サワディカー、コップンカー、ベェェェェェリィィィィィグゥッ!!
『特殊身分』を観に香港に行ってきました。それしか目的はないから思う存分観て来た。全部で7回。途中HMVにショウブラ映画のソフトを買いに行ったりラウ・チンワンとルイス・クーの『脱出生天』3Dも観ましたけど。
自分が通ったのは九龍にある高級ショッピングモール内のシネコン。
ここは客席の少ない部屋でもスクリーンの大きさが違う。客席関係なくスクリーンだけはデカイ。
さすがにウィークディの午後は10人とか5人とか、かなり日本で慣れた人数でしたが、夜19時や21時の回になると大きめの部屋で7割から8割の入り。カップル、女子数人のグループだとか日本の映画館ではあまり見かけなくなった男4,5人連れという人々が集い、年齢層も様々でかなり賑やか。
しかもこの映画館ではShow Active Soundというシステムを導入しており、このアクチュエータシステムがヤバいのなんの。音響もすごかったのですが、なんといっても低音とともに座席がシンクロして震動する仕組みに、何も知らずに観た自分は心からたまげました。
だって、ドニーさんの蹴りとともに自分の身体にその衝撃が伝わるんすよ!張涵予(チャン・ハンユー)の銃声にも、カークラッシュの瞬間にも、そしてドニーさんの一撃必殺パンチでも!!!!!
こんな天国がこの世にあったのか。人がいてもいなくても楽しいと笑い、びっくりすれば声を上げる、観客のノリの良さとともに香港で観る映画はすばらしい!
さて、そんな環境で観た『特殊身分』。事前に予告やらメイキングやらアクションシーンやらを動画サイトで観てはいましたが、この特殊身分はそれから想像するものをはるかに超えた映画でございました。
なにしろ客席は爆笑の連続。
ええと、ストーリーはあちこちから聞こえてくる通り「潜入捜査官としての“特殊身分”を背負った男が死ぬか生きるかの一線上で繰り広げる黒社会との壮絶アクション」ということで正しいのですが、そのドラマ部分が何故かとってもコミカルなんですわ。
何にみんな笑っていたかと言うと、デフォルメされたそれぞれのキャラの台詞に対して。
特に鄭中基(ロナルド・チェン)の日和見的な上司のぼそっと喋る言葉とか、大陸の公安警察の景甜(ジン・ティエン)と香港古惑仔ドニーさんとのやり取りに皆受けてました。中には手を叩いて喜ぶ人まで。
あ、あと甄家班の厳華(イム・ワー)さんの役とそれを見て呟くドニーさんの台詞がめっちゃ笑いを誘ってましたよ。たしかに「あんた病気か?」と言いたくなるわ、アレ(笑)。
裏話によるとあの厳華さんのキャラはドニーさんがその場で決めたと聞きました、「もうオマエいいから大声キャラでやれ!」と命令一発。ええ、狙った通りです。
香港映画ファン的には潜入捜査官と聞くと即座に思い浮かぶイメージからは相当離れてます。あの名作『インファナル・アフェア』を全編覆っていた息苦しいまでの張りつめた緊迫感はほとんど登場しない。
こちらの主人公陳子龍はヘマをやらかしたチンピラの尻拭いに心底命を懸ける大哥です。当然何年も黒社会の人間として生きているのだから江湖ルールも熟知していれば情も湧く、“特殊身分”だからと悲壮感たっぷりに自らを追い込んでいては到底続かないし、むしろちょっとちゃらんぽらんでアホなくらいの男の方が・・・潜入捜査官へのそんな別角度の視点が新鮮でした。
で、もうひとつ新鮮だったのがヒロインである大陸公安警察官の景甜との関係。優等生の女と不良の男、映画における永遠のカップリングは不滅ですね。ドニーさんのことですから恋愛感情などはまったくありませんが、ふたりのデコボコバディぶりが可愛かったです。そこに互いの上司が「文化の違いですかなぁ」と合いの手を入れたりするものだから観客は大笑いになるというわけ。
しかも彼女はただの花瓶(中国語で飾り物の女性キャラ)じゃあありません。間違いなくこの映画の主人公のひとり。ドニーさんの映画でこれほどまでに女性が活躍した映画はかなり久しぶりのことではないでしょうか。
残念ながら鄒兆龍(コリン・チョウ)は本当に友情出演だったようでアクションなし。ラスボスは安志杰(アンディ・オン)。
このアンディがね、もう恐ろしいくらいにセクシーでしたよ。今までの出演キャラで好きなのは『酔拳レジェンド・オブ・カンフー』のコレ↓でしたが、こいつは双璧にかっこいい。
アメリカ帰りの新興ヤクザはまさにアンディのためにカスタマイズされた役。と、いうか今まで出演してきた映画で一番のアクションでした、あの強烈な印象を残した『香港国際警察/NEW POLICE STORY』をやっと超えましたよ、彼はこれで一皮むけた瞬間を迎えたと断言します。ブラボー。
今まで幾度となく感じて来た「せっかくのアンディ・オンがもったいない」と思うところが何一つなく、むしろリミッターを外し本来の可能性をあますとこなく十二分に引き出したコレオグラフ。さすがですよアクション監督ドニー・イェン。
誰が何と言おうがあなたの大きな才能のひとつは、戦う相手のポテンシャルをアクションシーンで最大限導き出すという(かなりスパルタらしいけど)動作導演としての技量ですよ。
アンディにはこれでブレイクしてもらって是非ともアクション映画でピンを張る位になって欲しいです。身体能力、イケメン度、演技、とスターになれる逸材。絶対に応援するよ!
一方、ドニーさんはアカデミー撮影賞獲得の名カメラマン鮑德熹(ピーター・パウ)に撮ってもらった効果かどうか、この世のものとは思えないほど綺麗だった(笑)。
この映画、ドラマパートでは異常なくらいクローズアップを多用していて全員美しいんですけれど、タトゥーまみれの髭面(しかも髭は白髪交じり)の50のオッサンのくせになんかひとりだけ別次元の美しさ。もちろんこの人には昔から美しいショットは一杯ありますよ、でも全編こんなに美しく撮れてるのはちょっと記憶にない。
正直、ストーリーの方は相当単純です。ひねりもへったくれも(略。一切言葉が分らなくても展開が分っちゃうほど簡単。お前それバレバレじゃ?と突っ込むのも早々に放棄したほうが吉。ところどころ司徒錦源(セット・カムイェン)だなぁと感じる見応えのあるシークエンスはあるものの、検閲で相当カットされたか、もとから破綻していたのか。その原因がどこにあるのか自分には知る由もありませんが、当初撮った分量から、映画的にはかなりはしょった様な飛び飛びの印象を強く持ちました。
ぶっちゃけると『特殊身分』とは素晴らしいカメラで撮った最高最大級のドニー・イェンPVなのかもしれません。しかしこれはアンディ・オンと景甜のPVとしても充分に機能しているところがよろしい。
アクションは文句なしに最高です。
ご本人のアクションもさることながら、特に感心したのが景甜へのコレオグラフ。
箸より重いものを持ったこともなさそうな彼女をパッと見て世界中の誰があんなアクションを考えつきますか?唯一世界でドニー・イェンと甄家班だけでしょう。
走り方を見ても分る通り、このお嬢さんはツインズの2人に比べても体幹が弱く、立った引きの絵でアクションを見せることが非常に難しいタイプ。
そこをスローモーションやアップで誤魔化すのではなくダブルとやられ役のスタントマンを上手に使いアクションとして丁寧に成立させ、まずは最初のアクションシーンで彼女のキャラクターの身体能力を観客に印象づける。
そして最終的にはその女優の弱点を逆手に取った車中という狭い空間での動作をデザイン。ここではダンス経験があると言う彼女の柔軟性を活かした足使いや腕十字が見事です。そしてカーアクションの最中ということもあって細かいカット割りも不自然さを免れ効果的。
この手法にはお見事!と大絶賛を送るしかないでしょう。谷垣さんさすが。結果、羅禮賢(ブルース・ロウ)のカースタントもあわせて、この一連のシークエンスはかなり興奮度の高いシーンです。
全体的にアクションはひとつとして同じものはなく、マージャン店での盧惠光(ロー・ワイコン)との闘いはどことなくユーモラス。自分のような年齢の人だと思わず「アリ対猪木もこれくらい派手にやってくれてたなら・・・」と呟いてしまうこと必至。タイ人役の彼をドニーさんが「サワディカー」「コップンカー」と言いながら殴るシーンでは客席から結構な笑いが起こってました。香港人、ノリがいいよ!
キッチンでの数十人対1人では、限定された空間と複雑な間取りを活かした動きとカメラワーク。小道具の使い方もかっこいい。ここではその空間を利用してわざと全てを見せない引き算のカットが特徴的。これはかなりなセンスがないと撮れないだろうな、と。ああああドニーさん、ほんっっとーに、あなた成熟の域に入ってますよ!
しかもそれを別人じゃなくご本人で観ることが出来るというこの喜び。あともう何年か分りませんが、御身体をいたわって少しでも長く私たちにその動きを見せてください、と初見で思わず手を合わせちゃいました。
そして最後は引き算とは真反対の全てを見せるアンディ・オンとの喧嘩上等!のコレオグラフ。
今まで真剣勝負の場で、足を掴まれ片足でたたらを踏んでなお届かないパンチを必死で繰り出すアクションスターの姿を見たことがあるでしょうか。自分はありません。(いや待て、成龍ならあるか)
『導火線』では見事な技のオンパレードに思わずレビューで実況してしまった自分ですが、『特殊身分』では観ているこちらに一切そうする隙すら与えてくれません。おそらく6分ほどはあるアクションシーンでしょうが、まったくその長さを感じさせないくらい。そして最後のローリングソバットが決まった瞬間、アンディの財布が宙を舞う。これ、これ!この演出の細かさがドニー・イェンでありますよ!
霍耀良(クラレンス・フォク)監督によると、このシーンだけで2カ月かけたそうです。
アクションに懸けるドニー・イェンの信じられないような執念が私たちをいつも興奮させ、感動させてくれる。
今回、その執念をまたまざまざと見せつけられて改めて思います。
『SPL 狼よ静かに死ね』と『導火線』この2本で世界のアクション映画を変えてしまった男が、この『特殊身分』でまた一歩、世界をリードした、と。
それを観ることができて本当に心の底から嬉しい限りでございます。
日本でも買いたい会社は数社あるそうですが、むこうの言い値がおっそろしく高額で(いや、マジで)日本ではその値ではどうしたって絶対に買えないのが現状。
香港で結構ヒットしているそうだし大陸でも現代アクションとしては成績がいいよう。早いとこ制作費をペイして、そのうえウハウハ状態までいってくれますように。そしたら販売元も余裕を持って値段を安くしてくれるかもしれません。
みんな待ってる『特殊身分』の一日も早い日本公開を願います。私も日本語字幕で観たいよ、だって観客大爆笑の台詞、全員早口すぎて何度観ても私程度では到底全部字幕を読み切れなかったんだもん。とほほ。
Donnie Yen SPECIAL ID aka SPECIAL IDENTITY Official first Trailer 2013
まだいっぱい書きたいネタはあるけど、とりあえず第一弾。てか第二弾はあるのか?自分
↓あった(笑)
特殊身分 予告篇 ― ドニー・イェン 甄子丹
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・・・と、言ってるそばから特殊身分(特殊身份)
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