まだ書くことがあった『イップ・マン 継承』 – ドニー・イェン 甄子丹

公開初日に立川シネマシティの極上爆音に行ってきました。めっちゃよかったわ。信じられないほどのいい音と、大きなスクリーン。そして座席のひとつひとつに小さなライトの灯る素敵な劇場。

とはいえ、ここに来るのは『マッド・マックス 怒りのデスロード』と『ローグ・ワン』に続いて3度目。今回のイップ・マンが一番印象が深い気がするのは、選んだ席が良かったのか、最近音響設備を少し変えたせいなのか、それとも贔屓目なのでしょうか。劇場の支配人がイップ・マンをお好きだとかで、この上映が実現したとうかがっております。いや、本当に上映してくださってありがとうございました。

話は少し遠回りしますが、

実は私、香港での公開時に唯一上映していた3Dをマカオで観ています。数ある巨大カジノリゾートのひとつ、ギャラクシーマカオ(Galaxy Macau)の中にあるUA銀河影院(UA Galaxy Cinemas)は10あるスクリーンがすべて3Dという成金仕様。

そこの、料金設定が250HKDというバカ高いわずか30席ほどしかないシアター1「豪華貴賓影院 (Director’s Club)」で1度、そして2度目を300席ほどの130HKDの3Dシアター6で観賞。

同じ映画なのに2つの環境ではまったく別物に見えて驚きました。普通の3Dだと、3D効果はほとんどなく、画面は暗くて「なっとらん!」と激怒するレベルだったのに対し、そのバカ高い30席弱のシアターだと奥行きもバッチリ目が覚めるほどの映像だったのです。

日本でも普通の3DとIMAX3Dの違いというのは感じたことがありますが、一方がIMAXでもないのにあれの比じゃなかった。

高額な方だと、背景の奥行きが効果的で一層美術の素晴らしさが際立ちました。どころか、開いた窓から入る風に揺れるカーテンが、妻永成の愛にあふれた静謐な心情に寄り添うように映って見えて最高。

アクションもやはり3D仕様で、対タイソンや詠春対詠春のラストバトルは圧巻。「これは3Dのための演出なんだろうな」と思っていた部分はもちろん、なかでも八斬刀ファイトが大迫力、見違えるようでしたよ。ウーピン先生、そのショットは3Dを意識したんすね!と心の中で拍手喝采。

加えてそれまで観たなかでも音響がぶったまげるほど素晴らしく、音楽だけでなくSEのよさが鳥肌モノでした。2005年、『SPL 狼よ静かに死ね』で、谷垣さんが香港映画のサウンドエフェクトのあまりのショボさにわざわざ日本の柴崎憲治さんに依頼してから10年、ここまで香港映画も進化いたしました。ほんと払った料金だけはあったのです。

が、100ドル安くなると、同じ3Dのはずなのに画面は暗く奥行きもへったくれもない。どのくらい画面が暗かったかというと、何度も何度も な ん ど も 自分のメガネと3Dメガネを拭いてしまったくらい暗かった。それは「2Dで観た方がマシ、金返せ」と思うほどのレベル。また、サウンドの差も大きすぎて話にならない。正直、これでは大陸以外のどの国でも3D公開しないわけだわ!と思った位です。なぜ同じReal Dであれほどまでの差が出たのか、未だに謎。

が・・・しかし、あのマカオでの250HKDの音と遜色ない音響が、この立川シネマシティ、シネマツー・bスタジオにはありました。素晴らしい。そしてスクリーンの大きさや座席の快適さ、劇場の持つ独特の個性は、香港のシネコンで観た2Dを凌駕しているといっても過言ではありません。しかも、爆音とそうでないスクリーンすら、当然差はあったものの、特に何ら不足はなかったという。

すごい、すごいよ立川シネマシティ!いや、前から凄いとは思ってたけど、ここまで実感したのは初めてだよ、シネマシティ!でっかいスクリーンとすんばらしい音響で上映してくれて、ほんっっっとありがとう!シネマシティ!!

そんなシネマシティに惚れこんで何度か通いました。すると、香港で観て感じた葉問と張天志のアクションの違いがどこからくるのか今更気がついたりして、まったくです。やれやれ、遅いよ。
 
初見時、私はその差がどこからくるのかよくわからず、単純にアクション監督のユエン・ウーピンとの相性であると乱暴に書いたと思いますが、何度目かでこれはキャラクターの違いがそうさせていると思いたちました。

葉問は今回、一度も我を忘れたような闘いをすることはありません。学校に火をつけたり子供を誘拐した奴らに対してですら、極端に言うと「おしおき」レベル。タイソン戦はかなり苦戦を強いられましたが、それでも『序章』のカラテ10人のあの殺気とはまったく違う。「貴在中和,不爭之爭」争わぬために戦う、この殺気立たない闘いこそが我々が目にしてきた葉問の本来の姿であります。

一方、マックス・チャン演じる張天志は、常にトドメを刺しにゆく本気モードです。この本気には同門の葉問に対する憧れや妬みが絡みあった上昇志向がダダ漏れしております。相手が誰であれ、当てた拳は肉を抉り内臓の奥深くまでダメージを与え、中段に蹴りだした足は「敵」を遠くの壁まで吹っ飛ばす。いわば触ったら最後、「殺ってやるぜ!」という気迫がフルスロットル。

何度か観てやっとそこに気がついたという、私ってバカ。バカバカバカ。

この感情の差で、より強いエモーショナルなマックス・チャンの動きに観る者が惹きつけられるのは当然でした。単純にアクション監督との相性なんかではなく、ものがたりのキャラクターの違いがそうさせていたのであります。

ほえええ、それをきちんとふまえてコレオグラフしたウーピン先生もすごいし、その差を「演技」としてアクションで表現したドニーさんとマックスも、ほんとすごいよ。

東京立川のシネマシティは5月18日まで上映。すでに日に一度、しかも朝一番という厳しいスケジュールになってしまいましたが、お近くの方は是非。

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