緑茶(2002年、中国)

なるほどカメラはクリストファー・ドイルやったんやね

監督
張元(チャン・ユアン)

キャスト
姜文(チアン・ウェン)
趙薇(ヴィッキー・チャオ)
方力鈞(ファン・リジュン)

なんか、気がつけば中国第六世代監督の作品が続いてる?いやいや、偶然ですって、ほんと。
だってこの映画に至っては、チアン・ウェンとヴィッキー・チャオが出てるってことしか分らず、予告みてきれいな絵だなぁと調べてみたら日本でソフトになっていたので借りたもの。カメラマンがクリストファー・ドイルだって事すら知らなかった。道理で絵に惹かれるわけだ。

ヴィッキー・チャオはお固くて可愛げのない大学院生と高級ラウンジでピアノを弾く高級娼婦という2役。この大学院生とお見合いをしてこっぴどく嫌われたのに彼女に惚れてしまう男がチアン・ウェン。この2人の女が同一人物かってことで途中引っ張るんだけど、あんな時間と台詞を要したのに監督にとってはそれはあまり重要じゃなかったようで(笑)正直ストーリーはあまり気にしないで、雰囲気とあの映像に身をゆだねればよろしいかと。

と書くと、大して面白くないかもと思われたら困るな、いや、面白かったよ。緑や赤、青の使い方がよくってね。美しく印象的なシーンが多くてロケ場所も素敵、すんごく目の保養になりました。2人の俳優がとても魅力的に映ってた、それだけでもうOKでしょう。

にしてもずっと気になってたのは、あの姜文の役の男って何の仕事してたんだろう?

今まで見たヴィッキーでは一番好き。この予告の感じから離れてない。
緑茶 日本語版予告編 2002年 中国作品

カテゴリー: film | タグ: , , , , , , | 緑茶(2002年、中国) はコメントを受け付けていません

ココシリ(2004年、中国)

なんという圧倒的な映像。なんという過酷な現実。

監督
ルー・チューアン(陸川)

キャスト
トプギェル(多布傑、日本語表記ではデュオ・ブジェとされることもアリ)
チャン・レイ(張磊)
キィ・リャン(亓亮)
チャオ・シュエジェン(趙雪瑩)

同じ監督の『ミッシング・ガン』の時にこんな風に書いたのに思いの外長い時間をかけてしまいました。
・・・上手い言葉は見つかりません、すごい映画です。

冒頭、居眠りをする男の車の窓をトントンと叩く音がする。目を覚ました男は銃を持った男達に連行され、彼らは銃で高原を逃げるカモシカを撃ち、日が暮れると懐中電灯の明かりの下その皮を剥ぐ。
やがて捕えられた男は1人からこんな風に尋ねられる。「お前は山岳パトロールか?」「ああ」「じゃ、リータイの部下か?」「ああ」「縄を解いてやれ」そのとたん、質問した男は捕えられた男の頭を銃で撃ち抜く。

舞台は90年代後半、中国チベット高山地帯でありチベットカモシカの生息地ココシリ。その毛皮が高級毛織物の原材料として高値で取引されることから密猟が横行、10年ちょっとで数は100万から1万にまで激減していました。そこへ取材としてやって来た北京の記者が、密猟団を追う地元の自警団である山岳パトロール隊に同行するという実話を基にした内容。

まずはこの映画の撮影に関わった人達に敬意を表します。なんという圧倒的な映像。
過酷な自然をフイルムに納め、そのなかで生き生きと演技をする人々の姿は、観る者に自然に対するシンプルな恐怖と畏敬の念をグイグイ突きつけてきます。叶うことなら劇場で見たかった。

追う方(山岳パトロール)と追われる方(密猟団)の背景はあまり多くは語られません。元軍人のリーダー以外は学生や運転手など素人で、なのに命がけのしかもボランティア集団。伝わってくるのは自分達とともにあるはずのカモシカや民族としての誇りを守りたいという執念。一方密猟団の方は、牧草地の砂漠化によって貧困からやむにやまれず密猟の実行犯として働く元遊牧民だったりするわけです。しかも冒頭のシーンが示す通り彼らは殺人さえ厭わない。もちろんパトロール隊にも様々な事情から矛盾をはらんだ行動もします。この敵対するふたつは同じ地に生きる同胞であり(密猟団のボスはちがうかもしれないけど)同時に両者ともに厳しい自然を生き抜くための戦いをも強いられている。

いわばコインの裏表のような存在で、いずれも中国政府の重商主義、自然破壊に対する無理解と無策から犠牲になっている人々です。しかし中国大陸で公開される映画には政府機関による「検閲」という制度があり政府に対する批判はできず、そのために誰の口からも決してその根本は語られることはありません。

それゆえなのでしょうか。こういった映画にありがちな記者目線での正義の定義や可愛らしいチベットカモシカの姿に感情移入させるような自然賛歌、登場人物との人間的交流などは一切排除されており、最後の方はどれが隊員だかどいつが記者だか見た目じゃ分んなくなるくらい。

が、この徹底してブレない映画としての冷静な姿勢は、かえって圧倒的な説得力を生み淡々とした流れにたとえようもない現実味を与えました。

好きとか嫌いとかをはるかに凌駕する作品。出会えてよかったです。

カテゴリー: film | タグ: , | ココシリ(2004年、中国) はコメントを受け付けていません

薄氷の殺人(2014年、香港・中国)

グイ・ルンメイの虚無感をたたえた眼差しがすべてを物語ってる

監督
ディアオ・イーナン(刁亦男)

キャスト
リャオ・ファン(廖凡)
グイ・ルンメイ(桂綸鎂)
ワン・シュエビン(王学兵)
ワン・ジンチュン(王景春)

公開されて初めての水曜日、新宿武蔵野館の18時半の回はほぼ満席。スクリーンの中は寒いのに途中からやたらと暑くてのぼせるかと思っちゃいました。
本当はこの後にシネマカリテでキム・ギドク監督の『メビウス』を観るつもりでしたが道中電話とかしてたら劇場には「メビウスはソールドアウト」という貼り紙。続けて『メビウス』観ようと考えたのは偶然だけど『薄氷の殺人』が始まって4分くらいしたら、すごいナイスなチョイスなのかも!と思っただけに返す返すも残念。あああああああ!一日一回上映の水曜日舐めてました。

自分は贔屓俳優とかジャンル(しかも範囲はすごく狭い)を中心に映画を観るくらいなので、この作品がベルリン国際映画祭の金熊賞を獲ったことも実はすっかり忘れていました。だけど直近の台湾金馬奨で作品賞候補になったのを覚えていたのと、大好きなグイ・ルンメイが出演しているということで楽しみにしてたんですよね。

想像したよりうんと荒削りでしたが、ファーストショットからビンビン良作の匂いが。
特にロケ先に選んだハルピン。上海でも北京でもないこの土地の佇まいが興味深く、貧しくド田舎な風情と対比を成すスケートリンクでかかる音の割れた『美しく青きドナウ』の安っぽさや違和感を放つギラギラネオンのナイトクラブ、やたらとケバケバしく装飾された観覧車の不自然さが現代中国の抱える歪みを生々しく切り取ります。この映画に「温度」を感じるのはもちろんですが、匂いも同時にありました。

ユニークなカメラワークやジャンプカット、踏みしめる雪の音など、印象に残るシーンが多く、1999年容疑者を逮捕してからの銃撃シークエンスはアングルや長回しがとても効いていてよかった。

主だった俳優はそれなりに知っている人でしたが、主演のリャオ・ファンは多分2004年以降のこの役のためにわざと増量したんでしょうね。普段もっとシュっとしてますもん。あのダサいモコモコの防寒服をまとった冴えないおっちゃん役が非常に現実的。

そしてなんといってもグイ・ルンメイが素晴らしく美しい。事件が起こってもなお、なかなか顔を見せない演出といいほんの数言しかない台詞といいその魅力は存分に引き出され、彼女の暗闇を思わせる虚無感をたたえた眼差しのお陰げで一方的な肉欲こそあれこの男女にはロマンスなど存在しないことを最後まで思わせ一層虚しさが増してよかったです。だからこそ連続して『メビウス』観たかったんだよねぇ。

そもそも彼女がスケートに誘われて行くことにしたのもああやってコースを外れたところに誘導したのも、そうすれば男の身に降りかかるだろう出来事を分ってやってるわけで。あの時はたまたま元同僚の刑事が2人を見張っていて難を逃れたようなもの。

観覧車に関しては、男は女と寝たかったのだろうけど、そうしてでも真実を彼女は知られたくない。ましてすでに彼女は「自分を守るもの」を失くした身。自分を縛りつけるものから解放されたと思ったら入れ替わるように別の存在が自分をまた圧迫しようとしている、その絶望感たるや。彼らの感情の違いは翌朝のお粥と肉まんの朝食を前にして、満足そうにたいらげる男といち早くその場を出る女の行動に現れておりました。

最後男の上げる白昼の花火を見ながら浮かべるあの笑顔は、もう偽らなくてもいい、そのせいで誰からももう踏みにじられなくて済むという安堵とそれを促してくれた男への感謝(たとえ愛はなくても感謝はある)と自分は受け取りました。
そしてその花火に対して拡声器で呼びかける警官たちの姿。「これは花火の規則を超えている、何かあればすべてお前の責任だ」彼らがなぜここに流れ着いてしまったのか、一切の想像もしないその言葉と滑稽さに監督の強いメッセージを感じます。

公式サイト
『薄氷の殺人』ディアオ・イーナン監督、中国の映画作りを語る
「いま中国人は精神的浄化を必要としている」と語る『薄氷の殺人』監督インタビュー
中国映画「白日烟火」が金熊賞を獲得!俳優リャオ・ファンが主演男優賞―ベルリン映画祭

グイ・ルンメイレビュー
GF*BF(原題・女朋友。男朋友、2012年・台湾)@大阪アジアン映画祭
ドラゴンゲート 空飛ぶ剣と幻の秘宝(香港、中国・2011年)

ディアオ・イーナン監督とジャ・ジャンクー(賈樟柯)監督は仲がいいようで、そういえばジャンクー監督の『罪のてざわり』もいい評判を聞いていて観たかったんだと思い出しました。出演は『一個人的武林』に出演しているワン・バオチャン(王寶強)チアン・ウー(姜武)もいるよ。ソフト化したら是非観たい。

ジャ・ジャンクー監督 映画『罪の手ざわり』予告編

カテゴリー: film | タグ: , , , | 薄氷の殺人(2014年、香港・中国) はコメントを受け付けていません

いまさら御節2015

母はおせち料理を作る際、昔の写真を冷蔵庫に貼ります。私はブログに貼る事にします。
自分はどこに行っても料理の写真を撮るのを絶対忘れてしまうので、これもクリスマスと同じに私ではなく、弟が撮ったのをもらいました。
今年は母のとこじゃなく我が家でやりました。買い出しに付き合いおせち作りのお手伝いに彼女の家に行きました。昔手伝わされた田作りのカラ煎りは子供の時のほうがうんと長く感じたなぁと大人になると思います。まぁごく弱火で40分以上かけますからね。女二人田作りが炒られるのをじっと眺めているのが非常に不思議でした。歳をとるってこういうことなのか、と。でも気は母の方が私よりずっと短い(笑)。「まだまだ」と何度彼女に言ったことか。
栗きんとんはすでに誰も欲しがらないのでお重から消えて久しいです。あのお芋の裏漉しも毎年自分の係でした。が、うちの兄弟どもはおせちの手伝いなんかチラとも考えたことはないでしょう。
正直亡くなった父親はリベラルだったのに母はそうではなくいつも女のとしての仕事や仕草を求め、真反対の両親のその二重の構造がよく分らず子供の時はかなり混乱しました。今となっては自分にとって、もうどうでもいいことです。2人が私を掛け値なしに愛していることには変わりはないですからね。いつまでも元気でいてください。

IMG_8628

IMG_8633

カテゴリー: 小料理屋バクダン | いまさら御節2015 はコメントを受け付けていません

導火線 FLASH POINT日本版ブルーレイ発売

珍しい事に、ここにきて『導火線 FLASH POINT』の日本版ブルーレイが発売されました。なんでも権利が切れる直前の駆け込み的な販売らしく、だからこその売り切れ御免の限定発売。そんなことなら最初(略 いやいやいや、発売してくれてありがとうございます。おまけに谷垣健治さんのコメンタリーまでついてるし!

谷垣さん、『捜査官X』のおっかないおばさんじゃなくて、それはクララ・ウェイ(ベティ・ウェイ/惠英紅)さんですよ(笑)

70年代からショウブラザーズの映画の端役として出演し、ラウ・カーリョン(劉家良)監督に見いだされて劉家班(ラウ・アクションチーム)入り。1981年、監督の功夫映画『レディクンフー 激闘拳』で主演として第1回香港電影金像奨の主演女優賞を獲得。

その後も数々の功夫作品に出演。足の骨を折りながらもギブスをつけアクションを撮り続けたエピソードを持つ昔ながらのアクション女優でもあります。

2000年代に入ってからは素晴らしいバイプレイヤーとして活躍。2009年の『心魔(原題)』で香港台湾をはじめ数々の映画賞で助演女優賞を受賞、復活を印象付けました。また第33回香港電影金像奨では『キョンシー(リゴル・モルティス)』で同じく助演女優賞をもらっています。

2011年のピーター・チャン監督、ドニーさんの『捜査官X』においては本格功夫アクションを披露。いまだ錆ついてないその動きにオールド功夫映画ファンは大興奮。

その実兄が『導火線』や『SPL 狼よ静かに死ね』に出演したオースティン・ワイ(惠天賜)。若い時それはそれはびっくりするほど甘いマスクをした二枚目功夫スターだったんす。中年になってからは苦み走ったいい男。

で2人はめっちゃ美形兄妹。

お兄さんは残念ながら2012年に鬼籍の人となってしまいました。
コメンタリーにお二人のことが出てきたのでなんとなく補足。

ついでにこの方々に関しての記事
クララ・ウェイ(ベティ・ウェイ/惠英紅)
映画 レディークンフー激闘拳(1980年・香港)&超酔拳(2003年・香港)
映画 秘義・十八武芸拳法(82年・香港)
武侠(邦題:捜査官X)香港BDにて-ドニー・イェン 甄子丹
掌門人(1983年・香港)
殭屍 Rigor Mortis : 邦題 / キョンシー(2013年・香港)
蔵出しその10(2014)/ 那夜凌晨,我坐上了旺角開往大埔的紅VAN The Midnight After(2014年、香港)

オースティン・ワイ(惠天賜)
プロジェクトD(1979年・香港
惠天賜と司徒錦源

それにしても、自分のようなドニー・イェンファンに谷垣さんの果たしてくれる役割ってハンパなく大きいですねぇ。ドニーさんが結構な天然というのは放っておいても伝わる事かと思いますが、それを裏付ける谷垣さんの語る数々のエピソードは彼の魅力をあますとこなく伝えてくれて、ほんといつの間にか、ドニーさんと呼ぶたびに笑いさえこみあげてくるという。

オレ様だろうが自分の事を心底カッコいいと思っていようが、脚本が壊滅的であっても、かつて信じられないほどの早回しをしていたとしても、自ら「宇宙最強」のTシャツを販売しようが、あのお世辞にも上手とは言い難いピアノで堂々ドヤ顔をしてそれに押されるかのように「すげードニーさん」と言ってしまう勢いといい、何もかもを凌駕する「ドニーさん」の魅力の一端は、間違いない、谷垣健治さんが伝えてくれたものでもあります。まるで伝道師のような存在。

しかもこの伝道師は同時にアクション映画の見方を具体的に教えてくれる人でもあるのです。ぶっちゃけ自分のアクションへのアプローチはほとんど彼のコラムやインタビューで教えてもらった事と言ってもいいでしょう。でも同じような人はきっとほかに沢山いるはず。ファンの一人として谷垣健治さんが世界の別の場所じゃなくこの日本にいることに心から感謝したいとあらためて思いました。ありがとうございます谷垣さん。

そういえば、コメンタリーでも『スペシャルID 特殊身分』の公式サイトでもありましたが、シナリオライター司徒錦源はシトー・カムイェンと読むのがいいのでしょうか。ずっとセット・カムイェンとばかり。

バクサカ関連記事
導火線 / (邦題)導火線FLASH POINT 英国版 DVDのちに日本版DVD―ドニー・イェン 甄子丹
導火線 日本劇場公開―ドニー・イェン 甄子丹
導火線 小ネタ-ドニー・イェン 甄子丹

カテゴリー: film, アクション映画, 甄子丹 | タグ: , , , , , , | 導火線 FLASH POINT日本版ブルーレイ発売 はコメントを受け付けていません

クリミナル・アフェア 魔警(2014年、香港・中国)

気に入った人はこの先何度も観ることになるだろう、そんな作品。今はダンテ・ラムから目が離せない

昨年、香港で観たこの作品を試写で。
なんとなく話を分ってる気でいたけど、何といっても日本語字幕はありがたい。いかに自分が表面的にしか見てなかったかよく分りました。特に今回は『激戦 ハート・オブ・ファイト』→『クリミナル・アフェア 魔警』の順に再度観たので監督ダンテ・ラムの凄味を感じることが出来て感激。

まずはオープニングが秀逸。最初この煙のようなものってなに?と思ったのですが、その後主役のダニエル・ウーが趣味として描く点画のシーンで腑に落ちました。

細かいところにも一切の隙がない、ダンテ・ラムの到達した域には目を瞠らせられます。これから起こるあんなことやそんなことを予感させてゾクゾクしました。これいいなぁ。目眩がしそうです。

そんな静謐なオープニングに続いて映画が始まってすぐに銃撃戦が。強盗団の面がクールでカッコいい。この造型を切り取ったポスターがありましたが、この1枚を見ただけで「この映画絶対見よう」と思ったファンも多かったはず。

自分はそのティーザーポスターを見た印象だけで、その後何も知らずに本編を観たので正直結構驚いちゃったアクション映画脳バカ。でももう一度日本語字幕で観る機会があってよかった。多分、何度も観る度に自分の中で深まってゆく作品なのではないかという気がします。

少々入り組んだ話だけに人間関係などちょっと分りにくいところもあるのですが、そこをギリギリ分り易く整理してある。向こうで見た時に調べようとそのままになっていたことで今回確認できたのは、編集監修を、自身も監督であり過去にウォン・カーウァイの『欲望の翼』や『楽園の瑕』そしてジョニー・トーの『エレクション』の編集をした譚家明(パトリック・タム)が担当。その名を見つけただけで「なるほど」と思わせる化学反応がありました。

カメラもいいですね!『至尊無頼(至尊無賴)』(2006年)から『激戦 ハート・オブ・ファイト』までずっとダンテ・ラム作品を任されている謝忠道(ケニー・ツェー)。ほかの監督作品では『コールド・ウォー 香港警察 二つの正義』や『モーターウェイ』も彼。
最近「ダンテ・ラム組」という表現をよく見かけますが、俳優たちだけでなくこういったスタッフも監督は同じ人を使う傾向にあり、またそれが作品の個性になっているってことなんだなぁ。

主演のダニエル・ウーはイー・トンシン(デレク・イー)監督に(映画の役として)いじめられ続けたキャリアの集大成ともいうべきキャラクター。心に闇と狂気を抱えたその表情は台詞がほとんどないだけにグイグイ圧倒してくる。うーん、今年の香港電影金像奨の主演男優賞を獲ったとしても驚かないぞ。

そういえば香港で見た時に最初の銃撃戦で腕を吹っ飛ばされてた刑事がダンテ・ラム監督自ら内トラかよ!と発見し、今回も同じことを思ったんですが、あれはダンテ・ラムですよね?ね?

そうだ、これも帰国したら調べようとそのままになっていたことのひとつ、ダニエル・ウーの父親役がかつてショウブラなどの功夫映画で数々の主演を演じた戚冠軍(チー・クワンチュン)ではなかろうかということもエンディングロールで確かめました。ご本人は台湾在住で、現在はご自身の開いた武館の師傅をされているはず。たまにはこうして映画に出て頂けると嬉しいなぁ。

『クリミナル・アフェア 魔警』日本語予告編
香港で見た際の感想
クリミナル・アフェア 魔警
ブログ:アジアンパラダイス『クリミナル・アフェア 魔警』ページ
《魔警》正式預告、HK版
戚冠軍(チー・クワンチュン)さんがどんな素敵な俳優かは、こちらこちら

2015年、2月14日にシネマート六本木にて公開。

カテゴリー: film, アクション映画 | タグ: , , , , , , , , | クリミナル・アフェア 魔警(2014年、香港・中国) はコメントを受け付けていません

グリーン・デスティニー続編

そういえば、ブログの引っ越しで休止中に書きたかったこれを。
コリン・チョウのフェイスブックでこんな写真を見つけたんですよね。
彼がグリデス表敬訪問としてわざわざニュージーランドに行ったんでなければ・・・・・ひょ、ひょっとして・・・・!?

・・・とエントリーしようと思って再度彼のFBを覗きに行ったら、肝心のその写真が削除されていました!ええええ?保存してないよ?

ということは・・・(思い込みが激しい)。

ちなみにその写真とはグリデス続編のリハーサル室で、監督ユエン・ウーピンや実弟ユエン・チョンチャン、武術指導のコク・ヒンチュウら袁家班のみなさんとコリンが一緒に写ってる写真でした。で、なにを私が想像したかはみなさんお察しの通り(笑)。

ところでコリンといえば昨年日本映画の主演として映画を撮ったんですよね。多分今年2015年に公開のようです。
神田裕司監督『人を乗せる―But life Goes On―』こちらは写真が残っていました。

コリン・チョウ、日本のタクシー運転手に
その2
その3飯田利彦かよ!

にしても、あのユエン・ウーピンとの写真保存してれば・・・クッ

カテゴリー: film, アクション映画, 功夫映画, 甄子丹 | タグ: , , , | グリーン・デスティニー続編 はコメントを受け付けていません

ヒーロー・ネバー・ダイ(1998年・香港)

ジョニー・トーの傑作がよみがえった。すごい。

まずはこの映画を劇場でかけてくれてありがとうございました。
最初からオープニングクレジットの編劇(脚本)にセット・カムイェン(司徒錦源)の名を見つけてぐっとくる。
感想は・・・ジョニー・トーいい。なにがいいって台詞が少ないところがいい。最近、いかに説明しすぎる映画が多いかとこれを観ると余計に感じます。無駄なショットはひとつもなく、一瞬でその人物や状況を語らせたらピカ一で、なんら不足はありません。しかもそれは徹頭徹尾監督の作品には貫かれてる。

レオン・ライがかっこいい、自分の見たレオンさんのなかで一番。あまりの格好よさに口あんぐり開けながら眺めるしかありません。本当、トー監督は男を描くのがうまい。そしてラウ・チンワン。上手に言えないけれど、今のようにどんな役をやっても隙のない感じじゃないところが凄く新鮮でした。ファッションもいいよね、葉巻にテンガロンハット。しびれちゃった。

この2人の関係がまたいいんだな。敵対する組織の中核を担っていながら、心のどこかでは認め合ってる、そんな関係。会えば互いのワイングラスを割る勝負。ここは『ザ・ミッション 非情の掟』のサッカーシーンに比肩する名場面。その直前にバーの店先で車を正面からぶつけあうシークエンスがあるんですが、『レクイエム 最後の銃弾』のあのカーシーンの原点はここだったんだな、と。興奮したなぁ。しかもレクイエムより短いけど鮮烈。

さらにバーのマスターはこの作品で武術指導してるユン・ブン(元彬)さんじゃありませんか。てっきり内トラかと思ってたらものすごく重要な役で驚きました。さすが1998年、ラム・シュー(林雪)、ロー・ウィンチョン(羅永昌)とともにシュッと痩せてるし。彼がレオン・ライのメッセージを窓に張り付けるところは、その前の互いのメッセージを共通の知り合いが電話で伝言してたのが効いててやっぱジョニー・トー。余計なことはしない。

そういえばレオン・ライのボスがヤン・サイクン(任世官)。ワンチャイ天地黎明でジェット・リーと戦う武術家や『スウォーズマン 女神伝説の章』、『アイアンモンキー』でのラスボスとして自分にはお馴染み。こいつがまた占い師に頼りきってる情けないボスでして。「お前の部下にレオン・ライは勿体ないんじゃあああ!」と何度心の中で叫んだか。そのボスの頼る占い師がレオン・ライ、ラウ・チンワンに足を撃たれる場面は痛快。立ちションとともにちゃんと対になってる。

またここには男たちを支える女たちも登場します。この2人がまた泣けるんですよね。男を描くのが上手い監督は一杯いるけど同時に女も魅力的って、すごくいい。
特にラウチンの彼女が「彼の部屋に行く時は、わざと音を立てていくのよ。他の女と寝ててもその間に言い訳を考えられるようにね」と語り、事実すごく音のするサンダルを履いてるのには唸りました。彼女が登場する度、このサンダルの音が響いていて、しかも彼女がそれをそっと脱ぐのが意識不明のラウチンを見舞いに行く時だけ。もうたまりません、うまいなぁ。あああすばらしい。

そして物語は急転直下、何も知らずに観てまさかラウチンがそんなことになるとは想像もしなかった。この予測のつかない展開もジョニー・トー。最後は熱いものがこみあげてきて、感激したシネマートの帰りいつもするように40分近くかけて歩いて帰路につきました。当然のことながら、この映画のテーマソングである『上を向いて歩こう』をずっと口ずさみながら。

『ヒーロー・ネバー・ダイ』はHDリマスター版ブルーレイとして2015年1月9日発売です。

『ヒーロー・ネバー・ダイ』日本予告編
シネマトゥデイ『ヒーロー・ネバー・ダイ』
ユン・ブン(元彬)さんがどんな人かはこちらこちら
セット・カムイェン(司徒錦源)がどんな人かはこちらこちら
レクイエム最後の銃弾 日本語予告編

カテゴリー: film, アクション映画 | タグ: , , | 2件のコメント

ゴーン・ガール(2014年・米)

あけましておめでとうございます。
正月に日本橋のコレド室町のTOHOシネマズで『ゴーン・ガール』を観てきました。日本橋といえば母親のお伴で高島屋にはちょいちょい行く機会はあるもののコレドには実は行ったことがなかった。日本橋の路上にあんなに人がたくさん集っているのをひょっとしたら初めて体験したかもしれません。

監督はデヴィッド・フィンチャー、おもしろかった。
これを観た男性方は「女ってこわひ」と言うのかもしれませんが、いやいやいや、あのノリを男女逆にしたような現実だって絶対にあるはず。だって他者を支配する、またはされるという関係性の視点しか持ち合わせておらずどんな手を使ってでも対象者を支配、もしくは復讐しようとするは人間は男女問いませんからね。それを男女の性差などと表面的に受け取ると酷い目に遭いますぜ。ってどんな酷い目なんだ?

日本語には素晴らしい表現があって、たとえば『業』という言葉。まさに人間の業って底知れぬ恐怖を感じさせるわけで。
内臓に手を突っ込まれてグシャと掻きまわされたような最悪な感覚が何とも言えない嫌悪感を生み、また反面そこが痛快爽快だったりもする。そして極め付けはその気分を反芻させるようなエンドロールのあの音楽。追い打ちをかけられたようにやられちゃいました。

原作は未読ですが、この同名小説がよく出来ているんだろうなぁと思わせる構成。原作者のギリアン・フリンは本作で脚本も担当。まずは上下巻のこの小説が凄いんだと想像できます。最近は原作者が脚本を担当というケースが結構ありますね。それだけハリウッドに丸投げするのを嫌がる傾向にあるという現れなのかもしれません。

配役もよかった、ニック・ダンとその妻「アメージング」エイミーはベン・アフレックとロザムンド・パイクこの2人しか思いつかない。ベン・アフレックはドハマり役。そして状況が変わるごとに姿かたちどころか顔まで全く違って見えるロザムンド・パイク素晴らしい。

言いつくされてるのかもしれないけど、デヴィッド・フィンチャーはほんと意地悪そうだなぁ。いや、映画監督としては大事な素質のひとつだと思います。だからこその作風と人物に対する奥行き、それはテレビで大衆の好む通りの夫のインタビューを呆けたように見つめるあのロザムンド・パイクの表情にすべて集約されていました、ひぃ~。
この作品で彼を監督に選んだことがすべての勝因なのかも。

カメラマンアニー・リーボヴィッツが撮りローリング・ストーン誌の表紙になったジョン・レノンとヨーコの超有名写真と同じ構図のこの写真がまた(笑)。

カテゴリー: film | 2件のコメント

激戦 ハート・オブ・ファイト(香港・中国、2013年)

ノッてる男は違うぜダンテ・ラム、新しいステージに突入したねダンテ・ラム!

今香港で一番ノッてる監督、ダンテ・ラム。昨年の東京国際映画祭で上映されすごく評判の良かった作品がこの『激戦 ハート・オブ・ファイト』。来年1月に公開されますが、一足早く試写で観てきました。会場は満席で補助席が出るほど盛況。評判と期待の高さがうかがえます。

監督ダンテ・ラムがいつも描くのは何かが「欠けてる」登場人物。
まぁ自分に満足して生きている人は少ないでしょうけど、監督はその欠落したものを抱えた人物をこよなく愛しているようで、基本そこからさらに苛めたり酷い目にあわせたりしています。
しかしこの映画は一味違う。その欠けたものを埋め合わせようともがき苦しながらも希望を持ち続ける、そんな人間の姿を描きました。

極度の銃マニアでもある監督は、前作『ブラッド・ウェポン』においてヨルダンロケで本物の銃器や戦車を使い爆破や銃撃戦をしまくったことである種達成感があったのか、題材をガラリと変えてきました。今度は総合格闘技。エディ・ポンやニック・チョンのトレーニングシーンなんて、この俳優たちの作品に対する凄まじい努力と姿勢をまざまざ見せつけられて胸熱。
特にダンテ・ラムとニック・チョン、この奇跡のようなマッチングはもう誰に感謝していいのやら。本当にありがとうと言いたいです。

いつもなら男2人の話で終始する印象の強いダンテ・ラムですが、ここではもう一人「欠けた」女性が登場します。しかもその母親を支える娘が『ブラッド・ウエポン』にも出演したクリスタル・リー。もうねこの子が素晴らしすぎる。
ニック・チョンの役名「程輝(チン・ファイ)」を「賊輝(ジン・ファイ)」とわざと間違えるとこからクスリとさせられます。賊とは日本語と同じで「泥棒」とか「悪人」とかまぁそんな感じ。

最近の映画で多い北京語と広東語で会話が成立するというシーンも「いや無理して北京語話さなくていいから」などとさりげなく会話に折り込み丁寧な脚本でした。実はいつも「あ、この人は北京語なのね」と映画を見ていてどうしても思ってしまうのですが、本作に関してはまったく気にならなかったのが不思議。マカオが舞台という設定がそうさせたのか、それとも演技がよかったのでしょうか。

とにかくクリスタルちゃんとニックとのやり取りが可愛くてねぇ。2人が信頼を築いていく過程とか繊細でよかったです。劇中このお嬢さんに何度泣かされたか。試写室でもグスグスとあちこちで鼻をすする音が、気持ち分るよおお、私も泣いとるがな。

彼女はこれで2013年の第16回上海国際映画祭では主演男優賞のニック・チョンとともに最優秀主演女優賞を最年少記録(10歳)で飾りました。納得ですよ、素晴らしい女優です。

にしてもニック・チョンっていい俳優。演技の幅の広さもそうですが、彼の持つ説得力ってハンパないです。もちろん9カ月かけて身体をあそこまで絞りに絞ったその役者根性もそうですが、同時になにげない場面での演技がズバ抜けてます。特にクリスタルちゃんの母親を前に狼のお話をしてあげるシークエンスとかひとつ間違うとかなりわざとらしくて寒くなると想像するんですよね、それがこちらまで暖かい気持ちになる素敵なシーンになる。これって実はかなり難しいことじゃないでしょうか。

対戦相手のチャンピオンとしてアンディ・オンが金髪ヘアで出てきますが、彼の動きが別次元に良かったのがなんだか笑えちゃった、さすが本職。試合の場面では本物の格闘家も本人役で出演しておりますが、本当の格闘技と映画として見せる格闘技ってやはり違うでしょうから撮影は色々苦労したんだろうなぁと思いを馳せたりして。

マカオの街並みも美しく、行ってみたいなと思わせる構図が心地よい。
あの名曲Sound Of Silenceが流れるタイミングといい、ラストのクリスタルちゃんとニック・チョンの会話といいどこをとっても一切の無駄がなくすべてのシーンに情感が溢れている傑作。

公開は1月24日から新宿武蔵野館他全国順次ロードショー公開。

私は『クリミナル・アフェア 魔警』→『激戦』という順番で観たのですが、これはやはり制作順に『激戦』→『魔警』と観た方が監督ダンテ・ラムの凄味がわかると思います。幸い、『クリミナル・アフェア 魔警』もこの映画の公開後すぐ2月に六本木シネマートで公開されるので是非あわせてご覧ください。次回作は自転車ロードレースを題材にエディ・ポンと再び組みました。これもめっちゃくっちゃ楽しみです。一皮むけたダンテ・ラム、今一番楽しみな監督の一人です!

あ、最後にこの映画の冒頭、エディが自転車で訪れた雲南省のあの広場は『捜査官X』の成人式が行われたのと同じ場所ですよね?

激戦 ハート・オブ・ファイト公式サイト(予告あり)
シネマート六本木『クリミナル・アフェア 魔警』紹介ページ
香港版予告《魔警》首條電影預告

2014年も残すところあとわずか。みなさまよいお年を!

カテゴリー: film, アクション映画 | タグ: , , , | 激戦 ハート・オブ・ファイト(香港・中国、2013年) はコメントを受け付けていません