ドニー先生の授業を香港で受けてきましたよ!
熱血ドニー先生参上!でも金髪ヤンキーをシバいたりはしないよ。先生が懲らしめるのは悪い大人だけ。その拳を振るうのは生徒を守るときだけ!
最近の傾向として、かつて大陸でヒトヤマ当てた香港映画人の香港回帰の動きが目に見えるようになりました。港中合作でなくとも、もうずいぶん前から大陸は単独でメガヒットを生産するようになり、おそらく昔とは立場がすっかり逆転してしまった事が背景にあるのではと思います。
そこで、香港のかつてのヒットメーカー達は生き残りをかけ、さまざまな模索をしているのでしょう。
過去大陸と色々あったドニーさんもひょっとしたらその一人で、前作『追龍(原題)』に続き、今作でもドメスティックに香港しかも学校というミニマムな舞台を選びました。
プロモーションの席で何度も、「長年(年数はちょっとフカしてるとは思う 笑)撮りたかった教育問題をテーマにした意欲作である」と語っていたこともあって、とても楽しみにしておりました。
さて、
その『大師兄』ですが、
ドニーさんを先生にする。
こんな簡単なことをなぜ今まで誰も思いつかなかったんだよ!!と声を大にして言いたい。
初出勤のシーン。
教室デビューは学園ムービーにおいて重要な最初の見せ場。
ドアを開け「おはよう」と声をかけても誰一人振り向きもしない、お約束ですわね。
そこでドニー先生がとった行動とは?
Everybody,Welcome my class !!
これがもう満点も満点、このシークエンスがね~軽く3400億点は突破する勢いでいいんですよ~。予想通りですが、全世界から愛されるドニー先生でございます。まんまと私も「ドニー先生の生徒にしてください!」と心の中で叫んでしまいました。
香港では、6年間の初等教育に初級中学(3年間)プラス高級中学(3年間)が続きます。義務教育はこの高級中学まで。ドニー先生が担当したクラスが「6-B」だったのは、この中学6年B組、つまり日本でいうところの高校3年生のクラスBというワケ。今回の役名は陳俠。台詞で生徒たちからは「陳Sir」と呼ばれております(中文字幕では「陳老師」英文では「Mr.Chen」)。
香港の高校生活のことなど何ひとつ知らなかったので、毎日昼食代に100ドル(日本円だと現在およそ1400円)もらうとか、どうやら学校には学食がなく生徒は近所の食堂にお昼を食べに出ることとか、そのあたりも新鮮。
一方で、生徒たちが抱える問題は国や人種を超え共感しうるものでした。
貧困に苦しみあと一歩で道を踏み外しそうな男子生徒。ネグレストでアルコール依存症の父親と同居する双子、発達障害を持つ弟と優等生の兄。家父長制度のもと女として産まれた理不尽さに反発する少女。そして香港で生まれ育ったのにパキスタン・ハイチからの移民二世というマイノリティとして生きるつらさ。
この中心となる5人の生徒たちが、どの子もイキイキとしてとてもよかった。オーディションを勝ち抜いた彼らはほとんどが映画初出演。そのフレッシュさが映画を後押ししていたと思います。
そして大人のキャストには、校長が林嘉華(ドミニク・ラム)、同僚の女性教師役に陳喬恩(ジョー・チェン)。
まぁ、ドニーさんのことだからロマンスには発展しませんが、ワンカット「わ・か・る~~~~!!」と叫びたくなる彼女の超絶可愛いシーンがあるのでお楽しみに。
加えて双子の父、駱應鈞(フェリックス・ローク)が非常に良かった。あの見せ場はズルイ。反則(涙)。
Knowlege is Power !!
「教科書など重要ではないのだ、諸君。学校で学ぶべき本当に必要なものとはこれだ!」
とばかりに知的好奇心を刺激する、それでいてスマートかつ落ち着いた陳Sirの語り口。
が、結局は力で色々解決しちゃうドニー先生。そうこなくっちゃ。
アクション監督は、谷垣健治さん。久々のMMA路線、大好物です。
大量に並ぶ安定度のすこぶる悪いロッカーと木製のハンガーラックが、いかにもアクションのためにある!という匂いがして、それだけで「フフフ」と笑みがこぼれてしまう。
お相手は、MMAファイターのジェス・リアウディン。決着も渋い。
そして悪役として忘れちゃならないのが、甄家班の喻亢(ユー・カン)。
今作を観て、ユー・カンはええ具合に怪優になりつつあると実感しました。
劇中、とあるシーンで○○したらとんでもないことになるんですが、キャラのハイテンションもあいまって香港の劇場では必ず笑いが起きていました。
谷垣さんに伺ったところ、あれはスタントマンでなく本人で、しかもまったくのアクシデントだったそうです。想像するに、おそらくメッチャ痛かったはずのユー・カン本人以外は全員「おいしい!」と思ったに違いない。
ラストバトルは、そのユー・カンとの教室ファイト。
ロッカールームはスタジオでしたが、教室のシーンはすべてロケセットだったそうで、狭い制約のある教室であれだけの動きを撮影したとか、信じられない!
当然、見知った椅子と机が並ぶなか闘うわけですが、ヘコむほど派手にぶつかった経験のないロッカーよりも、手触りや硬さの実感を持つ教室の机の方がなぜか痛さを想像してしまうんだな。
すると谷垣さんが、スタントマンが書いたと思われる道具スタッフへの「教室ファイトの机椅子ダミーの発注書」なるものを見せてくれました。
・ 壊しダミー × 15
人物が当たって壊す用
・ 軽いダミー × 6
振り回す用、強度も少しある軽いダミー
・ 投げダミー × 6
投げて当てられるもの
・ 立ち回りダミー × 2(机のみ)
持った状態で攻撃に使う用。当たる部分に養生
・ 天板割れダミー × 3
ぶつけて天板が割れる仕様。基本は立ち回り用ダミーの仕様で天板だけ割れる素材
と、各々手書きのイラストが入り細かくパーツ素材の指示。加えてアクションのアイディア出しでスタントマンが動いた映像の静止画が何枚もイメージとして添えられていました。
(実物。掲載許可をいただきました。何枚もあってもっと細かい指示を書いたイラストもあった)↓
そういえば、ドニーさんがこの大師兄そして谷垣さんについて語ったインタビューがあります。
谷垣さんの準備や仕事に対する倫理観がいかに多くのものをもたらすか。またそこに自分が加わることで新しい演出が生まれること。
「我々は互いの能力を補い合うことができる」とコメントしていました。
ドニーさんが自分には足りないと感じ、だからこそ信頼する段取りがどういうものか、谷垣チームの発注書がその一端を物語っているのです。
映画におけるアクションを面白くリアルにするのは、決して俳優の技量や振り付け、その場のノリだけに頼るのではない。こういった用意周到な準備が、閃きに満ちた動きを支えているのですね。
そして、前作の『追龍』での選曲の評判がよかったのか、今度も既成曲が2曲使われています。これがまたベタだけどいいんすよ(涙)
《大師兄》James Blunt – Tears and Rain MV
ルーカス・グラハム 『セブン・イヤーズ -僕はまだ7歳だった-』 / Lukas Graham – 7 Years
2曲とも大好き。特に歌詞がとてもいい。映画をご覧になる前に歌詞をじっくり読んでいただけたら、一層ジーンとくると思います。
劇伴は、戴偉。最近だと狂舞派の主題曲とか無雙こと『プロジェクト・グーテンベルク』など。
そして、これは劇中では使われませんでしたが、生徒たちが歌うMV。これも大好き。みんなめっちゃ可愛いです。なぜか全員に美味しいものを食べさせたくなる(笑)
《大師兄》學生歌MV
ところで、先日、谷垣健治さんが台湾の映画賞である金馬獎で最佳動作設計(最優秀アクション監督賞)を受賞されました!日本人としてもちろん初めての快挙です。
次で書きましたので、よかったらご覧ください。
谷垣健治さん、台湾の第55回金馬獎で「最佳動作設計」を受賞!!
わぁい!!ずっと更新がなかったので、心配と寂しさを抱いていたのですが、すべて晴れました♪
やっぱり景子さんからのドニー情報は最高楽しいです!
大師兄を早く観たいよー!スクリーンで観たいよー!