さて大阪アジアン映画祭で観た映画の続き。
実は今回の映画祭で、何よりも観たかったのはヤン・ヤーチェ(楊雅喆)監督の台湾映画『GF*BF(原題・女朋友。男朋友)』。
これを日本語訳付きで観ることができて本当によかった、この作品だけで大阪に行った甲斐がありました。
主演は、桂綸鎂(グイ・ルンメイ)、張孝全(ジョセフ・チャン)、鳳小岳(リディアン・ボーン)。
日本公開を願ってあらすじは書かずにおきます。なんというかネタバレで観るのは本当にもったいないから。
主人公が女ひとり男ふたりで1985年の学生時代から大人になるまでの27年間という長い時間を丁寧に鮮やかに描いている、そしてこの組み合わせから安易に想像できるような女ひとりをめぐる男の話ではない、とだけ申しましょう。彼らの人生に大きな影響をもたらしたのは台湾の国民党独裁政権や民主化運動。観ながら自分はほんの表面的にしか台湾のこの時代を知らなかったことに驚いてしまいました。ついこの間のことなのに。
もちろん、そんな背景を知らなければ理解できない映画ではないのでご安心を。
もうね、なんというかのっけから涙腺が怪しかったです。
美しいんだよね、すべてが。そしてその美しさは年代とともに変わってゆくのですよ。で、最後はやはり美しかったと終わる。
自分にも十代の頃からの友人が何人もいて、そのときの気持ちや暖かさや危うさをよく覚えています。もちろん映画のようなことはなかったし、彼らのような激しい社会変革を経験したことはありません。けれど、特有の香りに似た記憶は胸の奥で時折疼いたりするわけです。いい思い出であれ悪夢のようであれ、誰しもが過去から続く自分を、今、生きている。
後半は嗚咽を抑えるのに苦労しました。
決してお涙頂戴で撮ってる作品じゃないのだけど、もうすごく切なくてね。主人公が3人もいて3人共に共感できる映画というのは珍しいのかもしれません。ナレーションなどで説明がないのもよかった。すべてはその時々の3人のふとした瞬間の表情がものがたっています。友人といえども全てを語り合い理解しあえるわけじゃない。それは恋人同士ですら同じなわけで。だけどかけがえのない存在であるのはなぜだろう。
その問に明確な答えなどないけれど、心だけはそれが大事と知っている。
すべての年代を生きる3人の俳優も、あまさず素晴らしい演技でした。(グイ・ルンメイは今作で第49回台湾金馬奨の主演女優賞を獲得)説明不足ととる向きもあるかもしれないけど、足りないところは自分の知ってる友情や癒し癒されるという関係や、また気がつけばそういったものすら変化してゆく様の記憶で補足してゆけばいいのではと思います。
観たあとの清々しい感覚と奇妙な脱力感は、水泳をしたあとに似ています。そう、なんとなく鼻の奥に水が残っているような、だるいんだけどどこか心地の良い疲れというような。そういえば、主人公の2人は水泳部でした。
素晴らしい映画なので日本で公開されることを心から願います。自分にとっては生涯ベスト20に入りました。ひとりでも多くの人に観てもらいたいです。
電影【女朋友。男朋友】正式預告片 – GF*BF Official Trailer HD
電影【女朋友。男朋友】同名主題曲官方MV
自分がこの作品を観たいと思ったのはこちらのブログを読んだから。最後に是非紹介させてください。
香港電影放浪録-「女朋友。男朋友」定義できない、大きな愛
初めてコメントします。昨夏に台湾でこの作品に出合い、映画館で繰り返し見ました。今回こちらの文章を拝見し、うれしくて涙腺が緩んでおります。
監督は5年ほど前に話を伺った時、「私のように脚本を書く人間は、感動したり、心を動かされたりした経験を、すぐには表に出さない。しばらくポケットに入れておいて、ある時に取り出して表現するんだ」と話されていました。ポケットにこんな話をしまっていたのか……と感無量です。
すみません、話が長くなりました。素晴らしい感想ありがとうございました。日本でも劇場公開されるといいですね。
遠海安さま
はじめまして!実はこの映画を観たいと思ったのは、遠海さんのブログを読んだからなのです。コメントも残さずに失礼しました。そのご本人からコメントをいただき恐縮です。せっかくなので、記事を貼らせてください。
監督のお話もありがとうございました。才能あふれるお人ですね。
エンドソングのイントロがまた69年にヒットしたプロコル・ハルムの『青い影』みたいで。偶然か狙ったのか、当然台湾とは年代が違いますが、あのウッドストックが初めて行われた頃の息吹を感じるようなイントロに最後の最後でうお!と思ってしまいました。
映画祭トークセッションも取材されたのですね。『映画の森』での記事を楽しみにしております。
私もこの作品の日本での公開を心から願っています。映画祭でも3回かな?上映された分はすべてソールドアウトだったようですね。本当に一人でも多くの人に見て貰いたいです!
拙いブログ記事、読んで下さって感謝感謝です。リンクもありがとうございました。
確かに「青い影」を彷彿させますね。主人公3人は監督と同世代の設定。学生運動の時代と匂いは、国を問わず共通するのかもしれませんんね。
少ない台詞や白紙の手紙。そんな空白を自分で埋める作品ではないでしょうか。監督は「映画を観るより読書が好き」で、好きな作家は向田邦子。「女朋友。男朋友」の物語は、友人たちの問わず語りから生まれたそうです。
そのあたりも含め、後ほど「映画の森」に書きたいと思っています。ご一読くださればうれしいです。
いえいえいえ、こちらのほうこそ、ありがとうございます。
好きな作家、向田邦子に一気にエコヒイキの域に突入ですわ、単純。
あの曲のイントロは監督が意識したのか、それともアレンジしたコンポーザーが狙っただけなのか、何となく気になったりして。
もし今度、楊雅喆監督にお目にかかる機会があって覚えてらしたら聞いてみてください(笑)。
「映画の森」のアジアン映画祭記事、楽しみにしています。お忙しいと思いますがどうかご自愛ください。