実は・・・現実の方がもっと恐ろしかった・・・
前々から観たいなと思っていたジャ・ジャンクー(賈樟柯)監督のこの作品。やっと観ました。
監督の事はよく知りませんでしたが、43歳にして既に3大国際映画祭の受賞歴を持ち、本作ではカンヌ映画祭の脚本賞をはじめ各国で受賞。(監督プロフィール)
実際の事件を元に山西、重慶、湖北、広東省と異なる地域を舞台に中国社会の急激な変化の流れにもがく人々の姿を描いた作品です。
監督によると英題A Touch of Sinが示す通りキン・フー監督の名作武侠映画『侠女(A Touch of Zen)』にオマージュを捧げたのだとか。ごめんなさい気がつかなかった・・・。
エピローグ、街頭で演じられる『玉堂春』のことも当然知りません、後から調べてふむふむなるほど、と。「自分の罪を認めるか?お前は自分の罪を認めるか?」と主人公玉堂春を詰問する声とそれを観ている観客の感情のない顔がすごいコントラスト。
あの中に札束で何度もはたかれレイプしようとした役人を刺殺してしまった小玉の姿を捜したのですがありませんでした。最後の最後あそこに彼女を置かなかったのが監督の意図するところなのでしょう。
俳優たちの演技はどれもみな素晴らしかった。が、それ以上に目を瞠ったのが監督のカット割りのうまさ。特にチアン・ウー(姜武)が猟銃をぶっ放す場面は「うお!」と感心するほどでした。タイミング、構図、完璧。変な感想ですがあのエピソードを最後に持ってくればまた違った印象になった気もします。けれど「いや、そうじゃないから」と監督はそんな気はサラサラなかったのでしょうねぇ。
本作は中華人民共和国の現実を描いた問題作ながら当局が公開許可を出して話題になったりもしたんですが、結局は現在も公開延期のままで、あろうことか先にネット上に流出。中国大陸の人はみんな無料で公開前にネットで観てしまいました。当然監督は投資者達に顔向けできないと嘆いたそうです。どころかその後、勝手に地方テレビ局で放映されたことも明らかに。ひぃ~。
中文Wikipediaを覗いたら外部リンクにあった「时光网」「豆瓣」といった映画サイトや凄い数の評が掲載されていたらしい映画評サイトの作品ページもすでに閉鎖され、ユーザーが「なんで削除されちゃったわけ?」と知恵袋みたいなところで質問してるのを見つけましたよ。
当局の怒りに触れ、上映はおろか3年間にわたり制作禁止処分を受けたリー・ヤン(李楊)監督の『盲井(原題)』(2003年ベルリン国際映画祭銀熊賞)ですら堂々とページがあるというのに、です。
『罪のてざわり』映画の内容もさることながら、これを取り巻く現実の方が遥かにずっとずっと恐ろしい。ジャ・ジャンクー監督の心中を察すると心がとても痛みます。
『映画「罪の手ざわり」- 流血のバイオレンスの底で響く大地の鼓動に耳を澄ます(劉燕子:著)
「中国イヤな話」のパッチワーク、映画「罪の手ざわり」を喜ぶのは誰か?(高口康太:著)
中国のリアル社会を描く日中合作映画「罪の手ざわり」=当局が公開禁止に?―中国
問題作の日中合作映画「罪の手ざわり」、公開前にネット流出=監督が謝罪、“操作”疑う声も―中国
中国で公開されない話題作「罪の手ざわり」、こっそりテレビ放映でジャ監督ら困惑―中国
去年、早稲田松竹でこの「罪の手ざわり」と「世界」2本を連続鑑賞して、数日間、かなーーーり、ずーーーーーんときておりました。
中国の闇の部分があまりにも辛く、こうした重い映画は、当分いいや…と思ったのを覚えております。
しかし本当に、この内容で、よくお国の検閲を通ったなと。
なんだかんだ言っても、こうした映画にOKを出す中国当局は、ひょっとしたら懐が広いのかも?などとも思ってしまいました。
検閲通っても公開されないんじゃ、実質公開禁止と同じなのかもしれません。あまりに公開許可が出ないので監督が直談判に行ったら直後にネットに流失したそうで。当局をまったく信用してないネットユーザーが「わざとやらせたんじゃないの?」と噂してました。
監督も公開されると信じて資金集めできた部分もあったんでしょうに、想像するだけで恐ろしいですねぇ。