(フォン・ハックオン)のお父さんだったりもするのね、今回調べて驚きました。

一方、仲間を連れて上から覗き見る映画は『黃飛鴻河南浴血戰』 (1957)。ここではその作品の撮影風景を再現したのだとか。
張兆輝(チョン・シウファイ)が曹達華(チョウ・ダーワー)役。彼は30年代から多くの映画に出演し、中文wikipediaによるとその数なんと700本以上。まさに香港電影を一時期支えたスターの一人です。
武打星として、關德興(クワン・タッヒン)の黃飛鴻シリーズで一番弟子の梁寬(リンチェイのワンチャイシリーズでは、1でユン・ピョウが、2以降でマックス・モクが演じた役ですね)として70作以上に出演。また武侠映画の主演も多く務めました。後にバイプレーヤーとして『悪漢探偵』シリーズや『大福星』『七福星』等で存在感を示したものです。

その曹達華と仲が悪そう(笑)だったのが、錢嘉樂(チン・ガーロッ)扮する石堅(シー・キエン)。
そう、『燃えよドラゴン』のMr.ハンでございますよ。『Mr.Boo!ミスター・ブー』や『ヤングマスター 師弟出馬』でもお馴染みでしょうか。
幼いころから功夫を習った武術家でもあり、こちらも300本近くの映画に出演。そのほとんどが悪役でした。
↓石堅(左)と曹達華

また、曹達華と于素秋の映画『龍鳳雙劍俠€』(1957)では、于素秋の声の吹き替えを別の女優が現場でつけていたという興味深いシーンも。

余談になりますが、MGMの往年の大ヒットミュージカル、ジーン・ケリーの『雨に歌えば』(1952)では舞台が1920年代のトーキー誕生期のお話で同じように主演女優の吹き替えを生であてる撮影の裏側が描かれていました。
現在でも広東語や普通語などの吹き替えが必須の香港中国映画ならではのクスリとするシークエンスかもしれません。

ちなみに于素秋の父親は、サモハンや成龍、ユン・ピョウなどを育てたことで有名な于占元。
他にもたくさんの有名な映画人が登場しますが、私のつたない知識ではこれくらいが精いっぱい。

とにかく今回あらためて観て、この『李小龍 マイブラザー』という作品が、世界中に影響を与えた巨星ブルース・リーの知られざる青春時代を描くとともに、一方で香港映画のある時代の歴史もまた丁寧に描いているのだということに気がつきました。
そういう意味では、家族としてのブルースの姿を伝えるだけでなく彼の原点であるこの時代の香港映画の記録をも、そして今はもうない英国統治下の香港の姿も残しておきたいと、ロバート・リーは考えたのかもしれません。

それだけに日本公開版では、李小龍のラブシーン撮影の場面や曹達華、石堅との記念撮影の場面などがカットされていたのは残念だったかなぁ。
あ、しかし日本ならではのパンフレットはすこぶるよかったです。
メインは谷垣健治さんが語るブルース・リー。この方が語るのだから当然ブルースだけでなく、ドニー・イェンや成龍サモハン、倉田保昭さんなどのエピソードや比較もテンコ盛り。いかに香港映画人が李小龍からの影響をいまなお受け続けているかが実感できます。映画をご覧になる際には是非お買い求めください。

最後になりますが、今作で出演もしたアクション監督の錢嘉樂がプレスではチン・カー・ロクになっておりました。いきなりの英語表記?いまや香港映画に欠かせない存在のお人なんですからそろそろ日本での呼び方を統一して欲しいですねぇ。

李小龍 マイブラザー公式サイト
香港版予告
日本版予告

香港版を観た時のレビュー
映画 李小龍 Bruce Lee My Brother(2010年・香港)

しかし、この映画を見たら、同じ時代の香港を再現したというアンソニー・ウォン主演の『イップ・マン 最終章』も俄然楽しみになってきました。こちらは9月日本公開。
「イップ・マン 最終章」 予告篇

というか、今気がついた。今日7月20日は李小龍の命日なのでした!!まさに没後40年かぁ。
そこで、超有名なこちらのREMIXをおまけ。初めてこれを見た時は椅子から転げ落ちるかと思うほどたまげました。
Be Water My Friend! – Bruce Lee Remix
↑ちなみにこの冒頭でリー先生にIt’s like a finger pointing away to the moon. と言われ分ってんだか分ってないんだか分らない顔をしてるのは、若き日のトン・ワイアクション監督です。

 

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TAICHI/太極 ゼロ TAICHI/太極 ヒーロー(2012年、香港中国)

うわわわわわああああん、おもしろかったよおおおお!!!太極ゼロと太極ヒーロー。

これはむこうのティーザー予告をひと目見た時から、絶対に観る!と決めてた映画。
もうね、世知辛い世の中でひっそりと単館系で公開されているこの作品のタイトルを知っていて「面白そうだなぁ」とチラリとでも思った人は今すぐにでも六本木か心斎橋のシネマートに行ってください。

太極拳というと、かつて中国のイメージ映像に必ず登場した老若男女がゆったりとした動きをみせる健康体操、そのイメージが強い方が多いと思います。あの早朝公園でやっているのは戦後中国政府がそれまで習得の難しかった武術である太極拳の基本動作を元に万人向けに簡単にできるよう新しく作ったもので(これは簡化24式とか制定拳などと呼ばれている)、実は古い歴史を持つ武術としての太極拳とはまた違うものだったりするのです。

さて、今回の主人公、楊露禅は、直系にしか相伝されなかった伝統的な武術「陳式太極拳」の弟子になり、その後改良を加え清朝末期に広く普及した人物としても知られる「楊式太極拳」の創始者。ですが、そんなことは理解してなくてもまったくもって無問題。

だってこれを観て即思い出したのが『スコット・ピルグリム€VS. 邪悪な元カレ軍団』と『アメリ』っすから。さすがスティーブン・フォン。さしずめ『楊露禅 VS. 邪悪な元村人と列強軍団』という趣。
なんかもうテンコ盛りで何から書けばいいのかわからない(笑)。あの勢いと底抜けに明るい感じは文章にするのは無理なので2本まとめて箇条書きにて失礼。

・予告で知っていたけど、まことにスチームパンク。しかもジブリ。決して大友克洋ではない。

・まさかのオスカル。もうねその時の自分の動揺ったら!

・と、いうことはエディ・ポンは・・・と、考える前にその尖った顎に目が釘付けに。顔についた傷の変化がよかった。

・登場する人物にいちいちつけるキャプションが一瞬すぎて半分以下しか識別できず。
「武術大会金メダリスト」とか「無間道」とか「功夫映画界の宝」とか「成家班」「黄飛鴻」「鬼脚」という単語くらいか、チッ。それによると相当数の武術チャンピオンと実際の陳家拳第12代傅人とかも出演してました。びっくり。こうなったら近々発売されるというソフトで、全部確認してやる~。

・アクションシーンにも技の名前とか、重心がどこにあるか、などキャプションがマンガ風に入っていてゲーム感覚?おもしろいおもしろい。これを本格的な功夫シーンでやっちゃうところに新鮮味がありました。このアプローチは絶対に長く武打片を作り続けた人では思い付かないと思う。

・かといって別に茶化しているわけでもなく、功夫映画へのリスペクトも感じられてカメオ出演者も大変豪華。ブルース・リャンとかフォン・ハックオンとかくまきんとか!それぞれに丁寧なキャプションもつき、見せ場もある。

・他にもスー・チーやアンドリュー・ラウ監督、ダニエル・ウーなど「お!」と思わせる顔ぶれ。最初誰だか思いさせなかった長老が途中『Mr.BOO アヒルの警備保障』の社長の一人息子だったフォン・ツイファンと思い出してやっとスッキリ。そういえば『アクシデント 意外』にも出てました。つかゴールデンハーベストの~星シリーズの方が有名かな。
なんて暢気な事言ってる場合じゃなかった、後から気がついたヒーローの方のクレジットにパトリック・ツェー(ニコラスの父)の名前。ああああ!あの陳氏十世!こっちの方が驚愕。

・レオン・カーファイ、素晴らしい!いい役でした。アクションも決まってる。彼は本当にいい歳の取り方をしています。

・アンジェラ・ベイビー、kawaii !!!彼女の新作『在一起』を持ってますが、断然こっちのほうがいい。ツンデレのキャラもキュートでツンデレマニアにはたまらない仕様。

・音楽がいちいちすてき。うお、そこでこの曲使う?という意外性に痺れます。担当は「西部警察」「大奥」の石田勝範氏、そういえば画皮2もこの方。

・こういう映画で西洋人が出てくるといまだにベイ・ローガンの姿を捜してしまう自分に笑った

・『グランド・マスター』でチャン・ツィイーが披露した八卦掌もふんだんに出てくるよ!カッコいいよ!

・辮髪だ~~~辮髪、大陸のTVドラマをあまり観ない自分には映画での辮髪祭りはウェルカム、しかも美形揃い

・誰がなんといってもユン・ピョウだ!ユン・ピョウ!

主演の袁曉超(ユエン・シャオチャオ)君は2008年北京オリンピック武術トーナメントや2010年広州アジア大会の長拳部門金メダリストという輝かしい経歴を持つ本物。
監督がイメージしたのは誰が見ても分った通り、若き日のリー・リンチェイでしょう。
プレッシャーは相当なものだったと思いますが、頑張りました。今後の作品にも恵まれることを願います。なんとなくもう一皮むけるとスゴイ人になりそうな予感。

実は、予告やメイキングを観ていて一番心配したのは、これだけの武術家や武打星を使いながらワイヤーたっぷりの(いや実際たっぷりだったけど)ゲーム風やアニメ風に仕上がっている気がして果たして食い合わせはどうなんだということ。
しかし、そこはギリギリのラインでセーフ、どころかワクワクしました。
まず、キャプションは「!!」と思うほど使われてたけど、肝心のアクションは人物をVFXで加工したり不自然なカメラアングルなど多様せず、動ける人はきちんと、そして動けない人はちゃんとダブルを使っていてひと安心。
当然ファンタジックなシークエンスもたくさんありましたが、自分としては充分許容範囲。サモハンいい仕事しました!さすが!

で、ワイヤー使いまくりなんだろうなと結構心配だったユン・ピョウとユエン・シャオチャオとの不安定な場所でのアクション。豪華な宮中料理のインサートも効いていて、終わってみれば一番印象に残ったシーンになりました。ユン・ピョウ、素晴らしいいいいい!!またこんな素敵なユン・ピョウを拝めることが出来て心から嬉しいです。

もうね、凄く気に入りましたこの映画。なんといってもチラリとしか登場しない脇役までキャラがみんな立っててすごくいい。どうしても派手な絵作りや外連味のセンスに目が行きがちですが、実はその辺りに一番フォン監督の才能を感じた次第。すごいなぁ。この能力はチャウ・シンチーに近いのかも?とまで思ってしまいます。

結構な制作費をつぎ込み、三部作の予定として作られた映画ですが信じられないことに中国香港ではそれほどヒットしませんでした。とほほ、なんでや~。ものすごーく不思議です。
そのためにひょっとしたら三作目の撮影は難しいかもという噂もちらほら。ええ~、こっからが見せ場の連続じゃ?
なぜこれが気に入らないのか、自分にはよく分らないのですが、もしかしたら功夫映画慣れしてるだろう向こうの人達より日本人の方がうんとこの映画が気に入るかもしれません。
いや、むしろ功夫映画オタクよりアニメやゲームの世界に慣れ親しんだ人(自分はそこが弱いので元ネタがあったとしてもよくわからない)や、外連味のある絵作りに燃える人、ファンタジー映画好きな人にこそ観て頂きたい作品です。この魅力的な融合をぜひ体感してください!

《太極》前導預告片(國際繁體中文版)←この1分ちょっとの動画で絶対観たいと思った
Tai Chi Zero clip Tofu Fight!—太極,從零開始。 豆腐大戰。
↑実はこの陳家拳第12代傅人の申思というお人に、非常にスター性を感じました。
《太極1從零開始》幕後特輯:這不是太極
《太極1從零開始》幕後特輯:機械物語

 

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マシュー・ボーン『ドリアン・グレイ』

世界中に驚きを与え喝采を浴びた『白鳥の湖』から十数年。『ザ・カーマン』『プレイ・ウィズアウト・ワーズ』などを経てマシュー・ボーンの『ドリアン・グレイ』が日本にやってきました。

うれしいことにUKキャストを主催のホリプロに招待してもらい、自分でJPキャストの方のチケットを買って両方観てきました。「ええ~、JPキャスト観なきゃだよーーー!」と劇場で会った時におっしゃった堀社長、ちゃんと観ましたよ!えっへん。

原作は1890年に発表されたご存知オスカー・ワイルドの小説『ドリアン・グレイの肖像』。過去3度映画化もされております。その題材をマシュー・ボーンらしいアレンジで描くというので非常に期待しておりました。

オープニングから大音量で聞こえてくる『白鳥の湖』。うお!と思ったら実は主人公ドリアンの目覚まし時計の音だった、という。わはははは。2幕目にも『シンデレラ』の音楽が使われていたので、ちょっとしたファン向けへの小ネタも効いてます。

今回の舞台は、UKキャストといえども全員ではなく4人。アンサンブルを日本人のダンサーで固めた日本仕様のものという試み。超有名プリンシバルが来日し東京バレエ団と組んで五反田ゆうぽーとホールなんかでやるセッションなどと同じ形式ですね。

両方素敵でしたが、なんといってもJPキャストでドリアン・グレイを演じた大貫勇輔さんが素晴らしかった。想像以上に線が太くてね。日本のダンサーの方は先入観もあってか線が細いイメージを持っていたのですが、彼は非常に恵まれた体格の持ち主。これだけですごいアドバンテージですね。アンサンブルも日本人ということでより一層まとまり感はあったのかもしれません。

しかもこの日は、アフタートークとしてマシュー・ボーンご本人のトークショーつきでめっちゃラッキー。彼曰く、「今回ダブルキャストでしたが、同じ振り同じリズム取りで踊っていてもまったく同じにならないのは当然。それが表現者ということです」(うろ覚え)とか。
その言葉に首がもげそうなくらい頷いてしまいました。だからこそ我々は何年、数十年もかけて幾度も同じ演目の舞台を観に行くわけです。

今回はたった5日間という短い公演期間でしたが、将来大貫勇輔さんのドリアンで再演されるようなことがあれば、もっとこなれた一層深みを増したものになるだろうし、多分彼の代表作になるだろうなと期待を抱きました。いつかまたそんな日がくることを願いたいですねぇ。

Matthew Bournes DORIAN GRAY (Official promo montage)
『ドリアングレイ』 CM
【大貫勇輔】マシュー・ボーンの「ドリアン・グレイ」記者会見

最初に書いたマシュー・ボーンの『白鳥の湖』といえば有名なのが映画『リトル・ダンサー』。ジェイミー・ベルが大人になったら、アダム・クーパーになっちゃってて踊ったあれです、あれ。
ジェイミーといえば昨年観た『第九軍団のワシ』で大人になってて驚いちゃったわ!
Billy Elliot (2000) – Check Trailer
Adam Cooper@Swan Lake

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