ええと蔵出ししたばかりですが、まだまだ実は溜まっている。(順不同、ネタバレなし)
監督・脚本:陸川(ルー・チューアン)
出演:姜文(チアン・ウェン)寧静(ニン・チン)伍宇娟(ウー・ユーチアン)
中国貴州省、山奥の小村が舞台。
朝、田舎の家の寝床でブタのように眠る男の顔に、女がノートを投げつける。
「起きて!」
驚いた男が飛び起きると、身体中にサロンパスを貼りパンツいっちょで腹を出して寝ていたのは、チアン・ウェン。
この俳優のおもしろいところは、近年のセクシーな役どころだと驚くほどそうなのに、田舎の普通の中年男を演じたら本当にド田舎の冴えないオッサンにしか見えないところ。
「寝てばっかりいて、一体どういう父親なのよ!」
嫁さんもしっかり気の強い中国中年女といった姿かたち。
一家の住んでる家といい、小生意気な息子といい、ああああ、ものすごく大陸的です。
この空気感というか、上手く表現できないけど匂いのようなものというか、これって香港台湾じゃないんだよな、内地の女優男優でないとこうはいかない、とのっけから感心。
朝から御機嫌斜めな嫁さんに怒鳴られながら、顔も洗わずズボンを履いた男はふと腰にあるものに手をやる。
「!!」
本来なら、そこにあるはずのものがない!
慌てて走り回り、家中を捜しまわる男。嫌がる息子の通学カバンまでひったくって、中身を全部ぶちまける。
「息子を殴るのはやめて!」
ヒステリックに叫ぶ妻の声すらもう耳には届かない。
「このロクデナシ!一体何を失くしたって言うのよ!」
ただただ茫然と座り込む夫。
転瞬、ロックのメロディに乗せてレンガの壁に白いペンキで殴り書かれた「尋槍!(ミッシング・ガン)」のタイトル文字。
うほ、いい始まりじゃん。
クレジットは逆早まわしの、その村の景色。うわああああ、ほんまにドドドド田舎や。いかにも低予算、という風情がかえってその田舎の風景にリアリティを加えている。
ものがたりは、妹の結婚式で泥酔し銃を失くした警察官がそれを捜すというストーリー。顔見知りしかいないこの村の一体誰が。
そしてその銃を使ってとうとう起こる殺人事件。
一言でいうとサスペンスものなわけですが、銃を失くした警官の切実さと田舎ののどかさと登場する人物たちの暢気さが実に不協和音を感じさせ、また不思議な事にそれが魅力になっているのが面白い。
これが都会の話なら、あの編集や音楽が活きたかどうか。
すべては舞台が、あのド田舎だったというのがまずは勝因でしょうか。
そしてそれを支えているのが、チアン・ウェンの存在感と演技力。
この人の最大の魅力は、どの役でも大抵そうなんですが、最初マジで冴えないオッチャンにしか見えないのに、時間が経つにつれて少しずつ、自然にその色気が滲み出てくるところ。
私の見る限り、そんな役者は世界でもそう多くはありません。
(いや、普通のオッチャンを演じても最初から色気のある人や、最後まで冴えないオッチャンは一杯いるよ)
監督のルー・チューアンはその後「ココシリ」というチベットを舞台にしたシリアスな実話をもとにした作品を撮ったようで、そちらもちょっと気になりました。そういえば、あの「南京!南京!」もこの監督なのね。
運命の子(2010年・中国)
監督脚本:陳凱歌(チェン・カイコー)
出演:葛優(グォ・ヨウ)汪学圻(ワン・シュエチー)范冰冰(ファン・ビンビン)黄暁明(ホワン・シャオミン)趙文卓(チウ・マンチェク)彭波(ポン・ボー)
本当はフラメンコの映画を観に行くつもりでル・シネマに行ったら、まだ公開してなくて(自分が慌てもんのアホなだけ)、では代わりにと観た作品。
司馬遷の「史記」にある「趙氏孤児」の初映画化、としか事前に知りませんでした、当然「趙氏孤児」のお話も馴染みなし。
観ているうちに「ああ、歌舞伎でいうと、菅原伝授手習鑑の寺子屋みたいなことなわけね」と強引に理解。
あの感じを現代解釈して脚色してみましたってことでいいのかしらん。
帰宅して色々調べてみて、実は一番受けてしまったのが中国映画ファン的には趙文卓の日本語表記が「ヴィンセント・チャオ」だったこと。(プレス表記がそうなってるみたい)香港武打片ファンだと彼は絶対にチウ・マンチェクでしかないよね!
それにしても葛優(グォ・ヨウ)は大陸で人気あるなぁ。
CMにも結構出てるようだし。いや、確かに演技はすごいっすよ、でも、それだけであんな人気者になるってちょっと不思議。上のチアン・ウェンみたいに色気とかあるタイプでもないし。色気で言えば汪学圻(ワン・シュエチー)のほうが断然あるよね。
前半の赤子をめぐる辺りはものすごくスリリングでよかった。
おお、この調子で展開するのかと思いきや、そうでもなかったのでした。
チェン・カイコーは前作の「花の生涯~梅蘭芳」でも前半と後半が随分違った印象を受けたので、彼の大河ドラマ、本来は得意な印象でしたが、これからちょっぴり覚悟が必要になるのかも。
ビンセント・・・じゃなく、マンチェクはあったはずの(多分撮影はしていたよね?)のアクションシーンもなく誰得?な出演で少し気の毒。
彼に関しては高手らしからぬ、冒頭の人の良さそうな微笑みの印象しかないけれど、15歳になった息子を見たら、ああ、これはやっぱマンチェクしかなかったのかと思うほど雰囲気が似てる。
ひょっとして息子ありきのキャスティングだったのでしょうか。
とりあえず色々調べてみて勉強にもなったし、なんていっても葛優と汪学圻がいいってことはしみじみ分ったよ!
この2人の演技が堪能できたということで満足感はちゃんと残りました。
葛優、彼の実年齢はいくつだろう。
監督・脚本:ヤン・イクチュン
出演:ヤン・イクチュン、キム・コッピ、イ・ファン、ユン・スンフン、キム・ヒス
評判のすこぶる高かったこの映画、友人にも勧められていたのもあってやっと観ることに。
この映画の素晴らしさは、チンピラと女子高生の出会いのシーンに尽きると思う。ここは相当の名シーン。男女の出会いをここまで鮮やかに発想した監督に心からの尊敬を感じます。
物語は、暴力に次ぐ暴力で、私のようにアクションの型だとかスキルだとかを異常に気にする人間には、正直おっかなすぎる。
リハも説明もなし、一発テイクしか撮らないという正真正銘の低予算映画として作られたこの作品。韓国映画お得意のリアルな暴力シーン炸裂ではあるけれど、突出した人気と感銘を呼んだのは、やはり圧倒的な作り手のパワーのなせる技。
「すべてを吐きだしたかった」という監督主演のヤン・イクチュン。
その熱量ここに極まれり。こんな自分にすら最後までグイグイ見せてしまったのだから!
開心魔法(2011年、香港中国・日本未公開)
なんだか知らないけど、最近の葉偉信(ウィルソン・イップ)はVFXに凝ってるようで(笑)
倩女幽魂(チャイニーズ・ゴースト・ストーリー)のリメイクで色々楽しそうなことしてんな~と思ってたら、次作は全開で持ってきた。この監督の場合、新しいおもちゃを与えられた子供みたいな顔が想像出来ちゃうのが笑える。
そのうちにドニーさんの映画でそのノウハウを適度な分量で(これ大事)活かしてくださいませね、てか、そろそろ一緒に撮ろうよ~監督!
さて、内容ですが・・・ラストバトルがまさかの黄百鳴(レイモンド・ウォン)と呉京(ウー・ジン)かよ!ほんま魔法でCGだと何でもできるんだなぁと呆れてたら、まだまだ続きがあって、そういう決着ですかそうですか。やっぱ開心ってタイトルにつけたんだから、ねっ。
主演は香港の人気モデルの18歳、呉千語(カリーナ・ン)、何も考えずにほや~んと見るにはいい、ほのぼのアイドル映画でした。
それにしても呉尊(ウー・ズン)がすでに32歳だとは。呆れるほどカワイ子ちゃんなのはどういうこっちゃ。どう見てもハタチそこそこにしか見えない。化け物ですか、あなた。
一方、呉京(ウー・ジン)はいい面構えになってきましたね、そろそろドッカン当たる役と作品に恵まれて超人気明星にブレイクして欲しい。それだけの経験と実力があるはずだもん。秘かに願っております。
どうでもいいけど、彼も呉仲間に入れてやってくれ!マスコミ。
途中から「金」系魔法使いとして登場した松明(トニー・ジャン)、どっかで見たなと思ったら、中国の本物の人気マジシャンでした。彼、日本に留学してて、日本大学芸術学部演技コースを卒業してるらしい。知らなかった。
あの金髪といい登場した瞬間、なぜ作曲家の藤原いくろう氏がこの映画に!と驚いたことは内緒。
他にも古天樂(ルイス・クー)や閆妮(イェン・ニー)谷德昭(ヴィンセント・コク)など知った顔が多数で安心。
葉問前傳(原題・2010年)/邦題 イップ・マン誕生 (2012年日本公開)
監督:邱禮濤(ハーマン・ヤウ)
出演:杜宇航(デニス・トー/トー・ユーハン)洪金寶(サモ・ハン)、元彪(ユン・ピョウ)、 樊少皇(ルイス・ファン)、黄奕(ホアン・イー/クリスタル・ホアン)、徐嬌(シュウ・チャオ)、林雪(ラム・シュー)澤田謙也、葉準(イップ・チュン)
出演者は相当重なってるけど、基本ドニー・イェン版イップマン1,2と監督、脚本など制作側のメンツは違う、葉問の若き日を描いた別俳優主演の別映画。
これは2012年3月17日から日本公開で、すでに5月のソフト発売も決まっているとか。
うおー、すごい。
その主演デニス・トーがとってもよかった!若き日の葉問にぴったりではないですか。
彼は実際詠春拳を長年習っていて、「イップマン序章」の時もクレジットの詠春拳指導に名前を連ねていたくらいのお人です。(序章ではルイス・ファンの手下役で、2ではサモハンの一番弟子として出演も)。ここでは静かな佇まいと柔らかい物腰が、俳優本人がそうなのかなと連想させてくれるほど、品格があって堂に入ってた。
そのうえ、若いですもんね、あの高速連打とか恐らく本気でやらせたら、もっと速いんじゃないかって想像。
映画だから、あんまり速すぎてもそれはそれで上手に納まらないとかありそうだし、多分あれでも相当スピードは殺していたと思います。
ほかの登場人物も、ルイス・ファンにサモハン、ユン・ピョウ、ラム・シュー、澤田謙也、そして葉問師父の本当の御子息である葉準さん!!!とこれまた豪華。
のっけからサモハンとユン・ピョウの目隠し組み手で「おお」と唸らせてくれます。
動作指導はイップマン序章で香港金像奨動作設計賞をサモハンとともに受賞した小熊ちゃんこと(勝手に命名)、梁小熊ツ黴/トニー・リャン。(この人、あのブルース・リャンの実弟です)
アクションは本当にソツなく、見ごたえがあって、さすが本格的な武打星がやると違うなぁと思わせてくれて嬉しいす。
自分的にハイライトは、中盤、葉問役のデニスと実際のご子息、葉準さんが手合わせするシーン。うおおお、すげー、と大コーフン。
ただ雲行きが後半に向けて、ある方向に流れだしてからちょっと個人的にはしんどかった。
これはひとえに自分があまりにも葉問1,2を溺愛しすぎているせいですな。様々な意味で思い入れが強すぎて冷静な判断ができないので割愛。
葉準師父が、それでいいのなら文句は言いません。
アクションは素晴らしいデキなので、そこは何の問題なし。
デニスの素晴らしい手技に感心しつつも、武打動作に感情を込めるってやっぱり簡単なことじゃないんだなということも同時に思いました。若いもんね、これからこれから!
彼は、「秋瑾~競雄女侠~」 (2011)という作品でも清朝末期のメガネをかけたインテリファイターとして出演しているそうなので、そちらも楽しみです。
沢山の経験を積んで、将来香港中国を代表する武打星になることを、心から期待しています。
どうかこの先、いい役に恵まれますように!
ところでウィルソン・イップとドニー・イェンが次の葉問を撮ったらなんてタイトルにするんすかね。
この「葉問前傳」は世界中で「葉問3」とか呼ばれてるし。
案外、普通に「葉問3」にしたらおもしろい、てか、そうなったりして(笑)。
・・・の前にホントに撮るの?って話ですが。
ここからは自分の完璧妄想。なので甄子丹ファン以外は読まないほうがよろしいです。
(寄るな!危険!)
甄子丹が葉問の続編を作る条件。
その1。
自分の身体が動かなくなった、と心底、自覚した時。
葉問3になったら、当然次のストーリーは李小龍が弟子入りする時です。
ご自身は当然「オレ様以外に李小龍の役なんか誰にもやらせねぇぇぇ!」と今でも本心から思っていて不思議はないでしょうから(妄想ですが結構当たっていると思ふ)、マジで自分の身体が動かん、もう彼のリスペクトを自分では出来ないと実感しない限り・・・しない、かも。
(ご本人は心底オレが2人いれば!と思っていることでしょう、てか1人2役が違和感なく、それこそCGでちょっと顔を変化させて別人に見える作業を全てのカットでやる充分な資金があれば、明日にでもやるでしょう!)
しかし48歳で(2012年1月現在)あの動きですからねぇ、動かない時なんて待ってたらいつになることやら。
その2。
今後、彼の映画の興行収入がジリ貧になって出資者も目に見えて少なくなり、主演映画俳優としてヤバくなった時。すんごい現実的ですがそういうものかと。
むしろ、そこまでいかなくても起爆剤にというタイミングもあるかも。
その3。
びっくりするくらい、いい脚本ができて、しかも李小龍が登場する直前で終わるものだった場合。
もう1作引っ張れますからね!
その4。
自分が何かの映画で香港金像奨主演男優賞を獲った後。
ぶっちゃけ「よきにはからえ」気分の時ですね(笑)な~んの根拠もありませんが、ご本人は一番、これを狙いたいと思ってるのでないかと、アホアホファンは超絶妄想しています。
すみません、ホントにこれらはただの妄想です。すみません、だから笑って流して!
「三国志英傑伝縲怺ヨ羽」で彷徨っていたら辿り着きました。
ケイコさん、面白過ぎな上にオタ過ぎます。(笑)
お気に入りに登録された事は言う間でもありません。
今後の映画鑑賞の参考にさせていただきますぞ。
こんな辺境まで、よくぞ辿り着かれました(笑)。
三国志英傑伝はご覧になりましたか?
劇場と地域が限られているのが残念ですね。
今後の映画鑑賞の参考のお役にたてるかどうか、自信はありませんが
また見て頂けると嬉しいです。