葉問3(邦題 イップ・マン 継承) ネタバレ :香港劇場編
今回香港で観た感想としては、とにかく色んな年代の人が来ていたということ。オールド功夫ファン、夫妻、若いカップル、親子連れ、母と娘、そして若い男性グループや女子高生の友人同士。日本のドニー映画では見かけることのない多種多様な観客にまず嬉しくなりました。
今まで何度か香港でドニーさんの映画を見ていますが、ここまで文字通り老若男女で満席になった作品は初めてです。そして感じたのは、みんな葉師父にすごく親しみを持っており、当然のことながらそれまでの師父の道のりをよく理解している、ということ。
幼い葉正が友人に「遠慮せずに食べて!」と母の言葉を繰り返すと「Kawaii~(日本語)」と女子がボーイフレンドに呟く。アクションが始まれば、「嘩!」と隣の女子高生が女友達の手を握る。そしてその無双ぶりが激しくなればなるほど彼女たちは笑いだす。そう、自分もそうだ。笑わずにはおれない。だってすごく楽しいもの。
そして電球を替えたばかりの電灯をつけて「ほら直ったよ!」と嬉しそうな夫に「もう寝るんだから消して」と、にべもなく妻がかける言葉に客席からどっと笑い声が起こる。みんな彼女のツンデレぶりも承知の上、そしてその妻に頭の上がらない夫を好ましく眺めている。観客にとって葉家は近所に住む「師傅一家」と思ってるようにすら感じてしまいました。
それほど、ウィルソン・イップ版葉問はみんなに愛されている映画なのだと肌で感じることができてとても嬉しかった。
また、この葉問3という映画の魅力として、精いっぱい「香港映画」を作ろうとした心意気がスクリーンに満ちているということもしみじみ感じました。
今作の香港バージョンには普通話を話す人は誰ひとり登場しません。当然大陸系の俳優も出演していますが全員、あのマイク・タイソンですら英語に混じって広東語を話します(タイソンの広東語の部分やリン・ホン以外の大陸俳優は吹き替え、マックス・チャンは香港の声優雷霆が担当)。当時の香港の雰囲気を再現したいという制作側の思いが、観ているこちらにとても心地よかった。
私には到底分りませんでしたが、脚本家のエドモンド・ウォン(黄子桓)によると、台詞も現代とは違う当時香港で使われていた言い回しなどがふんだんに出てくるそうです。(と、一方でわざと最近の言い回しもちょこっと出たりして笑いを取ったり)
おもしろければ声を出して笑い、言いたいことは隣の連れに声をかける。今回何度か劇場で観ましたが、いずれもいい客筋にあたって自分はラッキーだったと思います。
それまで、遠慮なく電話していたオジサンも、斜め前方で何度もスマホをいじっていた兄ちゃんも、永成が癌と分ってからはパッタリいじるのをやめました。
そして葉問と永成の最後の時間を固唾を飲んで見守り、彼女の最後の願いと、最愛の妻を救う事の出来ない夫の無力感をにじませた背中に涙する。男も女も関係なく、劇場のあちこちで多くの人が泣いておりました。
1960年、妻永成は癌のためこの世を去った ――
ひとり武館の椅子に座り、遠くを見つめる師父のショットに川井憲次のマエストロのテーマが重なり、エンドロール。
とたんに、「ハイハイ」とばかりに席を立ち、お喋りしながら出口に向かう人々。
えええ?さっきまで泣いてたじゃーん!あんたらー!
それもまた香港人、なんでしょうな。
川井憲次さんのマエストロのテーマをちゃんと聴いておきたい+エンドロールを色々確認したい自分は、客がいなくなり掃除の人が入ってきて掃除を始めるのも気にせずに最後の最後までずっとその場におりました。
IMDbにはアクションコレオグラファーにドニーさんの名前がありますが、クレジットでは登場しませんでした。反対にそこにはなかったタイのコレオグラファーのクレジットがあったり。が、残念ながら覚えきれなかったのでソフトになったら確認したいと思います。今回IMDb、HKMDBともに虫食いだらけでアテになりません。両者とも今後情報の補充を望みます。
アメリカ公開に合わせて、むこうで精力的にプロモ活動をしたドニーさん、インタビューによるとタイソンとの撮影時にはウーピン師匠とタイソンとの間に入って通訳兼武術指導助手の役割を果たしたとか。
「自分はウーピンのやりたいことがすぐ分るし、それを勝手の違うタイソンに言葉で伝えることもできるから、ずっと間に入ったよ」とのこと。これをもってIMDbにアクションコレオグラファーと書かれたのかも。まぁそれ以外でも、ウーピン師匠とはいえ、ドニーさんの事だから絶対にアイディアは出しているでしょう。想像はつきます。
このヒットにより今後、タイソンを大陸のアクション大作に出そうとする動きがあるやもしれませんが、それが成功するかどうかは恐らくこの映画のようにうまくコミュニケーションがとれるかどうかが鍵になるのかも。なにしろドニーさんは不足なく英語で伝えることができ、かつ優秀なアクション監督ですもん、なかなかそういう人材はいませんよね。
そして、それこそドニーさんの大きなアドバンテージでもあります。このあとアメリカ映画に出ようが、他の国の俳優を自分の作品にゲストで呼ぼうが、バッチコイ。
次は何を撮るんでしょうね、楽しみです。
最後に、この葉問3のプロデューサーでもあるレイモンド・ウォン(黄百鳴)は今年春節映画を新たに作らず、1992年の大ヒット春節映画『家有囍事(ハッピー・ブラザー)』のデジタルリマスター版を上映することにしたようです。予告がバンバン流れておりました。思いかけずレスリーの姿を見てグッときたのは言うまでもありません。どうやら彼のをはじめ、10分にも及ぶ未公開シーンを加えたそうで。くわしくはこちらの記事を。
今回の記事も楽しく拝見致しました。最高の環境での劇場鑑賞 いいですね。やはり興奮するとこでは興奮し、笑うとこで笑い、泣けるシーンでは号泣?もちろん静かに観るべき文芸作品もありますが 映画は娯楽ですから。そして今回レビューされている熊黛林ファンの私としては 今回のツンデレ振りも非常に楽しみです。
ASARYUさま
熊黛林ファンでしたか、それは大いに期待して大丈夫です!本作の彼女は最高の演技でしたよ、ツンデレも健在。とっても綺麗でした。本当にいい女優さんになったなぁと感心いたしました。楽しみに待っていてください。
初めてまして、今バンコクに来ていますが、こちらで
イップマン3が上映されてるので、これは絶対観なきゃという事で
今から観に行きますが、タイ語吹替、英語字幕って事なんで、
あらすじを、検索してたらこのサイトに出会いました。
ありがとうございます!
葉問愛素晴らしいですね。
めちゃ楽しみです!
すみません、今気づきましたが、ケイコママは飯星景子さんなんですね。
こんなにカンフー映画にお詳しいなんて。
それも広東語もお分かりなんですよね。素晴らしいすぎる。
ミヤネ屋のコメンテーターからは想像もつきませんでした(笑)
嫁からは自宅でカンフー映画を何度も、繰り返し見てるの私を見て呆れられてますが
この事実を嫁に伝えなければ(笑)
ありがとうございます!
観てきました、葉問3!
いやーこちらで予習させていただいたおかげで
しっかり楽しめましたよ。タイ語吹替には少し違和感
ありながらも、今回も素晴らしきカンフー堪能出来ました。
でも、タイソンあまりにも強く描き過ぎじゃないかな?
こんなに傑作なのに150名位入る映画館で4人だけでした(笑)
まあ、平日の昼ですが。
これからもサイト見させていただきます。
ありがとうございます!
水男さま
お役に立てたなら幸いです。タイではあまりでしたか・・・残念。なんとなく色んな国の人のレビューとか読むとイマイチだったというジャンルファンも案外多いんですよね。このブログにも書きましたが、「葉師父に親しみがあるか」がヒットの鍵の様ですね。親しみがあれば、あのドラマはすごく大事に思えるし、単純にアクションシーンの素晴らしさだけを目当てにするとドラマがありきたりに思えるのかも知れません。加えて欧米の人だと、葉師父のあの飄々とした表情では(そこがいいのに)どうやら感情が読みとれず感情移入しにくいらしいです。
あ、そうだ私広東語は全く分りませんよ!ただ日本語字幕がないのをよく観るので単に慣れてるだけです。だからソフトの場合、止めては時々調べたりするほどです。なので現地では同じものを何度も観ます。初見じゃ流れくらいしか把握できません(涙)。アクション映画ですらこれなんですから会話劇とかアウト。気になるのは帰ってから検索かけて補足するほどです。とほほ~。