↑2004年のカンヌ映画祭、クラシック部門で再上映された際のポスター。
美しいですよね!
監督
張徹(チャン・チェ)
出演
姜大衛(デビッド・チャン)
狄龍(ティ・ロン)
谷峰(クー・フェン)
李菁(リー・チン)
武術指導
劉家良(ラウ・カーリョン)
唐佳(トン・ガイ)
もうずいぶん前に観たのだけど、あまりの素晴らしさに何と書いていいか分らず、少々時間が経ってしまいました。
江湖でバリバリ売り出し中、若き侠客、双刀使いのレイ・リ(姜大衛)。
その彼が、悪人ながら抜け目なく大侠として人望を集めるロン・イーチ(谷峰)の策略に嵌められ、闘うところから話は始まります。
全身白で決めたこの時の衣装は、姜大衛にとてもよく似合います。てか、この人はなに着ても似合うんだけれど。
血気盛んな若者は、ロン大侠の老獪な罠にかかったうえ、その三節棍に破れ、約束通り自分で右腕を切り落としてしまいます。
飛んだ腕をもう片方の刀で木に刺して、みせしめにする谷峰。
あああ、ものすごい狡猾だけど風格のある悪人役、非常にハマってます、悪いやつだ~谷峰。
ここからがチャン・チェ監督の腕の見せどころ。
血まみれでよろよろと肩を押さえながらその場を去り、坂道を転げ落ちる場面は当然のことながら、お約束のスローモーション。
そして不安感をあおるギターの音色が重なって、どこを切っても見事なチャン・チェ節。
やがて野ざらしにされた腕が白骨に変わり、その残骸は時間の経過を冷酷に伝えるのです。
うまいなぁ。
2年後、自ら腕を切り落としたレイは場末の食堂で、笑わない寡黙な使用人として働いていました。
主人には不気味がられ客からは片腕であることを嘲笑される毎日。
唯一、父親の酒を買いに来る鍛冶屋の娘パー・チアオ(李菁)を除いては、誰ひとりとして普通の人間とすら認めてくれません。
「負けたら武術からは足を洗う」という、あの日交わした約束を頑なに守る彼は、たとえなぐさみに殴られても手を出せない。
絶望にさいなまれ荒んだ彼の本当の姿を見抜いたのは、客としてその店を訪れた同じ二刀流の高手、フォン・チュンチェ(狄龍)。
自分を理解してくれるこのフォンの出現によって、片腕になって初めて笑顔を見せるレイ。これにはパー・チアオも嫉妬ですわ。でもチャン・チェなんだから仕方ない。
しかもこの男、武術を捨て切った彼の生き方に感化され、自分も武術を捨てるから一緒に田舎に行って農業をやろうというではありませんか。
兄弟と呼び合い、嬉しそうに互いの肩を抱き合うレイとフォン。
しかし、観客は知っています。
姜大衛と狄龍、この2人が武術を捨て、仲良くうふあはと田舎にすっ込んで農作業をやるなどと、世界中が許しても監督のチャン・チェが決して許すはずなどないことを!
予想通り、武林で頭角を現してきたフォンは、「出て来た杭は打ちまくる」ロンの計略に引っ掛かり(文字通り)凄惨な死を遂げるのです。
もうね、この時の谷峰の顔がね、ほんっと憎たらしい。
そんなことも知らず、日の暮れる前から街角で狄龍の帰りをひたすら待つ、姜大衛のその姿の切なさよ。いやいやロミジュリにもまったく負けてませんな。なんという悲劇。
フォン大哥が戻らぬまま、夜になって店に来たロンの手下の話から事実を知ったレイ・リ。
彼は白装束に身を包み二度と握るまいと決心した刀を手に、復讐を誓うのです。
この時の姜大衛の、なんとまぁ驚くくらいに美しいこと。
そしていよいよ、クライマックスは復讐の焔をたぎらせて長橋での獨臂100人斬りへと突入。
武術指導は、劉家良と唐佳。
単調になりがちなソードアクションですが、リズムに変化があり、足技やアクロバティックな動きも交えてバッタバッタと手下どもを斬りまくり。気持ちいい~。
さっっっすが武術指導のゴールデンコンビ!!
それにしてもこの頃の役者さんはスキルが違うなぁ。
狄龍のシーンでも思いましたが、とりあえず闘うときはワンカット10手前後は当り前。長いと、20手近くは優にある。
特に受け身がみんな異常に上手い。
試しに自宅で片腕を身体につけて、姜大衛のごとく床をゴロゴロ転がってみたのですが(これで40過ぎの大人)2回転しただけでくじけてしまいました。
ほとんどカメラもブレないから、その俳優のスキルがマジで見えてくる。
それでいて、この見事なシーンですからねぇ。本当に溜息がでますわ。
ラストファイトで特筆すべきは、敵をなぎ倒す素早いリズムと、次のターゲットに向かう時の無言の長い間合いとのコントラスト。
台詞も音楽もないところに微かに聞こえる風の音といい、この辺りは、日本の時代劇から大いなる影響を受けたという当時の香港映画の鳴動が感じられて感無量でした。
待ちかまえる谷峰に向かい長橋を歩く後ろ姿のロングショットと、その足音には痺れまくり。
うう~~~カッコよすぎます!デビッド・チャン!
これは間違いない、武侠映画の傑作です。
今作では、片腕である食堂の使用人ということで、結構珍しい姜大衛のお姿も拝見出来てラッキーな気分にもなれる。
片手で宙に放り投げた卵を連続して割ったり(当然すべてワンカットじゃないけど、落ちてくる卵を見ずに取り割るだけですごい)左手一本で石ころをジャグリングするなんて、CGなんかない時代だけにその器用さには驚きます。
と同時に瞠目すべきは狄龍のロープ1本に寝そべる姿。
それはリラックスできるのか?
もうね、色んな意味で堪能しましたよ、満足しました、大好きな映画です!
THE NEW ONE-ARMED SWORDSMAN Trailer