南三陸町 福興市

あの日一瞬にして、建物の6割が破壊され、900人近くの方が亡くなったり行方不明になっている宮城県南三陸町に行きました。

とうほく食文化応援団のロケのため訪れたのは、10月30日日曜日。
この地で行われている福興市を取材するためです。
震災により、町の大多数が壊滅した町で生きる人達が手を取り合い、そしてそれを手助けするたくさんの協力によって月に1度、開かれている催事です。

東北では「ふっこう」のことを復興ではなく「福が興る」と書いて「福興」と表現しているのをよく見かけます。
このイベントも再び幸せを取り戻すための市になるようにと願いを込めて「福興市」と名付けられました。

10月の末だというのに暖かいその日、会場に着いてまず驚いたのは、その人の多さ。
駐車場は満車、次々に観光バスがやって来ては大勢の観光客を下ろして去ってゆきます。ナンバープレートを見ると、近県はもちろん、遠くは群馬や姫路ナンバーも。

「旅行社が応援ツアーを組んで来てくれているんです」と話してくれたのは福興市実行委員長の山内正文さん。
この市、第一回目が開かれたのは震災のあった翌月の4月29日のこと。
「その時は、やりたくても地元には売る品物がなく、今までお付き合いのあった‘全国ぼうさい朝市ネットワーク’の全国の商店街のみなさんから特産品のご協力をいただいて、まずは20店舗から始めることができました」

それから数えること7回目、出店する店舗も品物も訪れるお客様も増え、嬉しいことに南三陸の漁港には秋鮭も戻ってきました。

秋鮭はここ南三陸町の水揚げのうちの6割を占める名物です。
以前は銀鮭というブランド名としても有名でした。

この日も、仮説の魚市場には鮭を積んだ漁船が戻ってきます。
漁船からまず下ろされるのは、漁をした際に網に一緒にかかった瓦礫や様々な漂流物の数々。
なかには家庭用品や、どなたかが使っていたのでしょう、男性用のビジネスバックなどもありました。
「こういったものを引き上げるのも私達の仕事のひとつです」と漁業協同組合の高橋義明さん。

以前、自分は同じここ南三陸でこの鮭のいくらを使った「きらきら丼」を取材したことがあります。
それぞれの店舗が提供する「おらが町の新名物」を紹介してくださったなかには、あの日帰らぬ人となった方もいらっしゃいます。

市の会場ではその時お世話になった方にまた再びお目に掛れることも出来て、顔を見合わせ思わず手を握り合ってしまいました。

自分がその時にロケをした場所も再び訪れてみましたが、全てものが流され、何もなくなった沿岸。その遠くには今なお3階建てのビルの高さほどに積み上げられた瓦礫の山がそびえているのが見えます。

同じ場所と思えぬほどのこの変わり果てた姿と、ここに住む人たちの決してまだ癒えぬ心の傷を想像すると、ただただ茫然と立ち尽くすしかありません。

苦しみや悲しみを乗り越え、再び幸せを取り戻すための市になるようにと願いを込めて名付けられた「福興市」。
会場では景気のいい声や楽しそうな笑い声が満ち、ステージでは入れ替わり立ち替わり様々なショーが披露されています。

そんななか「語り部ガイド」と書かれた看板を手に練り歩いている数人の姿も見かけました。
聞くと、この経験を後世にずっと語り継いでゆきたいという思いから、この市が行われる度に、それぞれの震災体験を地元の人達が語り部となって、話して聞かせる機会を設けているそうです。

賑やかななかにも、そういった思いや使命感が一方である。それがこの福興市。

せっかくですから、帰ってきた鮭を戴かなくては。そこで漁業組合の婦人部の皆さんがふるまう「鮭汁」を注文。
ここの鮭は脂が乗っていて最高にいい出汁が取れます。そこに地元の野菜を入れた絶品の漁師料理。
大きな鍋にいくつも作っているのに、あっと言う間に飛ぶように売れてゆく。

元気のいいお母さん達が「あれま、イーボシさん」と声をかけてくださいます。
別れ際には「これからもがんばってくださいね!」と言われてしまいました。
いや、お母さん、それ、こっちの言葉だから。

気がつけば、私たちの方が元気をもらってしまった、そんな気分です。
暖かい鮭汁とお心遣いを、ごちそうさまでした、美味しかったです、本当にありがとうございました。

今回水揚げされた鮭は4年前に放流したもの。
今年放流する予定だった稚魚は、津波によって生けすごとすべて流されてしまいました。
なので、みなさんにとっては、4年後、鮭が無事に戻ってくるかどうかまでは、それに関しては安心する日は来ないのかもしれません。
どうかこの町に、大いなる福が興りますように、そして鮭が無事に戻りますように、私は祈らずにはいられませんでした。


宮城県南三陸町 福興市公式サイト

南三陸福興市応援ツアー

これ以外にも、近畿日本ツーリストや、ほかの旅行代理店などでもツアーを組んでいるようです。
例えば、市を訪れるだけでなくボランティアも同時に行うなど、企画も各社様々。
ご興味があったら、一度検索してみてください。
なお、2011年12月の福興市は行われないそうです。

 

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