世界初かも?スタントチーム7人登壇の初日舞台挨拶
2015年2月21日。東京と名古屋で初日をむかえました。私も及ばずながら司会として東京の初日舞台あいさつのお手伝いをしてまいりました。
登壇したのは、スペシャルIDでのドニーアクションチームの日本人スタッフ。スタントコーディネーターを務めた谷垣健治さん、アシスタントスタントコーディネーターの大内貴仁さん、スタントの佐久間一禎さん、日野由佳さん、富田稔さん、柴田洋助さん、佐藤健司さん。
(後ろ左から柴田、大内、富田、飯星、(ドニーさん)日野、前方左より佐藤、谷垣、佐久間)
んんんー、映画の初日舞台挨拶にスタントチームが登場するなんて多分世界でも類を見ないかも。おもしろすぎる。とにかく控室から賑やか、そして人の話をみんな見事に聞いてない(笑)。登壇5分前にトイレに行く人あり気が付けば1人姿がないなど、宣伝担当や配給のみなさんが他の作品の初日挨拶とは違う雰囲気に驚いておりました。終了後「舞台裏の段階で飯星さんまるで引率の先生みたいだった」と言われてしまいましたよ(笑)。
さて、その舞台挨拶の内容と、舞台裏で聞いたお話、また終了後谷垣大内日野さんたちとご飯を食べつつうかがったことなどをまとめて記しておきたいと思います。
まず、ドニーさんの現場と日本または他の香港映画との違い。
アクション映画なんだから当然だけどアクションが最優先。上から人がバスに飛び降りるシーンを撮る時は道路を一時ストップして行われました。そういった姿勢環境がまず違う。
そのうえでアクション監督兼主演(おまけに本作ではプロデューサーも兼任)のドニーさんの意見は重い。例えばロケハンが終わった場所でいざ撮影となっても彼が「ココはダメ」と言えば撮影どころか即、スタッフは別の場所捜しのロケハンに出発。
火鍋屋の階段落ちシークエンス、「あれって階段になにか敷いてあります?」と大内さんに聞いたら「全部ウレタンを敷いてあります。そういうところには絶対にお金をケチらない。だからこそ思いきったスタントが皆できるんです」とのこと。
その階段落ちをしたのはスタントマンの佐藤健司さん。
「多分、僕が一番ドニーに怒られたと思います」階段から落ちる直前、パンチ&キックのリアクションに何度やってもドニーさんはOKを出さない。
「もう何がよくて悪いんだかパニックになってしまって」最終的には殴られて思わず手で顔を守ったらOKになったそうです。
谷垣さんいわく「そういう偶然の一瞬を撮るために何度もやるようなもんなんですよ。段取りじゃない瞬間。その積み重ねです」
続いてはその蹴られた直後に階段から落ちるシーン。前のカットで怒られてしまったスタントマンは次で挽回しようといつも以上に頑張ってしまう。「ひょっとしてコイツ無茶な落ち方するかも」と心配したドニーさんが谷垣さんに「大丈夫か」と言ってきたそうです。
そこで谷垣さんが佐藤さんに「靴ひも緩めとけ」と耳打ち。すると見事落ちながら靴が脱げるという合わせ技が完成。彼のスタントのすごさに加え、無茶しなくても視覚効果でOKがもぎ取れるという経験に基づくアドバイスだったわけです。
「ドニーの言うことを聞きすぎるのも考えものでね、たとえば右足を踏み出すのにNGが何度も出て注意されたとする、するとやる方は右足にばかり気がいってしまったりするんですよね。敵よりも右足に意識がいってるっておかしいでしょ(笑)それではOKは絶対に出ない。だったらいきなり右足じゃなく左足を出してみたりするんですよ、するとすぐOKになったりする。それと同じです。僕も慣れてるからドニーの隣で一緒にモニターを見ながら“うわぁすっご!(という多分意味の広東語)”とか援護射撃で言うわけですよ。するとドニーも“おーいいな(という意味の・・・略)”となる(笑)」
このNG地獄はドニー映画初参加の柴田洋助さんもハマったらしく、「何言ってるかまず言葉がわからないし、もうニュアンスで理解するくらいしかなくて」やはり怒られまくって頭が真っ白になってしまうのだそう。
それを乗り越えて出来上がったのが、火鍋屋の厨房でナイフを持った腕をタオルで封じられたと思ったらぐるっとタオルで身体を返されパンチと膝蹴りをドニーさんからくらったうえに、最後は白菜の上で追い打ちに殴られる顔のアップ(これかなり真に迫っててちょっと怖いくらい)という迫力のシークエンス。
そういえば控室で谷垣さんが「(スペシャルIDのポスターを指さしながら)俺らにはこの顔なのに、(ドニー夫妻の写真を見せつつ)嫁にはこの顔ですからね、この人」。
また劇中アンディ・オンのスタントダブルを担当した佐久間一禎さんは、いわばドニーさんとあのラストタイマンファイトを演じたお一人ということになるわけで。
「相手はドニーだし、それだけでもかなり気を遣いますよ」とお話していました。一番NGが出たのは残念ながら本編ではデリートされてしまった五手ぐらいのカット。「最初はドニーからもっと強く殴れとNGが出て、何度か繰り返してその後思い切りやったら“強すぎて次の芝居がすぐできない”と言われ、もうどうしろと。たくさんリテイクしました。20回近くかなぁ」
またNG地獄に陥った際の心境を「撮影現場が建設中の高速道路、後ろは崖っぷち、前方にはたくさんのスタッフ。そして目の前には、あのドニー。ダメだしばかりで落ち込んで、最後はいっそ、こっから飛び降りちゃおうかな、と(笑)」
一方、ヒロイン景甜(ジン・ティエン)のスタントダブルを担当したのは「え?この人が?」と驚いてしまうほど可愛くてちっちゃい日野由佳さん。
「これほど大掛かりなカースタントをしたのは初めてだったんですが、その頃すでに別班で撮影が行われてて、私はカースタント監督のブルース・ロウ班。谷垣さんも大内さんもおらず、イム・ワーさん(ドニースタントチームの古参。本作ではアンディ・オンの部下役で内トラ。あの火鍋屋で大声出す人)とトミー(富田稔さん)だけ。でもドニーさんはいないので和やかな現場でした、怒号もないし(笑)」
バスに飛び移るシーンはブルース・ロウが「危ないなと思ったら跳ばなくていいから」と言ってくれたけれど「いざ走り出したら、やめるわけにはいかないよなぁと思いながら跳びました」
その日野さんとカースタント現場にいた富田稔さん。彼は「落っこち」をはじめとするスタント系が得意で過去ドニー作品では『レジェンド・オブ・フィスト 怒りの鉄拳』での暗殺隊長に撃たれたシチュでのバルコニーから石段への落っこちや、クラブカサブランカで射殺されたイギリス人としてバルコニーから人力車への落っこちなどがあり、その彼が今度は窓を突き破って車の上に落ちるというスタントをしています。
本来強化ガラスを割って人が飛び出すという撮影ではガラスに弾着を仕込んで人が突っ込むと同時に爆発させてヒビを入れ衝撃をゼロにします。ガラスの硬さに左右されていてはスタントマンは落下点が計算できないから。
最初のテイクではその弾着のタイミングがずれてしまいガラスが割れませんでした。(ここから富田さんに後に確認して訂正したものを再アップいたします)2度目も少しタイミングが合わずに車のウィンドウに上半身が突っ込んでしまったそう。「本当は半回転して背中で車の屋根に着地するはずだったのが、それだと勢いで車から落ちてしまう。慌てて半回転をやめ、そのままなんとか屋根の上に落ちたんですが、実は背中にしかパッドを入れてなくてモロに胸を打って痛くって」
そのテイクは成功したものの、カメラマンであるピーター・パウがもう1カット、アングルを変えてピックアップショットを撮りたいということになり、今度は背中から落ちたものの、その上にガラスが降ってきて顔を数針縫うアクシデント。その後の火鍋屋のシーンでは絆創膏も貼れず、セットに吊り下げられた明らかに腐りかけの肉の塊を前に「変な菌が入らなきゃいいなぁ」とずっと思っていたそうです。
その撮影監督ピーター・パウさん、『グリーン・デスティニー』でハリウッドのアカデミー撮影賞を受賞したお人ではありますが、本作では当然自身でカメラを回し谷垣さんによると「どんな激しいアクションをしても一度も外さなかった(アクション撮影は難しく、動きにカメラがついて行けなくてフレームに収まらないことがあるそう)、さすが慣れてる!」
この作品は撮影開始どころか撮影場所さえ二転三転し、その待機時間にアクション構築に関して様々なアプローチをしたそうです。
たとえばビデオコンテの前の実験的段階として、逃げる人間を大勢で襲い、そのアドリブ的な動きを動画に納め、なかから段取りではなく一瞬の判断で繰り出された「お!」という動きをピックアップ。それを今度は芝居として映画に落とし込めるよう整理してゆく(谷垣さんの言葉だと「フィルム・ランゲージ」)、そんなこともしたようです。
大内さんによると、どんなに考えて準備してもそれでも変更はしょっちゅうで、しかもいきなり。
『捜査官X』 では朝衣装を着たら(大内さんはドニーさんのダブルもしていました)唐突に腕を後ろに縛り付けられて「それでやっと片腕になるって知ったくらいですからね(笑)」
本作に関しては最初バスに飛び移るのは女性刑事ではなくドニーさんが(しかも)自転車で跳ぶというアイディアもあったらしい。
スタントマンによるその実験映像は残してあって翌22日から新宿武蔵野館のロビーにて流される『スペシャルID 特殊身分、メイキング映像』には入っているはず!これは谷垣さん所蔵映像で、すでに発売されている香港版台湾版アメリカ版はじめ世界中のどのディスクにも収録されていないまさにお宝映像。これから新宿武蔵野館に行かれる方は是非そちらの方も見る時間を計算に入れて劇場においでください。全部で20分ほどはあるそうです。
上映の合間の挨拶ということで短い時間でのトークでは、それぞれの皆さんがこの映画でどんなシーンを演じたかということを中心にうかがうことしか出来ませんでしたが、スタントコーディネーターのみならずスタントマンとはいえそれらは彼らの仕事のほんのわずかな部分。
本当はもっと多くのお仕事、準備段階でのアクションのためのアイディア出し(その一端はメイキング映像にも現れていると思います)、現場でのワイヤーや安全確認のセッティング、機材の管理、ビデオコンテでは撮影後編集したものに効果音をつけるなど、アクションに関するすべてのことを手分けして担当します。ただ現場で危ないことをするお仕事なだけじゃない、というわけなんですね。
そして谷垣さんが言い忘れた!と後から口惜しがってたのがるろ剣とこのスペシャルIDとの関連性。るろ剣1→スペシャルID→るろ剣2,3という順番で撮影が続いたので、このふたつは互いに非常に影響しあってる部分があるということでした。
「るろ剣で考えたことをこっちで取り入れたところもあるし、またこっちでやらなかった事をその後のるろ剣でやったりとか。自分達にとっては1つの流れがあるんです」と仰っていました。
追記:そういえば以前うかがった話で
ドニーさんが火鍋屋に行く前、車を裏に停め傘を差して裏路地を行くカットがありますよね。あれはドニーさんのアイディアで「ああやって主人公は有事の際の逃げ道を確認してるんだ」というのが理由。
あとデリートされてしまいましたが、雨の乱闘シーンでファン・ジン刑事が到着するや、実はチンピラの1人が仲間達の手にしたパイプや武器をこっそり回収する場面があったそうです。そうすることで彼らの喧嘩慣れしてる部分や自分らの不利にならないように立ち回る姿勢を表現したかったとか。「細かいけど、そういうとこがドニーなんだよね」
そうだ、このスペシャルID 特殊身分のパンフレットに私が寄稿しました原稿が載っています。機会があったら読んでみてください。
PS:京都ヒストリカ国際映画祭で、ウォン・ジンポー監督とご一緒にお目にかかった方のお一人がわざわざその時のお写真を持ってきてくださいました。ありがとうございました!皆さまにもよろしく!
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