『悪戦』Once Upon a Time in Shanghai 監督:ウォン·ジンポー、ティーチイン@京都ヒストリカ国際映画祭

ぎりぎりですが、明日12月7日15:00から京都文化博物館で行われる京都ヒストリカ国際映画祭の『悪戦』Once Upon a Time in Shanghaiの上映後に監督ウォン·ジンポーさんをお招きしてトークショウが行われ、私不肖飯星がそのお手伝いをさせて頂きます。

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昨夜、ウエルカムディナーがあり監督とお目にかかり色々お話をいたしました。

監督は作品を色々観てなんとなく想像していた感じの方でした。『復讐の絆』とかよかったもんなー。良作『ベルベットレイン』のあのシーンの撮影方法とか、聞いてみたらその通りの答えだったので笑っちゃいました。そんな話もうかがえるかもしれません。

フィリップ・ンとアンディ・オンが仲良しすぎるという話題になったら「実はね」とエピソードも。
直前で申し訳ないのですが、是非、劇場にお越しください!!!

お、それと12月14日日曜日の実写『るろうに剣心』3部作一挙上映後に行われる、大友監督&谷垣健治アクション監督をお迎えしてのトークショウ第一部のほうもお手伝いいたします。こちらのほうも是非ご覧ください。

第6回京都ヒストリカ国際映画祭公式サイト
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悪戦概要予告ページ

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カンフー・ジャングル(一個人的武林 KUNG FU JUNGLE:2014年、香港)その3- ドニー・イェン 甄子丹

香港で観た『一個人的武林』第3弾。音楽に関する誰得?な細かい情報とエンドクレジットについて。多分映画観てないと何のこっちゃな話。

今回は音楽もよかった。作曲は、最初のトンネル捜査シーンにおいて監察医役でカメオ出演もしたピーター・カム。

王寶強演じる封於修が鍛錬する際に古いカセットデッキで流していた曲はラベルに『出五關』と書いてあったので、三国志の過五關(千里尋兄、千里單騎ともいう)のことのようです。この一部をリミックスしたものを封於修のテーマとして上手に使っていました。すごく耳に残るあの節回し。
こちらの予告のここで登場したのが、その一節。
KUNG FU JUNGLE Final HK trailer Donnie Yen 甄子丹【Eng.sub】

京劇の事は詳しくないので、帰宅して調べてみてもあの独特の節回しの部分がなかなかヒットせず、やっとひとつだけそれらしきものを見つけました。おそらくこれの6:21からの一節。”出五关 京剧”で検索しても動画はみんな「挂印封金辞汉相」から始まっちゃうんですよね。映画で使われていたのはその直前の間奏部分にあたるようです。渋いとこ使ってくんなぁ。

で、その「秦腔戏曲大全-出五关 上集」ですが珍藏版とあるので、かなりレアなものみたい。素人にはこれがまんま映画で使用されたオリジナルに聞こえるのですが、いかがでしょう。
けれども何と言ってるのかがわからない。最初の所は「馬通」なのかなぁと想像したりしてるのだけれど、自信はなし。そのあとの一声は単なる掛け声なのか、ああ、京劇の事をもっとよく分ってれば・・・もしその辺り詳しい人がいらっしゃったら是非教えを請いたいです。

この音声をオープニングクレジットでは映像とともに逆回しにしていました。1にも書きましたが、現代に「功夫」を蘇らせるというコンセプトを映像だけでなく、封於修のテーマともいうべきこの曲を逆回転させてることに気づいたら個人的にかなりアガりました。
注:あとから確認したら音声は逆回ししてませんでした。なぜそう信じてしまったは自分でも謎。とほほ。

そしてエンドクレジットでは、本作にカメオ出演した人達と裏方さんを映像で紹介していて最後まで楽しい。ここで使われている曲は中華人民共和国の大躍進政策時代に于會泳、胡登跳によって作曲された「闖將令」。

香港人にとっては60年代にシリーズとして人気のあった于素秋 (ユー・ソーチャウ)、曹達華(チョウ・ダッワー)主演の武侠映画『如来神掌』で使われた曲として有名です。自分にとってはチャウ・シンチーの『カンフーハッスル』のエンディングテーマとしての方がお馴染み。調べて驚いたんだけど、『イップ・マン 誕生』のエンディング曲もこの「闖將令」に歌詞をつけた「千尺浪」という曲だったらしいです。

香港功夫映画に大いなるリスペクトを捧げる、と言うだけあってこのカメオの顔ぶれがおもしろい。ブルース・リーやジミーさん、チャン・チェ監督はポスターで、ジャッキーやユエン・シャオティエン、ラウ・カーリョンはモニターの映像で。ここで何度も名前を書いてるはずの武術指導のリー・タッチウとかジャック・ウォンとか衣装のドラ・ン、アン・ホイの『桃さんのしあわせ』の脚本家スーザン・チャンとかちゃんと初めて顔見た(笑)。

あとドニーさんのアクション監督作品のメイキングで必ずドニーさんの後ろで眉間にしわを寄せて説明を聞いてるカメラマンのチュン・マンポーさんの姿があったのが個人的ツボ。

↓彼の名前を知らなくても、この顔(左)を見れば分る人は分るはず。
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他にも、ベイ・ローガン(最初にドニーさんに殺されるのはこの人だった)、張同祖監督、カーク・ウォン監督、元洪家班のビリー・チャン、ユエン・チョンヤンとかデビッド・チャンやゴールデンハーベスト創始者のレイモンド・チョウもカメオ出演、つかショウブラ全盛期に超イカシてた楊菁菁さんなんて久しぶりに見た!今も武術指導なさってるのね感激。

闖將令
《葉問前傳》主題曲 千尺浪 MV(これは気がつかんかったわ!)
曹達華と于素秋のことに触れた記事
李小龍 マイブラザー(2010年・香港)
ショウブラザーズの看板スターだったデビッド・チャンがどんなに素晴らしい俳優かはここで
新・片腕必殺剣(1971年・香港)

旺角にある「豪華戲院」というかつては豪華だったんでしょう古いしかしやたらと客席の多い映画館で観た際は、自分以外男性のお一人様しかおらず、そのなかの一人が闖將令を口ずさみながら帰って行ったのが印象的でした。エンドクレジット楽しかったんだろうなぁ。監督の伝えたいことがちゃんと伝わってるのを感じて自分も倍楽しい気分になれました。

関連テキスト
一個人的武林 KUNG FU JUNGLE(2014年、香港)その1- ドニー・イェン 甄子丹
一個人的武林 KUNG FU JUNGLE(2014年、香港)その2- ドニー・イェン 甄子丹

――――― 追記 ―――――
長い事、サーバーの引っ越しにかまけて放ってありました。すみません。再開にこんなに時間がかかるとも思わず、何のインフォーメーションもせずに。
実は中国語が激しく文字化けしてまして・・・これ全部確認して直すのか・・・と思ったら凹んですっかりそのままに。自分でも直したりしたのですが到底追いつかず。
もう別に文字化けしたままでいいや!と開き直りました。そのうちちょいちょい直すことにします。
やっと再開することになったので、どうぞよろしくお願いします。
過去記事読んで文字化けしてる部分を見つけた方はよかったらお知らせください。自力で直します。

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カンフー・ジャングル(一個人的武林 KUNG FU JUNGLE:2014年、香港)その2- ドニー・イェン 甄子丹

香港で観たカンフー・ジャングル第2弾。英題はKUNG FU JUNGLE、そもそも武林ってなに?

「武林」とは武侠小説で使われる、武術家達を取り巻く世界や多岐にわたった流派を包括する武術界を称する言葉。同じような言葉に「江湖」というのがありますが、こちらはもう少し広い範囲を差し、武侠小説に登場する庶民や彼らが暮らす世界も含みます。(追記:現代劇でも黒社会モノだと「江湖」という言葉が使われるケースがあります、その場合意味はそのまま「黒社会」)武林は江湖よりもっと狭い武術家だけの世界。英語だとWudang Sectと訳されることが多く、日本語だと武術界と訳されることもあるようです。
この言葉自体はそれほど古いものではなく、「十二金錢鏢」や、楊式太極拳の創始者、楊露禅を描いた「偷拳」などで著名な中国の武侠小説家宫白羽(1899—1966)が創作したもの。武術界だと味もそっけもないし中国らしさも薄まるので「武林」の方が自分は断然好きです。

本作の英語タイトルは当初『KUNG FU KILLER』でした。しかし大陸の検閲に配慮して『KUNG FU JUNGLE』になったと監督のテディ・チャンが話してました。要するに武林をそのまんま力技でJUNGLEにしちゃったというわけですね。直訳過ぎて本来の意味はなしませんけど、Wudang Sectよりはずっといい。インターネット検索してもこの映画がまずヒットするでしょうし。(注:北米での公開時には、配給会社が『KUNG FU KILLER』というタイトルをつけました)

撮影中、スチールで見た王寶強くんが左右高さの違う靴を履いており「怪我でもしたのかなぁ」と心密かに心配していたんですが、彼の演じる封於修が左右の足の長さが違うという先天的な障害を持っているというキャラクター設定だったのでした。役とはいえ左右の高さの違う靴であれだけのアクションをこなすのはさぞ大変だったことでしょう。すごいポテンシャルだ。寶強、すごいよ寶強。

そもそもテディ・チャンは2009年の『孫文の義士団』公開後、あの素晴らしいセットを使って民国時代を舞台にした功夫映画を撮るつもりだったようです。けれど『イップ・マン 序章』『イップ・マン 葉問』の大ヒットを受けて、にわかに功夫映画ブームが到来、脚本に時間のかかっている間に次から次へと先に功夫映画を製作され、結果監督はあのセットと民国時代を諦め、すべてを白紙に戻した後「現代における功夫を描く」ことにしたそうな。いや、結果オーライ。

実は監督は交通事故で肩を負傷するまでは武術を習っており葉問派の詠春拳もやっていたんだそうですよ。子供の頃は日本のテレビドラマ「柔道一直線」が好きで最初に習ったのは柔道。インタビューで功夫の話になると饒舌に話しだすのがキュートです。

さて、そこで映画のなかの功夫ネタですが。
劇中、遺体に残された燕を模したアイテムは清朝時代の「堂前燕」という暗器(小型武器)。

清朝末期には複雑かつ厳しい科挙制度の弊害で、そこを勝ち抜いた官僚の間では詩文の教養のみを君子の条件とし、政治をつかさどる立場でありながら現実の実務を俗事とみなす風潮がありました。んなアホな。当然読書や知識の深さが尊ばれ、それ以外は卑しいとまで公言する文官も多かったのです。
そんな平和な時代の朝廷では兵法や武術に長けた武官を野蛮な存在として一段下に見るむきがありました。

武官のトップである武状元ですら、ほとんど顧みられることはなく朝廷からの褒賞を賜ることができなかったため、その慰めにと一隻の堂前燕が与えられました。表向きは武官たちを慰労するためでしたが、裏には「お前達の実力がどんなに高くてもこの世ではすでに用はない、ただ朝廷という母屋の庇(ひさし)の前の一隻の燕にしか過ぎないのだ」という辛辣な意味が隠されていたといいます。

現代においても、功夫はもう無用の長物。形骸化した功夫で商売する以外それで食べて行くこともできません。シリアルキラーとなった功夫原理主義者の封於修は自分の倒した相手のもとにわざとその「堂前燕」を残すことで、無用という偏見を返上しているのかもしれません。

そんな武痴が何故あの順番で勝負をし、また夏侯武がそれを推理することができたのか。面会に来たチャーリー・ヤン扮する陸玄心警部を前に手錠をつけたまま彼はこう語ります。

「先拳后腿次擒拿,兵器内家五合一。肩與胯閤,肘與厀閤,手與足閤,擒繫死嘅,摞繫活嘅,先拳后腳次擒摞,擒摞有成,方進兵器,兵器廼手足之延伸,所謂人器閤一,心與意閤,意與氣閤,氣與力閤,內陰,外陽,內外貫為一氣,一形唔順,難練佢形」

ここからは超解釈になりますが、これはつまり功夫の奥義を極めるための口伝のようなものなのでしょう。多分修練を重ねるための順序が語られていると自分は理解しました。
犯人はこの口伝の通りの順番でそれぞれの武林高手に、しかも彼らと同じ技を使って挑戦しているのです。そして、過去に高下を決するために人を殺めた夏侯武も最後の1人に含まれているわけですね。
そう考えると「功夫是殺人技・・・」というキャッチコピーが実にしっくりきますよね。

と、ここで追記します:
夏侯武は佛山にある「合一門」という武館の掌門(継承者)でした。この合一門という門派がよくわからなかったのですが、合一門とはその名の通り、拳、脚、擒拿、兵器および内功の総合武学の門派だそうで、実在するのかどうかまではちょっとわからず。

さてセットの素晴らしさは前に書きましたが、衣装もなかなかいい。
いや、一見地味ですよ、というか本当に地味。ドニーさんにいたっては近年こんなノーブランドの洋服を着てること自体が珍しい。
なにせSPLでは一介の刑事の癖にChrome Heartsのベルトにシルバーのアクセの重ねづけ、導火線だってD&Gの皮ジャンでした。が、ここでは本当にヨレヨレのジャケットにフツーのチノパンで、そのうえ短髪だから目立たないけど白髪もちょいちょいそのままになってます。またそれが佛山萃葵里(翠葵里)とかランタオ島大澳の漁港とかに似合うんだな。
加えて師妹役の白冰さんのジャージとか白ポロシャツとかが大変よろしい。『孫文の義士団』でファン・ビンビンに濃い化粧を禁止しその美しさを際立たせたように、ここでも超お美しい白冰さんに化粧をさせずかなり野暮ったい衣装を着せて、だからこそ2人が師兄妹を超えて慕いあってるリアリティがありました。

そんな造型で一番注目して欲しいというか、放っておいても多分一番目立つのが寶強の拳。自分は武術家の拳を直に見たことはないのですが、皆本当にあんな拳をしてるんだろうかと驚くほど、節々にタコのできたあの拳。

特殊メイクでしょうが、これは一見の価値ありですよ。一方ドニーさんは多少名残があるものの、そこは3年刑務所にいたからか、稽古の足りなさから普通に戻りつつある。そのコントラストがまた興味深かった。

最後に、ドニーさん演じる夏侯武の年齢をお知らせしておきましょう。
1970年、6月25日生まれの44歳です。警察の資料で確認いたしました(笑)。葉問がいくつの設定だったかは分りませんが、とりあえず暫定的に最高齢きました。

と書いたとこで思い出した。そういえば『ドラゴン危機一発’97』でなんか無理のある老けメイクしてましたな。

関連テキスト
一個人的武林 KUNG FU JUNGLE(2014年、香港)その1- ドニー・イェン 甄子丹
一個人的武林 KUNG FU JUNGLE(2014年、香港)その3- ドニー・イェン 甄子丹

――――― 追記 ―――――
長い事、サーバーの引っ越しにかまけて放ってありました。すみません。再開にこんなに時間がかかるとも思わず、何のインフォーメーションもなくて。
実は中国語が激しく文字化けしてまして・・・これ全部確認して直すのか・・・と思ったら凹んですっかりそのままに。自分でも直したりしたのですが到底追いつかず。
もう別に文字化けしたままでいいや!と開き直りました。そのうちちょいちょい直すことにします。
やっと再開することになったので、どうぞよろしくお願いします。
過去記事読んで文字化けしてる部分を見つけた方はよかったらお知らせください。自力で直します。

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カンフー・ジャングル(€一個人的武林 KUNG FU JUNGLE:2014年、香港)その1- ドニー・イェン 甄子丹

香港で観てきたカンフー・ジャングル。王寶強という説得力と一個人的武林という原題タイトルの絶妙さ。

凶悪だよ、ワン・バオチャン、いいよ、ワン・バオチャン!
『一個人的武林』の王寶強くんは最高によかった。最凶。

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(ネタバレなし、のつもり)
上手い俳優は一杯いる、あんなに空にむかってヤー!と何度も叫ばなくても狂気を発する俳優や鬼気迫ったシリアルキラーを演じることのできる俳優は一杯いる(香港俳優だと年齢はだいぶ上がっちゃうけど)、でもこの役は寶強くんでよかったと思います。彼だからこそ、ほんとの「武痴(武術キチガイ)」に見えました。

香港映画の常で脚本にちょいと甘いとこやゆるいとこがあるだけに、観客の好感を得るためにはキャラが真に迫るか、客が「待ってました!」となるかが分かれ目。その低いんだか低くないんだかのハードルはやはり低そうで高い。

彼はアドバンテージがない分、うまくいけばとても新鮮、ヘタすれば「誰?こいつ」で終わってしまう。でも結果彼でOK、いや、どころかこの人っていつもどこか薄っすら狂気を孕んでいたんだなぁと気付かされました。勝因のうちの50%は王寶強をこの役にしたこと。
推薦したのはドニーさんらしいのですが、さすがです。

同時に武術指導したユン・ブン(『柔道龍虎房』『王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件』『ドラゴンゲート 空飛ぶ剣と幻の秘宝』)と、トン・ワイ(『男たちの挽歌』『ブレード/刀』『パープルストーム 紫雨風暴』『孫文の義士団』)もそれぞれのアクション班を引き連れて1作中連名で指導するもんだから「ここは俺のやり方で!」とばかりに非常に素晴らしいコレオを発揮。

そして少林寺で修業した基礎があるとはいえ、ドニーさんは自分が推薦したんで本気で寶強くんのリミッター外しにいきましたね。
なにせ最後のバトルは30日以上かかったそうで。

ウー・ジン、ニコラス・ツェー、コリン・チョウ、アンディ・オンと彼が外したリミッターは数あれど、正直、今まで外したリミッターの中で一番振れ幅はでかかった。「ほら、この人はやっぱ世界最高峰のアクション監督じゃあないの」とちょっと喝采を叫びたい気分。

功夫映画と武侠映画の差ってなんだろうと最近の映画で思うことがあります。

近年になるに従いその境界は曖昧で、武侠というタイトルの功夫映画があったり、その逆もしかり。これは功夫といいつつ武侠の色合いが濃い。発端は怨讐でないにしろ、武林世界一決定戦は武侠の世界のお約束でもあります。

当然現代アクションであるからにして、いきなり内功で鉄布衫(『捜査官X』でジミーさんがこれだった。鉄の身体ね)になったりはしないんだけれど、武侠映画お得意の竹林を屹立したアパートに変えそこを跳び移るのには「おお」と思い、また続く主人公がそれを追って飛べずにギリギリで躊躇する様には「これが対になってんのか、お見事」と唸ってしまいました。

テディ・チャン監督は現代に「功夫」をリアルに融合させるという快挙をしてのけましたよ。今まで多くの映画人が手を出したくても出せなかったこの偉業。

それに応えた指導の皆さんの素晴らしい設計はちょっと感激もの。自分が感じただけでも、ブルース・リー、ジャッキー・チェン、サモ・ハン、ラウ・カーリョン、ワンチャイシリーズ、『イップ・マン 序章』、『フィスト・オブ・レジェンド』(ジェット・リーの方ね)そしてドニー・イェンへの(その設計はユン・ブン)オマージュがあったようにお見うけいたしました。いや、この映画を大きなスクリーンと素晴らしい音響で観ることが出来て本当に良かった。

オープニングクレジットから、すべての映像音楽も含めが逆回しってところがもうね、「功夫」を現代に蘇らせるというコンセプトを暗示させてニヤリとさせてくれますよ。

映画はセントラルの警察署に血まみれの男が入ってくるところから始まります。男は傷だらけの顔をあげ警官にこう言うわけですよ。「私は夏侯武、人を殺めました」
ドニーさんは、雌雄を決するプライベートバトルであやまって対戦相手を殺害してしまった元警察の武術インストラクター。懲役5年の判決が下り刑務所に入って3年目。

ストーリーは武痴の寶強が「俺が天下一やああああ」とそれぞれの流派のチャンピオンに挑戦し、しかも「昔ながらの」生死をもって勝負を決めるためにシリアルキラーとなり、同じ武術家ゆえにその意味と次の犠牲者を唯一推理できる立場として受刑者のドニーさんが、警察から逮捕協力の要請を受け仮出所する、という展開。

まずは最初の掴みとして、刑務所内でのドニーさん対17人との戦い。葉問より7人多いこの設計はググっと観客の身を乗り出させるスピード。鮮やか!相手のボスにはマン・ホイ。

彼が落とした金属製の椅子の座面が床でクルクル回る音なんかすごいアクセントになっていてセンスいい。あっという間に17人をやっつけちゃうドニーさんの手腕は、わかっちゃいるけど「こいつは高手だ」と印象付けるには充分。

その後の寶強くんのチャンピオンとの功夫も使う技が違い見どころたっぷり。

シー・シンユー(シン・ユー→シー・イェンレン→ シー・シンユー←イマココ)は北腿王。北派の足の遣い手ながら今は現代アートのアーティストとして活躍する彼を同じ足で圧倒する寶強。彼の必殺キックのカッコいいことったら。設計はトン・ワイ。

続いてはタトゥーショップのオーナー、擒拿術(きんなじゅつ)のユー・カン(甄家班のスタントマンから内トラを経て俳優になった人)、この擒拿術というのはよく知りませんでしたが非常に特徴が出ていたのではないでしょうか。設計はユン・ブン。

そしてアクション俳優として名を馳せながらその実態は兵器王のルイス・ファン(しかも役名が洪葉)。最初は剣同士の闘いでしたが、その剣が折れるやその場にあるものを武器にする、ジャッキーと同じ手法とも言えますけどテイストは違います。設計はトン・ワイ。

これらのチャンピオンを彼らの得意技で(これ重要)次々に殺害する寶強。その戦い方も個性が違うとともにセットがまた一々いいんですわ、特にタトゥー・ショップは秀逸。素敵過ぎてどこ見ていいか分らん!あんな内装のカフェがあったら絶対に通い倒すわ。美術監督は毎度おなじみケネス・マク。

この挑戦の順番にも実は意味があるのですが、それはまた次回に。

そして犯人を追いつめたランタオ島大澳での水上家屋を利用した警察対寶強、警察対ドニーさん、寶強対白冰さんの戦いもいい。(ドニーさんパート以外はユン・ブン設計)

ここまででもうお腹いっぱいですが、そのうえにメインディッシュのラストバトルがもっとすごい。
久しぶりに驚いて「わ!」と何度も声が出ましたよ。時間にして多分5分以上はあったと思うけれど、長さなんか全然感じない。途中2人が竹の棒を持って闘うシークエンスなんか『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ 天地大乱』のセルフリメイクですよ、しかもリアリティ方面でバージョンアップ。

ドニー・イェンというお人は本当に才能あるアクション・コレオグラファーだと叫びたい、いや、叫ぶだけじゃ物足りないから誰かの肩をガシッと掴んで思い切り揺さぶりながら叫びたいです。
もうね、隅々までスリリング。雨上がりの猛スピードで車が行きかう高速道路という設定が痺れます。このシチュエーションはテディ・チャン監督のアイディアですが、ありがとう監督!

正直、ストーリーにはそれほどヒネリはありませんが、こと功夫に関してはすごい伏線と意味がぎっしり詰まった作品です。
現代における真功夫の姿として、それぞれのチャンピオンが武館を開いているわけではなく武術とは関係ない仕事をしているという部分ひとつとっても、いかに深く監督が功夫を思い理解しているかということがうかがえます。

商売としてでない功夫、現代の武林はまさに『一個人的武林』なのです。そしてそのなかで狂気にというか原理主義に至った武術家が王寶強演じた封於修の姿です。

彼は、ドニーさんを守るため犯人に挑む妹弟子の白冰さんに「あんたの功夫はただの踊りだ、本当の功夫は殺人技なんだよ」と叫んで彼女に剣を突きたてます。そして劇中何度も「既分高下,也決生死(生死を以て雌雄を決する)」と言います。しかし、それはまたかつて対戦相手を殴り殺した主人公夏侯武の持つ一面でもあるのです。

封於修と対峙した王者達も彼の狂気を笑わずに結局は真剣に勝負するわけで。
「誰が天下一なのか」それを見極めたい本能は武林に生きる者の宿命なのでしょうか。しかし現代においてはその本能は何の役にも立ちません。そしてその本能を超えたところにまた、功夫の本質は秘められている。

『一個人的武林』はそれゆえに極限に孤独で、それゆえに安寧である。監督の言いたいことは非常に伝わってきました。多分、観れば観るほど好きになる作品です。時間がかかってもいいから是非日本公開してください。

追記:アクション監督の名前はなんとなくドニーさんが代表した形になっていますが、そんな風に大御所の動作導演が寶強くんのアクションを分担するなか、ここでは甄家班の古参、イム・ワー(嚴華)さんの名前がこのベテラン2人に並んであります。

本当は当り前なのかもだけど・・・よかった!(台湾金馬奨では、動作設計賞にノミネートされたこの作品の代表として彼はレッドカーペットを歩いたりもしました)武器を扱わせたら天下一品、高速道路でのバトルでもイム・ワーさんのアイディアはたくさん詰まっていることでしょう。

本作は、第34回香港電影金像奨において最佳動作設計を受賞しました。当然受賞した4人の中にイム・ワーさんも入っています。やった!ファンとしてもとても嬉しい事です!おめでとうございます!

さてこの『一個人的武林』書くこといっぱいあるよー!第二弾三弾と続く(はず)

関連テキスト
一個人的武林 KUNG FU JUNGLE(2014年、香港)その2- ドニー・イェン 甄子丹
一個人的武林 KUNG FU JUNGLE(2014年、香港)その3- ドニー・イェン 甄子丹

追伸:長い事、サーバーの引っ越しにかまけて放ってありました。すみません。
実は中国語が激しく文字化けしてまして・・・これ全部確認して直すのか・・・と思ったら凹んですっかりそのままに。自分でも直したりしたのですが到底追いつかず。
もう別に文字化けしたままでいいや!と開き直りました。そのうちちょいちょい直すことにします。
やっと再開することになったので、どうぞよろしくお願いします。
過去記事読んで文字化けしてる部分を見つけた方はよかったらお知らせください。自力で直します。

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特殊身分(特殊身份)香港版が届いた。ネタバレ- ドニー・イェン 甄子丹

長い事、サーバーの引っ越しにかまけて放ってありました。すみません。
実は中国語が激しく文字化けしてまして(中には写真がリンクしてないものとか)・・・これ全部確認して直すのか・・・と思ったら凹んですっかりそのままに。自分でも一生懸命直したりもしたんですが、到底追いつかず。
もう別に文字化けしたままでいいや!と開き直りました。そのうちちょいちょい直すことにします。
やっと再開することになったので、下書きに入っていたままのコイツをアップします。
年明け早々って一体いつの話や!
あ、あと過去記事読んで文字化けしてる部分を見つけた方はよかったらお知らせください。自力で直します。

――――――――――――では、過去記事をば―――――――――――――

年明け早々、香港から『特殊身分(特殊身份)』のブルーレイが届いていました。メイキングとかガッツリつくのかと思いきや、なんと特典映像は予告編1本のみ。マジですか、JVDのDVDじゃないんだからー(涙)

さて、お手元に同じように香港版が届いた方も多いかと思います。そこで余計なお世話かもしれませんが、字幕が読めなくてもストーリーが分るポイントを書いておきます。かなり大雑把で乱暴ですがこれを押さえていれば話の流れは分る・・・かも?
以下、ネタバレ。

●警察が子龍(ドニー・イェン)の最後の仕事としてターゲットに指名し、一方黒社会の大ボスコリン・チョウが探れと言ってきたのは同じ人物サニー(アンディ・オン)。彼はかつての舎弟でありました。
●火鍋屋でアンディとドニーさんの格闘が始まるきっかけは、「彼は俺の師父だ、ただあれからちょっと太ったみたいだけど」と笑ったアンディに対して「いんや練習しとるよ俺は」と連続寸止めパンチをくらわせて挑発したため。
●アンディは子龍をボスコリンが送ったスパイと勘繰ってる
●最初の屋上のシーン「いつでも警官に復帰できるようにこうやって練習してるんだ」と自家製の空気銃を撃つ子龍。が、なかなか当たらない。そこに中国公安エリートの方靜(ジン・ティエン)がアドバイスすると、とたんに命中する
●彼女がその銃を持って屋上から降りるのは「内地じゃこれは違法なのよ」と取りあげるから。それに対して悪態をつく子龍。
●殺し屋を射殺後、彼女が屋上で泣いていたのは初めて人を殺したから。それを励ますために「もう一度コイツを撃ってみろ」と自家製エアガンを握らせる、それを見て「なによ、あなた別なの持ってたの?」。
●泣きながら狙っても腕は確かな方靜の射撃に「アンタが撃たなきゃ、俺が殺されてたんだ」と言う子龍。「・・・これはまた没収」と答える彼女に笑いながら同じ悪態をつく子龍。
●バスケットボールのシーン、アンディから「アンタより俺の方がずっと上だ、俺の下で働けや」と言われる
●夕暮れの屋上、子龍と方靜の会話「おふくろは俺のことなら何でもお見通し」というマザコンな話や、タトゥーの言葉の意味など。タトゥーは警官に復帰したらレーザーで全部消すんだと抱負を語る彼に「きっとその日が来るわ」と励ます方靜。
●アンディの事務所にオトリとして赴く子龍、そこで見たのは「子龍は警察の手先」とマージャン屋で助けた子分のひとりが病床で密告する映像、彼は潜入捜査官だとバレたのだった。
●香港に戻ってきた子龍。警察官の姿を見て自分が喧嘩っぱやく英語も喋れないためにおとり捜査官に任命された時のことを思い出す。
●自分のボスのあまりの非情さにやってられない自分の身も危ないのじゃ、とビビったアンディの部下、テレンス・インが犯罪の証拠資料を持ってボスを警察にタレこむ
●コリン・チョウの元に単身乗り込む方靜。その彼女に子龍がサツの犬だと知ってると言うコリン
●そこへロナルド・チェンが登場。コリンに不利な資料を手に入れたとして彼を連行する
●「俺を裏切ったらお前の家族もろとも殺してやる」という言葉を思い出して実家に走る子龍。おふくろが危ない!いや走らなくてもタクシーを拾うとかのほうが(略
●事件が解決して方靜が子龍を尋ねた時、彼のタトゥーが全部消えていてかなり驚きますが、前に「消す」って言ってたのでどうやら消したらしい
●ラストの不思議なタイミングで語られる台詞は「子供の頃おふくろは、いつも俺を肩車してくれた、空を自由に飛べたら世界の一番美しい部分が見えてくるのよ、って。俺には分ってる、すぐにきっと世界の一番美しい部分を見るんだ」てな感じの事を言ってます。

実はこの映画にはカットされた別バージョンのラストシーンもあり、それだと「お母さんが醤油を買ってきてくれって言ってるぞ」と上司に言われ、「わかったー」と買いに行った子龍が、彼を警察の犬と密告した奴に刺されてひっそりと死ぬというものでした。要するにギャングから復讐されちゃうというわけですね。
その直前「今までこの潜入捜査官を守って来てくれたお守りをアンタにやるよ」と仏様を掘ったネックレスを彼女の首にかけてあげたのが皮肉です。
でも、まぁ、個人的には死なないラストでよかったと思います。せっかくコメディぽい感じにしたのに最後がそれじゃちょっとバランスが悪すぎるような気もします。検閲も絶対に通らないしね。現行のラストもひと昔前の香港映画っぽいですけど。いや、どうせならいっそ70年から80年ごろの香港映画みたいに「やったー!復職だー!」とジャンプしたとこでフリーズして終わればよか(略

本作には日本のスタントマンがたくさん参加しています。
エンドクレジットには(日本)という文字入りでみなさんの名前が登場しますよ。これは分り易くてよろしいですね。

そしてクレジットのラスト付近で
(檀冰監督は契約書に合意しサインしています)という一文と法律顧問の名前、そして弁護士事務所の名が一緒にクレジットされていることを最後に付け加えておきましょう。

追記:アメリカで発売された『Special ID』には一応メイキングはついていましたが、ネットで上がってるうちの2つくらいだったかな?メイキング目当てなら買わなくてもいいと思います、なんだか画像も随分劣化バージョンだった印象だし。かといって香港盤も本当やる気なさ過ぎて酷い(涙)、もう二度と100パー中国大陸主導の映画はやらなくていいと思う。騒動で全てを主演におっかぶせたまま放置し続け、また完成品をJPEG2000で発行するところをMPEGなどというあきらかな人的ミスで仕上げたのをチェックもできない制作会社や制作人への恨みは忘れんぞ。それに怒りまくったピーター・パウの記事はここ
どの国でもそうですが、本当、映画を作る専門じゃなく別の理由で映画制作をたまたま利用してる、みたいな会社の作るものはロクなことにならない。

ところで英字幕版を見た英語圏ファンが「字幕がひでぇよ、主人公の名前も途中何箇所か間違ってるし!」とボヤいてましたが、むこうでは親しみをこめて名前に「阿」をつけて呼ぶ習慣があるんですよね、なので子龍の場合は阿龍となる。平たく言うと龍ちゃん、て感じでしょうか。
最初の黒社会の親分さんや母親がふとした時に彼をそう呼んでいました。それをまともにZilong(子龍)、Arlong(阿龍)とまんま訳してるんでそういうことになったんだと分りました、なるほど。
日本でも、オリジナルでは違うのに役名をその「阿」つきの方でフィックスしちゃってるのが結構あったりします。例えばこの映画ならずっとアーロンって名前で通しちゃう、みたいな。

関連テキスト
特殊身分 予告篇 ― ドニー・イェン 甄子丹
2013年10月18日『特殊身分』公開決定-ドニー・イェン 甄子丹
続々予告登場『特殊身分』 -ドニー・イェン 甄子丹
・・・と、言ってるそばから特殊身分(特殊身份)
特殊身分・西遊記之大鬧天宮-ドニー・イェン 甄子丹
スペシャルID 特殊身分 日本公開決定 試写に行きました - ドニー・イェン 甄子丹
スペシャルID 特殊身分 初日舞台挨拶@新宿武蔵野館

 

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アイスマン(€冰封俠 重生之門 ICEMAN 3D:2014年、香港・中国)その3追記

追記:そんなことを言ってるうちに『ICEMAN 2』の海外用ティーザーポスターが出回りました。
iceman-2

ここに、YASUAKI KURATA の文字が!!!!!
そう、冰封俠€2のラスボスは、倉田保昭さんです!(ポスターになったんだから、もういいんですよね?)先日お目にかかった際に倉田さんご本人からも、そううかがいました。
すんげーーーーーー、楽しみじゃないですか、か?か?か?今から楽しみで仕方ありません!

ロー・ウィンチョン(羅永昌)から、『李小龍(ブルース・リー) マイブラザー』やピーター・チャンと共同で監督した『ウォー・ロード/男たちの誓い』のレイモンド・イップ(イップ・ワイマン、葉偉民)にバトンタッチです。

関連テキスト
冰封俠 重生之門 ICEMAN 3D(2014年、香港・中国)@HK-ドニー・イェン 甄子丹
冰封俠 重生之門 ICEMAN 3D(2014年、香港・中国)その2

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アイスマン(€冰封俠 重生之門 ICEMAN 3D:2014年、香港・中国)@HKその2 – ドニー・イェン

原点はユエン・ウーピン。

前回ドニーさんの『冰封侠 重生之門』のことをエントリーしたあと、つらつら思いを巡らせておりました。
アクションは当然面白かったし見応えがありました。が、勢いで書いたものの、あれは自分の感じた事の全部じゃないなって。

この作品で一番もったいないと残念だったのは『タイム・ソルジャーズ/愛は時空(とき)を超えて』という極上の題材がありながら肝心の「古代人が現代で右往左往する」という素晴らしい愛されキャラクター設定をまったく活かさず、人物像やストーリーではない放屁とか便器爆弾や他作品のパロディなど表面的な「お笑い」シークエンスに力を入れちゃった、というところ。

この映画ロー・ウィンチョン(羅永昌)が監督としてクレジットされておりますが、ドラマ部分も含めほとんどはドニーさん本人が監督していると言っていいのだと思います。
なぜならサイモン・ヤム1人の場面になるとそこだけ明らかにトーンや絵作りが違う。ジョニー・トーのような緊張感が漂う多分これがロー・ウィンチョン監督が単独で撮ったシークエンス。それ以外のドニーさんのドラマシーンは監督がいたとしてもドニーさん主動だったと想像するんですよね。

少なくともアクションシーンでは他の誰かが便器爆弾をやらせようとしてもドニーさんが必要ないと言えば絶対に実現することはありません。もうそれくらいのスターでありアクション監督なわけで。だからあそこは他でもないドニーさん自身が「いい」と思って取り入れたエピソードです。

たまたま昨日、出張先から帰京した足で中田圭監督と「第33回香港金像奨を総括する」と題した会食をいたしました。
話すうちに観たばかりの『冰封侠』のことに。その流れで『在一起(原題)』の話題になったところで唐突に蘇った。過去彼の監督作『ツインローズ』でも道一面に転がってる犬のフンをツインズのシャーリーンが走りながら避けたりしてたなぁと。そうだドニーさん、昔からウンコ好きだったんじゃん!
それはオープニングこそスタイリッシュなアイドル映画然としていますが気がつけば誰得?なシークエンスや正直どこが面白いのか自分にはよくわからない(笑)滑ったギャグが全編に散りばめられたアクションコメディ作品でございました。私としたことが忘れておりましたわ。

・・・『冰封侠』はやっぱりドニーさんのセンスだ。

そういえばレビューで『これは「ウンコ」「しっこ」「おならブー」と言うだけで笑い転げる小学校1年生くらいがターゲットなのでしょうか。』と書きましたが、その小学1年生こそドニー・イェンその人です。なるほど共演した女優のほとんどから(最新は冰封侠で共演した黄聖依)「彼は子供みたいな人」と言われるだけある、さすが宇宙最強。

そしてそのセンスの原点がどこにあるかといえば、間違いない、ユエン・ウーピンだ。
ウーピン師匠が量産していた時代彼の功夫映画を思い返すとまさにこの小学1年レベルのお下劣かつ単純おバカなギャグをこれでもかと畳み掛けてくることがお約束となっておりました。これぞ純粋ウーピン印。
アクションもさることながらそのベタなギャグの数々は成龍という唯一無二のキャラクターと融合しTV放映された翌日の教室で小学生がこぞってマネをするという結果を生んだわけです。

そのユエン・ウーピンが監督しドニー・イェンを主演に据えたコメディが『ドラゴン酔太極拳』と『情逢敵手(原題)』という伝説の2作品。

『冰封侠 重生之門』は彼がユエン・ウーピンのあのセンスまでしっかり受け継いでいるという証、ある意味原点回帰の1本であります。なんという恐るべき師弟関係。

ただそれがドニーマニアの暖かい愛情があればこそ楽しめても、この21世紀に3Dで撮った甄功夫作品としてたくさんの観客に愛されるかどうかは私にも分りません(笑)少なくとも「ドニーさん、マニア向けじゃないなら自分でコメディ撮るのはやめたほうがいい・・・」と心の中で呟いたことは事実です。

このコメディセンスの非常に近い師弟が、この後がっぷり四つを組んで制作するのが『グリーンデスティニー2』(ユエン・ウーピン監督)と『イップ・マン3』(ユエン・ウーピンアクション監督)という話題作。

正直、今から色んな予感がしてドキドキしております。

関連テキスト
冰封俠 重生之門 ICEMAN 3D(2014年、香港・中国)@HK-ドニー・イェン 甄子丹
冰封俠 重生之門 ICEMAN 3D(2014年、香港・中国)その3追記

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アイスマン(冰封俠 重生之門 ICEMAN 3D:2014年、香港・中国)@HK-ドニー・イェン 甄子丹

ドニーさんめっちゃ飛びだしてた!と第一声に言いたくなる3D。


香港に行く前に蘋果日報でぶったまげるようなすごいフッテージ映像を見て、かなり動揺したまま本編を観ることになったのだけど、かえってそれで良かったみたい。

お話は、明朝時代雪崩に巻き込まれ冷凍保存された錦衣衛が400年の時を経て現代に蘇るというもの。しかも事故直前まで戦ってた怨念を抱えた男達も一緒に蘇ったもんだから香港は上を下への大騒ぎ、という映画。
1989年に公開されたユン・ピョウとマギー・チャン主演『タイム・ソルジャーズ/愛は時空(とき)を超えて』のリメイクと謳われておりますが、まぁ例によって設定だけお借りしたオリジナルストーリー。

冷凍カプセルを積んだトラックが事故を起こし、解凍された主人公が登場するところからいきなり始まります。テンポいいじゃないの。
「うお、ターミネーターか?」とビビって隠れる盧海鵬(ロー・ホイパン)さんを尻目にすくっと立ちあがったドニーさん、やおら400年分の放尿。
そう、この映画、ゲロ度は薄め(やっぱあるんかい)ですが、それ以外のものが結構ございます。

自分が見てぶったまげたフッテージというのが、まさにそこを特集したものだったわけですが、これはあらかじめ知って覚悟しておいた方がよさそうな気もするのでここで書いちゃいますね。
と、いうわけでネタバレです。



まずトイレの水を飲みます。古代錦衣衛なんでトイレが分らないから井戸と思うわけですね。これはオリジナルであるタイムソルジャーズから採用したエピソード。

そして豪快に放屁もします。1回じゃなく2回。それが今時TVのコントですら聞かないような威勢のいい音でして。
おまけにウンコ爆弾があります。しかも直前に便座に座るサービスつき。2回の放屁のうち1回はここで放たれます、かなりいい笑顔で。
その後、特殊部隊が突入したタイミングでこの便器が爆発、屋根を突き抜け無駄に3Dで宙に飛びだしたりする。当然、内容物も一緒です。で、そいつが包囲した警官隊に・・・合掌。

立ちションシーンももう1度ございます。両方ともに野趣満点てなもんじゃない、立ちションというより放射。ここまでくるとクスッとする人もいるでしょう、私がそうでした。
(あ、警官隊のなかにジョン・サルヴィッティの内トラもありました。さすがリアル軍隊にマーシャルアーツ指導してるだけあって様になってる。でも帽子の下はカツラ)。

このフッテージをネットで見た時はかなりうろたえました。その際の正直な感想はさすがのワタクシをもってしても「どどどどどこへ行こうとしてるんや、宇宙最強!」

世の中には「厨二病」という言葉がありますが、これは「ウンコ」「しっこ」「おならブー」と言うだけで笑い転げる小学校1年生くらいがターゲットなのでしょうか。

が、事前に知ってたお陰かどうか、流れの中ではそれほどショックでもなく普通に流して見ることが出来たのが不思議。
初見だったら劇場の椅子からずり落ちたかもしれません。実際客席からは悲鳴ともつかない「うげええ~」という唸り声のようなものがあちこちから漏れておりました。天は我に味方したね!

そんな誰得?なシーンさえやり過ごせば、あとはカッコいいドニーさんがいっぱい登場します。

なかでも九龍尖沙咀にある香港大空館のドームの上で仁王立ちする長髪錦衣衛姿とか、「自分で考えたんっすよね、そのショット!」と突っ込む隙もない位かかかかっこいい。

CGはその前に見た成龍の『ポリス・ストーリー/ レジェンド』のほうに軍配は上がりますが、心配したほど悪くない。

アクションも相手役の王宝強(ワン・バオチャン)くん頑張ってて、中国では彼が盾を持ってるのでキャプテン・アメリカ『美国隊長』ならぬ『中国隊長』とか言われてる。

この王宝強くんは大陸で今とても人気のある俳優。
内地スターのほとんどが有名大学の映画科卒業のエリートというなか、異色の経歴の持ち主です。

ジェット・リー(リー・リンチェイ)の『少林寺』に憧れ両親の反対を押し切り俗家弟子として8歳の時に東嵩山少林寺に入門。6年に及ぶ厳しい修行の末に“恒志”という法号ももらい、その後、映画やテレビのエキストラをしつつ建築現場などで働きながらスターを夢見ていたという苦労人なのです。

ちゃんとした役をもらったのは2003年ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞した李楊(リー・ヤン)監督の『盲井』(中国の社会問題を描いたとされるこの作品は内地では上映禁止)。

これが認められ、TVドラマや馮小剛(フォン・シャオガン)監督の『イノセントワールド -天下無賊』『戦場のレクイエム』に出演、そして2012年に中国映画の興収歴代1位という大記録を打ち立てた『人再囧途之泰囧』というコメディで誰もが知るスターのひとりになりました。

少林寺出身ながら、今まで本格的なアクション映画に出演したことはなく今回が初めて。
ドニーさんも小柄ですがさらにちっちゃい宝強くん、当り前かもだけど動きがいいよ。

狭いディスコを舞台にしたシーンはまず2人のワイヤーなしという白打の闘い。お互いに古代人だからか、MMAは使わず当然ながら功夫対決。このあとたっぷりCG処理しますからね、最初はシンプルに。見応えあったわ!

そこへきてSEがいい。音楽もいい。川井憲次でも陳光榮でもないのは新鮮でした。担当したのは『ヒーロー・ネバー・ダイ 真心英雄』『暗戦 デッドエンド』『少林サッカー』『カンフー・ハッスル』などの黄英華(レイモンド・ウォン/ウォン・インワー)。

そしてクライマックスは17分にも及ぶ青馬大橋でのラストバトル。
カースタントコーディネーターはブルース・ロウ。まずはこのカースタントが派手に決まってます。

ちょうど同じ時にダンテ・ラムの『魔警』でン・ホイトンのカーアクションを観たので、この2人のテイストの違いを感じるのは楽しかった。

に、してもすんごいスケールがでかかった!間違いなくドニーさんにとっては最大のスケール。

なにしろ100台の車両と数百人のエキストラ(フカした数とは思うけど)を使い、半年かけて撮影したそうですよ。2人乗りのVespaでの追跡に始まって白馬に乗り替えランボルギーニとの一騎打ち。そこへ宝強と、甄家班の1人から今回俳優へと転身したユー・カン(喩亢)が車の屋根をパルクールしながら迫ってくる。ユー・カンってのは『かちこみ!ドラゴン・タイガー・ゲート』のシブミの中の人および『捜査官X』で谷垣さんの相棒役だった人ね。

スピードは速いし色んな物が飛び出してくるしで、もうなにがなにやら(笑)。こっちの息が上がりそうだ。とにかくパワフルで見てるだけでお腹が空きそうな勢い。

決着はどうなる?と思ったところでドニーさん、吹っ飛んできた車にぶち当たって橋から海にドボーン、うお!と息を飲んだところで「続く」。

そう、これは前後編なのでした。ボーンシリーズかよ!と突っ込みたくなる水中カットでアクションシーンは終わり。いや~ん、続き見せてくれー!!!

その後は警察の副署長だと思っていたサイモン・ヤムも実は400年前に一緒だった錦衣衛の義兄弟の1人とわかり、謎が謎を呼び、ってとこでテーマソング。

アクションシーンはね、本当にすごかった。それぞれの武器が個性的。こっちにむかって放たれる円盾とかドニーさんの鎖とか、文句なしにカッコいい。

スケールの大きさにびっくりしたままあっという間に終わった気がしたくらい。しっかしアクションデザインのヴァリエーションが豊富ですね、さすがですドニーさん。
作品のテイストとしてはコメディタッチ。悪役とはいえ、そこは王宝強、美味しいところをさらう場面もたくさん。

ただ前後編という事もあって壮大なるイントロダクションで終わるのは映画としてはどうなんすかね。
マーベル風味もあったり雪ちゃんをこっぴどくいじめたり、ニンマリ度はとても高い。そのうえでドニーさんの笑顔とか結構自然で超キュートだったし。

ま、自分が良ければそれでいいか。


ここで制作秘話。

王宝強くんは8年前の駆け出しの頃、知り合いの業界人に頼み込んで北京に映画のプロモに来てたドニーさんに面会させてもらったことがあるそうな。その時に「自分はアクション映画に出たいんです!」と蟷螂拳を目の前で披露したらしい。彼は何かにつけオフィシャルの場で「功夫映画に出たい」と言い続けていた俳優。

この作品のプロモーションでは
「子供の頃から丹哥の映画を見て育ちました。丹哥は僕のアイドル、あれから8年です、痩せた小さな子供の功夫映画に出たいという夢を丹哥が叶えてくれたんです、彼には心から感謝しています」と明かし「丹哥は撮影中ずっと刀と盾の扱いを教えてくれたんだ、丹哥は斉天大聖、現場では不可能なことなんかない、まるで72般の変化の術みたいにどんな武器でもうまく操ることが出来るんだよ、丹哥はね、丹哥はね、丹哥は・・・」とまるで熱狂的なファンみたいに話し続けて、あの「自分大好き誉められるのも大好き」なドニーさんに「わかった、わかった、宝強、俺にも喋らせろ」と言わせたくらいですからね。

恐ろしい子、宝強。

この懐きようにドニーさんも彼が気に入ったようで『冰封侠』1,2に続き『一個人的武林』でも共演ですもん。可愛がってることがうかがえます。こっちのほうの宝強はマジでシリアスな役どころの様ですよ。

さて、ここまでネタバレしちゃったんだから、もうひとつおまけ。
劇中ドヤ顔してクラブのママに差し出した紙は「大明通行宝鈔」という明朝時代の紙幣(『処刑剣 14BLADES』にも登場しました)。

当時も使える場所は限られていたようであんまり当てにならないお金だったらしい。これが何を意味するのかは一般教養のようで、このシーンでお客さん大いに笑ってました。

オリジナルのように自分を助けてくれた小美(黄聖依、ホアン・シェンイー)のためにお料理をするシーンなども実は撮ってたようです。スチール写真では見ました。

が、本編では思いっきりカットされてましたね。自分としては現代の生活にパニくる錦衣衛の姿が楽しみのひとつだったのですが、そこはさらりと流されてしまい、残念。

谷垣さんが手配したと言うスノボ場面もちゃんとJapan crewとしてクレジットがありました。私たちは彼のインフォメーションのお陰で事情を知ってますが、中国人にしたら一体どこを日本で撮ったんだと不思議でしょうね。

今日無事に大陸でも公開されたので、ちらっとネットを見たらランタイムが90分切ってるみたい。香港では確か103分という時間だったから結構カットしたようで。どこを切ったか知らないけど、ひょっとしたら大陸版位のコンパクトさのほうが、よりイケてるかもしれません。

ところで後編の公開はいつなんでしょう、早く続き観たいなぁ。
どうやら中途半端な長さのカツラがうっとうしかったらしく(長髪はともかく、あの外ハネはちょっと生活に追われた奥さんちっくだったよドニーさん)早々に髪を切り見慣れた短髪姿の様ですよ。

ストーリーは分りませんが、今度の敵は倭寇でっせ、南北朝時代の日本の海賊っす。ラスボスは・・・噂によるとすんごいお人。
それが本当なら絶対に見応えのある対決になりますね、楽しみだ!

《3D€冰封俠:重生之門》先行預告 ICEMAN 3D Official Teaser Trailer
Iceman 冰封俠€: 重生之門 Official Trailer
ICEMAN Final trailer:Donnie Yen 冰封 重生之門最終預告:甄子丹
私がかなりうろたえた映像はコチラ いや、別に自分を落とさんでええから。
王宝強くんをスパルタで鍛えた一端は↓
《3D冰封俠€:重生之門》 製作特輯之蘭桂芳Disco ICEMAN 3D 2nd Making of
宝強いわく、丹哥の設計はシンプルに見えてすごく高度な動きで大変苦労したらしい。

ドニーさんはなにかってーと「いいよ~、これはキープね。今は60パーだけど、もう一度やって80パーにしよう、うまくいったら昼飯だ」とか、OK出したら黙ってリンゴを渡すとかある日はそれがバナナだったとか、始終食いもので釣ったらしい(笑)。

まるで動物の調教じゃないすか、それ。

関連テキスト
冰封俠 重生之門 ICEMAN 3D(2014年、香港・中国)その2
冰封俠 重生之門 ICEMAN 3D(2014年、香港・中国)その3追記

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蔵出しその10(2014)

那夜凌晨,我坐上了旺角開往大埔的紅VAN The Midnight After(2014年、香港)

監督
陳果(フルーツ・チャン)

動作設計
黄偉亮(ジャック・ウォン)

制作
錢小蕙(エイミー・チン)

演員
黄又南€ (ウォン・ユーナン)
文詠珊 (ジャニス・マン)
徐天佑 (チョイ・ティンヤウ)
惠英紅 (クララ・ウェイ/ベティ・ウェイ)
任達華 (サイモン・ヤム)
李燦森(サム・リー)
李尚正 (リーションチン)
林雪 (ラム・シュー)

観る前はまったく分ってなかったのだけど、実はこれ香港のネット小説ですごく流行ったものの映画化でありんした。
旺角から大埔に行く通称「紅VAN」と呼ばれるミニバスに乗り合わせた16人の乗客とドライバー。夜中の2時25分に旺角を出発し、道中で彼らは気がつくのです。香港、いや、世界中の人間が自分達を残し消えてしまったことに。

設定がいい、キャストがいい、音楽がいい。世界の終末を匂わせる緊張感とそれを緩和するユーモア。台詞がわかったら、もっと様々な香港的な社会風刺なども散りばめられていたのでしょう。が残念ながらそこまでは理解できませんでした。でも見応えある1本。
何も知らずに結構グロいのかと構えてたらそんなこともなく助かった。
なんか中途半端な終わりだなと思ったら、どうやら前後編だそうで。なるほど。
グロいと勘違いした理由は雪ちゃんのこのスチール

一番のハイライトはディビッド・ボウイのSpace Oddityが流れるとこ。しびれた、マジで痺れちゃいました。
同じ日に観た『冰封侠:重生之門』が香港メジャー観光案内なら、こちらは超ローカル。同じ機会に『豪情3D』にも行ったんだけど、登場した東京の街並みに自分が妙にテンション上がったように香港人がこれでガンガン上がっても不思議ないよね。

ただ台詞がぼんやりとしか理解できずに残念、結構笑いがありました。特にサイモンヤムの役は観客のお気に召したようで。こちらも『冰封侠』に登場してたけれど、まったく違うキャラにあらためて芸達者だなぁと感心。
ドライバー役は林雪。なんてぴったんこな役でしょうか。すんばらしい。

途中謎の日本人が登場するんですが、そいつの最後に放ったキーワードが巡り巡って「福島」ということなってちょっと困ったなと感じていたところ、大事な人を失った喪失感へと変化していったあたりで解消できて心からホッとしました。
正直ご都合でその言葉が出て来たなら、かなり引いたと思うので途中ドキドキしましたよ。(いや、まだ後編があるから予断は許さんか)
黄又南 が偶然にも受けたガールフレンドの電話で母親が死んだ事を聞かされた時は自分も思わずグッときました。いい演技だったよ!

とりあえず、観た後にずーっと頭の中でボウイが歌ってました。帰ってさっそく聴いたわ、しかもターンテーブルでひさびさレコードで聴きましたがな。映画祭でいいから是非上映してほしい。できたら前後編一挙に観たいところ。後編に大いなる期待。

にしても徐天佑くんは段々アーロン・クォックに似て来たなぁと。まぁそれだけ男前ということでいいんすよね。

魔警 That Demon Within(2014年、香港・中国)

監督
林超賢(ダンテ・ラム)

動作設計
郭振鋒(五毒のひとり、フィリップ・コク)
谷軒昭(コク・ヒンチュウ)

出演
呉彦祖(ダニエル・ウー)
張家輝(ニック・チョン)
安志杰 (アンディ・オン)
思漩
林嘉華(ラム・カーワー)
廖啓智(リウ・カイチー)
歐錦棠€(スティーブン・アウ)
李國麟(リー・クォックルン)
戚冠軍ツ黴€(チー・クアンチュン)

カースタントコーディネーター
呉海堂(ン・ホイトン)

音楽
高世章(レオン・コー)

今香港で一番のってる男、ダンテ・ラムの新作。客の入りは今回の香港映画で一番。みんな大好きなんだなー。
とにかくダークだダークだよ、なのに派手だよダンテ・ラム。その派手さでお腹いっぱいだよ、ダンテ・ラム。
主演はダニエル・ウー。いつもってわけじゃないけど、彼がシャツのボタンを上まで留めているといつもそうだった気がするから不思議だ。今回は間違いなく上まで留めてます。

オープニングからめっちゃ派手。監督は本作で内トラ決めて腕を吹っ飛ばされてます。それがやりたかったんだね、ダンテ・ラム。
ニック・チョンはというとダブル主演のような宣伝がされていましたが、どちらかというと助演といった役どころ。窮地に立っても顔色一つ変えずに脱するあたりはニック・チョンらしさ満載。いままで何度観たでしょうかこんな彼。
ダニエル・ウーは、精神的にワケありの男で彼の過去と現在の事件が交錯するあたりが非常にサスペンスに満ちていて「どうなるんだー」と思わせる。最後はそうきたのか、という真実もヒネリが効いていてよろしかった。
無口な主人公の代わりに、音楽が雄弁に喋ること喋ること、すごくよかったな~。作曲は『ウィンター・ソング』€(2005)『ウォーロード/男たちの誓い』(2007)『大魔術師Xのダブル・トリック』(2012)をてがけた高世章(レオン・コー)。

が、終盤になるといきなりアンディ・オンがまた不憫な使われ方をしていて、個人的な感想といたしましては「またそこかよ!」と心の中で思いっっきり突っ込んでしまいました。「困った時のアンディ・オン」そろそろ解放してあげてくれよー。
と、文句を言う暇もなく、最後はアクション!カースタント!爆破!爆破!バクハ!ば く は!
気がつけばやはりダンテ・ラムの勢いに圧倒されてしまいました。

この作品、当初は実在する事件の映画化みたいに言われておりましたが、観たところどうやらそうでもないようでした。実感としては、その事件とはまったく違うストーリーかと。

とにかくね、どこを切ってもダンテ・ラム。ファン必見の一本です。びっくりするほどダークさに磨きがかかっていましてよ。
どうやら最近は監督の事を「主演男優賞製造機」というそうですが、さて、今回でダニエル・ウーは影帝になれますでしょうか。

ドニー・イェンファン的には『冰封俠 重生之門』を観る前にこの『魔警』を見ておくことを強力にお勧め。

豪情3D(2014年、香港)

監督
李公樂(リー・コンロッ)

制作
古天樂(ルイス・クー)
陳慶嘉(チャン・ヒンカー)

出演
杜汶澤(チャップマン・トウ)
何超儀(ジョシー・ホー)
沖田杏梨
葵つかさ
波多野結衣
蒼井空
夕樹舞子
辰巳ゆい
加藤鷹
曾國祥(デレク・ツァン)
古天樂 (ルイス・クー)
呉君如 (サンドラ・ン)
蔡卓妍(シャーリーン・チョイ)
王晶(ウォン・ジン)
袁嘉敏(キャンディ・ユエン)

おっぱい飛び出してた!AVのことや女優とかもっとよく知ってたらこの10倍はおもしろかったのかも?と思うとちょっと口惜しい。
最初から最後までドッカンドッカン観客が大笑い。公開されてすでに3週目だったと思うけれど、金曜とはいえ夕方17時の回にこんだけお客さん入ってるなんて、ものすごいヒットしてるんだと感心しました。カップル率がやたら高かった。
ボディメイキングしたチャッピーはめっちゃんこカッコよく、女優たちは素晴らしく美しい、特にその磁器のような肌、うらやましい。これは3Dで見ないと損。でもストーリーは、ないので(笑)ダメ男映画というわけでも、ない(笑)

成り行きで出演したアダルトビデオの現場で臆したチャッピーが女優にリードされ襲われる様が「カワイイ」と評判になり一躍日本で人気アイドルAV男優に、というファンタジー。厳密に考えると「そういう痴女ものとか女教師ものなんか一杯あるやろ!」と突っ込みたくもなるけど、それはヤボってもんすね。

東京ロケがふんだんで、知ってる場所で彼やジョシー・ホーが演技してるのが妙におもしろかった。ひょっとしたら東京で彼らとばったり出くわした人もいるのかも。出くわすで思い出した。今年の正月に香港の某映画館のそばでチャッピーと奥さん田蕊妮(クリスタル・ティン)とすれ違ったのでした。多分、映画に行く途中だったのでしょうね、2人は手をつないだとてもカワイイカップルでした。

さて、話を戻すと、あちこちにAVやら映画やらのパロディが一杯。なにしろ本物の加藤鷹さんや、近いとこでは『€金鶏SSS』の阿金が登場したもんな(本編の方はともかくこのサンドラはどうかと思ったけど、ま、良くも悪くもサンドラ・・・なのか?)まだ公開されてないのに彭浩翔(パン・ホーチョン)監督作『香港仔』のパロまであったよ。

が、しかし、一番ウケたのはチャッピー扮する小澤マリオのライバル「長崎直樹」の登場とそのビデオ。何の情報も入れずに観たので腹抱えて笑ったわ。映画館であんな大声で笑ったの生まれて初めてだ。あまりの衝撃に脳の血管が2,3本切れたと思う、いや、ほんと。

帰って調べたら、2003年に『豪情』という古天楽とイーソン・チャン主演の映画がすでにありました。だから当初この映画は「豪情2」と言われていたわけですね、監督はチャン・ヒンカーと今をときめくダンテ・ラム(笑)。
主人公や話は違うけど唯一の共通点は、古天楽がプロデュースしているという点。彼はこの2作しかプロデュースしてないんですよね~。興味深いお人です、ルイス・クー。

 

 

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キョンシー(殭屍 Rigor Mortis :2013年・香港)

監督・脚本
麥浚龍(ジュノ・マック)

動作設計
鮟ヨフ亮(ジャック・ウォン)

製作
麥浚龍(ジュノ・マック)
清水崇

出演
錢小豪(チン・シウホウ)
陳友(アンソニー・チェン)
惠英紅(クララ・ウェイ)
鮑起靜 (パウ・ヘイチン)
盧海鵬(ロー・ホイパン)
蜷ウ耀漢(リチャード・ン)
鍾發(チョン・ファ)
樓南光(ビリー・ラウ)

2013年の東京国際映画祭で『リゴル・モルティス/死後硬直』というタイトルで公開されて評判のすこぶる良かった作品。ジュノ・マックが真剣に「キョンシー」にリスペクトを捧げたホラーとして監督し、霊幻道士シリーズでお馴染みの面々が出演していることは知っていました。

その後『特殊身分』を観に行った香港で、後発ながらぶっちぎりで客の入りが良かった映画でもあります。観ようかどうしようか相当悩んだのですが、事前に見ていたスチール写真が血まみれだったのでてっきりスラッシャー系のグロかと勘違いし(なにしろこの監督が痛そうな殺され方をする警官として出演した『ドリーム・ホーム』とかほとんど薄目でやっと乗り切ったくらいだし)どうしてもチケットを買う勇気が湧かなかった。バカバカ、私のバカ。

その後日本語字幕のない輸入版で観ました。

かつてキョンシー映画で人気者になったこともあるアクション俳優が落ちぶれ死に場所を求めて古びた集合住宅に入居するところから物語は始まります。

そこで暮らす謎めいた住人たちと自縛霊。その一人である老人が階段の転落事故で亡くなり、長年連れ添った妻は悲しみに耐えきれず夫の遺体を「殭屍(キョンシー)」として蘇らせようと道士に依頼をしてしまう。

ヒットしていてちょうど現地にいたんだからやはり無理してでも行くべきでした、今となってはすごく後悔。

この映画でこんなに泣くとは思いもよらなかった。
かけがえのないものを失くしてしまった喪失感を抱えた人々が集うボロボロの高層アパートは、漂う塵芥のように常に哀しみが浮遊する場所でした。やがてその哀しみは断ち切れない連鎖となって悲劇を紡いでゆく。

もちろん人がいっぱい死にます、血もドバドバです、アクションシーンも結構なものです。それでもなお、性根の悪い人はひとりも登場しない。そこがある意味、この映画のキモなのかもしれません。自分は(いい意味で)怖くもグロくもなんともなく、手のうちに残った儚い雪のような哀しみに最後は奇妙な清涼感すら覚えてしまいました。

そしてこんな映画を作ったジュノ・マックの才能に驚きました。しかもそれをキョンシーシリーズゆかりのキャストで見事に(彼らの演技も全員お見事)描ききったその力量、素晴らしい。

日本でもリリースされそうな予感がするので、今度は日本語字幕で観てみたい。いい映画なので公開さ~れ~ろ~

最後に、先日の第33回香港金像奨では当然のごとくクララ姐さんが助演女優賞を獲得(彼女が獲らなきゃ暴れてるところ)。でもほかの役者さんも含めもっと評価されてもよかったのに、と心秘かに思ってしまった次第。

《殭屍》香港版正式電影預告

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