鶴屋南北作「盟三五大切(かみかけてさんごたいせつ)」

先月、テレビ東京の番組で<初めてでも楽しめる歌舞伎の世界>というテーマでお話しする機会がありました。私としてはみなさんにお教えするほどの知識もありませんが、そこはいち歌舞伎ファンの経験談ということで・・・。

その際にちょうど新橋演舞場で上演されていた花形歌舞伎を観ることができました。
演目は鶴屋南北作「盟三五大切(かみかけてさんごたいせつ)」。
出演は私の好きな尾上菊之助さん、市川染五郎さん片岡愛之助さん等と、若手中心の舞台で満足したひとときになりました。

内容は鶴屋南北らしい生世話(きぜわ)物。
歌舞伎で世話物というと江戸時代の庶民の物語を指しますが、代表作「東海道四谷怪談」でも分かる通り、鶴屋南北はこの生世話と分類されるより下世話で写実的な作品を得意としていました。

このお芝居は、単純に言うと、男女の純愛と嘘、愛を利用した裏切りと復讐、そして因果応報の物語。
ぶっちゃけ人間関係もその運命もドロドロで現代でもありそうな内容だったりします。

主人公の浪人源五兵衛は、深川の芸者小万に夢中。本来は主君の仇打ちをせねばならない立場なのに、それすら危ういくらいに入れ込んでいます。しかし小万という女、実は三五郎という亭主と子供がいる身。金を巻き上げるために彼に惚れているふりをしているのです。
そんな折、運よく仇討に参加するために必要な金百両を工面してもらえた源五兵衛でしたが、その大切なお金を「小万の身請けのために」使ってしまいます。でもそれは百両を騙しとるための嘘に引っかかっただけでした。
挙句、仇打ちにも加われず女にも騙されたと知った彼は夫婦の部屋に忍び込み、そこにいた5人もの人々を惨殺。
そこから命からがら逃げた小万と子供をさらに追い詰めて殺し、生き残った三五郎とは数奇な縁で繋がっていたことをやがて知ることに・・・・

もう、火曜サスペンス劇場もワイドショーもびっくりな展開です。
しかも、殺人シーンがなんとも凄まじい。
嘆願する小万の目前で赤子を殺め、続いて殺害した小万の首を切り落として持ち帰りそれを前に置いて食事をする。
現代なら連日テレビや新聞雑誌で一か月以上は延々取り上げられるような恐ろしい猟奇殺人です。

南北が活躍した文化、文政期は江戸庶民文化の爛熟期でもありました。
結果、優れたエンターティメントのひとつだった歌舞伎で、こういった退廃的で怪奇的な南北の作品は熱狂的な支持を受けたのです。

歌舞伎というと、なにやら小難しいものと思っている人も多いかもしれませんが、なかにはこんなマックス下世話なお芝居もたくさんあります。
しかもこの下世話なお話、衣装舞台装置照明と美しく演出されております。怖いもの見たさに一度、いかがでしょう?

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