このイップ・マン3(邦題:イップ・マン 継承)を完璧な完結編だと、私が思う理由
さっきまで谷垣健治さんとラインで真夜中の長話。谷垣さんもこのお正月香港でイップ・マン3を4回ご覧になったらしく、少しそんな話も出来ました。
「とってもウィルソン・イップらしい映画でしたね」と感想が一致。ウーピン先生のアクションに関しては「さすが」というのと「これでOKなの?」と思うのとが混在していたかもというご意見。おっしゃる通りでございます。
この大ヒットにより、すわ続編制作か?と早速色々報道されているようですが(プロデューサーのレイモンド・ウォンはすぐにでも撮る気マンマン)、ドニーさんご自身は、武侠物とか現代アクションは当然今後もやるつもりだけど「これを自分の最後の功夫映画にしたい」と宣言しております。理由は「イップ・マンを超える役など考えられないから」。
アクション映画の続編というと「どんどんスケールが大きくなってしまう」という不文律に陥いることが多いなか(それに乗ってしまうと最後には師父が侵略してきた宇宙人と戦うしかなくなってしまいますもんね)、1作目は日本軍、2作目は宗主国のボクサーときて、3作目で大きく舵を切り、地域、家庭、夫婦という実に身近なところを主題に選んだという点は、ウィルソン・イップの大手柄。本当、この人が監督でよかった。
と同時に観ていて感じたのは、あらためて「今功夫映画を撮るって難しいんだなぁ」ということ。
単純にアクションが素晴らしいだけでは、ここまでのヒット作にならないし、幅広い観客に受け入れられるためにはキャラクターストーリーともにデキが良くなくちゃいけません。まして中華圏だけでなく、より多くの文化、国の観客を対象に広げれば(この葉問シリーズはすでにそういうコンテンツになっていると思います)、近代という時代背景も相まって敵の設定がかなり難しくなる。
じゃあ、他の功夫流派と闘えばいいじゃないのといっても、実在する詠春拳葉問派だけに、それはそれで負けた流派の関係者から不満が出るでしょう。闘うためには、敵を敵たらしめる「悪」でなくてはいけませんからね。詠春拳以外の流派の反感を買うのは得策ではありません。
今回ゲストの目玉であったマイク・タイソンが、自分の養女にとってはいい父親であり、また自ら決めた「1ラウンド3分勝負」を守る実はとてもフェアな人間であったことは、スーパースターマイク・タイソンにかなり配慮した立ち位置。
タイソンがその拳で割ったガラスの破片が、階下にいる娘の乗った三輪車についた赤い風船の紐を切り、風船が飛んでいくとこなんかウィルソン・イップでしたねぇ。そこへ3分のベルが鳴り、瞬間にフリーズする葉問とタイソン。なかなか小憎い着地でした。
3分勝負が引き分けに終わり、無言でその場を去る師父。タイソンの方は「風船が飛んで行っちゃったの」と言う娘を抱きあげ「行かせておやり、風船はまた新しいのを買ってあげるから」と答える。これは、葉問に「お前(の守る地域)にはもう手出しはしない」という彼なりの返答。いい役だったよ!タイソンさん。
ただ残念ながらこの点で、アクションは物凄くいいのに、アクションの仕上げに当たる爆発的なカタルシスを得ることは難しかった。そこは同門のマックス・チャンとの闘いでも同じように思いました。ここまで悪人の登場しないアクション映画も珍しいかもしれません。その分、悪役として孤軍奮闘したのがパトリック・タムで、それゆえ彼が今作の陰のMVPだったと自分は言いたい。
葉問という人物を描けば描くほど、敵と、闘いの意味はさらに重要になってくる。葉問という功夫映画はこのパラドックスを常にはらんでいるのだと強く感じた次第です。
妻の死、同門の勝負、武術家として葉問が至った境地。今作はかなり禁じ手を使った感があります。だからこそ制作陣の「これで完結!」という気概が充分に伝わってきました。
この作品をもって功夫映画を最後にしたい、そういうドニーさんの気持ちが痛いほどわかる、それこそ、私がこのイップ・マン3を完璧な完結編だと申し上げる理由でもあります。
と、締めつつも、言う事コロコロ変わるお人なので、舌の根も乾かぬうちにシレッと葉問4や功夫映画に出ても驚かないですけどね(笑)。そういや、ブルース・リーとの本格エピソードもまだ残ってますわ!ネタはあるぞ。今度こそ権利関係をクリアして、今頃は再びCGIブルース・リーをレイモンド・ウォンがやろうと目論んでいるやもしれません。
いつも楽しく拝見させて頂いています。葉問3 ネタバレレビュー・・ジ〜ンと感動しながら読みました。ドニー作品は日本公開までかなり時間が過ぎてしまう事から 大陸盤DVDやら香港盤Blu-rayを観たあとで劇場まで駆けつけることになります。ケイコさんの葉問愛溢れる内容は 内容を知ってしまったので 劇場に行かなくなるのではなく 内容を読んだから益々 劇場に行きたくなる感じになるかと思います。私もはやく葉問3を鑑賞したいです。 写真集が紹介されてますが かなり高価な印象・・香港の劇場とかで販売してるものですか? 気になります。
ASARYUさま
はじめまして、ご覧頂いてありがとうございます。
いつかは日本で公開されると信じていますが、早く決まるといいですね。噂では金額のケタが違うらしくなかなかどこも手が出せないようです。アジアでヒットすればするほど、日本公開が遠のくのは複雑な気持ちです。美術音楽も素晴らしく、私も早くスクリーンで多くの方に葉問3を観て頂きたいです。
ネタバレは読みたくない方も多いでしょうから一応ネタバレ表記をしとかないといけませんよね。時々「なんであんなマニアックなことばっかり」と友人に笑われますが、気に入った映画のレビューを読むだけだった昔の自分が読んだら嬉しいだろうなと思う記事を心がけています。お誉めいただいて恥ずかしいけど嬉しいです。ありがとう。
写真集は私の行った映画館では売っておらず、本屋のある西洋菜南街で捜したけれどなく、諦めかけていたところホテルそばのセブンイレブンで見つけたという、100ドルでした(間違って0を多く書いちゃった、ごめんなさい、100ドルです100ドル)。
こんにちわ!
今年もよろしくお願いします。
私も飯星さんの「葉問3」の「ネタバレ」レビュー3連打は「葉問3」を観れる環境になった時に“最強パンフレット”として拝読したいと思っています(^_^)。
今から超楽しみです。でも掲載写真だけでも他とは一味違う素晴らしいスチールばかりですね。ASARYUさんの仰ってるように、私もこの写真集欲しいなぁ!!
飯星さんの「気に入った映画のレビューを読むだけだった昔の自分が読んだら嬉しいだろうなと思う記事を心がけています」の言葉が新春から心に気持ち良く沁みました。P.S 倉田さんは中国で趙文卓&洪金寶と新作撮影中のようです♪
龍熱さま
いえいえいえ、お恥ずかしい限りでございます。
写真集、もっと買いやすくしてくれたらいいのにと思います。ドニーさん自分のネットショップがあるんだからそこで販売すればいいのに、というか、そのうちしれっと売るかもしれませんね。
倉田先生はまた少しずつ向こうの出演も多くなってきましたね。ブルース・リャンが全く違った風貌で活動しているのを見ると、倉田さんの変わらなさ若々しさには驚きます!