帰って来たトン・ワイ祭り
制作:方逸華(モナ・フォン)
監督:查傳誼(ジャー・チュンイー)
武術指導:林滿華
出演:董瑋(トン・ワイ)
萬梓良(アレックス・マン)
惠英紅(クララ・ウェイ)
莫少聰(マックス・モク)
梁家輝(レオン・カーフェイ)
顧冠忠(クウ・クワンツォン)
傅欣瑜
簡慧珍(レジーナ・ケント)
トン・ワイの主演映画には結構珍妙なものがありまして。まさにこれはそんな1本。なんといっても無駄にキャストの顔ぶれがすごい。トン・ワイにクララ・ウェイ、そしてきっと滅茶苦茶若いころのレオン・カーフェイ!マックス・モク!!ぎゃーなになに、絶対観る!ってことで。が、ショウブラ武侠映画なのに、なんだか思いっきり80年代テイストだったり、かと思えば一瞬にしてものすごく古臭くなったりしてかなりバランスは悪い。
『水兒武士』てっきりタイトルはトン・ワイ演じる主人公のことかと思いきや、実は水兒というのがヒロインの名前で武士というのは日本でいう武士とは違い単純にトン・ワイの役名。早い話が「愛と誠」みたいなものでしょうか。
冒頭から娼楼で若い女性が性的虐待を受けるシーンがあり、とってもショウブラらしい全然エロくないエロシーンから始まる。ショウブラってアクションものしか観ないと気がつかないんですが、実は結構エログロものが多く、このキャストなのにこの始まり?と脱力モード。しかし85年とは思えないほど古臭いエロシーンに当時これは果たして受けたのだろうかと他人事ながら心配になったりします。
ヒロインはそこで育った訳ありの娘で、実は大太子(皇太子)の落とし胤だったりする。その事実を知っているのは彼女を預かっている置屋のおかみだけ。この水兒ちゃん、大太子の娘だけあって身体は売っておらず、むしろとても正義感が強い。同じ女として虐待する客に蛇を投げつけて追い散らかしたかと思うと、街に出れば、易者の見立てが気にくわないと平手打ち。その勢いでランプが吹っ飛び隣の露店の生地に引火、キャーキャー言ってるうちに次々と飛び火するわ怒った人達から逃げるために馬を盗んで走り出すわ、やりたい放題。かと思えば次のシーンになると置屋のおかみの無駄に長い濡れ場がまた来たりして、かなりちぐはく(汗)。
これ最後まで見れるかなぁと思ったタイミングで、出た!カーフェイいいい!しかもめちゃくちゃ若いいいいい。
彼は皇帝の座を狙う二太子の役でカメオ出演。白い衣裳が美しい。その二太子が置屋のおかみの密告で水兒のことを知り、陰謀のカードにしようと秘かに彼女を連れて来いと隠密に言い渡すわけですね。それを知った大太子の方は、すわ大変と自らの娘を暗殺するべく(ひどい)刺客を放つ。
その刺客がクララ・ウェイ姐さんです。
数少ない見せ場のひとつがこの登場シーン。山道の道端の茶売りの前で腰をかけた男装の麗人(大好物)のクララさん。そこへ槍が飛んできたと思ったら、鮮血鮮やかに客の男と茶売りのジーサマを見事貫通して木の幹にブスリ!な、なにごと???という我々の驚きをよそに姐さんがその槍をクールに引き抜くとその先に布で書かれた指令が・・・。あんた、いくらなんでも指令出すだけで2人の男を貫通しなくても(笑)。でもこのバカバカしさが見事ショウブラテイスト。
もう1人の刺客はアマゾネス風の女です。造型は『サンダーアーム/龍兄虎弟』のアマゾネスを想像していただければよろしい。
この剣心と左之助みたいなデコボコなコンビがくだんの娼楼に向かうわけですが、そこではまたご丁寧に裸の女たちが池でキャッキャと水浴びとかしております。いや・・・だから85年でそのヌードの撮り方は(略
と、乗り込んだ2人はいきなり刀でその女たちを片っ端からメッタ斬り!ちょ!姐さん方、皆殺しですかい!・・・何が驚いたって一切のコレオグラフィーもついてないこの単調なマッパ大虐殺、2分半もあることに驚いた。2分半といったら、『イップ・マン 序章』の空手道場より長いじゃないですか!これには心底くじけそうに。
いや、せめてトン・ワイ登場までは我慢するんだ自分。スチルによると武士はロン毛(トン・ワイのロン毛好き)でほとんど服を着てないようだし。さらに我慢すること数分、やっと出てきたトン・ワーイ。あ、言っときますが自分ムキムキは怖くて実は作りこんだ6パックとか苦手なんですが、このトン・ワイさんは変に筋肉がつき過ぎてなくて大変よろしかったと存じます。
で、成り行きでアマゾネスから助けた水兒を自分の家に連れて帰ったら実はクララさんは彼の(多分)お姉さんで、そこについさっき武士にやられたアマゾネスがやってきて水兒と武士を殺そうとしたら姉さんがそれを阻み、あえなく女刺客は相討ちにて死亡。ふぁっ、クララさんの出番はここでジ・エンド。
あとは急に水兒と武士のロードムービーにシフトチェンジ。何もできない女とその女を疎ましく思いながらも次第に互いに魅かれあい・・・そういやこの頃『ロマンシング・ストーン』って映画が流行ったなぁとなどと思ってたら、またもや濡れ場に突入。しかも初めて拝見した彼のラブシーンは従兄弟のラブシーンを見るかの如くこっぱずかしいことこの上ない。いや、だからその撮り方(略
その後、何の伏線もない別の女の子(レジーナ・ケント、『霊幻道士5 ベビーキョンシー対空飛ぶドラキュラ!』のちょっとズレたシスターが可愛かったですね)が出てきてそれが元で嫉妬して喧嘩して、あかん、これ耐えきる自信がない。もう誰でもいい!一刻も早くトン・ワイと戦ってくれ!!!!
そこで『ブラッド・ブラザース 刺馬』のティ・ロンの川辺での女性とのシーンはエロかったなぁと全然別の事を考えたりして気を紛らわしたりしました。キスもしない、当然抱き合うわけでもない、なのにあのエロさは一体なんだったんでしょう、さすがチャン・チェというべきか。 查傳誼(ジャー・チュンイー)そこへ直りなさい。
とここまで書いて思ったのですが、アクションシーンと同じでひょっとしたらショウブラにはお抱え濡れ場導演がいたのかもしれませんね。裸になる女優さんはある程度決まっていたでしょうし、絶対に慣れたメンバーで撮る方がいいに決まってる。昔、アクションシーンになると監督は武術指導に丸投げしてスタジオから帰っちゃったそうですが、ひょっとしたら濡れ場も同じシステムだったのかも。だとしたら毎度同じようなエロくないエロシーンになる理由の説明がつきます。
さて、話を戻します。あとの展開は、刺客がいなくなったはずなのに、二太子の隠密のボスが実は二重スパイで隠密の女を催眠術で(これがなかなかシュールな催眠術)操っているために仲間を裏切ってヒロインを奪ってボスの元に連れてっちゃう。で、他のメンバーと二重スパイ派と入り乱れてわけがわかりません。肝心のトン・ワイは「お前とは身分が違う」とか言われちゃってひるんでるし弱い設定でアクションしてくれないし、というかこれだけのメンバーを揃えながらろくなアクションシーンもないとは一体どういうことでしょうか。んーもう。
最後はびっくりするくらいの爆破に次ぐ爆破で、これCGじゃないんだよなぁ、本当にこの距離で爆発してるんだよねぇ、で、香港人いい加減だから指示より早いタイミングで爆発させちゃったりして主演女優が大火傷を負ったりするんだよなぁなどと考えているうちに若い恋人同士は逃げ場がなくなり最後キスしたまま爆発。
そしてそのままドーンと劇終
え?
思えば、この作品が公開されたのは1985年。まさしく邵仁枚(ラミー・ショウ)が亡くなった年で、この年を境に輝かしい歴史を作った映画会社ショウブラザーズのスタジオは閉鎖されてしまったのでした。まさにヤケクソ、真の断末魔。合掌。
俳優に欠かせないもののひとつに運というのがあると思いますが、そういう意味では俳優トン・ワイにはことごとく運はなかったのだなぁなんてことが一番感じたことだったりして。
でもちゃんと香港を代表するアクション監督になったんですから、それでよかったんですよね!
最後になりますが、普段おもしろくない映画の事は書けないんですが(いや、おもしろくても書いてないのが多い)、サンダーアームのアマゾネスの事を書いたらED歌の「ローレライ」が聴きたくなって、この記事はローレライの連続再生でなんとなくアランに急かされるように書いてしまいました。「ロレラーーーーーーーーーイ」
ありがとう、アラン。
トレイラーは面白そうだったのにな
Journey Of The Doomed (1985) Shaw Brothers **Official Trailer
以前のトン・ワイ祭り
プロジェクトD(1979年・香港)
蔵出し その3