ええっと、いきなりですが甄子丹のことです。
唐突に甄子丹と書かれても困るかもしれませんが、私のパソコンでドニー・イェンと打つと甄子丹と変換させる設定にしてあるので(笑)今も勝手に変換されてしまいました。
私は暴力的なシーンが多い映画は苦手です。特に意味なく人が暴力にさらされたりするのとかは困りものです。
ええええええええ、と今突っ込んだ方は何人くらいいるでしょう(笑)。
私は80年代に若者だった人達と同じく、ある意味香港映画を見て育ちました。
成龍、ユン・ピョウ、サモ・ハン・キンポー、懐かしのゴールデンハーベストの映画を映画館で何本見たことか。酔拳にヤング・マスター、プロジェクトA、スパンルタンX、サンダーアーム、チャンピオン鷹、デブゴンシリーズetc etc…。そしてミラクルやポリスストーリー。まだレンタルビデオも出るか出ないかという時代からです(汗)。
少なくともその時代の成龍作品はほとんど劇場で観たと思います。そしてソフトもたくさん持っています。
当時、成龍たちが見せてくれた新しいアクションは、それまで自分の持っていたアクションの概念を根底から覆してくれました。
力強く、しかし美しくユーモアにあふれた動き。しかもそれを人間が己の身体を本当に使い体現している様は観ていて「映画とはエンターティメントとはこういうものなんじゃん!」と心躍り本当に楽しかった。
90年代に入っても香港映画はいつも自分の身近にあって、チョウ・ユンファやレスリー・チャン、トニー・レオン、リー・リンチェイは私のアイドルであり、たとえ彼らが出ていなくても面白そうな香港映画があるとちょいちょい観に行ったりレンタルしたものです。
初めて私がドニーさんの映画を観たのは何の作品だったでしょうか。実は良く覚えてないのです。
あとからドニー作品を観ると以前すでに観ていたというのが結構あって自分でもびっくりです。でもその印象は強烈でアクションシーンになると「あ、この人のこれ観た」と必ず思い出す。
そのくせタイトルも名前も全然覚えられない。彼は作品や写真で別人に見えることがよくあり、自分の中でこの人という認識がつくまでに随分長い時間がかかりました。
でもはっきりとクレジットを確認した最初の作品だけは覚えています。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ2天地大乱』レンタル鑑賞。
その頃、香港映画はフイルムノアール作品が花盛りで、私の好きだったいわゆるベタな古装功夫ものの新作がなかった時期でした。そこで私はその古装欠乏を埋めるためにこの作品を借りてきたのです。
今でも功夫映画ファンに不朽の名作と謳われるこのシリーズを私も当然のことながら気に入り、この作品で辮髪、長袍好きになったといっても過言ではありません。最高です。
そこで知った甄子丹という名前。でもまたしばらくその名前は私の記憶から消えていました。その間、彼の出演作を観ていたにも関わらず、です(笑)。
てか言い訳させてもらうと中国人てのは名前ひとつとっても英名がありゃ漢字もある。しかもその漢字に広東語普通語とふたつも読み方があるって。今でも時々「やってらんねぇ」って思う事しばしば。
すべてが繋がったのは『HERO』を観てから。
この人、絶対に知ってる!そう思って調べてみたら少ない出番ながら「こいつカッコいい」と思った『ブレード2』の中国人も『ハイランダー最終戦士』の麗しい中国人も、ミッシェル・ヨー姐さんの入浴シーンを覗き見していたのも、ジャッキー・チュン主演作でものごっついアクションかましたのに、あっという間に額を打ち抜かれて死んだのも、薄暗い画面のなか近距離からショットガンを撃たれても絶対に弾に当たらなかった眼鏡をかけたナルシストも、みんな同一人物だったとは!
驚きでした。そしてもっと驚いたのは、同一人物だと分ったあとに「ドニー・イェン」作品として借りてきた『ドラゴン危機一発’97』を観た時のこと。
なんじゃあああああ、こりゃ!
まるでマラリアに冒されたかのような半端ない熱がノンストップで伝わってきます。
そこには、ワイヤーもなし美しいアクロバティックなコレオグラフィーもなし、お金をかけた大作の風情もなし、登場人物に感情移入できるほどのストーリーもなし、あるのはびっくりするほど高い本物のマーシャルアーツスキルと、その肉体から繰り広げられる高速バトルと疾走感と火傷しそうなほどの暑苦しさ。
あまりのことに最後はもうずっと口をポカンと開けながら観てしまいました。
こ れ は す ご い 。
そして勢いに乗って次に借りて来た作品ですべては決定づけられたのです。
その頃には、ドニー・イェンがどういう顔でどういうアクション俳優か、そして私のド肝を抜いた映画のタイトルでも分るように非常にブルース・リーを意識した存在であることも分ってきていました。そこで、恥ずかしいくらいベタなタイトルの『精武門』という主演のTVシリーズ全10巻をレンタルしてみることに。
これにしてやられた。
アクションシーンも演技もすごいのと漫画みたいで笑っちゃうのと玉石混淆、なんというかまぁ色んな意味で突っ込みどころ満載なこのドラマに見事にハマってしまいました。こんなにハマったドラマは中村吉衛門版鬼平犯科帳とERくらいです(笑)。
映画だと、ランニングタイムはだいたい100分前後くらいが主流。(ああ、今思い出しましたがいつまでだったか、香港で上映される映画はランニング時間がしっかり決められていた時代がありました。96分か98分以内でしたっけ。←後に確認したところ当時は90分。つまりどんな作品も同じスケジュールで上映され、それよりも長い作品は洋画だろうが何だろうが容赦なく勝手にカットしていました)なのでアクション映画はドラマ部分にかける時間の余裕が少なく、そこが薄くなってしまうのが仕方ないところ。
しかし全30話という長尺のTVドラマではエピソードテンコ盛り。そこで私は初めてドニーさんの「演技」というものに触れたのでした(笑)。
そして、この精武門というドラマによって私はドニー・イェンファンに見事なる変貌を遂げたわけでございます。
2005年、当時最新作の『SPL/狼よ静かに死ね』を歌舞伎町の劇場で観た時は、驚くべき新機軸を打ち出した武打シーンの数々に、アクション俳優、そしてアクション監督としての「ドニーさんの本質」を見せつけられた気がして全身が粟立つほど感激。
しかし同時に内容の濃密さに反比例するかのようなわずか10人ほどの観客に、すごく不安を覚えたのも記憶しています。
そしてその不安が的中してしまったのか、2006年の『かちこみ!ドラゴン・タイガーゲート』(自分としてはこの作品は大好きで、新しい功夫映画の形だと喜んだのですが)を最後にドニーさんの映画はほとんど日本で公開されなくなってしまいました。
そして、再び私の中でドニー・イェンという名前が存在感を失いかけていた頃、中国からドニーさん主演『葉問』という映画が大ヒットしているらしいというニュースが飛び込んできました。
聞けばブルース・リーの唯一の師匠を描いた作品でサモハンが動作監督を務めているとか。そしてそのシーズンの香港電影金像賞を獲得。スチール写真を見るとなんとドニーさんが自分の好きな長袍(丈の長い男性の中華服)姿で動作しているじゃありませんか!
観たい、観たい、絶対に面白いに違いない!ニュースを色々読んでみると、どうやらドニーさんの代表作になり、そして瞬く間に中国に空前の詠春拳ブームを巻き起こしたという話。すごいことです。これをドニーファンが見逃しちゃマズイわけです。
しかし、待てど暮らせど日本では公開されず、気がつけば本人はどんどん大作に出演してヒットを飛ばし続けている。
そこで思いあまった私は香港からDVDを取り寄せることにしました。日本語字幕がなくても英語が怪しくても気合で見ちゃる!
葉問を初めて観た時の感想は別のところで記してありますが、とにかくこの作品に涙を流して感動した私は、もう日本で配給されるかどうかなど気にせずにガンガン香港から通販DVDで彼の出演作を手に入れることにシフトしました。
そんななか、降ってわいたような2011年のドニーイヤーの到来です。こんなに長い間、日本で公開されなかった彼の映画が今年はなんと4本も公開されるという事態。そこで葉問を新宿武蔵野館のスクリーンでようやっと観ることができました。
日本語だ、ドニーさんの映画に日本語字幕がついてる!その感激は同じ思いをした人なら分っていただけるでしょう。
さて、そこで最初の「私は暴力的なシーンが多い映画が苦手です」に戻ります。(これからかい!)そういう私がどうして、こんなにもドニーさんのファンなのか。
むしろ彼の作品は意味のよくわからない暴力シーンてんこ盛りで、作品によっちゃ単純にアクション担当だったりもするじゃん、という突っ込みにお答えすると、ひとえにそれは彼の「映画におけるマーシャルアーツスキル」がずば抜けて高いから、という一言に尽きます。
もともと私は幼いころからバレエを習っていて、ダンスやミュージカルそして宝塚歌劇が大好きな少女でした。
まだビデオデッキなんか存在しない時代、お正月になるとTVの深夜に放送される映画でジーン・ケリーやフレッド・アステアなどのMGMの往年のミュージカルが上映されるのを楽しみに待っている、そんな子供でありました。MGMに限らずTVで、そして後にソフトなどで観た昔のミュージカル映画は数限りがありません。
そこで繰り広げられる夢のような音楽と、長回しのワイドショットで見せるダンサー達の素晴らしいダンスシークエンスが大好きだった私は、今でもバレエやダンス、歌舞伎にフィギュアスケートと、興味はつきることなく今に至ります。
そんな自分にとってドニーさんのアクションは、かつての成龍たちと一緒でJ・ケリーの『雨に歌えば』やF・アステアの『トップハット』、そしてフィギュアでいえばレベル4のステップに2種類の4回転を3度入れたフリープログラムで金メダル!とまったく同じ範疇。
彼のアクションには哲学があるうえに感情がありリズムがある。そのうえ武道の基礎に裏打ちされた技術を持って情熱と執念があふれんばかりのアクションをスクリーンで披露してくれるわけです。
私のなかではルジマトフや片岡仁左衛門、ヤグディン、プルシェンコやJ・ケリー、アステアとドニーさんは同じなのです。そこにはなんの違和感もありません。むしろファンになるのは必然だったと申し上げましょう。
2011年はまさにドニーイヤーになりそうです。この怒涛のようなドニー作品の連続日本公開に、今まで誰にも話さずひっそりと抱いてきたドニーさんへの愛情が私の中からこぼれ出てしまいました(笑)。
とはいえ、私の周りにはこの件について語りあえる人は皆無なので(笑)自分で過去に個人的に感想文のつもりで書いてきたものを手直ししてここに載せることにしました。
基本、映画の感想は全てネタバレです。あらすじもなく、ひたすらドニーさんの感想に特化した内容であります。
これを読んでおわかりのように、多分、みんなかなり長文です。申し訳ありません(笑)。
それでもいいという方がいらっしゃるなら、読んでいただければ幸いでございます。