観世能楽堂にて

以前の話になりますが、渋谷にある観世能楽堂にお能を見に行ったときのこと。

能は久しぶり。
席について、友人と後ろの方だけど真正面の席に大喜び。

ところが、観世能楽堂はあんな素晴らしい立地と舞台を持ちながら、大変残念なことに客席の傾斜が少ないうえに前後の席の配列をずらしていないため、前にどんな人が座るかによって舞台の見え方が大きく変わってきます。

この日は運の悪いことに私の前の席に中年の男性客。

そしてもっと不運なことに、そのオッチャンは大変な能ファンでありました。
彼が絶え間なく頭を動かすので、そのたびにこちらも頭を逆に振らなければ前がまったく見えない。
いっそ寝ててくれれば、こちらも落ち着いてみられるのに(笑)と何度思ったことでしょう。

しかも手に台本を持って観劇しているために、始終顔を台本と舞台に交互にせわしなく動かしやがる。
やがて持つ手が疲れるのか台本を上げたり下げたり。
そして老眼なんでしょうな、その都度腕をあげて眼鏡をかけたりはずしたり。

これは結構ききました。
正直言って、舞台よりその彼のすることが、気になって気になって(笑)。

この人はなぜ能舞台の屋根を見やるのに、視線だけではなく、顔ごとあげないと眺められないのだろう。
ところで頭に乗せた眼鏡があんなに変形して見えるのは、あれは眼鏡自体が曲がっているのか、それとも頭の形がおかしいのか。
くっそー、襟が後ろ半分中に入り込んでいるのを後ろからぐいっと引っ張り出してやりたいぜ!

もう途中から、舞台そっちのけでオッチャン観察に(笑)。

やっと休憩になり、やんわり注意しようかと思った矢先、席を立った彼は上機嫌で地謡(じうたい)を謡っているじゃありませんか!

・・・もうね、そこまで好きなんだったら何も言いませんよ、あたしゃ。

仕方ないので休憩で中正面の空いている自由席に移りました。
そりゃ、まだあと狂言も仕舞もあるし最後にもうひとつ番組(能では演目のことを番組と呼ぶ)も残ってる、てかあと2時間以上もあるのね。

でも、オッチャンに倣って休憩中に次の番組の台本を買いました。
これがあると謡の内容を必死に聞きとらずにすむし、すごく楽。

そこはあの人に感謝です。
でも、台本を動かして後ろの人の迷惑にならないように気を遣わないと(笑)。

見渡すと、観客には男女ともに結構若い人が目立ち、メモをとっているようなしぐさも見られました。
そういえば、大学生がゼミの研究の一環で観に来るケースも多いみたい。多分、そんな学生さん達だったのかも。

てか、あのオッチャン、ひょっとしてどっかの大学の教授かなんかだったのか?

 

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