『悪戦』ウォン・ジンポー監督トークショー その2

香港や中国大陸の映画人とお目にかかる時、私はかならずノートとペンを持って行きます。と、いうのも、映画のタイトルや人名など頑張って発音してみたところで自分程度じゃ絶対に通じないし(それは香港の映画館で経験済み)、俳優も英語名で言って分ってもらえるのはジャッキー・チェン程度(それも香港のみで大陸だとジャッキーですらアウト。ほとんど中国語読みでないと通じない)。そこで面倒だから字にしてみる。それでも分んなきゃ絵も描いてみる。昨年、徐皓峰(シュー・ハオフォン)監督とお話した際も『子連れ狼』を絵にしてみてやっと理解し合えたという。
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元から漢字をあまり書けない自分はパソコン導入とともにマジ酷い有様。しかし、ジンポー監督はものすごく字がきれいな上に漢字をとてもよくご存知で本当に助かりました。香港人って書くのが上手じゃないっていう乱暴な認識があったのですが、この人は違いましたよ。

聞けばお父様は墓石に字を彫るお仕事をしていらして、子供のころから習字を厳しくさせられたのだとか。練習する文字は「劉備」とか「張飛」とか「關雲祥」といった三国演義の登場人物の名前だったってところが面白い。お母様は粤劇(えつげき)の女優でした。『ベルベット・レイン』で粤劇の稽古風景が登場しますが、それもそんな下地があってのことだったのです。

『ベルベット・レイン』といえばアンディ・ラウとジャッキー・チュンがレストランのテーブルを挟んで対峙するシーンが印象的ですが、ここの絵の後ろがゆらゆら揺れて見えるカメラワークがおもしろい。「ひょっとして下にカーペットか何か敷いてそれを人力で動かしたりしました?」とうかがったら「やっぱりバレた?下に板を置いてそれを動かしたんだよ、だからテーブルの上にあるグラスのワインまでちゃぽちゃぽ揺れちゃってさ!」と笑っていました。(ちなみにトン・ワイ動作導演のアクションシーンについて、あの地面にぐりぐり顔を押しつけられるエディソン・チャンのカメラアングルのアイディアはジンポー監督)

そんな監督も2005年『姐御 ~ANEGO~』を撮ったあとの5年間はスランプだったそうで、途中『十分鍾情(原題)』というオムニバス映画で10人の監督のうちの1人としてメガホンは握りましたが、2010年の『復讐の絆 Revenge: A Love Story』まで長編映画は撮れなかったのだそう。
その5年間、何をしていたかというと映画の予告編の編集などをしていました。その間に作った予告は30数本。時折はメイキングの編集もしたそうで、彼曰く「口の悪い香港映画人のなかでもダントツに口が悪いのはジョニー・トー。彼の映画のメイキングを編集したことがあるけど、ピー音を入れなきゃいけないような言葉ばっかり喋ってるんだから(笑)」とのこと。

普段は香港映画より外国の映画をよくご覧になるそうで、日本の映画も大好き。多分私より日本映画はよく観てる。「僕は日本映画をよく観てあなたは香港映画をよく観てる、逆だね」と笑う場面も。お好きな監督は是枝裕和監督や市川準監督、特に岩井俊二監督は『ラブ・レター』を観て以来ファンだそうでDVDを揃えているそうです。韓国ではなんといってもキム・キドク監督。「宇宙一“ヘンタイ”(日本語でヘンタイと言った)」と称していて、同感でございます。
香港の監督ではやはりジョニー・トーが一番好き。『ザ・ミッション 非情の掟』に衝撃を受けた1人。
当然、香港ノワール映画の洗礼をたっぷり受けてますから、ご本人の描く世界も黒社会を舞台にしたものがほとんど。

2011年に公開された『保衛戰隊之出動喇!朋友!LET’S GO(原題)』は香港で絶大なる人気を誇った(むこうではマジンガーZより人気があった)日本のアニメ『宇宙大帝ゴッド・シグマ』にオマージュを捧げ、オープニングには正式に東映からゴッド・シグマの映像を買いそれを劇場用に手直しして、香港放映の際にテーマソングを歌っていたレスリー・チャンの歌をのせてバリバリに仕上げたほど。予告編にもわざわざ日本語を使い、どんなゴッド・シグマオタク映画なんだろうと期待して観たら、96分中最後80分すぎまでは黒社会もので、最後やっと戦隊になるという(笑)。当然、主人公の失くした右腕に死んだ親友の腕を移植するなどゴッド・シグマへのオマージュはたくさんありますが、ストーリーのほとんどは血で血を洗うマフィア内部の抗争の物語だから!なにしろ大ボスがあのジミー・ウォングだし!

そのジミーさんとの初対面はプロデューサーの1人、ウィリー・チャン(陳自強、成龍のマネージャーとして有名だったあの人です)のオフィス。会うなり「この映画にはアクションはあるのか?」と訊いたジミーさん、「俺は今でも60回腕立て伏せが出来る!」といきなりそこで腕立て伏せを始めちゃった。1秒に1回という高速で腕立て伏せをする彼に、監督が慌てて「わかりました、もう結構ですから」と声をかけても「俺は言ったことは最後までやる!」と本当に60回やり遂げたそうで「息もあがらず60回・・・本当にすごかった」

劇中、そのジミーさんがラム・カートンとかロー・ワイコン(ケネス・ロー)とかチン・シウホウをはじめとする部下たちにスローモーションのなか殺られっちゃうわけですよ(笑)。それを「黒社会に戦隊を混ぜたら面白いかと思って」と飄々と語るウォン・ジンポー監督。

そんな監督の次回作はやはり黒社会モノを構想しているそう。「今度はコメディタッチでやろうかと思って」
期待してます!

このウォン・ジンポー監督の最新作、功夫映画フアン必見の『悪戦』は、あと1回、12月14日日曜日京都みなみ会館で20時40分から上映されます。日曜は京都にレッツゴー!

第6回京都ヒストリカ国際映画祭公式サイト
スケジュール
悪戦概要予告ページ

悪戦 予告
ベルべット・レイン予告(香港版)
復讐の絆 Revenge: A Love Story 予告
↑これ凄いよ
日本語字幕とナレの予告:保衛戰隊 之 出動喇!朋友! LET’S GO (TVC)
日本語なしの予告:保衛戰隊 之 出動喇!朋友! LET’S GO (Trailer)
レスリー哥哥の歌うテーマソング:宇宙大帝中文版主題曲 1980 宇宙大帝 (張國榮主唱) + 片尾插曲

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↑監督が「なんて呼べばいいの?」と訊くので「イイボシ」と言ったら発音が難しいらしく「ケイコ」も覚えにくいようだったので、「じゃケイちゃん、いわば阿K」と言ってたらサインにそう書いてくれました。

『悪戦』ウォン・ジンポー監督トークショー その1

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