先日、姜文(チアン・ウェン)監督主演の映画「鬼が来た!」を観たと書きました。
この作品への興味が尽きなかったので、しばらくしてから、重要な役を演じた俳優香川照之さんの著書<「中国魅録-鬼が来た!」撮影日記 >も読んでみたのです。
なんといっても彼の文章のうまさに、まず驚き。うらやましい。
それにしても、すごいところだ、中国。
あまりの壮絶さ現実のおぞましさに、読んでるこちらの動悸が激しくなってくる。
中国の映画作りに関しては、うっすらと想像はしていましたが、そんな私の想像なんかはるかに超えた事実に心から驚愕しました。
凄まじい環境下で訓練に耐え、仕事への意識の違いに耐え、異文化どころか身の置き所のない孤独に耐えて、あの演技をした香川さんはじめエキストラも含めた日本人俳優たちに、あらためての賞賛を贈りたいと思います。
現在、映画に対しての投資ブームが凄まじい中国。
どのくらい凄いかと言うと、ネットで閲覧できるちょっとしたニュースに「映画への損をしない投資の仕方、見極め方」なんて記事が具体的な作品名をまじえて載るくらい。
そんななかチアン・ウェンは今も同じような撮り方をしてるのでしょうか、それともあれは彼だけの話?・・・な、わけないよね(笑)。
必ず衣装をなくす衣裳係とか、車が意味なく渋滞しても平気なドライバーとか、翌日の予定なんか絶対に教えない制作とかって、どんな監督にもついてるんだよね。
さて、そのチアン・ウェン監督主演で昨年2010年に中国で公開された譲子弾飛。
ここではどんな監督ぶりだったのでしょうか(実はこれすごく観たいうちの1本。あのチョウ・ユンファも出演)。こうなったら、ますます観たいわ。
今の中国大作映画は「監督と主演男優を香港で固めて、中国内陸の女優を添える」のが圧倒的に多い。それは、あの本に書かれた想像を絶するディープな中国の姿と何か関係があるのでしょうか。
本を読めば読んだで、次から次へとまた新たな興味が湧いてきてしまいました。困ったものです。
そういう私も実は1980年代に中国の雲南省の昆明、西双版納タイ族自治州と北京、上海、大理、広州と1か月間にわたってドキュメンタリーのロケで滞在した経験があります。
私はそれが初めての仕事で、何もわからなかったお蔭か、(これが一番大きいのでしょうが)スタッフがみんな日本人だったせいか、日記に書かれた中国映画の現場の恐ろしさに心から驚きました。
私の場合は映画ではなくドキュメンタリー。
当時はまだ外国人クルーが中国ロケをすることが珍しかった時代だったので、メンツを賭けた中国政府が気を遣ってくれたのかもしれませんし(実際にその時ついた日本語のできるコーディネーターはかなり優秀な役人だったと思います)なによりそのロケには姜文がいなかった(笑)。
とはいえ、ドライバーは走ってる間中必要ない場面でもずーっとクラクションを鳴らして猛スピードでかっ飛ばす。こんなところで死ぬのは嫌だ、と何度思ったことでしょう。
見ると彼らはハンドルを持った手の指を必ずクラクションのボタンに置いている。それがハンドルを握る基本姿勢。
つまり、悪路にガタガタ揺れる反動で、何も考えなくてもクラクションが鳴る仕組みになっていたというわけ。
招待所のお湯が出ないとかは当然普通。
自分は夏のロケだったので気にしなかったけど、ひどい時はその水すらチョロチョロで持っていった石鹸の箱に水を溜めて30分くらいかけて髪を洗ってました。
トイレもねぇ。全員同じ条件と思わないとやってられん。
「メイヨー」な国というのには同感です。なんでもかんでも「メイヨー」だし。
そういえば街を歩いていてほどけた靴ひもを結び直していて、ふと顔をあげると三重くらいの人垣ができていてじっと私を見つめているとか、よくあったっけ。でも香川さんほどつらい思いは絶対にしていないツ黴。
彼の本を読んでいて当時の自分がどれほど幸運だったかと思い知らされました。
そういえば、このドキュメンタリー、今じゃ想像もつかないけどVTRじゃなく「フイルム」で撮影したんだよね。リポートの台詞が長いうえに地名や歴史や人名がたくさん登場して、しかも映画畑の人たちだったから「カンペ」という存在がまったくなく、最高で20回以上のNGを出した覚えがあります。
うう、今思い出しても冷や汗が出るわ。