前回音楽について書きましたが、今作は本当に音楽がいい。作曲はお馴染み陳光榮(チャン・クォンウィン)と、本編クレジットによると雷有暉(パトリック・ルイ)が担当。核心に触れてるわけではないけれど、映画を観てないとなんのこっちゃなので一応ネタバレにしておきます
まずはティーザー予告に使われていた、70年代を彷彿とさせるホーンの効いたロックナンバー。
このトレイラーを初めて観た時はてっきり自分の知らない有名曲なのかと思ったんですよね。そしたら世界中で「この曲はなに?教えて?」と質問の山。それに誰一人答えられない。いつもはどんなマイナーな曲でもすぐ誰かが答えるのに。中華圏でも同じ状態。
本編クレジットで確認したらまさかのオリジナルでした。タイトルは Chasing The Dragon 作曲は陳光榮で、作詩とパフォーマーが Jeffrey Chu 。私この方存じ上げませんが有名な歌手なのかスタジオミュージシャンなのか。
聴いているとどことなく70年代の井上堯之バンドとか思い出しちゃったりして(汗)。ドニーさんのFB情報だとサントラが発売されそうなので、オリジナルのこの曲は入るのではないでしょうか。
香港音楽シーンに疎い私は共同コンポーザーである雷有暉のことも知りませんでした。もともとはバンド活動をしていたミュージシャンで90年代に4本ほど映画の作曲を担当しています。陳光榮がバンドのギタリストとしてキャリアを始めたことを思えば、似たような何かがあるのかもしれません。
さて、前回は九龍寨城のシーンで Donny Hathaway の The Ghetto が使われたことに感激したことを書きました。いやいやいや、あのシークエンスは本当にしびれましたよね?ね?ね?
1969年から79年までの10年間活動し、わずか33歳という若さでこの世を去ったダニー・ハサウェイ。祖母は有名ゴスペルシンガーで彼も教会でゴスペルを歌っていました。のちに名門のハワード大学でクラシックを学び主席で卒業したといういわば黒人中産階級出のエリート。
彼が活動を始めた60年代後半はアメリカの公民権運動がピークを迎えていた時代。彼の音楽の特徴のひとつとしてプロテストソングがあり、当時はマーヴィン・ゲイと並ぶ新世代の黒人アーティストとして大変な支持を集めました。
卓越した歌唱力と音楽教育によって培われた技術は彼の問題意識と結びつき人気を高め、同時に白人の歌をためらわずアレンジ・カヴァーするという柔軟性も持ち合わせた偉大なるアーティスト。
映画に使われた The Ghetto はファーストアルバム『新しきソウルの光と道( Everything Is Everything )』に収録されていますが、彼の魅力は何といってもライブ。72年のライブアルバム 『ライヴ』は最高傑作。 The Ghetto のライヴバージョンもしびれます。興味があったら是非聴いてみてください。
それと実はもう一曲、私の大好きなアーティストのナンバーが使われております。
組抗争の喧嘩で逮捕されイギリス人警察官から暴行を受け入院した伍世豪。そこへ鄭則仕(ケント・チェン)がやってきて、アンディ・ラウ演じる雷洛からだと当面の生活費名目の見舞い金(ひょっとしたら出世払いという台詞だったかも)500ドルを渡します。
その金でスーツを新調した潮州兄弟と、伍世豪の実弟で学生の阿平の5人がテーラーから出てきて意気揚々と通りを闊歩するシーン。彼らの軽い足取りにリンクするように聴こえてくるのが1975年のファンクの名曲、Earth Wind & Fire の Shining Star でありますよ。ひ~~~、こんなのかかるなんてきいてないよ~~~。短いシークエンスながら、これは見ているこっちもニッコニッコになる魔力を秘めておりました。
とにかくこの2曲を選んだというだけで私の点数はかなり稼ぎましたよ。他には競馬場でかかるスペイン語の曲もひょっとすると有名な曲なのかも?ちょっと判断がつきませんでした(要は知らない)。
あとは恐らくオリジナル。
この映画のサウンドトラックの何がいいって、ちゃんと完尺で音楽をつけたなとわかるタイミングの良さ。それがオリジナルだろうと既成曲だろうと、同様にこれしかないというタイミングで転調、終了、また始まる。これがバッチリ決まると物凄く気持ちいいのは、その究極の形であるエドガー・ライトの『ベイビー・ドライバー』を思い出せばお分かりいただけるはず。
今作はそのタイミングがとっても気持ち良かったし、作中、かなり音楽が多かった気がします。
オリジナルも60年代から70年代を意識したコンポジションながら所々に陳光榮テイストも感じたりして楽しかった。特にね、前半すぐの大灰熊と公仔強の出入りでは上手い具合にロックンロールしていて日活アクション風味を醸し出しておりましたし、なにより『導火線』ぽさもあった気がします。
職人らしくそれぞれのシーンの色合いに相応しい曲をつけたという印象。なかでも中盤、陳惠敏(チャーリー・チャン)が甥の公仔強(黃竣鋒・ジェイソン・ウォン )に撃たれた直後からの九龍寨城のアクションシーン。逃げ惑うアンディ・ラウのバックに流れるナンバーは太鼓と二胡の奏でる音が緊張感を高め、今作一番のお気に入りです。
また、この時のアンディのテンパリ具合がよろしくてね。九龍城の切り取った様な夜空に打ち上げられる花火とそれを見上げるドニーさんとアンディの表情とか絶品。
あとは前回も書いた愛のテーマですが、それはみなさんの耳で確かめてください(笑)
ところで、上映直前にネットに公開されたアンディ・ラウが歌うイメージソング『浪子心聲』。
本編には使われておりませんでしたが、これは許冠傑(サミュエル・ホイ)が1978年に出演した映画『Mr.BOO !』の挿入歌がオリジナル。実はアンディが主演した1998年『ゴッドギャンブラー 賭侠復活』(監督は王晶)において共演者の張家輝(ニック・チョン)とこの曲をデュエットしており、これまた雷洛役と同じく久々のカバーとなりました。
劉德華深情重唱”浪子心聲”《追龍》宣傳曲MV 霸氣回顧香港往事
浪子心聲-劉德華&張家輝
オリジナル:許冠傑MV 浪子心聲
ティーザー予告《追龍》官方預告片
追記です:
昨日ドニーさんのインタビューを読んでいたら「映画のBGMにブラックミュージックを使おうって言ったのは俺だ、70年代アメリカにいた俺だからそう思えたんだ、白人の音楽じゃダメなんだよ」と威張ってました。なんと、ドニーさん発案だったとは。御見逸れいたしました。
でも、選曲まではしなかったよね、してたら絶対曲名出してドヤ顔で自慢するもんね(笑)。
うわーん、香港のオフィシャルがゲットーのシーンの一部をアップしてくれたよう、貼っちゃう
かっこいい
この The Ghetto はラップバージョン(ディスコバージョン?)のカバーがエンディングソングとしても使用されています。そしてJeffrey Chuという謎のアーティストが誰だが分りました。
くわしくはこちらで
追龍(原題、2017年・香港中国)@HK④音楽編おまけ – ドニーさん 甄子丹 ネタバレとか関係なし