毒戦(2013年、中国・香港)@大阪アジアン映画祭

本当は大阪での仕事にくっつけて観るつもりで今作も含めチケットを早々手配していたのに仕事のスケジュールの都合で行けないことが決定し、かなり凹んでしまいました。が、主催の大阪朝日放送、その局の番組でお世話になってるプロデューサーの「この日にも上映がありますよ!」という言葉に背中を押してもらい別の日に個人的に大阪に入り観ることにしたのです。
結果、行って本当によかったです、背中を押してくれた幡谷さんそして後藤さん、ありがとうございました。

まずはジョニー・トー(杜琪峰)監督の最新作『毒戦』(ちょいネタバレ気味)

日にちを早めたお陰で幸運にもオープニングセレモニーでの監督の舞台挨拶の日に重なりました、うは。席が残っててよかった!
のっけから「御存知の通り大陸には検閲というのがあり、これは最初自分が考えていた脚本とは全く違ったものになりました」というコメント。それを聞いてなんとなく身構えてしまった自分は、まだまだジョニー・トーファンを名乗るには未熟すぎましたかね。

と、いうのもうんと前から「あのジョニー・トーが大陸を舞台に初めて警察映画を撮る」というのにぼんやり不安を持っていたからです
噂では大陸の映画やドラマに出てくる中国公安には絶対に銃弾が当たらない、まして悪徳警官なんか存在するわけがない、という制約があるというじゃないですか。

冒頭から香港では決してない、だだっ広いロケ現場の絵は相当新鮮。高速の料金所でのシークエンスやその後の警察署での場面など、かなり生々しく期待値は一気に膨らんでゆきます。
が、その後のスン・ホンレイ(孫紅雷)のスーパーコップぶりに「ああん」ともどかしく感じてしまったのも本音として確か。いや、スン・ホンレイはすごいっすよ、あの難しい演技を驚くほどの力量で見せつけてくれましたもん。2000年に日本公開されたチャン・イーモウの『初恋のきた道』であの可愛いチャン・ツィイーに惚れられるひょろっとした先生が十数年後にこんなになる、って言っても当時の私は信じないでしょうね。それ位すっかりハードボイルドが板についております。に、してもかっこいい、いや、かっこよすぎるぞ!スン・ホンレイ。

彼に限らずここで登場する公安の皆様のものすごい用意周到完璧無敵ぶりに「お前ら全員ミッション・インポッシブルのトム・クルーズかよ!」と突っ込みたくなったのも事実。とはいえサスペンスと緊張感は存分すぎるほどにあります。そこはさすが。しかし公安側は人物の私生活を匂わせる描写がなく職務しか描いていないからでしょうか、より一層その超人ぶりが際立っている。
ほんとうに中国の公安ってあんなパーフェクトな組織なのかしらん?とトーさんの映画だけにちょっぴり違和感が気になったり。
だって小ズルい警官も生活が破綻した警官も誰一人として登場しないんだよ、雪ちゃんみたいに食べてばっかりのだらしないのが入る隙なんてまるでない。出てくるみーんな見事なまでの人間味のないスーパー(ロボ)コップなんだもの、せっかくルイス・クーがズタボロにされているのにどうもイマイチ乗り切れない。
もうこの辺の感想がね、自分はジョニー・トーファンじゃないのかも、と振り返ると思うほど猜疑心いっぱいなわけですよ、とほほ。

が、そのスーパーコップ達が追う麻薬組織の「制作現場の人間たち」との攻防がガンアクションで幕を開け(キャラの豹変も含めここのシークエンスがとにかくしびれた)、またその組織のトップに、ロー・ホイパン(盧海鵬)ラム・シュー(林雪)チョン・シウファイ(張兆輝)ラム・カートン(林家棟)ン・ジャンユー(呉鎮宇)などトー組お馴染みの香港俳優達が登場してからはあれよあれよといつものトー節に高速シフトチェンジ。
クライマックスには超ド派手な銃撃戦が繰り広げられ、途中2人しか弾に当たらなかった公安関係者もバタバタと、しかも男女の区別もなく相当な残虐さで死んでいきます。うっわわわ、ジョニー・トーやった!!!!さすがです!!!
そして気がつけば、まごうことなきジョニー・トーの映画として全ては収束されていったのでした。

そういえば監督は挨拶の最後に「これが今後大陸で警察ものを撮る際の前例になってくれればと思います」ということを話していましたね。
本当にそうなることをいちファンとして願いますし、今回上映されたものが国際版や香港バージョンでもなんでもなく、このまま中国大陸で上映されることを望みたいところ。(大陸では4月11日に公開予定、単純に公開前だからかとは思いますがいろんな資料でタイムランがバラバラになってるんですよね、この映画祭では118min.とありました)
そして最終的には、大陸映画の表現のありかたに対し風穴を開けた作品として記憶されることを切に願います。
なにしろ中国での映画ドラマの一切を管理している『国家広播電影電視総局電影事業管理局』ってとこをまったくもって信用してないもので(笑)、ネゴシエーションや人員の交代次第では何事もなかったように揺れ戻しまた締め付けが厳しくなっても不思議ないとこっすから、あそこ。

そんな話はさておき、とにかくジョニー・トー監督のファンは必見です。映画を支配する緊迫感は1,2を争う濃密さ。そしてズタボロにされるルイス・クーを楽しみにしてるファンも絶対に見逃しちゃいけません、見逃しちゃ一生後悔するかも。

最後に、セレモニーにジョニー・トー監督と一緒に登壇したのはマレーシア台湾合作の『カラ・キング』(ン・マンタがでてるらしいよ!)のNemewee監督と出演のChristopher Dawns、そして日本から故、若松孝二監督に師事した『戦争と一人の女』の井上淳一監督。

「日本の小さな規模の映画は、公開されたことすら知られずに終わってしまうのが現状です。どうかよかったら映画を観てください、いや、たとえ観なくてもいいです、こんなのがあるよと話題にしてくださるだけでも結構です」とご挨拶されました。残念ながら自分はまだ観ていませんが、監督のおっしゃる通り、せめてここに書き残しておきたいと思います。主演は江口のりこ、永瀬正敏、村上淳、柄本明。「日本の戦争映画を観ていて、これは世界に通用するのだろうかとずっと思って来ました。自分は世界で共感できる戦争映画を撮りたかった」という言葉が印象的でした。

戦争と一人の女オフィシャルサイト

毒戦予告(でも未見の方は見ない方が吉、かなりネタバレ)
↓あ、こっちの方がいいですね!最終予告かな?音楽の使い方がかっこいい
Drug War – Louis Koo, Honglei Sun,

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毒戦(2013年、中国・香港)@大阪アジアン映画祭 への2件のフィードバック

  1. 岐阜の『ともっち』 のコメント:

    『毒戦』、噂によると・・結構暴力描写がハンパないそうで・・ママさん大丈夫でしたか??
    中国の公安がスーパーコップですかぁ・・もしかして・・それこそ「だれかの操作で」そういうシナリオ作りなさいということは、考えすぎ(笑)??
    その中国に対して、韓国映画における警察の無能さといったら・・(泣)。
    『チェイサー』 『悪魔を見た』あたりを観ていただけたらイライラするほどわかるはずです。
    だって犯人捕まえられんわ、被害が増幅するわで、これギャグですか?って突っ込みたくなりますよ。

    • ケイコママ のコメント:

      毒戦、暴力描写というより緊迫感のほうが半端ないです。
      私の感想は多分穿った見方すぎると思いますよ、なんか書き方が変になっちゃったなという気もしますが、アホなことに途中までそんなことを感じちゃったんだから仕方ない。
      文句なしにすごい映画なので変に考えず素直に見たほうが絶対に面白いので、ともっちさんは是非そうしてください。
      韓国映画の警察の無能ぶりはあまり詳しくない自分ですらなんとなく分かります(笑)。どこに視点を持ってくるかですかねぇ、アメリカ映画で信じられないくらいアホなFBIとかCIAとかもいるしね(笑)。

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