映画 大酔侠(66年・香港)

監督
キン・フー

主演
チェン・ペイペイ
ユエ・ホア
テェン・ホンリエ
ハン・イエンチー
イェン・ビァオ

動作指導
ハン・インチェ
サモハン・キンポー


チェン・ペイペイといえばショウブラザース作品で武侠影后(武侠映画の女王)と呼ばれ60年代後半に一世を風靡したスター。

もちろん私が大酔侠を観たのは、つい最近のこと。
だから彼女を初めて見た00年の「グリーン・ディスティニー」の方が先ということになります。そのあとに年代を遡って「詠春拳」のミシェル・ヨー姐さんのお師匠さん役。
なんとなくかつての有名な女性武打星らしいというのは雰囲気で感じてはおりましたが、実際これほどまでにカリスマ性のある女優であるとは想像しませんでした。

19歳にして彼女の人気を不動にしたこの大酔侠で、まだあどけなさの残るペイペイは男装の女剣士役。

ちょっと話は遠回りになりますが、私に大きな影響を与えたひとつに池田理代子作「ベルサイユのばら」という漫画があります。
どう影響されたかは、別の機会に書くことになるかならないか分りませんが(笑)とにかく、このベルばら以降、私の好きな物TOP30に「男装の麗人」というのが入るようになったのは当然のこと。
そんな私ですから、男装もうるわしい主人公のこの映画を気に入るのは間違いないわけで。
彼女の登場シーンで、まずはハートを鷲掴みにされました。

太鼓橋を背景に男装のペイペイが帽子にそっと手をやり空を見上げる。
尖った顎、意思の強そうな眼、そしてきりっと結ばれた口元。それだけで期待感MAXであります。

辿り着いた旅籠の一階にある食堂。さっと席を取ったのち「虎の骨入りの酒を」と注文。これは一種の挑発で、とたんに広い店内が緊張感に包まれます。

この不穏な空気に堅気の客はすべて逃げてしまい、いつの間にか店には大勢の敵と彼女ひとり。
そんななか盗賊どもが投げつける酒壺や椅子を軽々かわし、宙を舞うジャリ銭を次々と箸で受け止める達人技に「か、かっこいい」と唸ってしまいました。

そして唸りながら、グリーン・ディスティニーという映画はこの大酔侠に捧げた壮大なるオマージュだったのだと知ったのです。
シチュエーションといい、出で立ちと幼さの残るキュートさといい、グリーン・ディスティニーのチャン・ツィイーは見事なまでにまんまチェン・ペイペイ。アン・リー監督は、この金燕子を再現したかったわけですね!

そう思うと、あの映画でツィイーの師父役でありながら、なおかつユンファの敵役として描かれた碧眼狐狸役に、そのペイペイさんを起用したというのは、すごーくすごーく深い意味が込められていたのですねぇ。これを観て初めて解りました。

あのアン・リーをして再現したくなったこのペイペイさんの金燕子ですが、いや、当時この1作で爆発的に人気が出たのもわかるわ~というくらい、文句なしに魅力的。
とにかく彼女が二本の短剣を鮮やかに操り、敵をばったばったと倒してゆく様は爽快です。ワイヤーも特殊効果もなしスピードも今より遅めのシンプルなアクションですが、そのぶん、共演のユエ・ホア(これまた細くて若い!)が繰り出す摩訶不思議な気功みたいな技や、子供たちとの楽しそうな歌もありますし、なんといっても彼のアクションでは血糊がたっぷり(自分は血が一杯はあんまり得意じゃないけど)。

対照的に、ペイペイが持つと敵の血のついた短剣も生々しく見えないから不思議です。
かといってアイドルのするなんちゃってアクションとも一線を画していて、あきらかにコンセプトも動きもちゃんと武打星のそれです。
なのに誰を殺しても何人殺しても、返り血が飛んでもなぜか、その爽やかさと可憐さだけは常に不変だから驚きます。
そういった意味でも絶大なる人気があったのも頷ける。正直、アクション女優でこんな人は過去にも現在にも他には思い付きません。

さてこの魅力が果たして彼女の持って生まれたものなのか、それとも監督キン・フーの手腕によるものか、こうなったら次はいよいよ、このチェン・ペイペイとジミー・ウオング御大共演、「エグイの大好き」あのチャン・チェ監督の「大女侠」、さらにキン・フー監督の「侠女」を観なくてはなるまいね!

大酔侠予告編1
大酔侠予告編2

 

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