東日本大震災による津波とその後の火災で1000人以上の方が亡くなり、いまなお350人近くの方が行方不明になっている宮城県気仙沼市に行きました。
ここも昨年のロケで訪れた場所のひとつです。
気仙沼といえば、水産業が中心で特にマグロ、カツオ、サンマは全国有数の水揚げ高を誇り、ふかひれでも有名。
そんな気仙沼で大規模な水産加工会社「阿部長商店」を営む社長の阿部泰浩さんにお目にかかりました。
震災当日、阿部さんは出張先の中国、上海にいました。
遥か異国の地のテレビで見る故郷の惨状に、目の前が真っ暗になったそうです。
従業員のなかには津波に飲まれた方もいらしたということで、9つあるうちの8つの工場が津波の被害を受けました。そのうちのひとつ、総工費50億円を投じた大船渡港の工場が操業を始めた矢先の震災でした。
この社長のことは多くのニュースや新聞で何度でも取り上げられてご存知の方も多いことでしょう。
絶望のどん底にいた社長は、被災したあと、会社の前で就職内定予定者の数人が瓦礫やヘドロの掃除を自ら進んでしているのを見ます。
その姿に「何があってもこのような若者を解雇してはいけない」と強く思ったそうです。
「工場を失い、このうえ従業員まで失ってしまうと、この町から大事な人がほんとうにいなくなってしまう。なんとしてもそれだけは避けなくては」と800人の雇用を守り、何もかもなくなったこの気仙沼漁港に、今年7月「気仙沼お魚いちば」と隣接する「港町レストラン鮮」を再開。
そのレストランで戴いたのが、阿部長商店の自信作「あぶりさんま」。
気仙沼のサンマの頭と中骨、尾を取って、甘酢で漬け込んで最後に皮を炙ったもの。
サンマの刺身は今ではそれほど珍しくなくなりましたが、それでも独特の生臭さが苦手という声を聞くことがあります。
ところがこれは、甘酢につけることによって、その臭みを失くした上に、ほどよい酢の酸味とほんのりした甘さが脂ののったサンマの甘みを一段と引き立てている上に、口に入ったあとの炙った香ばしさが何ともたまりません。
しかも食感は限りなくお刺身に近い。ううう、日本人ならめちゃ好きな塩梅!
同時に、この「あぶりさんま」で作った棒寿司も戴きましたが、これまた絶品。
関西生まれの自分は箱寿司とか棒寿司が好物なんですが、いやいやいや、サバにも負けてない、どころかこの香ばしさ、いいじゃありませんか~。
すぐに思い付いたのが、これはお客様が来た時などのちょっとした一品メニューにすごくいいってこと。しかも、真空パックに入っているので、な~んの苦労もなくこの味をすぐ楽しめる。
いやいやいや、自分のような飲んべには願ったりな常備食になりそう(笑)。
取材が終わっていそいそと数パック、さっそく買い求めたのでありました。
それにしても、地盤沈下が完全に修復すらされていない何もないこの港に、これだけの市場を再開することが、どれだけ険しい道のりだったかと思うと阿部社長には頭が下がります。
しかし、再開がすなわちすべての終わりでないことは、こんな自分にも想像はつきます。後で知ったのですが、阿部さんは私とほぼ同じ年齢。
あの時に決意したことが本当に良かった、そう笑える日が阿部さんに来ることを心から、本当に心から願うとともに、何も出来ませんが、食べることでせめてみなさんを応援したいと、強く強く感じました。
気仙沼お魚いちば
南三陸&気仙沼を体感!”来て見て浜ライン”(お魚いちば再開のニュース)